戦争と平和(四) (新潮文庫)

  • 新潮社
3.87
  • (53)
  • (44)
  • (68)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 729
感想 : 45
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (657ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102060162

作品紹介・あらすじ

ナポレオンの大軍は、ロシアの大地を潰走してゆく。全編を通してトルストイは、歴史を作るものは一人の英雄ではなく、幾百万の民衆の生活にほかならないという歴史観を明らかにしてゆく。また、アレクサンドル一世から一従卒まで、全登場人物559人のすべてを、個性ゆたかに生き生きと描き出すことによって構成される本書は、世界文学の最高峰とよぶにふさわしいであろう。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 最終巻である
    後半から最後にかけてトルストイの独白の分量がさらに増え、
    ああ、トルストイはこれほどの思いを伝えるために血肉を削いでこの小説を描いたのだ!
    受け止めきれないほどの重厚な内容を紐解くのだが…

    注)ネタバレあります


    ■ヘズーホフ家
    大資産家メガネ太っちょのピエールの家

    フランス兵の捕虜となったピエール
    目の前でロシア人捕虜がフランス兵に処刑されるのを目の当たりにし、常に死の恐怖と向かい合わせの状況を経験
    しかし究極の貴い精神と素朴な心を持つ大した地位のない元百姓カラターエフと出会い、心が洗われる
    ピエールはこの劣悪な状況下とカラターエフとの出会いにより「苦悩の限界と自由の限界は極めて近い」ことに気づき、「安らぎと完全な内的自由」を得る
    生まれ変わったピエール
    ロシア軍により解放されたのちは、人の話を聞けるようになり、自分の話に夢中にならなくなる
    ピエールの善良さに周りの皆、あらゆる人が好感を持つように

    ようやくピエールの真の心がきちんと生かせる術を身につけた
    良い素材に添加物だらけの調味料を塗りたくられ(時には自分から浴びに行っちゃって)、
    最後に高級トリュフか何かをトッピングされたように資産家になってしまったピエール
    やっと素の状態になれたのだ
    ピエールの良さはわかっていたけれど、ようやくしがらみ(添加物)から解き放たれる感じですね
    本当にうれしいなぁ
    (そしてあの奇抜な妻のエレンは病死)


    ■ボルコンスキー家
    頑固老父とエリート男子アンドレイ、Mっけたっぷりマリヤちゃんのいる家

    瀕死の兄アンドレイに会いに行く妹マリヤ
    アンドレイは死の、最期の、恐ろしく苦しい恐怖感から解放される
    「たえず万人を愛し、常に愛のために自分を犠牲にすることは、結局だれも愛さぬことであり、この地上を生きぬこと…」と悟りの境地へ
    そんな精神的徴候を理解したナターシャとマリヤ
    厳粛な死の神秘を心の目でみとどけ、敬虔な感動に胸をふさがれる二人…

    こちらもピエール同様、アンドレイが真の精神境地を掴み取った!
    この辺りはやはりキリスト教の影響が大きいのであろう
    二人とも何かを越え、解放され、開眼し、生死を越えた自由と幸せを手に入れる
    この辺りは「夜と霧」を読んだ時にも感じた
    でも人は死に近づかないとそういうものを得られないのだろうか…
    なんだか寂しい気もする


    ■ロストフ家
    ニコライ、ナターシャ兄弟のいる破産寸前の貴族の家

    マリヤと再会したニコライ
    やはりマリヤに惹かれていることを改めて実感
    ニコライにはマリヤの精神世界の奥深さが神がかって見えているようだ
    一方で元カノ、ソーニャのことは、「未来は簡単に想像できてしまう」という(失礼しちゃう)

    弟のペーチャがとうとう連隊に入り少し出世する
    大人になった喜び、真の勇気を示すんだ!という熱に浮かされたような焦燥感
    その焦りが仇となりフランス兵に撃たれ死亡
    当然のように半狂乱となる母
    全力で献身的に支える母への愛情により、アンドレイの死により半死状態だったナターシャは生き返る

    マリヤの家でピエールとナターシャが再会
    3人でペーチャの死、アンドレイの死、そしてピエールの体験
    たくさんのたくさんの話をする
    ピエールとナターシャの二人は「相思相愛」とマリヤは認識

