ゴリオ爺さん (新潮文庫)

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感想 : 98
  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102005057

作品紹介・あらすじ

奢侈と虚栄、情欲とエゴイズムが錯綜するパリ社交界に暮す愛娘二人に全財産を注ぎ込んで、貧乏下宿の屋根裏部屋で窮死するゴリオ爺さん。その孤独な死を看取ったラスティニャックは、出世欲に駆られて、社交界に足を踏み入れたばかりの青年だった。破滅に向う激情を克明に追った本書は、作家の野心とエネルギーが頂点に達した時期に成り、小説群"人間喜劇"の要となる作品である。

感想・レビュー・書評

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  • どこまでもパリの物語だと実感。同時に読んでいた19世紀ロシア文学とは似ても似つかぬ代物。ロシア文学の中で登場人物は道ならぬ恋に踏み出すか踏み出すまいかという煩悶を北風吹き荒ぶド田舎で繰り広げている。一方でラスティニャックが飛び込んだパリの社交界の人々では不倫はもはや前提と言っていいほど。
    自分の身の丈に合った生活を歩むなんてハナから否定。金を借りて博打をしてでも社交界で逆玉を狙おうとするラスティニャックの潔さはもはや清々しい。ゴリオ爺さんと題されてはいるが登場人物は本当にキャラが濃い。
    一番好きなのはやっぱりヴォートランかな。世間的な道徳律には一切従わなくても自分自身の行動原理にまっすぐな奴ってどうしようもなく魅力的だ。

    バルザックの作品群は同一人物が他の作品にも出てくるのが特徴のようなので他の作品も読んでいきたい。

  • ゴリオ爺さんがかわいそうで、ラスティニャックが魅力的でした。
    最初は単調でしたが丁寧な描写が素晴らしく、引き込まれました。

  • 世間と言う真因はそのようなきらびやかな世界がどんなに偽善と妥協と搾取によって支えられているかを悟り、恐ろしくなる。ゴリオの爺さんもある種搾取される側の人生を堪能し、自らの幸福を他人に求めることで幸せを享受していたのだと思う。社交の場に乗り上げた途端、父親を恥ずかしく思うという娘たちの心情と、その成果を呪うという醜悪な非業の死もうまく描きあげられている。社交の場にありがちな心象風景を見事に描ききっている。何を持って生き甲斐とするか、人生をどう生きるべきなのか、世間とどう向き合うのか、色々と考えさせられる作品だ。

  • ピケティ「21世紀の資本」で「r>g」(資本収益率>経済成長率)の具体例として、ヴォートランがラスティニャックに「結婚→遺産相続による収入>弁護士としての労働所得」を説くくだりが引用されていた。

    ゴリオ老人を破滅させたものは、娘への愛情を金銭で与えてしまった誤りではなく、成り上がった富裕層の財産など一晩で食らい尽くす、「パリ上流社会」という資本主義の果てにある、豪奢で魅惑的でそして不誠実な魔物の正体に気づけなかった純真さではないだろうか。

    中産階級の世界では、真っ当な商売を営んで幸運に恵まれれば成功できる労働所得的なルールが通用するが、上流社会とは、愛情や信頼や正義は真っ先に捨て去られ、財産は成功の証ではなく、評判のため、見栄のため、野望のために蕩尽するもので、中産階級出身者などはただの財布として扱われる別次元の世界だ。

    ラスティニャックはヴォートランと出会ったことで上流社会のルールを知り、金銭を「人から引き出すもの」として自分より下に扱うことで生き残った。ゴリオ老人は最期まで「自分が」働けさえすれば娘たちの窮地を救えると信じていたが、金銭を「出す」ということは金銭に支配される、つまりいつかは破滅する運命にあることには気づけなかった。

    ピケティも指摘していたが、この時代の小説に共通する特徴として、下宿代、年金、コーヒー代、賭博の掛け金、馬車代、薬代、埋葬代...等々の金銭がこと細かく記述されており(1フラン≒1000円?で読み替えた)、場面場面のリアリティを高めている。それだけでなく、登場人物の感情や思考、行動原理が端役に至るまで細かく肉付けされており(手紙でしか登場しないラスティニャックの母と妹でさえも人物像が浮かんでくる)、キャラとして立っている。

