戦争と平和(三) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (738ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102060155

感想・レビュー・書評

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  • 3巻は今までとは違い随所にトルストイの肉声をハッキリ感じる場面が多い
    物語を登場人物たちに任せておけず、どうにも我慢できず本人が思わず登場しちゃったの⁉︎…という感じから始まり、もう我慢できない!とばかり彼の強い思いがあふれ出る
    ナポレオンの登場回数もかなり増え、いよいよ大詰めの「ボロジノの戦い」が始まる
    非常にリアルな戦場描写と百姓から商人から貴族から兵士から官僚からあらゆる立場の人たちが描かれており、彼らの心情の変化などが読み手を巻き込んでいく


    ■ヘズーホフ家
    大資産家メガネ太っちょのピエールの家

    私生活では相変わらずの放蕩男ピエール
    妻のエレンのイカれぶりもエスカレート(同時に2人の男と結婚したがり、ちっとも悪びれずどちらを選んだらいいか真剣に考えている)
    そんな精神状態のピエールだが、戦争未経験の彼が戦場に行き、すべてを見たいと切望する
    緊迫した戦場に現れる場違いなピエール
    彼はここで何を見て、何を感じるのか…
    ある決意をし、変装したピエール
    彼の決意とは…
    なんとナポレオン暗殺!?
    相変わらず思い詰めるとブッ飛んでしまうピエール
    そんな中、フランスに侵入されあちこちに火の手が上がるモスクワ
    火事から子供を救い出し今までの枷になっていた何かが吹っ切れる
    …とここまではいいのだが、フランス兵の強奪にカッとなり暴力沙汰となり独房へ入る羽目に
    相変わらず気持ちはすぐ揺れるし、何かしたいという思いばかりが先行し、正しい行動に結びつかない
    そして追い詰めると何をしてかすかわからないピエールなのだが、純真なところがやはり憎めない男だ
    こちらも彼にすっかり慣れてきたので飛んでもない行動をしても愛おしく見ていられるように(笑)
    ピエールはドストエフスキーに出てきそうな悲劇と喜劇が紙一重のキャラクターかも…



    ■ロストフ家
    ニコライ、ナターシャ兄弟のいる破産寸前の貴族の家

    ニコライ 
    戦争体験談は往々にして過大表現されることを学び、さらには戦争に対する恐怖心が薄らいだ
    が、これは経験と時間によってしか得られないことも知る(このように着々と成長しているニコライ)

    病に臥したナターシャ
    もちろんアンドレイへの裏切りと別れによる精神的なもの
    そんなナターシャの傷心にそっとよりそうピエール
    ピエールの純真さがナターシャを慰める
    ピエールとナターシャの距離がグッと縮まるのだが、ピエールは一応妻帯者だからか距離を縮めまいと踏ん張る

    モスクワが危険になってきたためロストフ家もようやく退去準備
    荷物をまとめているさなか、負傷者の士官たちに部屋を提供する一家
    実はここにアンドレイが担ぎ込まれる


    ■ボルコンスキー家
    頑固老父とエリート男子アンドレイ、Mっけたっぷりマリヤちゃんのいる家

    ボルコンスキーの老父に死が迫る
    マリヤは父を看病しながらも自分の自由を夢見る心を抑えられず苦しむ
    虐待まがい(いや、虐待そのものだな)の歪んだ愛情、言葉の暴力が止められない老父
    しかしその陰の愛情を理解しているマリヤは老父に自ら縛られる人生を選んだ
    そんな老父の最期はマリヤにやさしい愛情を見せるのだ!
    (ここの親子は本当に現代では問題となるような(ある意味DVの夫とその妻のような)関係であるが、不思議と読者にも嫌悪感なく二人の愛情が伝わる 最後はなんだかしみじみ…)
    とうとう老父が亡くなるのだが、ある出来事でマリヤがピンチに
    そんな時マリヤは兄や父や家の名誉を守るため、勇気を振り絞ってある行動を起こす
    (やっぱりカッコいいなぁマリヤ いざとなると凄いのよ!このお嬢は)
    そしてこのピンチを助けたのがなんとあのニコライ
    マリヤはニコライのことを「美しい高潔な魂の持ち主である」といい、
    ニコライはマリヤのことを「表情が柔和で気品がみなぎっている」という
    まさかのこの組み合わせ!
    ソーニャはどうなっちゃうのよ(ソーニャも良い子なのよ!)
    家柄とお金の面ではニコライママは大喜びしそうだけど、そんな部分もチラっと頭を横切るニコライ…
    複雑

