かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)

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レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102065037

作品紹介・あらすじ

演出家の妻になると、夫と共に芝居について語り、材木商と結婚すれば会う人ごとに材木の話ばかり。獣医を恋人にもった魅力的なオーレンカは、恋人との別れと共に自分の意見までなくしてしまう。一人ぼっちになった彼女が見つけた最後の生きがいとは-。一人のかわいい女の姿を生き生きと描いた表題作など、作者が作家として最も円熟した晩年の中・短編7編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフの短編7編を収録。
    どの作品もロシア革命少し前に執筆されたものだけあって、貧しく虐げられた農民・使用人の描写と働かなくてよい階級への批判、将来は誰もが少しだけ働き、皆で豊かな生活を送れる社会がやってくるという理想願望の主張といった思想がところどころ散りばめられ、当時の風潮がみて取れる。
    自分としては、『中二階のある家』のリーダや『谷間』のアクシーニヤなど、主張の激しい美人が活躍する短編が面白かった。(笑)また、『イオーヌイチ』や『いいなづけ』のように結婚へのあこがれが一転、独り立ちへと心情の変化を描く短編も皮肉に富んでいて物語としては楽しめた。特に『イオーヌイチ』の主人公が墓場へ呼びつけられるシーンなどはぞくぞくするような面白さとともに男への深い同情を禁じ得ない。(笑)『往診中の出来事』は工場主の娘の心の病とそこで働く労働者の両者の抑圧を題材にしており、当時としてはまさにタイムリーで先鋭的な思想的物語だったと思われるところが興味深い。表題作の『犬を連れた奥さん』は旅行先で出会った婦人との不倫ものだが、それにのぼせ上っていく主人公の心情が面白かった。もうひとつの表題作『かわいい女』は度重なる良人の不運という運命に翻弄されながらも、感化されやすいが朗らかな性格の主人公オーレンカの愛すべき半生を描いた作品で、起承転結が明確な、なかなか印象深い物語となっている。
    全体としてところどころ挿入される社会思想性にも興味深いが、それも含めてほどよくスパイスにしながら確固たる人物像を作り上げているところが面白かった。また、ときおり登場する永遠の生もしくは死への深みへの思いは、チェーホフ自身の信心を文学的な表現に高めたものとして大いなる魅せ場のひとつになっている。短編としての物語展開性にも優れ、短編であることを縦横に活かした作品群になっている。

  • 演出家の妻になると夫と共に芝居について語り、材木商と結婚すれば会う人ごとに材木の話ばかり。獣医を恋人に持てば、恋人との別れと共に自分の意見まで失くしてしまう。一人ぼっちになった彼女が見つけた最後の生きがいとは──。

    チェーホフ晩年の短中編集を収めたもので、人間が懸命に生きようとするがゆえに生じる悲劇や日常の中で起こる何気ない感動を描いている。
    本編の中で自分の心に最も残っているのは『谷間』で、一人の女性の運命の変転に初めは同情したが、最後には彼女は心優しき女性として描かれており、強く生き抜こうとする彼女の逞しさを垣間見た気がした。

  • チェーホフ円熟期の中・短編を収録。彼の円熟期は当時不治の病だった結核との闘病と重なる(44歳で死去)。しかし各作品は皮肉が効いていて面白く、温かみがある。登場人物がどこか高等遊民っぽいのは、洋の東西を問わずこの時代の特徴なのか?

    『中二階のある家』
    画家が良家の少女に恋するがその姉との対立により失恋、最後の「ミシュス、きみはどこにいるのだろう。」が有名。

    『イオーヌイチ』
    医師が町一番の教養豊かな家の娘に求婚するが断られる、そして娘に数年後言い寄られて辟易する話。

    『往診中の出来事』
    往診に訪れた工場の劣悪な環境(まるで監獄)、さらに経営者も不幸でその家庭教師のみが利益を得ている(親玉は悪魔)様を描写。

    『かわいい女』
    いつでも誰かしらを愛さずには生きていけず、そして常にその色に強く染まる女オーレンカ。遊園地の経営者、材木商との死別、獣医との別れを経て、最後血縁のない少年に無償の愛を注ぐ姿を温かく描く。