    解説によるとこの小説は「人間喜劇」と呼ばれるバルザックの作品「群」の中心だということだが納得した。

    読んでよかった。

  • トマ・ピケティの「21世紀の資本」で触れられていたので、興味を持った。
    しかし、「21世紀の資本」は未読。一時帰国の際に立ち読みしたが、その重さと値段に物怖じしまったためだ。お茶を濁すようにEテレの「ピケティの白熱教室」を視聴。この中でも「ゴリオ爺さん」を題材にして、19世紀初頭のパリの人々の経済観念が説明されている。すなわち、法学生ラスティニャックに謎の人物ヴォートランが「弁護士として労働賃金を得るよりも、裕福な女性と結婚した方が大きな富を得られる」と説得するシーンが紹介され、富める者には構造的に富が集中していった当時の事情とウオール街のデモに代表される現在の格差の対比が述べられている。

    さて、本書「ゴリオ爺さん」だが、メチャクチャ面白い。羽田からジャカルタまでの8時間、退屈しないで済んだ。

    「人間喜劇」の中心に置かれる作品と言われている通り、パリの貧民街、貴族地区、新興ブルジョアジー地区に住む、それぞれの階層の人々が生き生きと描かれている。
    2人の美しい娘に全財産をつぎ込み、崩壊してしまう主人公のゴリオ爺さん、その身勝手な娘、出世のためパリの社交界へのコネを必死に探す法学生のラスティニャック。印象としては、この4人は常に自分の中に矛盾を抱えている。受けられないと既にわかっている愛情を求め、与えてしまった愛情に後悔し、時には良心の呵責に苦しんでいる。おそらく、格差の生じる社会では、生き残られないタイプなのだろう。臨終の間際、苦痛に苛まれながらのゴリオ爺さんの独白には寒気がした。一方、ラストでラスティニャックがパリに向って叫ぶ姿は、抱いていた自己矛盾を乗り越えた彼の未来を暗示する。

    謎の人物ヴォートラン、金に細かい下宿屋の女主人、誇り高いボーセアン子爵夫人を始め、一瞬しか登場しない召使いですら、キャラが立っていて魅力的。

    面白い小説ではあるが、当時のパリの状況を知らないと少々きつい。意外にウィキペディアの「ゴリオ爺さん」の項が充実していて、当時の家族関係、婚姻の効果、貴族とブルジョアジーの葛藤、ブルボン王朝王政復古下での人々の考え方など、本書を読むための事前知識が簡単に得られる。おすすめの★5つ。

  • 今年の正月読書はバルザックの「ゴリオ爺さん」。愛娘二人に金を注ぎ込み、自らは貧乏生活を続けついには惨めな死を迎えるゴリオ爺さん。お金があるあいだは、娘とその旦那達から歓迎と尊敬を受けていたが、ひとたびお金が尽きてしまえば、見向きもされなくなる。行き過ぎた親馬鹿が、悲劇的な結末を呼び寄せる。苦しみながら死ぬのは娘たちのせいではなく、自分の父性愛を制御しきれないで自滅したせいだと、ゴリオ爺さんは死の直前に気づく。(神がその被造者に対して持つような父性愛?)
    ゴリオ爺さんの寂しい葬式は、グレートギャッツビーの主人公、ジェイ・ギャッツビーの葬式を思い出させる。
    本作におけるもう一人の主人公は、学生ながらも華やかなパリの社交界に憧れ、いち早く出世を目論むウージェイヌ・ラスティニャックである。野心に溢れ社交界に飛び込む若者と言えば、スタンダール「赤と黒」のジュリヤン・ソレルが頭に浮かぶが、高貴な夫人を誘惑して出世を目論もうとするあたり、まるで瓜二つである。逆に言えば、当時から金も地位もない若者が社会でのし上がる方法は、それくらいしかない、ということだろう。
    もう一人の個性的な登場人物は、社会に対して強烈な反抗思想を持つヴォートランである。アナキズムなのかニヒリズムなのか、明確な分類は困難であるが、ヴォートランの一貫して反社会的な思想は、田舎から家族の期待を背負って出てきた出世に燃えるラスティニャックが、ゴリオ爺さんの悲劇を目の当たりにし、きらびやかな世界が覆い隠す、偽善と虚栄の存在を知っていく中で、悪魔的な誘惑となり彼を板挟みの状態へと移行させる。そんな彼がヴォートランの逮捕やゴリオ爺さんの死を経験し、最終的に自らの今後の行動を決意したところで物語は終わる。世界の十大小説と呼ばれるのも納得の、圧巻の人間喜劇であった。