    いよいよ戦闘が激しさを増し、明日死ぬかも…覚悟を決めた長男アンドレイ
    極限の精神状態の中、突如気づくのだ
    崇高に思われた名誉、社会の福祉、清らかな恋愛、祖国…これらが色褪せた粗雑なものに過ぎないことに
    そして彼の予想通り負傷をおい、重症に瀕す
    前線の包帯所に運びこまれるものの、そこで片脚を切断され弱り果てた哀れなアンドレイの天敵アナトーリ(妻帯者の身分でナターシャと駆け落ち未遂をやらかした成金クラーギン家の息子)に会う
    さらに瀕死の状態のアンドレイはナターシャとの愛とやさしい思いやりがめざめる
    そして妹マリヤに教えられた家族だけではなく、敵味方も関係なく「あらゆるものを愛すること」に気づく
    「インテリ・エリート」アンドレイにようやく血が通った!
    冷静沈着に物事を対応するアンドレイ
    心より頭が先に動いてしまうアンドレイ
    器用なんだか不器用なんだか…
    ナターシャに裏切られたときもナターシャに対する愛情には蓋をしアナトーリに対する憎しみだけは持ち続けた
    そうすることで心の平穏を保とうとしたのだろうが、やはりハートが足りない男だった
    でもここにきてようやく…アンドレイが涙する!
    瀕死のアンドレイは運命的にモスクワのロストフ家へ避難することに
    「おれの前には人間から奪うことができぬ新しい幸福が開かれたのだ」
    意識を何度も失いながらも夢うつつの中、憎む相手を愛せたよろこびがよみがえる
    そして誰よりも愛し憎んだナターシャの苦しみをようやく理解し、自分の拒絶の残酷さに気づく
    そしてドラマティックなナターシャとの再会
    ナターシャは許しを請うが、アンドレイは愛を語る
    (キャー感動的!)


    ■「ボロジノの戦い」とナポレオン、そしてトルストイの考えについて

    「ボロジノの戦い」
    両軍合わせて、約8万人の死者、負傷者、行方不明者を出したものの、決定的な勝利は得られず、ロシア軍の戦略的撤退によって戦いは終息
    ボロジノの会戦は、第一次世界大戦までの歴史の中で、最も凄惨なものと言われている
    後年ナポレオンが「かつて自分の経験したもっとも激しい戦い」と語った
    トルストイはフランス軍敗因の原因について、
    フランス軍が冬の行軍の準備なく冬のロシア奥深く侵入したこと、ロシアの諸都市を焼き払いロシアの民衆の胸に憎悪を植え付けたことだと冷静に分析する(だが当時は誰も予見出来なかった)
    この戦いの実情についてトルストイの目線から多く語られる

    そんな中トルストイの主張は実際の現実とはこうだ!と語る

    ・皇帝のために!と立ち上がった人たちはみな、意志を奪われた歴史の道具に過ぎなかった
    ・戦闘の最中にすべての必要な命令がナポレオンから出され、その通りに実行されたわけではない
     なぜならナポレオンは始終戦場からあまりにも遠くに位置していたため戦闘の経過を知り得なかったし、戦闘のあいだ彼の命令は実行される状態になかった
    ・ナポレオンは誰にも発砲しなかったし、だれも殺さなかった
    実行したのは行軍に飢え、服は破れ、疲れ果てた兵士たち全軍
    が、前方に街を塞いでいるロシア軍をみて「ワインの栓は抜かれた、飲まねばならぬ」と感じたに過ぎない
    ・食事も休息もとらずへとへとに疲れ切り傷ついた兵士たち
    彼らは「まだ殺しあわなければならないのだろうか なんのため、だれのために?」
    自分のしたことに戦慄し、すべてを投げうって逃げ出したらどんなにほっとするだろうと感じつつも、
    それでもなおある不可解な不可思議な力が彼らを動かしつづけていた
    もはや人々の意思ではなく、人々と世界を動かすものの意思によっておこなわれる恐ろしい事態に
    ・歴史の法則の研究のためには、われわれは完全に観察の対象を変え、皇帝や大臣や将軍たちはそっとしておいて、
    群衆を動かしている同種の無限小の諸要素を研究しなければならない


