赤と黒 (上) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1957年2月27日発売)
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本 ・本 (432ページ) / ISBN・EAN: 9784102008034

感想・レビュー・書評

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  • Red - the blood of angry men!
    Black - the dark of ages past!
     ミュージカル「レ・ミゼラブル」の「Red and Black」という歌を聴いて、「そういえば『赤と黒』という小説があったなあ」と。地元の図書館の文庫本コーナーに昔からずっとある(いつも誰も借りていない)古典の一つだ。
    作者はフランスのスタンダール。
    1783年生まれ。若い時、ナポレオンの遠征軍に参加し、その後のナポレオン帝政、ナポレオン失脚後の王政復古の時代を生き、この小説が出版されたのは、1830年の7月革命の直後だった。ちなみにヴィクトル・ユゴーが「レ・ミゼラブル」を出版したのは1862年で、これより約30年後だ。
    主人公、ジュリアンはフランスのジュラという田舎町の材木屋の19才の末息子である。少年期に大革命を経験し、革命政府の持つ共和主義の理想に共鳴し、人権と自由を旗印とする革命軍に参加し、ボナパルトと共に欧州の野を東奔西走してきた世代である。その後、ナポレオン帝政が敷かれたが、帝政と言っても有能な人物には出世の道が開かれ、「36歳で将軍になる」ことが出来た。
    しかし、1814年にナポレオン帝政が崩れると、ルイ18世がブルボン王朝正統の君主として、フランス国王となった。王政復古である。これによって、再び台頭したのが、貴族階級と聖職者階級であり、彼らと共和派及びボナパルト派は憎しみあった。
    ジュリアンは「36歳で将軍になる」ような夢を絶たれ、彼のような階級が目標と出来るのは聖職者になって出世するか、パリなどの都会へ出て、美しい女性と色恋沙汰に耽るかぐらいになった。
    そしてジュリアンは信心など全く無かったが出世のために聖職者になろうとし、地元の司祭からラテン語を教わると見る見るうちに上達した。
    彼のラテン語の能力を見込んで、地元の町長の家の子供達の家庭教師として雇われた。ジュリアンにとっては町長のような貴族階級も聖職者も本心では軽蔑していたが、その家のレナール夫人が彼のことを好いているのを知って、「義務だと思って」誘惑したところ、お互い本気の恋に落ちてしまった。
     やがて彼らの恋愛を密告され、ジュリアンは、ブザンソンという街の神学校に入れられてしまった。
     神学校に入ったジュリアンは自分は優秀だと思っていたのだが、そこでは成績が一番であってはならないのだった。聖職者の世界は王政の元にあり、王はローマ法王から現世の治世を預かっている人だからというので、いかに「キリスト教」の知識が深いかということよりも、王政の中で逆らわずにいるかということが聖職者として出世する道だったのだ。
     そして、たまに食事の時に出るソーセージのようなささやかに贅沢な食べ物にもジュリアンは喜ばなかったが、仲間の神学生は「神学校にいるだけでパンが食べられる」貧しい百姓の息子が多く、「教会や国王の権力」に何の疑問も持たない育ちの人ばかりであるということに気づかされた。
     この後、ジュリアンは神学校を出て、パリに行くことななったのだが、その前にレナール夫人の所に会いに行った。大胆にも夫人の部屋に梯子をかけて。どうなることやら。
     初めのころは、フランスの王政復古時代に限定された歴史小説だと思って読んでいた。がだんだん読み進むにつれ、いつの時代でも何処の国でも変わらない、若者の野心、それを実現するために社会環境によっては「本心を隠して上手く立ち回る」若者の姿、恋に陥ってしまう環境とタイミングなど、その頃の読者を意識しつつ、今の時代にも通用する重厚でありながら大衆的な19世紀の“社会派”“恋愛小説”なのだと分かってきた。
    でもそれにしても長いな。
    やっとのことで読み始めたのだから、下巻も頑張ろう。

  • 60年前に桑原武夫訳(河出書房)で読んで以来の再読。後期高齢者になって読んでみて気づいたこと。①若い時読んだ文章はそのまま記憶に保存されている。当時何度も読み返したせいか、デルヴィール夫人の(この美少年、ほんとうにいけないまねをする!)とか、「まあ!かわいい小さな司祭さま」という料理番の娘のセリフとか。ということは、17,8歳の私はこの小説を恋愛小説として読んでいたのだ。②だから、パリの社交界の描写とか政治的陰謀とか地位や金を求めてのかけひきなんかはぼんやりとしかわからなかった。今、読んで気づいたことは、木挽き商のせがれジュリヤンの悩みや野心は60年前の日本でも田舎の有能な青年が抱えていたものと似ているということだ。みんな東京へ行きたがっていた。そこで成功して東京の才気煥発なお嬢さんと恋愛したがっていた。やがて田舎でも東京でも人間の本質は同じだと思い知らされるのだとしても。この小説が今でも心を打つものがあるとすれば、痛ましい青春の姿がありありと描かれているからではないかと思う。