    アンドレイの死以来、ナターシャとアンドレイの妹マリヤの二人はほとんど語り合わなかったものの、
    二人は気持ちを共存し合い、友情より強い絆で結ばれる
    反発していた二人アンドレイの死を共存し、真の姉妹のように変化する
    悲しみの中にも救いは必ずあるのだ
    そんな希望を私たちに見せようとしてくれるトルストイ

    そしてソーニャの立場は最初から最後まで何とも物悲しい
    あれだけ良い素直な娘であり、ロストフ家に献身に仕えながらも、
    最後は「完璧すぎる」がゆえ愛するニコライからの愛情は減り、結局小間使いでいいように使われることが当たり前になり、彼女一個人に何かスポットライトが当たるようなことはないようだ
    しかし脇役ながら最後まで目の離せない存在であった



    ■エピローグ(「登場人物」編)←勝手に命名
    200頁近いエピローグ
    物語とトルストイの独白の2本立て
    まずは物語から…

    ナターシャとピエールはめでたく結婚
    ナターシャは打って変わって割烹着の似合いそうな素朴なおっかさんになる(ロシア人に割烹着は変だけど)
    天真爛漫な娘が恋をし、寂しさからロクでなしに翻弄され、愛する男性と死別、そして結婚し子供を授かる
    最後は驚くほど平凡な女性に…

    いいと思うよナターシャ
    人生に素直に向き合った結果、彼女の幸せをつかんだ
    これだけ翻弄されながら、よく頑張って生きた!
    うんうん


    ロストフ伯爵(ニコライ父)の死により、ニコライは多額の負債返却のため退役
    何も望まず期待せず、自分の苦境を耐え地道に借金返済をし、知人との付き合いも避けるように…
    紆余曲折はあったものの、なんとかマリヤと無事結婚
    ニコライは母親とソーニャを連れ、あの禿山へ
    負債の返済がようやく終わり経済も安定してきた頃、領地の経営に乗り出す
    百姓に注目し、百姓から学び、彼らの心を掴み管理するように…
    この辺りは広大な領地を相続し農地経営を行ったトルストイの実生活をうかがわせるようだ
    (広大な領地を相続し農地経営するトルストイの場合は農民に受け入れられず…)

    お坊ちゃまんニコライも大変身だ
    かなり皮肉屋になり、愛嬌はなくなったものの、堅実に働くことを知る
    そして農地経営に夢中になるのだが…
    マリヤに対してちょっと当たりがキツいんだよねぇ
    マリヤも気を使い過ぎてるしぃ…
    やっぱりマリヤちゃんてM体質なのかなぁ(笑)
    でも個人的にマリヤは大好きなんだ!
    いざとなるとぶっ飛んじゃうほどカッコいいからねぇ!

    そしてアンドレイと亡き妻の子であるニコーレンカが最後を飾る
    (アンドレイ妹のマリヤが養母のように育てる)
    最後希望の星のように未来に向かう象徴のようだ



    ■エピローグ(「トルストイの独白、そしてクトゥーゾフについて」編)

    ・皆がロシアのため「献身、祖国愛、絶望、悲嘆、英雄的行為」という精神ではなかった
    命をかけて祖国を救うだの、祖国の悲運に涙を注ぐと思われがちだが、
    実際はたわいもない個人的関心しかないとシビアに唱える
    ・すべての偉大な功績がフランスの歴史家たちによってのみ書かれたもの
    ナポレオンの天才的手腕がどの程度事実かは正確にはわからない
    ・戦力は兵数だけでは測れない未知なもの、その未知なものとは軍の「士気」だ
    ・民族の目的はただ一つ「自国を侵略から解放すること」
    ・クトゥーゾフだけが激動した戦局の意義を理解し、ボロジノ会戦の勝利を信じ続けた
    さらに彼だけがロシア軍を無益な戦闘からおさえることに全力を傾けた
    自己犠牲と未来の意義を洞察できる模範的かつ素朴な謙虚な偉大な人物(…とトルストイ大絶賛)
    ・歴史を動かすのはナポレオンやアレクサンドルのような英雄ではなく、民族一人一人だと強く訴える