    トルストイが正しい歴史を語ろうと躍起になる気持ちが伝わる
    確かに人は歴史というものを薄っぺらい紙に要領よくまとめたがる
    でもそうじゃないのだ!と強く訴えてくる
    それがこの書「戦争と平和」なのだ
    と素晴らしい!
    が、「坂の上の雲」を読んだ時感じたのと同じ感覚に陥る
    読みだせば夢中で読めるのだが、他の書籍に何となく手が伸びてしまい、ちょっと離れたくなったりと時間がかかった
    内容がぎっしり詰め込まれ過ぎていて消化不良を起こす
    ずっしりタルトよりふわふわシフォンケーキが好きな身としてはなかなかしんどい
    が、逆にそれだけこの出来事によりロシアで何が起こったのかを残したいというトルストイの熱い熱い思いが特にこの3巻からは
    ビシビシ肌にまで伝わってくる
    その圧がたぶん受け止めきれないからなのか?

    さて次回はいよいよ最終巻へ

    • アテナイエさん
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになる...
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになるとトルストイの論考がだいぶ多くて嘆息しますが、物語はクライマックスになってきますよね。

      それにしてもハイジさんの登場人物評がおもしろすぎて、くすくす笑いながら拝見しています。この物語はトルストイの分身やアバターだらけで、熱血で純粋で朴訥としたピエールと、洗練された貴族然とした孤高のアンドレイは作家の大事な分身でしょうし、しとやかで知的で敬虔なマリアと明朗快活で情熱的なナターシャは、きっとトルストイの憧れの女性像なのかもしれません。

      ボロジノの戦いは、これでもか! と書かれていて圧倒されます。フランス軍敗因の原因について、ハイジさんが引用されているトルストイの分析=「フランス軍が冬の行軍の準備なく冬のロシア奥深く侵入したこと、ロシアの諸都市を焼き払いロシアの民衆の胸に憎悪を植え付けたことだと冷静に分析する」などを見ても、つくづく現状ロシアのウクライナ侵攻のようでびっくりします。

      >内容がぎっしり詰め込まれ過ぎていて消化不良を起こす
      ずっしりタルトよりふわふわシフォンケーキが好きな身としてはなかなかしんどい。

      きゃはは、わたしもまったく同じ意見です。でもお菓子は別で、タルトもシフォンケーキも大好きで~す。これにルピシアの茶があれば最高です。
      引き続きハイジさんのレビューを楽しみにしています(^^♪
      2022/11/24
    • アテナイエさん
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになる...
      ハイジさん、こんばんは。

      トルストイ読書が順調に進んでいてスゴイです! 私も二度読みしているようで楽しいです。ちょうどこのあたりになるとトルストイの論考がだいぶ多くて嘆息しますが、物語はクライマックスになってきますよね。

      それにしてもハイジさんの登場人物評がおもしろすぎて、くすくす笑いながら拝見しています。この物語はトルストイの分身やアバターだらけで、熱血で純粋で朴訥としたピエールと、洗練された貴族然とした孤高のアンドレイは作家の大事な分身でしょうし、しとやかで知的で敬虔なマリアと明朗快活で情熱的なナターシャは、きっとトルストイの憧れの女性像なのかもしれません。

      ボロジノの戦いは、これでもか! と書かれていて圧倒されます。フランス軍敗因の原因について、ハイジさんが引用されているトルストイの分析=「フランス軍が冬の行軍の準備なく冬のロシア奥深く侵入したこと、ロシアの諸都市を焼き払いロシアの民衆の胸に憎悪を植え付けたことだと冷静に分析する」などを見ても、つくづく現状ロシアのウクライナ侵攻のようでびっくりします。

      >内容がぎっしり詰め込まれ過ぎていて消化不良を起こす
      ずっしりタルトよりふわふわシフォンケーキが好きな身としてはなかなかしんどい。

      きゃはは、わたしもまったく同じ意見です。でもお菓子は別で、タルトもシフォンケーキも大好きで~す。これにルピシアの茶があれば最高です。
      引き続きハイジさんのレビューを楽しみにしています(^^♪
      2022/11/24
    • ハイジさん
      アテナイエさん コメントありがとうございます!

      決して順調ではないですが、後半になり物語のクライマックスに向かうスピード感と圧の高さに後押...
      アテナイエさん コメントありがとうございます!