  • 大分時間がかかりましたが、やっと読み終わりました。自尊心が異常に膨れ上がった天才肌の美青年ジュリアンが、色恋とその自尊の狭間で命をすり減らし、最終的には自尊心が恋に優り、それゆえに犯した罪の元斬首される話。こんな書き方は全くあらすじではないですが、巻末にある当代の評論家がかいたその批評が、著者スタンダールの執筆意図をしっかりと言い当てています。
     フランス革命の前後において、全く変わってしまったフランスの時代的情緒を描いた作品だということです。私個人としてはフランス革命を手放しで称賛することはできない立場ですから、大革命を前後したフランスの時代を描写した本作は、とても大きな印象を私に残しました。
     もう一度じっくり読み返してみたいです。人間描写の巧みといいましょうか、それも含めて時代描写の傑作であると思います。

    15.07.23 - 15.10.18

  • 「これは一体、何ジャンルなんだ…?」と最後までよくわからないまま読み終えた。
    若き家庭教師のジュリヤンとレーナル夫人の不倫を描いた恋愛小説かと思えば、ジュリヤンの神学校での生活を描いてみたり、とにかく今の自分の理解の範疇を超えていた。
    あと、個人的にはジュリヤンの高飛車レベルにちょっとついていけなかった。現実世界にいたらこんなプライド高い人絶対めんどくさいし、関わりたくない。笑
    下巻を読むかどうかすごく迷ってるけど、読んでみたらこのジュリヤンのイメージも何か変わるんだろうか。

    • リョさん
      少しは変わると思いますよ。
      「赤と黒」は「クレーヴの奥方」からの流れを汲む心理小説の傑作とされています。
      俺は出世がしたいのかレーナル夫人の...
      少しは変わると思いますよ。
      「赤と黒」は「クレーヴの奥方」からの流れを汲む心理小説の傑作とされています。
      俺は出世がしたいのかレーナル夫人の愛が欲しいのか、あーでもないこーでもない、昨日女を蔑んで見れば、今日には心の底からすまなかったと悔いてみる。19世紀前半にこれほどまでに心の激しい揺れ動きに焦点を当てた小説があったことが重要なのでしょう。共感できるかはあまり重要ではないのでしょう。
      ひとつだけ。ジュリアンは本当に馬鹿野郎ですが、ホンモノのクズ野郎ではありません。
      今の世の中のどこにでもいそうな、情熱的な若者のひとりです。
      2024/01/06
    • 茉央さん
      ものすごく貴重なアドバイスに感謝です…!
      世界の10大小説に選ばれるくらいの本を、いまいち読みきれなかった…と心のどこかでずっと未練があった...
      ものすごく貴重なアドバイスに感謝です…!
      世界の10大小説に選ばれるくらいの本を、いまいち読みきれなかった…と心のどこかでずっと未練があったので、また改めて読み直してみようと思います(◡̈)
      2024/01/07
  • ジュリアンとレナール夫人、ジュリアンとマチルダの恋愛が描かれるが、3人3様の心理が面白さの焦点。レナール夫人は子供が複数いるのに恋愛には初心で3人の中では一番純粋に相手を愛することができる人。マチルダは地位と金、若さと美しさ全てを持っているが退屈で持ってないのは幸せだけ、という人で、恋愛を人生ドラマの道具立てにして自分の中で盛り上がる人。ジュリアンは貧乏な平民の生まれのコンプレックスから自尊心を満たすために高いポジションの女性を征服することが動機となっているが、その時々で相手を愛する気持ちが生じて揺れ動く。200年近く前に書かれた小説としては、ジュリアンとマチルダの心理戦がきめ細かく描かれていて、ジュリアンが最期に冷めていくところなど古さを感じさせない。
    赤と黒のタイトルについて。情熱の赤と人間を欲望で操作する力の黒、と私は思った。