    ナポレオンが英雄に仕立てられたのは、数多くの偶然というニュアンスでその理由づけを延々と語っているトルストイ
    そしてクトゥーゾフとは違うのだ!というアピールに感じた
    兎にも角にもこの独白部分は非常に分量が多く、読み切るのはかなりしんどい!
    小説にこれだけ独白をくっつけるのも、いかがなものかと思いつつも、それだけの熱い思いがマグマの如く流れ出ておりものすごい圧を感じた
    そして私が「戦争と平和」を読みたかった一番の理由
    「歴史はを動かすのは英雄でもなく傑物でもなく名もなき民衆それぞれの生活なのだ」というトルストイの宣言通り(?)
    まるで証拠提出のように形を変え何度も繰り返し、表現してくるトルストイ
    生々しい戦争体験の表現、侵略した兵士の略奪、あらゆるものを失ったロシア市民と彼らの生活
    多くの災難と悲しい運命に見舞われた彼らはその運命を受入れ、何を感じ、何を思い、そしてどう生きるのか…
    歴史というのは本当に記録ではなく記憶だと感じる内容が至る所に…
    ピエールもアンドレイも、ニコライもみなトルストイであり、そして我々でもあるのだろう

    長い時間かけて(かかって)読んだのでこの世界にどっぷり入ってしまい少々疲労が…
    (でも頑張って読んだ甲斐はある、得たものも大きい、知った世界は広く深い)
    いつかトルストイの他の作品を手に取ることがあるかもしれないが…
    それは恐らくずいぶん先の話になりそうである

    • ハイジさん
      おおお!
      アテナイエさん
      面白すぎます
      ピエールがイワンみたいになったら…
      妄想が止まりませんよね!
      ドストならピエールのもっと暗くてジメジ...
      おおお!
      アテナイエさん
      面白すぎます
      ピエールがイワンみたいになったら…
      妄想が止まりませんよね!
      ドストならピエールのもっと暗くてジメジメした部分をうーんと喜劇的に表現してくれそうなんだどなぁ…

      アンドレイの老父のキャラいいですねぇ
      彼の若い頃の人生も知ってみたいですし、深堀したら凄いものが出てきそう…
      (アテナイエさんみたいな素晴らしいボキャブラリーは持ち合わせていないので、表現が希薄ですが)彼はドSでありながら、かなりのドMだと感じます(笑)

      トルストイは根が真面目でまっすぐなお人柄なのかしら?
      なんて思ったりしました
      2022/12/21
    • アテナイエさん
      ハイジさん、やっぱりおもしろいです!

      はい、おっしゃるとおり、ドSはドM、ドMはドS♪ 
      ですよね。ああなんだかリフレインしているう...
      ハイジさん、やっぱりおもしろいです!

      はい、おっしゃるとおり、ドSはドM、ドMはドS♪ 
      ですよね。ああなんだかリフレインしているうちに『マクベス』のへんちくりんな魔女みたいになってきました!
      ハイジさんの深い分析に感激しています。
      トルストイは根が溌剌とした活動的で積極的な人のような気がしますね。裕福な貴族でもあるし。あまり彼のことは知りませんが、やはり刑務所に入ったドストエフスキーのねじれ具合と人間観察眼と閉塞感は一定のレベルを突き抜けてしまったのかもしれませんね。とにかく普通ではありませんもの。
      2022/12/21
    • ハイジさん
      アテナイエさん

      マクベス読んでみたいです!
      へんちくりんな魔女さん気になります(笑)

      そうですね
      文学も芸術もそうですが、究極な、極限の...
      アテナイエさん

      マクベス読んでみたいです!
      へんちくりんな魔女さん気になります(笑)

      そうですね
      文学も芸術もそうですが、究極な、極限の体験や人より卓越した想像力を持つものだけが得られる世界…

      そういう世界を凡人は見てみたくなるのでしょうか…
      2022/12/21
  • 最終巻第四巻は戦争の記述が多い。
    後半1/4は物語を終結させトルストイが論じる戦争、歴史、民俗、人間と神のあり方などで締められる。

