オセロー (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102020029

感想・レビュー・書評

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  • ハムレットに続いて四大悲劇第2弾

    舞台はヴェニス
    主人公オセローは「ムーア人」
    ムーア人ってよく聞くけどいまいちわからない
    (サロメにも登場したなぁ…)
    「ムーア人とはむしろ、スペインをその時々に支配したイスラム教徒やアフリカ系の人々などを表す概念…」
    (「NATIONAL GEOGRAPHIC」のネット記事にあったのだが、「概念」というところがミソだ 民族に疎い我々にはなかなかわかりづらい)
    本書においてはムーア人が黒人ぽく書かれているが、人種的にはコーカソイド(地中海集団)になるらしい
    ここでは差別的象徴のように「ムーア人」を使っている感じがする

    オセローはヴェニスの軍人でムーア人と少々差別を受けながらも優秀っぽい
    最初の印象は誠実で優秀で冷静沈着、高潔な感じの優等生タイプ
    彼の人生は波乱万丈で、(千夜一夜物語っぽい)苦労を乗り越え、今の地位を掴んだのがうかがえる

    そんなオセローに惚れ、彼も気に入ったデズデモーナは由緒ある純潔な娘
    父の反対をも克服し晴れて結婚した二人
    幸せの絶頂ともいえるのは束の間…
    ここに刺客現わる!

    オセローの信頼おける部下イアーゴーだ
    ムーア人の将軍に仕えることがお気に召さないのか、オセロー自身が気に入らないのか
    とにかくイアーゴーはオセローを憎み、破滅させてやりたい!とメラメラしている
    イアーゴーは言葉巧みに人の心を操り、意のままに人を動かしてしまう天才的な悪いやつ
    あれよあれよとオセローはイアーゴーの悪だくみにハメられていくのだが…

    あれほど揺らぎなく愛し合っていたはずの二人が
    まさかのイアーゴーの罠に落ちてしまうのだ!
    オセローの性格からしても驚きの展開なのである
    イアーゴーのゲスな企みがこれほど皆の運命を狂わせようとは…
    生真面目なオセローの狂気がなんだか切ない
    ムーア人としての引け目を覆すほどの積み重ねてきた彼の信頼性と実績と美しく純潔な妻…
    ああ、全てが一人の罠で泡となる

    結構突っ込みどころは満載で、不自然なところも否めないのだが、内容を知らずに読むのはやはり想像力を刺激されるので楽しめる
    それ以外に面白いのがシェイクスピアの豊かな表現力
    もちろん翻訳者の力量もあるとは思うが…

    気に入ったやつをピックアップしてみた

    ■「体面」ってやつは…
    およそ取るに足りぬ、うわつらだけの被せものにすぎない
    手に入るときは手に入るし、失うときは失うようにできている
    (説得力あります!)

    ■「酔っ払い」ってやつは…
    酔っ払いの悪魔の気まぐれ、勝手に暴れておいて、あとは癇癪の悪魔に肩がわり
    (どうにもならないのよ~と伝わってくる)

    ■「嫉妬」ってやつは
    何かあるから嫉くのではない、嫉かずにはいられないから嫉くだけのこと、嫉妬というのはみずから孕んで、みずから生まれ落ちる化物
    (確かに 自分の中からしか生まれない そして生かすも殺すもあなた次第)


    最後に…
    この時代って本当に女性蔑視がひどいのかしら?
    女性に浴びせる言葉暴力的過ぎて、さすがにちょいちょい不愉快
    当時は普通だったのかな…
    それでも健気に頑張る女性像も見どころ
    にっくきイアーゴーの妻が脇役ながらに光っていた


    • 淳水堂さん
      ハイジさんこんにちは、シェイクスピア進んでる〜(^o^)/

      『オセロー』は割と好きなんです。
      しかしツッコミどころは多いですよね(^...
      ハイジさんこんにちは、シェイクスピア進んでる〜(^o^)/

      『オセロー』は割と好きなんです。
      しかしツッコミどころは多いですよね(^_^;)
      魔術じみてるし、オセローすぐ卒倒するし、展開早すぎるし。

      ハイジさんが『ハムレット』のところで「筋を知って読んでしまったから」と書いてましたが、この『オセロー』に関しても観客(読者)はイアーゴーがオセローたちを破滅させようとしていると分かっているので、「なんで簡単に騙されちゃうんだ…」と思ってしまう。しかし戯曲ではオセローもキャシオーも「誠実なイアーゴー、正直なイアーゴー」って言っているんですよね。読者は、イアーゴーのことを誰も疑っていないというつもりで読まないと、騙された人たちが単純に見えてしまうお話なんだなあと思いました。