  • 大好きな本。
    ジュリアンと同い年くらいだからか、彼に共感する部分も沢山あって。この時点で自分も相当やばい人なのかもしれないけど、、。彼はプライドが高くいつも周りの人間を若干見下してるけど、感受性が豊かで、かなり沢山の場面で号泣笑、何より若いからこそのイタさみたいなのがわかる!ってなっちゃった。
    当時の学問や勉強といったらほとんど暗記、宗教!でいかに宗教がでかいものかを今更痛感しました、、汗
    現代に生きているから科学第一主義?というか科学的に証明されていること=真だと当たり前に思っている自分にも気付かされた。この何百年かでここまで変わるんだなと。
    何よりレナール夫人との恋愛はまぁ禁忌だからこそロマンチックで、、。梯子で登ってくるシーンとか、ドラマで見たらベタすぎで笑っちゃいそうなのに、ジュリアンとレナール夫人だとただただロマンチックに感じる。
    しかし都心部に出て行ったら可愛い子に目移りしてるのはおいおい笑って感じだけど19歳男子なんてこんなもんか。
    レナール氏や他登場人物も魅力的。フーケくん、デルヴィル夫人がお気に入り。そしてヴァルノもなんか憎めない。

    各章に書かれた引用の文章もいちいちセンスがいい。

    フランス革命、七月、二月革命近辺のフランスの小説は革命の香りがして生命力を感じると共に、貧民層の怒りや虚しさを感じる。先人たちの犠牲によって今の世の中に生きられていると思うと、改めて自分は恵まれている。
    長くなったけど、要するにただの恋愛小説じゃないんだということが言いたい!

  • 読んでみないと、ちゃんと最後まで読まないと、その凄さがわからない、この一言に尽きる。
    長いし、時代的背景が詳しくないから、読むのに時間がかかったが、後半まで読むと、読みながらすでに再読を検討していた。よくいる面白いか、面白くないかで評価するような人には到底理解出来ないとは思う、そんなすごい作品だった。やはり、さすが、名著ってやつ。

  • ナポ1敗北。ルイ18復古王政。シャルル10、王党派貴族を優遇。昔の絶対王政・貴族の息苦しい時代に逆戻り▼貧しい若い男ジュリアン。身分は低いが、いつか出世したい。頭はいい。町長の家に家庭教師として雇ってもらい、そこの夫人と不倫。「高貴で美しい女を手に入れた」▼家庭教師を辞めさせられたジュリアンは神学校に入学。そこの神父の紹介でパリの侯爵の秘書になる。侯爵の娘と結婚の流れに。玉の輿成功かと思われたが、町長の夫人(前の愛人)が侯爵に「こいつはひどい男」だと告げ口。「彼は、うわべはいかにも無欲な顔をしながら、か弱い不幸な女を誘惑し、一家の財産を手に入れようとする偽善者です」。結婚の話はなくなる。ジュリアンは夫人に発砲する。ジュリアン逮捕▼裁判。ジュリアン「陪審員の皆さん、あなたたち上流階級は、下層階級で貧困に苦しみながら教育を受けて上流階級の社交界に入り込もうとする若者の気力をくじこうとしている」。毅然とした態度を示すジュリアン。陪審員たちの心象を害し、死刑に。享年23歳▼身分の低い者が身分社会に挑戦して破滅。赤は共和主義/貧しい男、黒は復古王政/貴族。スタンダールStendhal『赤と黒--1830年年代記』1830 ※「スタンダール」はペンネーム、本名マリ=アンリ・ベール
    〇ジュリアン・ソレル。男。20歳。貧しい家に生まれる。出自が卑しい。父は材木屋。美貌と才知。ラテン語が読める。野心家。ナポレオンを崇拝。貴族に反感・劣等感。タルテュフ(偽善者)を自称。
    ●レナール。男。町長。王党派。平民・ジャコバン派が嫌い。
    〇レナール夫人。30歳。美人。貞淑・無垢。ジュリアンと不倫。ジュリアンに発砲されるも、一命を取り留める。ジュリアン処刑の3日後に死去。
    ●ヴァルノ。レナールのライバル。
    〇エリザ。レナール家の召使。ジュリアンに恋心。
    〇フーケ。ジュリアンの親友。材木商。
    〇ピラール神父。神学校の校長。キリスト教異端派。
    ●ラ・モール。侯爵。パリの貴族。大地主。ジュリアンを秘書として雇う。
    〇マチルド。ラ・モール侯爵の娘。美人。プライドが高い。ジュリアンと恋に落ち、ジュリアンの子を身ごもる。