    ※以下登場人物の生死などネタバレしておりますのでご了承ください。※


     【ベズウーホフ伯爵家】
     ❖ピエール(ピョートル・キリーロヴィチ・ベズウーホフ伯爵):
     三巻ラストでモスクワでの破壊工作とナポレオン暗殺計画を疑われてフランス軍捕虜に。
    過酷な捕虜生活。他の捕囚者との交流と身近な死。
    捕虜体験はピエールをどう変えたのか。

    解放されたピエールは、アンドレイ公爵の妹マリヤと、ナターシャ・ロストワと再会する。

    改めてナターシャへの愛の喜びに浸るピエール。

    そして新たな生活へ。

     ❖エレン
     三巻で「ここまでやればむしろ天晴れ」な不道徳行為を示したので、このあとどうなるのかかえって楽しみだったんだが、あっさりと…。
    私も児童文学で読んだり映画で観たりはしているから彼女がどうなるかは知っていたけれど、こんなにあっけなかったっけ。

    【ボルコンスキィ公爵家】
     ❖アンドレイ・ニコラーエヴィチ・ボルコンスキィ公爵:
     三巻で瀕死の重傷を負ったアンドレイは、妹マリヤとかつての婚約者ナターシャの看病の下にあった。
    アンドレイはまだ生きていたが、世界はアンドレイがすでに死んだかのように進む。そしてアンドレイ本人も自分自身をすでに死んだもの認識している。

    そして訪れるその時。

    ピエールとアンドレイはトルストイの分身らしい。
    アンドレイに対しては、冷たさを示す一方、純粋な愛や瀕死の床で辿りついた境地、神や自分が関わった人への感謝、しかしそれでも消えないすべてに対しての冷淡さ…の描写が実に美しい。

    全くの余談ですが、「こち亀」の中川はアンドレイ公爵がお気に入りらしい(笑)

     ❖マリヤ・ニコラーエヴナ・ボルコンスカヤ:
    父の死後、公爵家として片付ける問題をこなしていくマリヤ。
    今までは横暴な父、神経質な兄、兄の子の養育、そして自身が不美人のため、内面も環境も控えめな女でいたマリヤだが、案外女主としての才覚を持っている様子。
    モスクワからフランス軍は撤退したが、ロシア人たちによる混乱と略奪が起きていたが、公爵家の財産と屋敷は多少の破壊は受けたがそれなりの財産は残っていた。

    破産したニコライと再会、結婚。
    それまで周りに振り回され一歩引いていた彼女だけど安定した家庭で自分の存在を築いているようで安心した。

     ❖ニコーレンカ(ニコライ・アンドレーヴィチ・ボルコンスキイ…のはず)
     アンドレイ公爵と、亡き妻リーザの遺児。将来のボルコンスキイ公爵ですね。
    養育権者のマリヤ結婚後はニコライと彼らの子供たちと同居。
    父親似た性質と外見に、記憶にない父がピエールやナターシャ、マリヤとの交流を夢想する。
    ピエールの事は尊敬し、ニコライに対しては敬愛するが軽蔑も交る。
    ニコライもこの義理の甥は苦手としている。
    世代が変わってもアンドレイタイプとニコライタイプは相性が合わないのね。(^。^;)

    「戦争と平和」の登場人物たちの最終場面は、ニコーレンカの「亡き父がぼくを誇りに思うようになろう」という決意で終わる。あとはトルストイの論文。

     【ロストフ伯爵家】
     ❖ニコライ・イリーイチ・ロストフ伯爵:
     最初はフランス兵により、撤退後はロシア人により蹂躙されたモスクワで、ロストフ伯爵家は破産する。
    ボルコンスキイ公爵令嬢マリヤと結婚したニコライは、領土を見直し家を建て直す。

    本人は軍人になりたがっていたけれど、着実な田舎領主で良き家庭人でいることがニコライの本分か。
    ちょいと甘いお坊ちゃん的な本質は抜けないが、妻マリヤが良い風に補ってくれていて、ニコライもそれに応えようとしている。
    マリヤは地味だけど「一緒にいるといい人になりたいと思わせる女性」なんだろうね。