      ハイジさんが嫉妬についてのセリフを書かれていましたが、イアーゴーがオセローに「嫉妬は目から緑の火を出す化け物」と言っていますが、それを語源として英語で嫉妬のことを「グリーンアイド・モンスター」となったのだそうです。さすがシェイクスピア様だー。

      またまた映画のお勧めさせてください。
      オーソン・ウェルズ監督脚本主演の『オセロー』です。
      https://movies.yahoo.co.jp/movie/3462/
      オセローって脚本ではセリフ過剰なところがありますよね。登場時の「刃を納めよ、夜露で錆びる」でなんかかっこよく決め、デズデモーナに対しては「お前を愛さなければ俺の世界は終わる」みたいな「うひゃー」なセリフも言ってしまう笑
      それをオーソン・ウェルズが演じると、戦いばかりで人生を過ごしてきた無骨な40男が若くて純粋な娘さんを真剣に愛して…という説得力が出ています。
      さて、「誠実な」イアーゴーは、動機なしの悪意でみんなを破滅させようとするので、研究?では同性愛的な気持ちがあったんじゃないの説もあるみたいです。(たぶんシェイクスピアはそのつもりはなかったかでしょうが、あまりにもイアーゴーの動機が意味不明ってことで)
      この映画のイアーゴー役は舞台俳優さんで、映画出演はこれ一本。そしてこの俳優さんは若い頃オーソン・ウェルズに言い寄ったことがあるんだそうな。
      えーっと、ふたりとも「そのつもり」で演じていたんでしょうか…(^_^;)
      2023/04/19
    • ハイジさん
      淳水堂さん 再びありがとうございます!

      淳水堂さんはシェイクスピアがかなりお好きなのですよね⁉︎
      お詳し過ぎます(笑)

      そうなのですよね...
      淳水堂さん 再びありがとうございます!

      淳水堂さんはシェイクスピアがかなりお好きなのですよね⁉︎
      お詳し過ぎます(笑)

      そうなのですよね
      やたら信頼できるイアーゴー的な流れで、わざとらしいと思ってましたが、それが狙いですよね
      それにしてもイアーゴーの動機がイマイチ掴みづらい…とはいえ、そこに同性愛!とくるとは
      まあそれくらい不可思議な憎しみということで…

      こちらも映画があるのですね
      知りませんでした!

      グリーンアイド・モンスターも覚えておかなくちゃ

      またしても豊富な情報ありがとうございます!
      2023/04/19
  • シェイクスピア四大悲劇のうちの1つ。
    ヴェニスの勇将、ムーア人のオセローは、類い稀な美貌のデズデモーナの愛を勝ち取る。デズデモーナは父の怒りを買いつつも、愛するオセローの元に走る。深く結ばれたはずの2人だが、オセローは、邪悪な部下、イアーゴーの奸計に墜ちる。イアーゴーは自分を副官に起用しないオセローを憎み、自分よりも高い地位にあるキャシオーを嫉んでいた。キャシオーを追い落とし、オセローを苦しめるために、彼が考え出した策は、デズデモーナが副官のキャシオーと姦通しているとオセローに信じ込ませることだった。イアーゴーの策略にはまったオセローは、破滅への道を転がり落ちてゆく。

    オセローはムーア人とされている。このムーア人というのは、黒人かアラブ人かで昔から議論があるようだが、黒人と解釈する方が優勢であるようである。オセローは非常に高潔かつ勇猛な人物として描かれる。北アフリカのいずれかの地の高貴な生まれであるようだが、奴隷の身に墜ちたり、諸国を流浪したり、艱難辛苦の後、現在の地位に上り詰めている。
    デズデモーナはヴェニスの貴族ブラバンショーの娘。容貌、精神ともに一点非の打ち所のない美しい女性である。父の元を訪れたオセローが語る、若き日の苦労話に胸を打たれ、彼を慕うようになる。父の許諾を得ぬまま、駆け落ち同然にオセローの妻となっている。
    副官キャシオーは、勇猛、高潔で思慮深いが、酒に弱いことが欠点。この弱点をイアーゴーにうまく利用され、知らぬうちに最初の躓きを味わうことになる。
    そして二枚舌のイアーゴー。邪悪な性格だが、オセローやキャシオーをはじめとして、周囲には誠実な人物と思われている。だがその実、ムーア人であるオセローを蔑み、副官となったキャシオーに激しく嫉妬している。