    ファブリス。青年。ナポレオンを崇拝し、ワーテルローの戦い(1815)に参加するが、活躍できず負傷。これを反ナポレオンの兄に告発され、逃亡。叔母のコネで、僧侶になる。ある日、ファブリスは旅の劇団の女優に恋。しかしその女には男がおり、争いになってファブリスは男を刺し殺してしまい、パルムの監獄に収監される。ファブリスは監獄長官の娘クレリヤに恋。パルム公国で新大公が就任すると、ファブリスは罪を免除され出所、高位聖職者になる。ファブリスはクレリヤ(既婚)と密会を続け、クレリヤとの間に子供ができる。が、子供は死んでしまい、クレリヤは不倫の罪に苛まれ死亡、ファブリスも絶望の中、僧院に隠遁するが、まもなく死亡。スタンダールStendhal『パルムの僧院』1839
    〇ジーナ。ファブリスの叔母。パルム公国のサンセヴェリナ侯爵夫人。甥のファブリスに愛情。
    ●パルム大公。サンセヴェリナに言い寄るがフラれる。ファブリスへの嫉妬から、ファブリスの刑を不当に重くする。牢獄にいるファブリスを助けようとサンセヴェリナはパルム大公を暗殺させる。
    ※自分の無知の断片を盾にして、現実に抗議するのはよくない。

    ++++++++++++++++++++

    ゴリオ。男。老人。元パスタの製麺職人。安アパートで質素に暮らしている。同じ安アパートに住む貧乏学生ラスティニャック。今は貧しいが、いつか出世して華やかな上流社会の仲間入りをしたい▼ゴリオには金持ちの男と結婚した娘が2人いる。きらびやかなパリの社交界で生きる娘たち。何かとお金がいる。普段はゴリオに冷たい娘たちだが、金に困ると父ゴリオを訪ねて、おべっかを使い、金をねだる。娘たちを溺愛するゴリオは、娘たちの願いならと、金を工面し続けていた。やがて金が尽き、それを2人の娘に伝える▼ある日、ゴリオが心臓発作で倒れる。死の淵をさ迷うが、娘2人は見舞いにも来ない。ゴリオ「忙しいのだろうか、眠っているのだろうか、あの子たちが来ない。いや、あの子たちが来るわけがない。そんなことはずっと前からわかっていた。ただ信じたくなかったんだ」。ゴリオは涙で両目がいっぱいになる。ゴリオ、息を引き取る▼ゴリオと同じアパートに住む貧乏学生ラスティニャックは、役所にゴリオの死亡届を提出、粗末な棺を格安で手に入れる。ミサはお金がかかるので、司祭に安価な祈りをしてもらうことに。ゴリオは埋葬された。娘たちは来ない。代理の使用人が来ていた。司祭が貰った金額の分だけ、ゴリオに短い祈りを唱え終ると、使用人とともに姿を消した。墓掘り人がゴリオの棺にシャベルで土をかけると、「チップをくれよ」と言ってきた。貧乏学生ラスティニャックはポケットを探ったが、空っぽだった。猛烈な悲しみが込み上げてくる。辺りはすでに暗く、高台からパリを見下ろすと、街の灯がきらきらしている。社交界が息づいている。ぶんぶんうなりをあげるミツバチの巣のような世界。ラスティニャックは叫ぶ「今度はおれが相手だ」。オノレ・ド・バルザックBalzac『ゴリオ爺さん』1834
    ※メゾン・ヴォケール。ゴリオの住む安アパート。
    ※悲劇の父親ゴリオ。リア王との比較。
    〇ラスティニャック。貧乏学生。安アパートの住人。ゴリオの次女デルフィーヌ(人妻)に恋。
    ●アナスタジー。ゴリオの長女。夫の所有する宝石を売って、金を自分の愛人に貢いでいる。
    ●デルフィーヌ。ゴリオの次女。派手好き。浪費家。
    〇ヴィクトリーヌ。ラスティニャックに恋。資産家の娘。兄がいる。
    ●ヴォートラン。悪党。脱獄犯。金がほしい。目的のためには手段を選ばない。ラスティニャックを悪の道に引込もうとする。資産家の娘ヴィクトリーヌの兄を殺し、財産をヴィクトリーヌに相続させ、奪い取ろうと画策するが失敗・逮捕。

    アンリエット。伯爵夫人。ある日、舞踏会で若い青年フェリックスに出会い、次第に惹かれていく。しかし、アンリエットは夫と子供がある身、情熱よりも貞節・徳を優先。成就しない恋に思い悩みながら病死する。オノレ・ド・バルザックBalzac『谷間の百合(ゆり)』1835
    ※うち解けすぎると尊敬を失い、気安くしすぎると馬鹿にされ、むやみに熱意を見せると食い物にされる。
    *バルザック。登場人物を別作品で再登場させる手法。