      決して順調ではないですが、後半になり物語のクライマックスに向かうスピード感と圧の高さに後押しに助けられて…といった感じです

      そうですね
      アンドレイとピエールの相反するキャラクターはトルストイそのものの心の葛藤なんだろうなぁと…

      マリヤとナターシャは憧れの女性像…
      なるほど
      しかし理想が高すぎますね
      彼女たちの良い処どりの女性なんて…

      ルピシアの紅茶にまで絡んでくださってありがとうございます(^ ^)

      さてさていよいよクライマックスですが、
      アテナイエさんのおっしゃるように、やっと…という気持ちと、このまま終わってほしくないような複雑な気持ちです!

      残されたページを大切に読んでいきますね♪
      2022/11/25
  • トルストイによる戦争論から始まる第三巻。
    三巻は戦争とそれに伴う政治思考が多いです。

    ロシア人名についてのメモ。
    ❖名前に男性形と女性形がある。
    ⇒名字の場合、(ボルコンスキィ家の場合)父と兄「ボルコンスキィ」、妹と妻「ボルコンスカヤ」
    名前の場合、男性「アレキサンダー」、女性「アレキサンドラ」。男性「イリア」、女性「イリナ」など。
    ❖名前の中に父称(父親の名前)を入れる。
    ⇒(ボルコンスキィ家の場合)
    父「ニコライ・アンドレーヴィチ・ボルコンスキィ」
    息子「アンドレイ・ニコラーエヴィチ(ニコライの息子)・ボルコンスキィ」、
    娘「マリヤ・ニオコラーエヴナ(ニコライの娘)・ボルコンスカヤ」
    ❖名前(洗礼名)には、愛称、省略形がある。
    ⇒リザヴェータは「リーザ」、ニコライは「ニコレンカ、ニコールシカ、コーリャ」、エフゲニーは「ジーニャ」など。
    ❖呼びかける場合。
    「ニコライ・アンドレーヴィチ」と名前と父称で呼ぶのは、非常に丁寧な呼びかけ。
    「ニコーレンカ、ニコールシカ、コーリャ」と愛称、名前の略で呼ぶのは、親しい間柄。

    以外備忘録のためネタバレしています。
     【ベズウーホフ伯爵家】
     ❖ピエール・キリーロヴィチ・ベズウーホフ伯爵(本名はピョートル):
     二巻でアンドレイ公爵を裏切ったナターシャの献身的な友として支える。ナターシャが生きられたのはピエールの存在が大きいだろう。
    ピエールはナターシャへの愛を自覚するが、そのためにロストフ公爵家からは距離を置くことにする。

    その頃ナポレオン軍の攻撃は激しさを増す。ピエールも戦場を見る。
    ついにモスクワ市民はモスクワを放棄して地方へ散らばる。
    そんななかピエールはある決意を持ち、自分の家から出てモスクワ市に潜伏する…。
     
    ❖エレン公爵夫人:
     二巻まではまあ普通のふしだらな上流夫人だったんだが、三巻では「むしろここまで行くとご立派(^。^;)」と言うくらいの不道徳っぷりを示してきた。
    ピエールという夫がいるにも係らず、どこぞの王子とロシア高官にプロポーズさせ、離婚を禁じているカトリックにおいて自分が完全に正しい離婚と再婚をするにはどうするか、を画策したのだ。
    道徳的にも宗教的にも恥じるべき行為をエレン本人はまっすぐな信念として自分が正しいと振る舞い、そのため社交界や宗教界まで彼女の味方に。
    カトリック法王に真のカトリック教会への入会を許されるが、寄付金目当てと見抜いたエレンからは軽くあしらわれる。
    道徳的には相当愚かな人間のはずなんだが、自分の損得を見極め自分を有利にさせる手腕は天性のものか。(~_~;)

    さて、キリスト教の教派はよく分からないので、エレンの扱いがどのくらい名誉で特殊で腐敗なのか?
    正教会の一つであるロシア正教会に属しているエレンの事をローマ・カトリックの法皇が認めますよ、ただしお金いっぱい寄付してくれればね、ということか?法皇(教皇)を抱かない政教派が法皇に認められるのは名誉なんだろうか、よく分からん。
     