     ❖ナターシャ・ロストワ(ナターリア・イリイニーシナ・ロストワ公爵令嬢):
     マリヤとともにアンドレイ公爵を看取る。
    アンドレイは自分自身を完全に死者として扱っている。そんな人間と共にいるのはどんな心情か。

    再会したピエールと愛し合い彼の妻となり新たな人生へ進む。

    さて。ナターシャは全編を通じて何度かの変化を遂げる。
    天真爛漫で恋に恋する少女、今を楽しみ明るい輝きを信じた娘時代、愚かな行為に走る思春期、それを乗り越えアンドレイに対しての真摯な看護、そしてピエールとの結婚後は強くて家庭がすべての多産の牝。
    しかしナターシャが本当に欲しかったのは夫と家庭で、完全な家庭人になりたがっていたことを母(ロストワ伯爵夫人)は見抜いていた。
    夫にも家庭を優先してもらう代わりに夫のすべてを理解しようとする。貴族夫婦の理想なのだろう。

    …しかし本編通して溌剌とした魅力が強調されていたナターシャが「太って付き合いが悪くて家庭にしか興味を持たない平凡なおばちゃん」になる姿は、
    今日でもヨーロッパの若くて美しい娘さんがある年になったらど~~んと太ったおばちゃんになる姿に妙な納得を覚えたのであった…f(^^;)

     ❖ペーチャ(ピョートル・イリーイチ・ロストフ)
     ニコライとナターシャの弟。ピエールを尊敬している。
    まだ少年と言っていい歳だが戦場を望み作戦に同行させてもらう。

    しかし弾丸が彼の頭を貫く。

     ❖ソーニャ:
     ニコライの事実上の婚約者だったが保護者も持参金もナシで誰にも歓迎されず。
    ニコライだけをずっと愛していたが、ある心情に辿りつき自らにニコライに別れを告げる。
    ここぞとばかりにその別れに乗っかるニコライ。「ソーニャに対して責任は感じてたよ?でも彼女から別れようって言われたんだよ?マリヤの事はお金じゃなくて心の美しさに惹かれたんだよ?金じゃないったら金じゃないよ?」って現代だったら「大丈夫かこの男」なんだが…(ー。ー)
    (ニコライの名誉のために、結婚後は良い一家の主、領主となったと書いておこう。マリヤの内助の功が大きいと思うけどね)

    しかもその後、保護者も資産もないソーニャはニコライとマリヤが結婚した後も扶養家族として同居。こりゃたまらんな(ー。ー)
    今日でも「女性の権利向上~」とか言われるが、
    昔は本当に後ろ盾や資産の無い女のなんと寄る辺ない事。そもそも女に個人資産なんてないんだもんね…。

     ❖クトゥーゾフ:
     ロシア軍総司令官。
    戦争判断は、ロシアのアレクサンドル皇帝からも不満を持たれていたが、
    トルストイは強く評価している様子。



    最後にちょいと気になったことが。
    巻末解説で、トルストイはもともと30年の収容生活からモスクワに戻った老夫婦を書こうと思ったが、
    そのために彼らの過去から始めることになり、どんどん時代が遡って行って…ということが書かれていた。
    この夫婦とはピエールとナターシャ。
    年代を考えると、「戦争と平和」が終わった5年後くらいにこの夫婦は30年間収容される未来が待っているのか??
    なんとなくピエールはその性格もあって逆境にあっても落ちぶれすぎないような妙な安心感があったのだが、この後大丈夫なんだろうか。
    二人の未来に安寧あれ。

  • 幸福な読書だったなぁ、と思う。

    3巻から作者トルストイの「語り」が多くなり、うーん?と思う部分もしばしばあり、もっと正直に言えば辟易する部分もなきにしもあらずだった。しかし、それでも、私はもうこの物語を読み終えてしまった。

    『戦争と平和』というタイトルの通り、トルストイが描きたかったのは、おそらく「人間の意思」だったのではないかと思う(個人としても、「われわれ」としても)。しかし、この最終巻である4巻を読んで特に感じたのは、トルストイは人間の「仕組み」や「歴史」を描くよりも断然、人間の「魂」を、感情と性格を描く方がまばゆいばかりの光を放つということだ。
    彼の人間を描く筆、それもたくさんの、実にさまざまな人間を描き分け、しかもその一人一人を生き生きと立ち上げ思考し活動する筆は、本当に圧巻というほかない。