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    エマ。貧しい農家の娘。贅沢な暮らしや情熱的な恋に憧れている。エマはシャルル・ボヴァリーというさえない開業医の男と出会い、結婚・出産。しかし、シャルルは平凡な男。結婚生活は退屈。憂鬱な日々。刺激がほしい。ある日、将来有望そうなレオンという男子学生に出会い、惹かれていく。が、レオンは勉学のため、パリへと引っ越してしまう。しばらくすると、エマはロドルフという女好きの金持ち男に出会い、肉体関係をもつ。エマは男に「一緒に駆け落ちしてほしい」と言うが、断られてしまい、男からフラれてしまう。ある日、エマはオペラを見に行くと、偶然、昔好きだった男子学生レオンに再会。エマは夫や娘をほったらかして、レオンと頻繁に会うようになる。さらに、贅沢品や高価な服を買うために借金を重ね、ついに首が回らなくなる。何をやっても満たされない。わたしは不幸な女。絶望の中、エマはヒ素を飲んで自殺▼エマの死後、夫シャルルは妻にロドルフという男がいたことを知り、呆気にとられ立ち尽くす。ある日、町でばったり妻の不倫相手ロドルフに会ったシャルル。シャルルの顔は紅潮し、小鼻は素早くひくつき、唇は震え、暗い激怒をたたえながらロドルフをにらむ。が、やがてシャルルの顔は陰気で無気力な表情を見せ、ロドルフに言った。「あなたを恨んではいません」。シャルルは、エマを心底愛していた。彼女はもういない。ある日、シャルルの娘がシャルルを夕食に呼びに行くと、シャルルが地面に倒れている。息をしていない。その手には、エマの遺髪が握られていた。ギュスターヴ・フロベールFlaubert『ボヴァリー夫人』1857
    ・最高の口づけが唇に残すものは、さらなる逸楽を求める叶わぬ欲望。
    ・偶像に触れてはならない。金箔がはげて手に残る。

    フレデリック・モロー。青年。人妻マリー・アルヌーに一目惚れ。求愛するも失敗し、夢破れる。ギュスターヴ・フロベールFlaubert『感情教育』1869

    このくだらない世の中で、笑いほど真面目なものはない。フロベール

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    レベッカ・シャープ。通称ベッキー。女。身分が低く、貧しい。才知。色んな男に言い寄り、肉体関係をもち、社交界でのし上がっていく。が、最終的にすべてを失い破滅。サッカレー Thackeray『虚栄の市きょえいのいち』
    ・世界は鏡である。しかめ面をすれば、それはこちらをにらみつける。笑いかければ、こちらに笑いかけてくる▼成功は滅多になく、ゆっくりと訪れる。破滅はたやすく、あっという間に訪れる。

    上機嫌は社交界に着ていける一級品のドレスである。サッカレー『洋服仕立てと化粧について』

    難しいのは信仰のために死ぬことではない。信仰に従って生きることだ。サッカレー『ヘンリ・エズモンド』

    笑い方を知らない人は尊大で自負心が強い。サッカレー

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    オリヴァー・ツイスト。少年。孤児。9歳。地方の孤児院でいじめられている。ある日、孤児院を逃げ出し、ロンドンへ。優しい紳士ブラウンローに出会い、引き取られ、幸せに暮らす。チャールズ・ディケンズDickens『オリヴァー・ツイスト』1838
    ●フェイギン。ロンドンの泥棒。おっさん。貧しい少年たちを集めて窃盗団を組織。オリヴァーを誘拐し、悪の道に引込む。狡猾。猜疑心。シャイロック(『ベニスの商人』)と同じユダヤ人。絞首刑に。
    ●アートフル・ドジャー。少年。スリの天才。フェイギンの窃盗団の一員。
    ●サイクス。プロの強盗。おっさん。フェイギンの仲間。いつも犬(ブルズアイ)をつれている。裏切ったナンシーを撲殺し、警察に追われている途中に事故死。
    〇ナンシー。サイクスの女。娼婦。フェイギンの下で働く。良心の人。オリヴァー誘拐に加担したことを悔やみ、紳士ブラウンローにフェイギンやサイクスの悪事を密告。それを知ったサイクスにより「裏切り者」として棍棒で殴り殺される。
    ※背表紙や表紙のほうがはるかに優れている。そんな本がある。

    エベニーザ・スクルージ。老人。金貸し。ケチ。貧乏人に1ペニーも寄付したくない。口癖「ばかばしい(Bah! Humbug!)」。クリスマス前夜、精霊が現れて、スクルージに悲惨な過去、現在、未来を見せ、スクルージを改心させる。愛よりも金を優先して最愛の人を失った過去。貧しいながらも生きる人々の姿(現在)。自らの悲惨な未来。チャールズ・ディケンズDickens『クリスマス・キャロル』1843
    ※ロンドンの下町
    〇ジェイコブ・マーレイ。昔、スクルージが一緒に会社を経営していた男。7年前に死亡。(鎖につながれた)亡霊としてスクルージの前に現れる。
    〇ボブ・クラチット。スクルージの会社の事務員。薄給で働いている。
    ※映画「ミッキーのクリスマス・キャロル」(1983)