    【ボルコンスキィ公爵家】
     ❖アンドレイ・ニコラーエヴィチ・ボルコンスキィ公爵:
     名誉を傷つけたアナトーリ公爵を追うためと、社交界から離れるために再度軍隊へ入る。アナトーリへの決闘の理由、自分の名誉、ナターシャへの思い、いちいち理屈が先に来るところがアンドレイの面倒くさいところ。
    軍隊生活では一般兵士や農民たちからは「おれたちの大将」と慕われるが、貴族たちにはとことんイヤな態度で接する。
    政治も軍事も農地改革もセンスはあると思うんだが、出世昇格とは真逆の理由で軍隊入りしたため、それらの機会を永久に失う。

    激しさを増す戦闘でついに大怪我を負う。
    怪我の痛みの中、アンドレイ公爵の心は深く内面を見つめ、神の愛を悟る。

    そして瀕死の床でのナターシャとの再会…

    三巻は戦闘や錯綜描写が非常に多いのだが、
    そんななかでのアンドレイの漂う意識と彼の行き着いた想い、激しく愛し憎んだナターシャとの再会場面の美しさと言ったらない。

      ❖マリヤ・ニコラーエヴナ・ボルコンスカヤ:
     父のニコライ・アンドレーエヴィチ・ボルコンスキイ老公爵の死を看取る。
    死を迎える父の寝室で、父が死んだら自由になるのか?などと考えが浮かんでは懺悔する。

    その後戦火に巻き込まれそうになったところをニコライ・ロストフ伯爵に助けられ、互いに好意を持つ。

    えーっとこのときマリヤは27,8歳か?公爵令嬢にしては縁談がまとまらなかったですね。

    【ロストフ伯爵家】
     ❖ニコライ・イリーイチ・ロストフ伯爵:
     進軍途中で、マリヤ・ボルコンスカヤ公爵令嬢を助ける。

     この「二人が出会った」という事実は社交界を駈け廻り、「さっさと婚しちゃえ!」な雰囲気に。
    自分には婚約者同然のソーニャがいるんだよなあ…とちょっと思いつつ、経営破綻している我が家を考えるとボルコンスキイ公爵家と縁を結ぶのは魅力的だとも考えてみたり。

    さて、アンドレイ・ボルコンスキイ公爵と、ナターシャ・ロストワ伯爵令嬢との婚約は両方の家から歓迎されていなかった。
    しかし同じ家同士の縁組でも、ニコライ・ロストフ伯爵と、マリア・ボルコンスカヤ公爵令嬢なら歓迎、というのは、持参金の問題なのか??

     ❖ナターシャ・ロストワ(ナターリア・イリイニーシナ・ロストワ公爵令嬢):
     二巻ラストは狂乱のナターシャだが、弟のペーチャと、ピエールの存在が助けとなり徐々に明るさを取り戻す。

    以前よりも神に祈る。クリスチャンにおける謝罪と言うのは、相手に謝るのではなく神に許しを請うのですね。「神よ、アンドレイ公爵への裏切りをお許しください。そしてアンドレイ公爵とアナトーリ伯爵の心に安らぎが訪れますように」人間が自ら相手に侘びて安らぎをもたらせるのではなく、それができるのは神、というキリスト教の考え方です。

    さて、ナターシャは三巻終盤で、瀕死のアンドレイ公爵の前に現れ、その足元で手を取り許しを請う。

     ❖ペーチャ(ピョートル・イリーイチ・ロストフ)
     ナターシャの弟。ナターシャの生きる希望となっていた。
    同じ名前のピエール(ピョートル同士)に憧れ軍隊に入ることを望む。
     
     ❖ソーニャ:
     ニコライの事実上の婚約者だが、破産寸前のロストフ伯爵家ではその結婚は歓迎されていない。
     
     【クラーギン公爵家】
     ❖アナトーリ・ワシリーエフ・クラーギン公爵:
     アンドレイ公爵から逃げていたが、思わぬ場所で思わぬ姿で彼らは再開する。これぞ神のおぼしめしか。
     
     【他の人たち】
     ❖クトゥーゾフ:
     ロシア軍総司令官。
    歴史家の評価は分かれているらしいが、トルストイはかなり評価している様子。
    遠征先で作戦本部とした農家で、小さな娘さんから見たクトゥーゾフの姿が面白かった。軍人同士で「モスクワ放棄か?」を論じてる時に娘さんは「おじいちゃん(クトゥーゾフのこと)がんばれ」と思ってしまう。一見好々爺の面もあるのだろう。