    そして「人間の魂」という点でもう一つ思ったのは、トルストイにとって結婚とは、そして家庭の幸福とは、相当に大きなテーマだったのだな、ということだ。
    アンナ・カレーニナの有名な冒頭(「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」 望月哲男・訳)からして、彼がいかにこの問題にずっと取り組み続け、また生涯においてこれに悩み続けたかがうかがわれる。

    彼はその晩年、妻との不和に苦しみ、そして家出をする。そして、世界的に名を知られる文豪であり、「あと100年生きてください」と言われるような作家であったにも関わらず、家出の末に寒村の小駅で死去する。

    これは馬鹿げたことだけれど、もし、私がトルストイと友人だったとしたら、私は彼に、あなたは素晴らしい、あなたは素晴らしいものを書く、けれど、あなたは考えすぎだ、と言うかもしれない。
    本当に馬鹿げた、滑稽な話だけれど。……

    • debuipipiさん
      抽斗さん

      読破おめでとうございます!
      抽斗さん

      読破おめでとうございます!
      2014/01/22
    • 抽斗さん
      >debuipipiさん
      読破をお祝い(?)されるなんて、この長編ならではですね。なんだか妙に嬉しいです。ありがとうございますm(_)m
      >debuipipiさん
      読破をお祝い(?)されるなんて、この長編ならではですね。なんだか妙に嬉しいです。ありがとうございますm(_)m
      2014/01/23
  • 作者は作品の中で、歴史を動かすのはナポレオンやアレクサンドルといった1人の英雄や君主ではなく、民族の総意であるとしつこいまでに繰り返しています。またそれは偶然の産物ではなく1人1人の行動や時間の流れに作用されて必然的に起こったものであるとも。当時のロシアの歴史を作ったのは、皇帝から一市民まで、老人から赤ん坊にいたるまでのロシア民族全てであり、それを伝えるためにこそこの壮大な物語が存在するのです。

  • 最後まで読み終わって今、巻末解説のフローベールと同じ意見です。おもしろいしすごいけど歴史観についての講釈がちとくどい…。最後ほとんど読み飛ばしちゃったよ。

  •  戦争をバックに恋愛物語と簡単にとらえるにはトルストイの歴史観、哲学観がぎっちりとあってその重圧に圧倒されてしまった。

     恋愛の方はナターシャとマリヤがしあわせになってちょっと拍子抜けだけれども、めでたしめでたし。若いころ読んだらきっと感激していい気持ちになったと思う。

     その若者達のはつらつした苦しみ、悩み、生命の躍動、高揚を挿しはさんで、地に流れる歴史のとらえかたの叙述に目を見張らされた。

     「歴史が動いていくのは一人の英雄傑物の意思ではなく、おおぜいのひとびとの総意である」というような、少々辟易の感もあったが(文章が饒舌で)なるほどと思った。

     それにしても権力や地位を得るために権謀術策、懊悩辛苦、滑稽喜劇を演じる様までいきいきと、トルストイの描写はさすが。ナポレオン皇帝やアレクサンドル皇帝という実人物も登場させて総勢500人余の登場人物、怒涛の名作ではあった。

     そうか、歴史が動いていくのはある一人の指導的人物の命令ではなく、それを受け取る人々の命令通りにやるか、やらないか、付け加えるか、勝手にやるかの総合した意思なのか。

     そりゃそうだ。特に戦争状態、緊急状態の時と場合によって、状況変化もあろうし、個人の利権を優先する気持ちの変化もあるだろう。

     ひるがえっておおげさだけれども、日本のこの下降している状態も歴史的に観られればいい、渦中で右往左往しているからどうなるかさっぱりわからないんだと思う。

  • 『戦争と平和』は、暴れ出した筆を止められなかった小説だ。

    「歴史は、原因の観念を退けて、すべてが同じようにはなれずにたがいに結びつけられている無限に小さい自由の全要素に共通の法則をこそ、探求しなければならないのである。 」(627P)