    デイヴィッド。男。色々な経験をして、作家として成功するまでの話。母が再婚(しかもやな男と)、大好きな母が死亡、学校で体罰を受ける、待遇の悪いバイト、旅の途中で身ぐるみを剥がれる、結婚した妻が早世、チャールズ・ディケンズDickens『デイヴィッド・コパフィールド』1849

    テレーズ・ドファルジュ。パリで酒場を経営する中年の女。小さい頃、姉を貴族に殺され、貴族に深い恨みを持っている。やがて、フランス革命が始まり、民衆による貴族階級への集団リンチ("報復")が始まった。テレーズの姉を殺した貴族を叔父にもつチャールズ・ダーニーは、外国(英)に移住("逃亡")したとして逮捕・裁判にかけられた。テレーズは法廷でダーニーの叔父が農民の娘を誘拐して強姦した証拠をつきつける。判決の結果、ダーニーは翌日の午後にギロチン処刑されることに。テレーズはさらに、ダーニーの妻ルーシーとその幼い娘も殺そうと画策し始める▼それを聞きつけたシドニー・カートン(ルーシーに片想いする酒浸りの英の弁護士)は、ルーシーにすぐに仏から英へ逃げるよう伝える。さらにカートンはダーニーが収容されている独房に行き、ダーニーを独房から逃がすと、身代わりとしてダーニーになりすます。ギロチンで処刑される直前、カートンはつぶやく「ルーシーとその夫が人生の旅を終え、土のベッドで並んで横たわる姿が見える。これから行くところは素晴らしい安らぎの地だ」。チャールズ・ディケンズDickens『二都物語』1859
    ※旧体制を壊してのし上がった新たな抑圧者たちは、報復の刑具(ギロチン)で滅び去るだろう。

    家族愛の中に祖国愛が芽生える。ディケンズ『骨董品』

    ++++++++++++++++++++

    フレスタコフ。貧しい小役人。見栄っ張り。ある田舎町で(行政の腐敗を調査する)検察官になりすます。腐敗しきっていた田舎町の市長と役人たちは、悪業を見のがしてもらおうと、「検察官」に扮したフレスタコフをちやほや。フレスタコフは賄賂をたんまり貰って、姿をくらます。その後、本物の検察官がやってきたが、時すでに遅し。市長と役人たちは驚きのあまり、黙ったまま立ち尽くす。ニコライ・ゴーゴリGogol『検察官』1836
    ※自分の面が曲がっているのに、鏡を責めて何になろう。
    ※君たちは何を笑っているのだ、自分で自分を笑い飛ばしているのに気づかないのか。

    コワリョフ。下級公務員。ある朝、起きたら自分の鼻がなくなっている。鼻を探していると、教会に入っていく鼻を見つけ、声をかけるが人違いだと言われる。しばらくして、鼻は見つかり、元通り顔につく。ニコライ・ゴーゴリGogol『鼻』1836

    美しい女のもつ精神的欠陥は、嫌悪の情をもよおさせるが、魅力的である。ニコライ・ゴーゴリGogol『ネフスキイ大通』1842

    チチコフ。詐欺師。ロシアでは戸籍調査は数年に一度しかないため、ある年に死んだ農奴がいても、次の調査までは生きていると見なされ、地主は人頭税を支払わなければならない。そこで詐欺師チチコフは金儲けを考える。まず地主たちが抱えている「死んだ農奴たち」を書類上、買い集める。次に安い土地を買って、そこに「死んだ農奴たち」を「移住」させる。つまり、本当は誰もいない荒れ地だが、書類上は農奴たちが作物を生産する価値のある土地に仕立てあげる。そして価値のない土地を担保に国から大金を借りる。しかし、チチコフの計画はバレてしまい、逮捕される。ニコライ・ゴーゴリGogol『死せる魂』1842 ※未完、プーシキンの弟子

    中部ロシアの農民たちの生活。イワン・トゥルゲーネフ『猟人日記』1847

    ルージン。男。理想主義者。真理・自由・美、崇高な理想を語る。地主の娘ナターリヤと恋仲になる。が、モスクワからフランスに渡り、二月革命をパリの労働者と共に戦い、バリケードの上で死ぬ。イワン・トゥルゲーネフ『ルージン』1856