     ❖ラストプチン伯爵
     モスクワ総督。民衆を支配していると思い込んでいる施政者。
    モスクワ放棄直前にナポレオン賛美者を勇壮な見せ場を作るための生贄として処刑する。

  • 何不自由無く遊んで暮らす大富豪の青年がいて。優しく純粋な大富豪は、パーティ三昧な無為の中で人生に悩んでいます。

    大富豪の心の友、大親友の青年は、親の代からの誇り高き軍人、高潔で有能な高級士官。ナポレオンと祖国との戦争に巻き込まれながら、天真爛漫な美少女と運命の恋に落ち、婚約。

    美少女の兄も軍人。士官。
    悩み無く軍隊勤務を楽しみながらも、実家が経済的に没落していく気苦労。家の経済の為には、愛し合う貧しい幼馴染との結婚が許されない。

    天真爛漫な美少女は、不良の嘘と誘惑によろめいてしまい、婚約は破棄される。騙された愚かさに気づいた美少女は、絶望して自殺を図る。そんな彼女を慰めた大富豪の青年。親友の元婚約者の美少女と、運命の恋に落ちてしまった自分に、気づいた…。

    そして全てを飲み込むように、戦争が足音を立てて近づいていました。

    #

    怒涛の大河ロマン、第三巻。

    ここからちょこっとだけ、「歴史小説」の色合いも増してきます。
    書き手のトルストイさんの顔がチラチラ見えて、フィクションの人物たちの運命を一旦棚に上げて、歴史としてのナポレオンとロシアの死闘を俯瞰的に眺め、分析したり考察したりする章が時折現れます。

    そのあたりは、地理的な固有名詞とか、若干わかりにくいですが、詳細すぎる政治軍事評論ではなくて、「戦争」をヒーローの物語として捉えることを頑なに拒否して、即物的な集団の運動だったり、混乱の中の偶然だったりという、極めて冷徹な細部の積み重ねとして受け入れることを熱弁します。

    それは、時代を超えて、国を超えて、たしかに説得力があります。

    (このあたり、「坂の上の雲」をはじめ、司馬遼太郎さんに影響を与えているのではないでしょうか)

    #

    では小説として面白くなくなったのかと言うと、全くそんなことはなく。ちゃんとダレてきた頃には、俯瞰の目線から主人公達の姿へと、物語は急降下していきます。

    優しい大富豪ピエールは、ナターシャへの愛に気づく。
    そして、既婚者のピエールは、その気持ちの危険に気づいて、自分から離れていく。

    ナポレオン軍がモスクワに迫る。
    モスクワの手前、ボロジノでの大会戦。

    義勇軍の士官となって(でも実際上はただの見物人として)戦場におりたった大富豪ピエール。
    激戦の前日、戦地での親友アンドレイとの再会。
    美少女ナターシャとの婚約が破れたアンドレイ。その冷たい気持ちになすすべのないピエール。

    大会戦。
    トルストイは混乱のリアリズムの戦場に、ピエールとアンドレイとともに読者をものすごい力で引きずり込む。文庫本のページから硝煙と血しぶきが吹き上がるような筆力。圧巻。

    そしてモスクワでは。
    落ち込み、立ち上がれない美少女ナターシャ。ピエールの支えで、ようやく微かな笑顔を取り戻しつつあった。
    一方で、そのナターシャが裏切ってしまったアンドレイの妹マリアは。長年自分を虐げてきた父が、痴呆になった末に亡くなるのを看取る。

    そのモスクワに、とうとうナポレオン軍がなだれ込む。
    避難。混乱。暴徒。狂気。無政府状態。
    逃げ遅れたアンドレイの妹マリアは、農奴たちに背かれ危機一髪のところを、青年士官に救われる。それは、ナターシャの兄、ニコライだった。
    劇的な出会い。二人の間に芽生える、恋愛感情。
    だが、ニコライには、幼馴染の許嫁である、ソーニャがいる。どうするどうなる。

    ナポレオン軍の砲弾が、アンドレイの体をえぐる。瀕死の重傷。

    ロシア軍は、大いに傷ついてモスクワを放棄する。
    ナポレオン軍も、大いに傷ついて、飢えた狼のようになってモスクワを略奪する。

    貴族であるナターシャの一族は、荷馬車の列を組んでモスクワから逃走。葛藤の末に、前線からの負傷兵たちを載せるために家財を投げ打って。
    その、負傷兵の中に、重傷に喘ぐかつての婚約者・アンドレイがいることを知らずに…。