  • パリの下宿にやってきた田舎青年が社交界でもまれる変則めぞん一刻です。

    まぁ、しかしあれよりだいぶ下世話か。
    泣き落としにつぐ泣き落としがあらわれるけれども
    みんなだいたい自分勝手すぎる。

    自分のこづかいが少ないからと言って
    カジノで儲けてきてと頼む女なぞこちらから願い下げであるが、
    なんとその女は比較的ましな部類の人間である。

    あと「不死者」とかいう中二病的ネーミングの男は
    なんかするのかと思ったら思わせぶりに焚きつけるだけで
    中盤で退場して一切出てこない。不死者なら戻ってこいよ。
    まぁ、たしかに死んではいないけど。

    そんなわけでほとんど納得できることはないのですが、
    爺さんの異常な愛情だけに賭けられた物語なので
    そこで読むことはできます。

    また、どうやら退場した不死者だけでなく
    ほかの脇役も最近のスピンオフ漫画よろしく
    バルザックのほかの著作で顔を出すらしい。
    そういった仕組みを考えて実行した点でバルザックの功績はあるだろう。

    いや、しかし芝居が臭いのはともかくとして
    倫理観がずれすぎていてついていけませんでした。
    歴史資料としても違い自体は面白いよね、以上。

  •  すごい小説というものは、確かに時代を超えて残る。例えば、『デイヴィッド・コパフィールド』『エマ』『ファウスト』『カラマーゾフの兄弟』。それらと同様の圧倒される感じを味わった。
     「人間喜劇」の構想を得て、最初にスターシステムを導入して描いた作品だという。これが初の試みだったとは、どれだけの緻密なプロットを用意して臨んだのかと驚く。主人公ゴリオの悲劇の性格ももちろん深いのだが、それ以上に、その後の作品にも繰り返し登場することになる主役級スター二人、ラスティニャックとヴォートランのキャラクターが素晴らしい。上昇志向、端麗な容姿、強い意志と感覚の鋭さという、魅力的なラスティニャックの視点で物語るというのは上手い。また、本編では半端な狂言回しといった退場のしかたになっているが、ヴォートランの謎めいた様子、世間に対する斜に構えた態度と裏腹な情熱、正体を暴かれた後の豪放なセリフなど、これも飛びぬけて豊かな造形だと思う。
     ヴォートランについてはゲイであることがさらっと述べられているが、時代をかんがみると不思議に感じた。この時代、同性愛者が小説に登場することにはタブー感や異様の印象は無かったのだろうか?

  • 2人の娘を盲目的に愛し、玉の輿に乗せた後も求められるがままに自分を犠牲にして全てを与えた哀れな老人ゴリオ。リア王にはコーデリアがいたが、彼には愛情を返してくれる娘はいなかった。

    登場人物が人間臭くて面白い。ここに出てくるラスティニャックは出世のためなら何でもする人間の代名詞になったようだが、ここではまだ純粋さを持った1人の若者、彼がその後どのように変貌して行くのか他の作品も読んでみたい。

  • "さあ今度は、おれとお前(社会)のしょうぶだ!"…ラスティニャックの今後が非常に気になりました。

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著者プロフィール

オノレ・ド・バルザック
1799-1850年。フランスの小説家。『幻滅』、『ゴリオ爺さん』、『谷間の百合』ほか91篇から成る「人間喜劇」を執筆。ジャーナリストとしても活動した。

「2014年 『ジャーナリストの生理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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