    女の愛を恐れよ。この幸福を、この毒を。イワン・トゥルゲーネフ『初恋』1860

    エヴゲーニイ・バザーロフ。医師を目指す青年。何者も尊敬しない。何事も批判的見地から見る。いかなる権威の前にも頭を下げない。いかなる原理も、そのまま信条として受け入れない。目下、否定がもとっとも有益だ。科学こそ万能、神を信じていない。科学者は詩人よりも20倍役に立つ。人間はいかなる道徳的・社会的制約からも自由だと考える。ニヒリスト。神・伝統を神聖なものとして崇めている親世代を軽蔑している。ある日、バザーロフはある未亡人の美しさと知性に強く惹きつけられ、「恋愛なんぞ虚しい」というニヒリストとしての考えが揺らぐ。バザーロフは病床に臥し、両親への愛情を吐露し、息を引き取る。イワン・トゥルゲーネフTurgenev『父と子』1862
    ●パーヴェル。バザーロフの叔父。貴族趣味。バザーロフと意見が衝突。
    〇ニコライ。バザーロフの父親。
    〇アルカージイ。バザーロフの友人。パーヴェルの息子。
    〇オジンツォーワ。未亡人。美人。

    ※青春は過ぎてしまったが、老年はまだ訪れていない。希望に似た哀惜と哀惜に似た希望の時期。人生のうす暗い黄昏。

    ++++++++++++++++++++

    自分が不幸なとき、他人の不幸をより強く感じる。ドストエフスキー『白夜』1848

    人間とは、いかなるものにも馴れる動物である。ドストエフスキー『死の家の記憶』1860

    人間には逆境をあえて熱愛するときも確かにある。ドストエフスキー『地下室生活者の手記』1864

    ラスコーリニコフ。23歳。大学で法律を学んでいたが、学費滞納で除籍処分に。粗末なアパートに住んでいる。貧乏。家賃は滞納。ぼろぼろの服。自分の殻に閉じこもり、世間から孤立。夢うつつで、ぶつぶつ独り言▼ラスコーリニコフ、ある金貸しの婆さんに怒りを覚える。意地悪で狡猾。他人の命を食い物にして。社会に有害。除去しなければならない。そうだ、婆さんを殺して金を奪おう。その金で、人類全体に奉仕する共同事業を始めるんだ。たったひとつのちっぽけな命と引き換えに、何千という命を救えるんだ。婆さんの命なんて社会の秤(はかり)にかけたら、しらみ・ごきぶりの命がいいところだ▼ラスコーリニコフは計画通り、金貸しの婆さんを斧で殺害、血の海、金を奪う。婆さんの妹に犯行現場を見られてしまったため、その妹も殺害。ラスコーリニコフ、逃亡。しかし、罪の意識に憑りつかれ、心を病んでいく▼殺人事件の犯人を追う判事ポルフィーリーはラスコーリニコフの「非凡人は法に縛られない」という考えに興味を持ち、ラスコーリニコフに問う。「しかし、凡人が自分は"非凡人"(特別な人間)だと勘違いして、勝手なことをやりだす可能性もあるわけですね」▼娼婦ソーニャ。自分を犠牲にして、家族を養っている健気な娘。信心深い。キリストが死者を蘇らせる話「ラザロの復活」を聞かされる。ラスコーリニコフは娼婦ソーニャの姿に心動かされ、警察に自首。シベリアの刑務所で8年の刑期を送る。苦悩により罪が償われ、復活への道が開かれんことを。フョードル・ドストエフスキーDostoevsky『罪と罰』1866
    ※苦しみと悩みは、偉大な自覚と深い心情の持主にとって必然である。
    〇アリョーナ。金貸しの婆さん。妹リザヴェータ。
    〇ラズミーヒン。ラスコーリニコフの親友。 正義感。パラノイアに苦しむラスコーリニコフを心配。金貸し婆さん殺害の犯人を追うポルフィーリー判事の親戚。
    〇ドゥーニャ。ラスコーリニコフの妹。金持ち弁護士ルージンから求婚される。ラスコーリニコフは「ルージンは金に賤しい男」だとして結婚に反対。
    〇マルメラードフ。男。元役人。無職。居酒屋の飲んだくれ。馬車にひかれて死亡。ソーニャの父。
    〇ペトローヴィチ。警察。金貸しの婆さんとその妹の殺人事件を調査。
    〇ザミョートフ。警察。ラスコーリニコフに疑惑の目。
    〇ポルフィーリー。判事。ラスコーリニコフの雑誌論文「犯罪論」について議論。
    〇スヴィドリガイロフ。初老の紳士。妻は他界。ラスコーリニコフの妹ドゥーニャに求婚するも拒否され、自殺。
    〇ソーニャ。娼婦をして家族を養っている。母は病気がち。父マルメラードフは飲んだくれ。ラスコーリニコフは母からの仕送りをソーニャに渡す。ラスコーリニコフは聖書「ラザロの復活」を読み聞かせてもらう。