    という信念は、しつこいぐらいに小説に反映されているのに、トルストイはそういうふうに哲理を直接書かずにはいられなかった。これは明らかに暴走というものだ。

    それでも私がこの小説を愛さずにはいられないのは、あらゆる人間の典型を見出し、構築し、触れ合わせる、何もかも見えているぞというトルストイの目であったり、戦場から農村に至るまで、綿密に書き連ねられたその筆致のためであったりする。

    戦場の風景は『セヴァストーポリ』の時代から大きく広がって展開されているし、農村の風景と、それに関わるニコライの仕事ぶりなどは『アンナ・カレーニナ』のレーヴィン家の萌芽が見られて面白い。

  • 長かった…。全登場人物が収まるところに収まった、という感じ。

    個人的には主人公たちよりナポレオンの記述部分が
    面白かったです。

    最後はエピローグという名前の論文。しっかり読めてないので
    またじっくり読みたいです。しかし、こういう本を現代の作家が
    出したらクレームの嵐だろうなーと想像しました。小説の最後数十ページが論文ですから。

  • 長かったこの大作もいよいよ最終巻。
    実は読み始めるまで、この本はタイトルの通り戦争と平和についての小難しい論が書かれているのだと思っていた。
    それがふたを開けると、戦争を含めた歴史のあらゆる流れの中で、迷い考えながら生きる人々を描き出したまぎれもない「小説」だとわかって印象が変わった。

    最初は主人公がいなくて読みにくい小説だなと思ったけれど、アンドレイ公爵にピエール、ニコライ、ナターシャ、公爵令嬢マリヤ、その他作中で生き生きと動いている人々それぞれがそれぞれの人生を生きている。
    こんなにもたくさんの人々の人生を書き分けるトルストイの頭の中はどうなっていたのだろうと、その中をのぞいてみたい気がする。

    この巻で誕生する二組のカップルは子供たちも生まれて、めでたしめでたしという感じで終わるが、この子供や孫たちの時代にも戦争は待っているのだと思うと、最後のエピローグで歴史について長々と語るトルストイの気持ちもわからなくもない。
    でも最後は疲れて文章が頭の中に入ってこなくなったので、少々口惜しさが残る読書となった。

  • 「これはトルストイの壮大な実験だ。 」

    ナポレオン軍がモスクワから西を目指して敗走して行く中、戦時を生き抜いた本編の登場人物たちの新たな生活が始まった。ある者はこの世を去り、またある者は伴侶を得て…。

     トルストイ先生が精魂込めて書き上げた大作もいよいよクライマックスーと読み始めたものの、ロシアの対ナポレオン戦記に乗せて描かれる、物語の中心人物と思っていた人々の人生がこの最終巻に来て何やら一気に早送りされたように感じられたのはなぜだろう。

     思えば同じトルストイの「復活」「アンナ・カレーニナ」はもっとどっぷりと人が描かれていたように思う。「戦争と平和」の人物たちに同じようなドラマを期待して読んでいくとこの長さにしては物足りなさを感じるのだ。

     しかし、エピローグで滔々と語られるトルストイの歴史観と格闘し、この大作の訳者の解説まで読み終えて、それこそがトルストイの試みだったのではないかと思う。即ち歴史とは一人の英雄など特定の人間によって作られるものではない。表には出て来ずともそこに無数の人々の存在がありそれらの人々の意志がなんらかに作用して動いていくはずだと。

     一兵卒から皇帝まで総勢559人もの人間を描き分けることによって、トルストイはここに自身の考える歴史というものを実証して見せたのではないか。

     そう考えると、自分がドラマを期待して読んだナターシャやアンドレイ、ピエール、そしてニコライ、彼らとてそうした一時代の歴史の中で作用しあるいは作用された無数の人々の一人に過ぎない。物語の主役などではないのだ。

全45件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一八二八年生まれ。一九一〇年没。一九世紀ロシア文学を代表する作家。「戦争と平和」「アンナ=カレーニナ」等の長編小説を発表。道徳的人道主義を説き、日本文学にも武者小路実らを通して多大な影響を与える。

「2004年 『新版 人生論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

トルストイの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×