未成年(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (633ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102010167

感想・レビュー・書評

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  • ややこしく、わかりづらい。けれど、テンションが高くて熱がこもっている。プロット自体は、言ってしまえば、火曜サスペンスみたいな下世話な話のような気がしている。そんな下世話な「火サス」をすごいテンションに高めて20時間くらい一気に見たような読後感である。今も、頭がじんじんしている。

    さて、物語のあらましをメモに残しておきたいのだけれど、本作品を概略するのは骨がおれる。あまりに錯綜し、入り組んでいるのである。
    “主人公”アルカージー・ドルゴルーキーの父、ヴェルシーロフは、妻ソフィアへの愛に回帰。その一方で、カテリーナに土壇場のアタックを仕掛ける。浮気性なのか、バカなのか、常軌を逸した言行、暴走がとまらない。カラマーゾフの家父長、フョードルを連想した。父のみならず、アルカージイ自身もまた、しばしば、激情を爆発させる。彼らの激しい熱情、狂気がせめぎ合う。そして、姑息な策略が複雑に絡み合い、終幕へとボルテージが高まってゆく。遺産をめぐる手紙が、人々の策略や混乱を引き起こすのだ。この手紙は、人間模様を過激に高めるための仕掛け、あざといな~、と思いつつも読み進めた。

    メモ詳述に代えて、以下を記録しておく。
    本書巻末、訳者による「あとがき」に下記の記述がある。“「未成年」についての創作ノート”の抜粋である。これが興味深い。

    「小説の全要素。文化人、ペシミスト、無為、懐疑家、高度の知識人―ヴェルシーロフ。昔の聖なるロシアーマカール老人と妻。新しいロシアの聖なるよきものー伯母たち。堕落貴族―若い公爵。若い世代、未成年―善悪に対する本能をもつだけで、何も知らない。ワーシンー出口のない理想家。ラムベルトー肉、膿、恐怖」。

    そうだったのか、の感を抱く。読了後ようやく、なるほどの感もある。
    キャラの濃い登場人物たちは、かように、時代や、思想・文化、を体現するべく配置されていたのだと、納得。ドストエフスキーの長編は、こうした解説や案内を、事前に読んでおくと、内容本編の理解を助けるように思う。
    また「あとがき」によれば、描かれた時代は、ロシア社会が、既存の価値観が崩壊し混乱が生まれた時期だという。そのことを踏まえて読むと、よりわかり良かったように思う。例えばトルストイの「戦争と平和」が描いた貴族は、貴族らしかった。だが「未成年」では、金に苦労したり遺産を巡って奔走するなど、地位も品位も零落。没落貴族の感もある。
    ロシア文学を読む際は、かように、時代背景が異なるためにその文脈が異なることを意識しないと、意味を取り損ねてしまう。そう思い至った。 

    ドストエフスキ-は、偉大なる作品を残した、世界的文豪なるイメージがある。だが、多くの長編を読了して実感するのだが、偉大な文豪ではあるが、構成技巧はじょうずではない。読者に読みやすく伝える技術という点に関しては、逆にへたくそかも、と感じている。脱線や、説教くさい長台詞なども、「また悪いクセが出た」などとあきれつつ、批評的に捉えるのでよいのではないか。深刻な面持ちで拝読するだけでなく、ときにあきれたり、突っ込みながら…、かように、読み手の余裕があってよいように思う。

    巻末に、訳者の「あとがき」に加えて、佐藤優氏の「あとがき」もある。これがうれしい。氏のモスクワ時代の思い出なども書かれていて味わい深い。だが、さすがの佐藤氏も、「未成年」の評価解説 書きづらそう、と感じたのは私だけだろうか。

    ・memo : 1ルーブリ 1000~2000円。 

  • 私には難しかったです。まず登場人物の名前! 同一人物でも何の断りもなく複数の名前で呼ばれるので、中盤辺りからは誰が誰やらわからなくなってしまいました。そこを圧して最後まで目は通しましたが、テーマも非常に複雑で、どこがメインで、なにをどう考えれば良いのか、個人的には理解できませんでした。新しい訳がでたらまた読んでみようと思います。
    ただ1つ、面白く思ったのは、解説の「マカールの言う神の名を頻繁に唱える無神論者とは、ドストエフスキー自身のことではないのか」という指摘です。通読中は気付かなかったのですが、言われてみれば確かにそうかもしれません。個人的に、ドストエフスキーは神を信じてはいないが、神を信じる人々を尊敬し、自身も信じられるようになることを望んでいるのではないかと常々感じながら彼の作品を読んでいるので、こうして自分の信心の薄さをこっそりと告白しているというのは充分ありうると思います。そういう深い読みができるようになれれば、もっと読書が楽しくなるのでしょうね。精進したいと思います。

  • 最後のヴェルシーロフ、カテリーナ、ラムベルトの事件は怒涛の展開となっており、一気に読み進められた。主人公のアルカージイの思い込みの強さ、こうと思い込んだらひたすら突き進むひたむきさはやはり"未成年"ゆえなのかなという印象。アルカージイの魅力的な妹リーザがとにかく可哀想。

  • なんだか少し話に入り込めなかったというか、ついていけなかったというか。登場人物はそれほど多くないのだけれど、なんでだろう。
    もう一回読んだらまた変わるかなあ。

  • 下巻は上巻と比べてスピード感があり読みやすい。
    でも、疾走感という表現はしっくりこない。
    ドタバタ感というのか、展開の振幅も大きく、
    ストーリーから振り落とされそうな気分になる。

    それにしてもドストエフスキーの作品には、
    相変わらず「まとも」な人が出てこない気がするなぁ。

著者プロフィール

(Fyodor Mikhaylovich Dostoevskiy)1821年モスクワ生まれ。19世紀ロシアを代表する作家。主な長篇に『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』『未成年』があり、『白痴』とともに5大小説とされる。ほかに『地下室の手記』『死の家の記録』など。

「2010年 『白痴 3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドストエフスキーの作品

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