    ニコライも、自分の部隊とともにモスクワから撤退。アンドレイの妹マリアを守りながら…。

    そして、悩める優しき大富豪ピエールは、全てを投げ打って失踪。
    混乱の廃墟となったモスクワ市内に姿をくらませてしまった。
    彼を突き動かすのは。

    「僕は、ナポレオンを暗殺する」。

    だが、火災で地獄と化した街で、見知らぬ少女を助けてしまったことから、フランス軍に逮捕されてしまう…。

    #

    ひとりの英雄もいない。

    誰もが勇敢であり、卑怯でもあり。

    戦場は歴史家が英雄の功績とするような分かりやすいゲームではなく。混乱と狂気の中で砲弾に突然肉弾を抉られる。自分が放つ砲弾も、敵陣で同じことをする。

    貴族も、平民も、農奴も、自分たちの生活の、日常の全てを一方的に破壊される。

    どうして戦争が起こるのか。

    戦争は無くならないかもしれない。
    戦争を絶対悪として棚にあげることも、リアリズムではない。

    でも、これを読んで戦争を美化できるヒトがいるんだろうか。
    誰かが理不尽に殺されて、誰かを理不尽に殺すことを、誰が望むんだろうか。

    …そんなレクイエムの一方で、大映ドラマもハーレクインロマンも泣いて吹っ飛ぶ疾風怒濤の恋愛物語、冒険のジェットコースター。

    #

    戦場の男たち、銃後の女たち。
    硝煙を知らぬペテルブルクの貴族たち。もはや痛烈な喜劇である政治と支配者のエゴと錯誤。
    ままならぬ混乱の波に翻弄される、ナポレオン、皇帝たち。
    極大から極小へ。ロマンスから生死へ。
    魅力的な脇役たち。一場面だけの人物たちもキラキラとギトギトと、人間臭さを放つ。

    #

    章が終わるたびに、巻が変わるたびに痛感するのは。

    ひっぱりが上手い。
    極上のエンターテイメント。

    重傷のアンドレイは、生き残れるのか?
    裏切られた美少女ナターシャと、再会するのか。許せるのか。

    アンドレイの妹アンナと、ニコライの運命の出会いはどうなる?
    ニコライは、幼馴染のソーニャを捨てるのか?捨てられるのか?

    ナターシャへの愛を秘めて、銃を懐にして無法都市モスクワに残ったピエールの運命は?フランス軍に逮捕?どうなるの?

    避難民の狂奔の流れの中で、モスクワに残るピエールの姿を、馬車の中からナターシャが見つける。一瞬の交錯。別れ。震えるほどの名場面。

    いよいよ、完結編の第4巻へ。

  • 3巻はそのほとんどを戦争シーンが占めており、登場人物がそれぞれに生き生きと動き詩的な美しさを感じる2巻に比べると、やや退屈に感じてしまった(それでもすごいんだけど!)。

    トルストイは「戦争」の中で何度も何度も、「歴史とは一人の人物や一つの原因が作るのではない」と強調する。これがあったからこうなった、ということはなく、それは後世がその結果からただ線を引き繋げて言っているに過ぎないのだと。その場の全て、どれとも誰とも言えない、あえて言うならば「その時」こそが歴史であり、「その場」こそが民衆なのだと。
    そして、それらが積み重なり、その時その時が終わって振り返ってようやく、我々はそれを「歴史」として「事実」として認識するのだと。

    こう言うとまるで、個人の力は時の流れにゆらゆらと漂う頼りない木の葉に過ぎないような書かれ方をしているかのようだ。
    けれど、これほどダイナミックに、これほど感情豊かに「戦争」を描く本はないのではないか、と私は思う。
    次巻はいよいよ最終巻。この壮大にして繊細な物語が、どういう終わりを迎えるのかわかると思うと、嬉しくもあり、けれど読み終わるのが怖いような気もする。