    シェイクスピア作品ではよくあることだが、この物語には原型があり、1566年にヴェニスで刊行されたツィンツィオの『百物語』第三篇第七話がそれとされている。巻末の訳者解題にその概略が記されている。

    高潔な心に注ぎ込まれた邪な疑惑が徐々に徐々に膨らんでいき、ついにはまったく罪のないものの命が奪われる。
    確かに悲劇ではあるのだが、賢い武人が邪悪な部下の本性を見抜けぬものなのか、いささかの疑問は残る。そのほか、イアーゴーがハンカチを手に入れる経緯や、有能な副官であるキャシオーがうかうかと酒を飲まされてしまうなど、ところどころ、この物語はどこかいびつで無理がある。イアーゴーが怖ろしい奸計を企てるのが、任官の恨みとムーア人に対する密かな軽蔑だけというのもいささか弱いようにも思う。
    あらすじを読む限りでは、むしろ原作の『百物語』の方がありそうな話である。旗手(イアーゴーにあたる人物)はデズデモーナに横恋慕しているが歯牙にも掛けられず、それが引き金になるというものである。

    おそらくはこの物語は、読まれるよりも演じられることで説得力を増す物語なのではないか。イアーゴーの華麗な語り、落ち度がまったくないデズデモーナの圧倒的な美、そうしたものを目の当たりにすることにより、観客の中で悲劇性が醸成されていくようにも思われる。語られていない部分、幾分不完全な箇所は、観客が物語に入り込むことで作り上げられていくようにも思われる。

    冒頭、デズデモーナの父ブラバンショーの強い怒りが印象的である。腹黒いイアーゴーはここですでに言葉巧みに父の怒りに火を注いでいる。
    「劫を経た黒羊があなたの白羊の上に乗りかかっている」
    と。
    黒と白が全般に非常に象徴的に現れるのだが、この物語の中では人種差別というほど強いニュアンスよりは、大きな障害を表しているようにも感じられる。もちろん、差別的な色合いは「ある」のだが。
    乗り越えがたい溝を乗り越えたはずの、完璧な理想の愛が崩れる。それもごく卑しいものの手によって。
    そこがこの物語の悲劇の最たるところだろう。

    • 淳水堂さん
      こんにちは!

      ムーア人とはおもにベルベル人を示す、と知った時に「オセローが”ベルベル人”だったらなんか印象違う!」と思った覚えが(笑)...
      こんにちは!

      ムーア人とはおもにベルベル人を示す、と知った時に「オセローが”ベルベル人”だったらなんか印象違う!」と思った覚えが(笑)

      筋にはかなり無理がありますが、
      やっぱりパワーがありますよね。
      ・登場人物にとってのイアーゴーは誠実(オネスト)だけれど、読者(視聴者)には邪な面しか見せないので、なぜあんなにみんな見抜けないのか?という根本がピンと来ず。
      ・話のテーマの一つが「嫉妬とは理由があってするのではなく、したいからする(byイアーゴーの妻)」とはいえ、オセローがあっさり疑惑に嵌りすぎで…。
      映画もみました。
      ローレンス・オリビエ版は、気品と自信があるのはいいけれど、だからこそ「自分の首を抱える蛮族と闘った」とか、妻の浮気を疑い卒倒したりすると笑っていいのか真面目なのかこっちが困るというか、
      あれだけ自信を醸し出す人物なら、換言なんかに惑わされなくても、とも思ってしまう。
      オーソン・ウェルズ版は、人間の駆け引きに疎く名誉を重んじる真の軍人、という人物がよく表れてたなーと思います。オセローの台詞ってかなり大袈裟で歯が浮きそうですがウェルズが言うと実直からくると思える。
      ここでのイアーゴー役者は、若い頃オーソンウェルズに言い寄った舞台俳優で映画撮影はこれ一本のみだそうで、お互いそういうつもりで演じてたのか?!という疑惑も(苦笑)
      2016/08/19
    • ぽんきちさん
      淳水堂さん

      ムーア人というと一般にはイスラム教徒を指すみたいですが、オセローはクリスチャンのようですよね。

      ほんと、何でそんなに...
      淳水堂さん

      ムーア人というと一般にはイスラム教徒を指すみたいですが、オセローはクリスチャンのようですよね。

      ほんと、何でそんなに憎いのか(→イアーゴー)&何でそんなに騙されるのか(→オセロー)が腑に落ちない感が残りました(^^;)。

      意外と当時の演劇は舞台と観客が近かったようなので、みんなお約束として「オセローが嫉妬に狂う劇」ということを知りつつ、例えばハンカチのところでは「ほら、今落としたよ!」と騒いだり、イアーゴーに「二枚舌!」と叫んだりしていたのかもw
      イアーゴーの妻、エミリアが夫を最後に糾弾しますが、そのときの彼女の台詞が観客の思いを代弁しているようにも感じました。