    人間は他人に騙されるよりも、自分で自分に嘘をつく。他人の嘘よりも自分の嘘を信じる。『悪霊(あくりょう)』1871

    地主の成金カラマーゾフ家の当主が何者かに殺害された。犯人として浮かび上がったのは当主の息子たち3人だった。フョードル・ドストエフスキーDostoevsky『カラマーゾフの兄弟』1880
    〇ミーチャ(ドミトリー)。長男。退役軍人。酒と女が好きで、激情家・直情的。反面、誠実・高潔を求め、シラーを愛読。財産をめぐり父親と対立。父親殺害の容疑で裁判にかけられる。無実だったが、抗弁せず、懲役20年の判決を受け入れる。
    〇イワン。次男。理科大卒。知的。合理主義・無神論。神は存在しないので、人間は何をやっても許される。イワン自作の詩「大審問官」(神が存在するなら、なぜ世界は悪に満ちているのか)第2部第5編。兄の婚約者カチェリーナに恋。裁判で「自分が四男をそそのかして殺させた」と発言。
    〇アリョーシャ。三男。純真無垢。温和。修道士。
    ●スメルジャコフ。愛人の子。使用人。てんかんの持病。父親から差別を受ける。自分が父親をしたと次男のイワンに告白し、自殺。
    ●ヒョードル。父親。好色。強欲。愛人との子スメルジャコフに殺される。
    ※人間は自分の姿や心に似せて悪魔を創り出した▼良心の自由ほど魅惑的で苦しいものはない▼民衆の中には忍耐強い無言の悲しみがある。

    他人のために自分を忘れること。そうすれば他人はあなたを思い出してくれる▼金が何よりも卑しく厭(いと)わしいのは、それが人間に才能まで与えるからである。ドストエフスキー

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    戦争は醜悪である。もてあそんではいけない▼純朴と善良と正義こそ偉大▼この無限の空以外はみんな偽りだ▼ナポレオン戦争。ロシア貴族の没落。ロシア農民の力強く生きる姿。レフ・トルストイTolstoy『戦争と平和』
    ※登場人物559人。

    アンナ・カレーニナ。美人。教養。読書家。夫は冴えない俗物。夫婦関係は冷めている。ある日、青年将校の男ヴロンスキーと不倫、妊娠、夫と子供を捨て、外国へ駆け落ちする。しかし、愛人の男との関係は冷えていく。夫と子供を捨ててまで、本当の愛に生きるはずだったのに。アンナは鉄道に身を投げて自殺する。レフ・トルストイTolstoy『アンナ・カレーニナ』 
    〇リョーヴィン。男。地主貴族。キティに求愛、結婚。ささやかな幸福。
    ※幸福な家庭は似通っているが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸である。
    ※道を踏み誤った人間は、人間ではなく、神が罰する。

    深く愛することのできる人だけが、深い悲しみを体験することができる。トルストイ『幼年時代』

    自己愛は死の初めであり、神と万人への愛は生の初めである。トルストイ『読書の輪』

    すべての人は世界を変えたいと思っているが、自分を変えようとは思っていない▼恋はロウソクの火▼逆境が人格をつくる。トルストイ

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    ラインハルト・ヴェルナー。男。大好きだった幼馴染の娘エリザベートが、別の男と結婚してしまう。エリザベートは2度断ったが、母から結婚を強くすすめられ、仕方なく結婚したらしい。ラインハルトは、エリザベート夫婦から新居の家に招待される。そこで、過ぎ去った幼い日々の思い出を詩にする。湖のほとりを2人で歩いたこと。テオドール・シュトルム『みずうみ』1849 ※ドイツ
    ※トマス・マンのトニオ・クレーガーに影響を与える

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    ※写実主義(realism)。現実をありのままに描く。

  • ジュリアンがレーナル夫人の手を掴むシーンを作之助さんが『青春の逆説』で取り入れてたので元ネタ読めて胸アツだった
    レーナル夫人チョロすぎて面白い

  • スタンダールの代表作。フランス革命後から七月革命前までのフランスが舞台。成り上がりたいとの欲望に燃える主人公。

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著者プロフィール

スタンダール(本名アンリ―・ヘール)は、フランス革命からはじまるフランスの歴史的な激動時代を生き抜いた、フランスの代表的な作家。著書に「赤と黒」「パルムの僧院」「恋愛論」など。

「2016年 『ディズニープリンセス 「恋愛論」 Disney Princess Theory of Love』 で使われていた紹介文から引用しています。」

スタンダールの作品

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