    『犬を連れた奥さん』
    放蕩者グーロフと若い人妻アンナのクリミヤの保養地ヤルタでのダブル不倫を描く。ヤルタで別れた後、男が急に女とその夫が住む町に現れ、ストーカーのように家の周りを徘徊する姿、男との予期せぬ再会に驚く女の様子が面白い。恋が冷めると「下着のレースまでが魚の鱗のように見えてくる」というのには笑った。

    「度重なる経験、それも現実には苦い経験によってグーロフがとうの昔に学んだことだったが、一般に女との付合いというものは初めのうちこそ人生を楽しく豊かなものにする甘い軽やかな事件のように見えるけれども、まともな人間、殊に尻が重くて優柔不断なモスクワっ子の場合、それは必然的に複雑きわまる大問題へと発展し、とどのつまりは抜き差しならぬ事態に陥ってしまうのである。だが新たに興味を惹くような女と出会うと、その経験はいつのまにか記憶からずり落ちて、なんとなく人生を楽しみたくなり、何もかもが単純に面白おかしく見えてくるのだった。」p132

    「女が泣いたのは興奮したためであり、二人の生活がこんなに悲しいものになってしまったことを痛ましくも意識したためであった。二人は人目を避けてでなければ逢うこともできず、まるで泥棒のように世間から隠れている!これでも二人の生活は破滅していないだろうか。」p158

    「もう少しで解決の道が見つかり、そのときはすばらしい新生活が始まるだろうと、ふとそんな気もした。しかも二人にははっきり分っていたのだが、終りまではまだまだ遠く、最も入り組んだむずかしいところは今ようやく始まったばかりなのだった。」p161

    『谷間』
    谷間の劣悪な環境の村で阿漕な商売をするツィブーキン一家と、貧しさや赤ん坊の死という悲劇を乗り越え美しい心を失わない美少女リーパの話。ロシアの哲学がつまった作品。

    「わしは考えたよ、一体どっちがえらいんだろう。第一級の商人か、大工か。いや、やっぱり大工のほうがえらいんだよ、そうじゃないかね!…働いて、じっと辛抱している人間のほうがえらいのさ」p202

    「そして慰めのない悲しみが二人の心を捉えようとしていた。だが空の高み、あの青々とした所、星々の輝くあたりから、だれかが下界を見下ろし、ウクレーエヴォ村の出来事を逐一眺め、見張っているのだと二人は思った。悪がどんなに大きかろうと、夜はやはり静かで美しく、この世には同じように静かで美しい真実というものが現在も未来も存在するのだ。そして地上の一切のものは、月の光が夜と溶け合うように、その真実と溶け合うことをひたすら待ち望んでいるのだ。」p208

    「なぜとか、どうしてとかいうことは、何から何まで知ってはいかんのだよ…鳥の羽は四枚じゃなくて二枚だろう、あれは二枚でも飛べるからなのさ。それと同じで、人間もすべてを知るようにはできていない、せいぜい半分か四分の一だ。生きるのに必要なだけ知ってりゃいいんだ」p228

    「あんたの悲しみもまだまだ大したことはない。人生は長いからな。これから先いいことも悪いことも、いろんなことがある。母なるロシアは広いんだ!」p229

    『いいなずけ』
    資産家の娘が、働かず何もせずに暮らす自分たちの生活が嫌になり、婚約を破棄して飛び出す話。

  • 「かわいい女」、「犬を連れた奥さん」の題名は知っていたが、チェーホフだから、てっきり戯曲かと思ってた。

    短編なので、基本主人公中心の物語なのが演劇と違う処。
    「かわいい女」、「犬を連れた奥さん」は現代の日本でも成り立つような話。
    その他の短編から立ち上がってくるのは、不労所得を得ている地主や工場主、虐げられている自覚もない貧困層、理想を口にするが、地に足のついてない高等遊民。