      映画版は見たことないのですが、機会があったら見てみたいと思います~。オーソン・ウェルズ版、お話を伺うとおもしろそうです。
      2016/08/20
  • 1602年ころの作品。
    オセローとデズデモーナの心理描写の妙は、前作のハムレットとオフィーリアのそれより格段に飛躍したものと思います。サスペンス仕立の伏線の張り方も巧みです。イアーゴ―が次々に繰り出す腹黒い策略に蟻地獄のように沈んでいく過程を、読者は歯噛みしながら読み進めていく、手に汗握る作品です。

    「貧にして足るものは富める者、むしろ大いに富んでいると申せましょう。一方、限りなき富を有しながら、貧寒なること冬枯れのごとき者もある」
    (なんだかこれ、「老子」みたいですね~汗)

    残念ながら、前作「ハムレット」に比べて詩的な部分は少ないです。また、主人公はオセローというより、悪役イア―ゴーのよう。彼が終始にわたって物語を主導し動かしていて、オセローは受け身の主人公に留まっている観があります。書いているうちに、シェイクスピアは主人公オセローよりイアーゴーにハマってしまったのかしら…? 読んでいるとそんなオーラさえ感じます。そう、まるで初期の冷血漢「リチャード3世」を彷彿とさせる徹底した悪漢ぶり(笑)。

    戯曲の内容や設定をみても、前作の「ジュリアス・シーザー」や「ハムレット」、後作の「リア王」や「マクベス」のように、国家存亡の危機といったスケールの大きさに比べると、「オセロー」は、彼とデズデモーナの家庭内悲劇にとどまっています。それはそれで面白いのですが、詩的な部分も極端に少ないため中途半端な感じです。

    陰湿な策略にハマり、妻の愛を疑いはじめ、激しい嫉妬に苦悩するオセローは確かに悲惨……でもそれが転じて、すべて破滅じゃ~ということになるのかな? どうも一体感が構築しにくい感触です。でも、シェイクスピア作品を、「セリフの多い小説」として読むわけにはいきません(笑)。ひとたび観劇の魔法がふりかかれば、もっとずっと見せ場の多い作品に仕上がっていくのかもしれませんね。当時の演劇と臨場感をのぞいてみたいな~。

  • イアーゴーは何故オセローを恨み、すべてを賭けてオセローを陥れようとしたのか。リチャード3世のように身体的なコンプレックスから悪事に手を染めるといった経緯がイアーゴーにはない。イアーゴーによる、オセローへの「(自分の名誉を傷つけられたことに対する)怨念」、キャシオーへの「男の嫉妬」、デズデモーナへの「逆恨み」が、オセローへの復讐に向かわせた。なるほど人はそうしたことを考えるかもしれない。ただ、ここまでの大がかりな企てに走るというのは現実的ではないように思える。イアーゴーはシェイクスピアが描きたかった「人間の本質」ではなく、世間一般の悪意を表すものとしての舞台装置として考えてよいように思う。

    一方で、オセローはなぜイアーゴーの罠に落ちたのか。歴史的な背景からして、オセローがムーア人であることをコンプレックスにしていたということはないだろう。また、言動からして極度のやきもちやちということでもない。

    オセローに至らぬところがあったのだとすれば、ただただオセローがそうした悪意に対して備えが甘かったこと。そして、自分の能力を信じるあまり、事実や状況の判断に失敗したこと。いかに優れた人であっても一歩あやまれば破滅が待っている。これほど恐ろしいことはない。

  • 初めてシェイクスピアを読んだ。戯曲のリズム感や言葉遣いに最初は戸惑い、なかなか読み進まなかったが、馴れると問題なし。面白かった!
    高い地位に立つと、様々な思惑を持った人が近づいてくるし、敵も多くなろう。どんなに高潔で武勇があるオセローといえども、イアーゴーの罠にあっさりとかかる。リーダーとは、周りの意見を取り入れ組織を動かしていかなければいけないが、その意見が正しいのか、別の見方があるのかを冷静に判断していかなければならないということだろう。