  • 「コンプレックスの裏側にあるロシアの愛国心」

     戦争の火蓋がふたたびきられ、ボロジノの会戦後、ナポレオンはいよいよモスクワに侵攻する。モスクワをあとにする人々の運命もかわってゆき…

    ボルコンスキイ老公爵の死後、寄る辺なき身となった公爵令嬢マリヤの苦境をたまたま救うことになるニコライ。前線で戦火をあびながらも、どこか危機感に乏しくマイペースでひょうひょうとしたピエール。そしてこのたびも負傷して生死の境をさまようアンドレイ。皇帝ナポレオンとロシアの運命を託されたクトゥーゾフ将軍との勝負を軸に、再び前線へかりだされた男たちが本編の中心となる。

    このたびナポレオンはかなりの強気でモスクワ入りしてくるわけだか、面白いのはナポレオンがロシアをアジアだと認識していることだ。極東の島国からみれば、当時のロシアの貴族社会がフランスのそれとどれほどの違いがあるかなどさっぱりわからん。だが、この小説を読んでいると、ロシア貴族の間では敵国語でありながら、しばしばフランス語が用いられていたり、建物や装束などもヨーロッパの宮廷を意識していたらしいことが確かに見て取れる。

    明治日本の欧米コンプレックスほどではないにしても、もしかしてロシアにはロシアなりのヨーロッパに対するコンプレックスがあり、あるいはその裏返しとしての愛国心がこの大部の作品の底流にあるのではーなんて言うのは勘繰りすぎですかね、トルストイ先生。

  • ナポレオンのロシア遠征、ボロジノの会戦からフランス軍のモスクワ入城までが第3巻の主要な舞台だ。ボロジノの戦いを第三者的な目で見るピエール、彼の心の中にはナターシャがいるが、その行動は因循だ。一方、ナターシャの放埒な行動に傷ついたアンドレイは軍隊に戻りクトゥーゾフと共に戦いに臨む。瀕死の重傷を負ったアンドレイはその心の中にナターシャが棲むことを知る。二人はモスクワのロストフ家で偶然再開するが、この場面は本作品中、最も美しいシーンではないかと思う。ピエールはナポレオンの暗殺を志向するが、放火の疑いでフランス軍に逮捕される。ピエールの行動、ナターシャの恋の行方、ロシアから撤退するナポレオンの思い、第4巻に期待するところが大きい。

  • 歴史の壮大さと、個々の人間描写の緻密さが両立されている。

    12
    皇帝はーー歴史の奴隷である。

    261
    「あの白い服を着なさい、わしはあれが好きだから」

    326
    忍耐と時が必要なのだよ。

    327
    「<迷いの中で、きみ>」彼はちょっと口をつぐんだ。「<じっとこらえることだよ>」

    606
    すべてのロシア人が、モスクワを見ると、それが母であることを感じる。

    668
    ふいに、富も、権力も、生活も、人々がこんなにあくせくとして築き上げ、守ろうとしているすべてのものが、もし何らかの価値があるとすれば、そんなものはみな捨ててもかまわぬという痛快さがあるからだけだ、と感じたときだった。


  • 一気に書き方が変わったと言うか小説から歴史になった。
    作者の意見もたくさん入るというか、史実と見解と小説が交互にやってくる。お陰で読み進められるのだけど、あまりにロシアの地名も歴史もナポレオンのことも知らなすぎて興味が出てきて、途中Wikiで調べたり地図で場所を確認したりして読む。
    全巻読み終わったら読みかけの「全世界史」を読もうと思う。

  • 少し難しかったけど、何とか読了。
    難しいのは、言い回しのせいかと。でもこだわらずに読み進めても、内容がわかってきたので、もう少し読み方を雑にしてもいいかと。
    読み始めた時は登場人物が多いし覚えづらいと思ったけど、結構個性的に描かれているので、苦にならなくなった。

    「『戦争と平和』って、この内容でどうしてこの題名?」とずっと思ってたけど、第3巻終わってようやくしっくりとし始めた。でも最終巻でどうなることやら。登場人物がそれぞれ二転三転しているので、まだどうなるのか? 期待するのはハッピーエンドだけど、そもそもどうなったら「ハッピー(幸福)」なのか? そう言えばアンドレイも死の淵で「幸福」について考えていたっけ…。

  • 2006/02/24読了

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著者プロフィール

一八二八年生まれ。一九一〇年没。一九世紀ロシア文学を代表する作家。「戦争と平和」「アンナ=カレーニナ」等の長編小説を発表。道徳的人道主義を説き、日本文学にも武者小路実らを通して多大な影響を与える。

「2004年 『新版 人生論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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