はつ恋 (新潮文庫)

  • 新潮社
3.48
  • (151)
  • (272)
  • (469)
  • (72)
  • (15)
本棚登録 : 3339
感想 : 308
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (137ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102018040

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 憂いと悲しみに覆われた鬱々となりそうな曇り空。物語にはそんな空気が漂っているようでした。
    16歳のウラジミールが、年上の令嬢ジナイーダへ恋心を募らせていく様相は、時に痛々しく時に苛烈でありました。焦らされ惑わされ、夢中になったはつ恋。
    しかし彼の前には越えられない父の背中が立ちはだかります。それでもウラジミールにとって、父は嫉妬や憎しみの対象ではなく、むしろ逆に一層大きな人物として映るのです。ウラジミールにはどうしても追いつけない背中。だからといって、彼が父を愛しているようにも見えず、その逆も然り。どこか冷めた距離感を感じる父子でした。
    私にとっては、ウラジミールの悲哀に満ちたはつ恋の結末よりも、実はこの父子の間に流れる因果みたいなものの方が気になりました。

  • 谷崎潤一郎の作品「少年」との親和性を感じてびっくりしました。

    男性を翻弄する21歳の女性・ジナイーダと、彼女に初恋をする16歳のわたし=ヴォルデマール。

    ジナイーダという女性像が、谷崎の「光子」に通じて感じられました。女王様として男達の上に君臨し、遊びで人の情熱や気持ちをもてあそび、夢中にさせる美少女。光子と違うのは、ジナイーダはでも、初恋をするということ。ジナイーダの心は乱れ、激しく揺れる。ヴォルデマールの苦しい日々。破綻。そして再会。

    初恋を通して、青春が語られる小説なのかなと思います。「ああ、青春よ!青春よ!お前はどんなことにも、かかずらわない。…ひょっとすると、お前の魅力の秘密はつまるところ、一切を成しうることにあるのではなくて、一切を成しうると考えることができるところに、あるのかもしれない。ありあまる力を、ほかにどうにも使いようがないので、ただ風のままに吹き散らしてしまうところに、あるのかもしれない。…」

    世の文学青年?達にとって、女性とはそんなに支配的な、蔑みながらも魅了され、崇拝してしまうものなのか。というところがすごく疑問で、すごく面白いなと思います。

  • 読書会の題材として選定された一冊。
    語りの主体であるウラジーミルと同様、彼の父親も初恋だったのではないか、という意見が出たことが面白かった。たしかにまだ若いウラジーミルはともかく、子を持つ親としてあまりに年端も行かぬ少女に入れ込みすぎているという感覚は否めないため、なかなか説得力のある説ではなかろうか。
    個人的には医者で皮肉屋のルーシンのキャラクターが好きだ。世の中を冷めた目で見、ウラジーミルにもキツい言葉を投げかけるが、彼もほかの男同様にジナイーダにお熱であることを考えるとその矛盾と人間らしさが愛らしくさえ感じられる。
    ジナイーダの奔放さ、それに振り回されるウラジーミルたちの振る舞いはフィクションならではの展開と割り切って楽しむことができたが、ノートに記された物語として扱われている以上、締めには語り部たちに登場してほしかったというのが本心ではある。

  • ジナイーダはどことなく自己肯定感が低い様に見える。自分が魅力的なのをどことなく理解していながらも決定付ける物は無くて、故に周りの男たちを言いなりにする事でどうにかして自尊心を保っていたのではないかと思うシーンが幾つかあった。
    父親の描写が無いのも異性に執着する理由なのでは無いかと思ったのと父親と同じくらいの年齢の異性を肉感的に見てしまう点にやはり寂しさを感じた

  • 全体的に歪んでいるというか、自分だったらこんな初恋トラウマになりそう。
    ジナイーダには小悪魔的な魅力がありますね。

  • 無垢な若者が海千山千の女性に翻弄される…古今東西問わず繰り返し描かれて来たストーリー。だが他の小説とは明らかに違うのは、その「憂愁」の深さ。若さと老いのコントラストは、読み手の年代によって度合いが変わってくるだろう。

  • ちょっと笑ってしまう箇所もありましたが、全体としてロマンティックだし、一気読みで味わってしまうこと推奨です。恋の感情を、読者の心中にたちのぼらせるような、ささやかに再体験させるような(もっと夢中に読書するなら、ささやかどころじゃないのですが)、そんな恋愛小説になっている、半分くらい読んでの感想。残りの半分を読むと、ぐっと甘く苦くなりました。文学らしい、読者の胸をかきむしる感じだな、と。

  • 甘酸っぱさより、後悔と情熱の冷めた虚しさを残す初恋。
    よく、人生で3度大恋愛をすると言うけれど、たった1度が3度分である、そんなこともあるのかもしれない。
    あるいは、遠き再会と、叶わぬ再会を2度と数えるべきか。

  • 海外文学だし美しい話なのだろうと思っていたらどろどろで驚きました。これにはつ恋と付けるのか…すごい。
    薄くてあっという間に読めました。

  • 「取れるだけ自分の手でつかめ。」

    16歳の主人公が、隣に越してきたジナイーダに魅せられ、恋とは何かを学ぶ話。絹のプラトークで秘密を打ち明ける場面では、読んでいるこちらもドキドキするほどに臨場感があった。恋に落ちたジナイーグとその人とのやりとりを見た主人公は、そこで展開される行為(鞭でジナイーグの綺麗な腕がひっぱたかれる)こそ本当の”愛”だと悟る。

ツルゲーネフの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×