    やや長めの作品「谷間」。谷間の小さな村を牛耳る業突く張りな商人とその家に嫁いだ三人の女性の物語。如何にも有りそうで、救いようのない話なんだが、昔のロシアの大地にじんわりと包まれていくような感触。
    チェーホフが何のためにこの短編を書いたか判らないけれど。暫く、頭の中で燻っていることになりそうだ。

  • めちゃくちゃ字が小さかったけど、読み出したら止まらない!本当に面白かった。登場人物の名前にクセが強すぎてたまに、ごちゃごちゃになったけどそれも文化の違いでおもしろかった。
    ロシアはおそロシア〜( ^ω^ )

    中二階のある家】
    ロリコン画家描写がぞわぞわ
    色んな人に相手にされない画家やけど美人姉妹の妹が相手してくれる
    イオーヌイチ】
    ロリコン2と井の中の蛙女
    金持ちで井の中の蛙家族の中の女。主人公から言い寄られるも断りのちに世間をしって言い寄るも惨敗

    往診中の出来事】
    女は顔
    病んでる女を診察しにいくもなんか顔とかでだめっぽい

    かわいい女】
    中身がなく自分の意思のない女。最後の最後日まで色んな男に依存しておりひとりでは、何もできない。しかしモテるんやろうなとおもった

    犬を連れた奥さん】
    ダブル不倫の話、世間の目が気になる女と、二面性があると自分では思ってる男の話。しかし双方とも
    都合のいい解釈をしお互い落ち着いたがやはりもう後には戻れない話

    谷間】
    いちばんおもしろかった!商売人の金持ちの家に嫁いだ女たちの話。しかし話がすすむにつれ、長男の偽造や、当主から何も土地を渡さないと言われた次男の嫁が長男の子供にお湯をぶっかけ殺す
    これおもしろかったーさいごは、長男の嫁とその母が十字をきるとこでおわる。

    いいなずけ】
    世間やこの社会この世を知らなすぎる女に許嫁と別の男がもっと学べ!という話。自分と自分の家族身近な周りの人間は働きもせずただのうのうと生きていた。この世の中の素晴らしさを知った主人公の女は、もう縛られた生活にもどることなく親とも縁をきった


  •  

  • 「犬を連れた奥さん」
    最後までおじさまの魅力がピンと来ないままふわふわ読み進んで終了。

    しかしいる、いるよこういう男。「新しい、素晴らしい生活」どころか「いちばん複雑な困難な途」すら歩み切らずにサッと安全圏に帰ってまた退屈を持て余す。そういう人も始めはこういう勢いで盛り上がってるのね〜と垣間見た気分。どんどん腹が立ってきた。
    むしろ全くマイナスの感情抜きに中年の理想をきれいにまとめるチェーホフ。ご尊顔を拝するところシブいインテリで、自分の売りも分かって捨てることにも無自覚な主人公像に重なり納得してしまって悔しい。

  • 「中二階のある家」のリーダと画家の会話が面白い。貧しい労働者の支援に働いているリーダに対して、そんなことではなんの解決もできないと画家。人間の価値は精神活動をすることなのだから、労働に縛られる時間を大きく減らさなければだめで、要求事項や経費を増やすのは逆効果だと。
    今の時代でも同じことと感じた。生活を質素にすればたくさん働かなくて済むと思うので。

    「かわいい女」…タイトルに惹かれて読んでみた。なるほど、かわいい女というのは人に合わせる人で、合わせることが自分の自然なんだな。逆を考えるとかわいくない女は、自意識がしっかりしていて人の幸せと自分の幸せは別物と思うタイプだろうな。私は確実に後者(笑)。

    「犬を連れた奥さん」…全集に入っているので名作なのかなと思いきや良さがわからず。今と違って当時は自分の意思で結婚相手も選べず、周りと合わせる振る舞いが大事だが、それが個人の幸せとは違うことに気づいた、ということかな。

  • チェーホフもトルストイ同様に「これが文学だ」という確信を持たせてくれる。

  • 時間があれば。

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