  • わかりやすいストーリー。
    嫉妬は怖い。とはいえ、あまりに簡単に部下に騙されすぎでは?と思わずにはいられない。

  • シェイクスピア四大悲劇のひとつ「オセロー」。
    勇敢な将軍オセローが副官に任命されなかった不満うぃ抱く旗手イアーゴーの策略に堕ちる。イアーゴーのでっちあげたオセローの妻デズデモーナの不義を嫉妬したオセローは、愛する妻を絞め殺してしまう。

    「オセロー」については、四大悲劇のひとつということ以外の予備知識は殆ど無い状態で読んだが、戯曲に対する先入観がなくなったおかげか、特に読みにくさもわかりにくさも感じることなく愉しめた。

    オセローを欺くために、隠れさせたオセローに聞こえるように副官キャシオーとイアーゴーが話す場面などは特に面白かった。

    愛し合っているのに、何故一言相手に訊ねて疑いを晴らさないのか。
    こういうことは今も昔も変わらない。
    当事者でなければ、訊けばいいのに馬鹿だなあ、というところだが、それが出来ないからこそ悩むのだ。
    最も大切なひとだからこそ、最も言わなければいけないことが言えない。
    勇敢な将軍であっても、愛する妻の心が離れてしまっていることを直接妻の口から聞くのは恐ろしい。このまどろっこしいような愚かさが人間らしい。


    万策尽くれば、悲しみも終わる、事態の最悪なるを知れば、もはや悲しみはいかなる夢をも育みえざればなり。
    過ぎ去りし禍いを歎くは、新しき禍いを招く最上の方法なり。
    運命の抗しがたく、吾より奪わんとするとき、忍耐をもって対せば、その害もやがては空に帰せん。
    盗まれて微笑する者は盗賊より盗む者なり、益なき悲しみに身を委ねる者はおのれを盗む者なり。(p35)

    貧にして足る者は富める者(p102)

    深い言葉だ。

  • 四大悲劇(ハムレット、オセロ―、リア王、マクベス)の中で、『ハムレット』に次いで2番目に作られた作品。
    シェイクスピア作品は、限られた登場人物の中に多様な人間関係・人間心理が織り込まれているものが多く、また、本作品以外の四大悲劇は、作品名となっている主人公が、その多様さ・複雑さを体現する中心人物として描かれているのだが、本作品については、ヴェニスの軍隊の指揮官であるムーア人のオセローよりも、むしろ、あらゆる関係者を騙し、死に追いやる、側近で旗手のイアーゴーの存在感が極めて大きい、珍しい作品である。
    また、本作品の特徴の一つは、言うまでもなく、オセローがムーア人である点だが、本作品の種本(チンティオの『百話集』)において、主人公はムーア人とされているものの、シェイクスピアが、主人公を白人ではなくムーア人のままとしたことの意図については、諸説あるらしい。作品の中でオセローは、白人の妻デズデモーナが、自分が「黒人だから」心変わりをしたのではないかと訝る場面はあるものの、全編を通して差別的な描写はほとんど見られないし、むしろ、シンプルに言えば、武力に優れながら、素直に人を信じるムーア人を、不誠実な白人が騙したという構図は、当時は異質とも言えたのではないだろうか。(尚、「ムーア人」とは、現在においては、当初、北アフリカの先住民であるベルベル人を指していたものが、中世に、北アフリカからイベリア半島に住むイスラム教徒全般を意味するようになったとされているが、400年前のシェイクスピアの時代に、どのような人(人種・民族)を表していたのかはっきりしない)
    イアーゴーの複雑な立ち回りが、現代のサスペンス小説・ドラマにもなりそうな、シェイクスピア悲劇の傑作である

  • 人を信じることは非常に難しい。まさか裏切るとは思わぬ全幅の信頼を置いている人でさえも、永遠に信用できるものではない。何とも悲しい結末であった。

  • 嫉妬の恐ろしさは古今東西変わらない。

    新潮文庫のシェイクスピアって、表紙がオシャレで好き。並べて飾りたくなります。

    四代悲劇のひとつとありますが、なんか……オセローしっかりしろよ、と思ってしまう。真面目すぎるんじゃないかなあ。イアーゴーに興味を持った。人間臭い、こういう悪役いいわあ。口先ひとつでうまく世の中を渡って行ってしまうんだろうな。

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著者プロフィール

1564-1616。イギリスの劇作家・詩人。悲劇喜劇史劇をふくむ36編の脚本と154編からなる14行詩(ソネット)を書いた。その作品の言語的豊かさ、演劇的世界観・人間像は現代においてもなお、魅力を放ち続けている。

「2019年 『ヘンリー五世 シェイクスピア全集30巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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