かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)

  • 新潮社
3.58
  • (23)
  • (43)
  • (64)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 593
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102065037

作品紹介・あらすじ

演出家の妻になると、夫と共に芝居について語り、材木商と結婚すれば会う人ごとに材木の話ばかり。獣医を恋人にもった魅力的なオーレンカは、恋人との別れと共に自分の意見までなくしてしまう。一人ぼっちになった彼女が見つけた最後の生きがいとは-。一人のかわいい女の姿を生き生きと描いた表題作など、作者が作家として最も円熟した晩年の中・短編7編を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフの短編7編を収録。
    どの作品もロシア革命少し前に執筆されたものだけあって、貧しく虐げられた農民・使用人の描写と働かなくてよい階級への批判、将来は誰もが少しだけ働き、皆で豊かな生活を送れる社会がやってくるという理想願望の主張といった思想がところどころ散りばめられ、当時の風潮がみて取れる。
    自分としては、『中二階のある家』のリーダや『谷間』のアクシーニヤなど、主張の激しい美人が活躍する短編が面白かった。(笑)また、『イオーヌイチ』や『いいなづけ』のように結婚へのあこがれが一転、独り立ちへと心情の変化を描く短編も皮肉に富んでいて物語としては楽しめた。特に『イオーヌイチ』の主人公が墓場へ呼びつけられるシーンなどはぞくぞくするような面白さとともに男への深い同情を禁じ得ない。(笑)『往診中の出来事』は工場主の娘の心の病とそこで働く労働者の両者の抑圧を題材にしており、当時としてはまさにタイムリーで先鋭的な思想的物語だったと思われるところが興味深い。表題作の『犬を連れた奥さん』は旅行先で出会った婦人との不倫ものだが、それにのぼせ上っていく主人公の心情が面白かった。もうひとつの表題作『かわいい女』は度重なる良人の不運という運命に翻弄されながらも、感化されやすいが朗らかな性格の主人公オーレンカの愛すべき半生を描いた作品で、起承転結が明確な、なかなか印象深い物語となっている。
    全体としてところどころ挿入される社会思想性にも興味深いが、それも含めてほどよくスパイスにしながら確固たる人物像を作り上げているところが面白かった。また、ときおり登場する永遠の生もしくは死への深みへの思いは、チェーホフ自身の信心を文学的な表現に高めたものとして大いなる魅せ場のひとつになっている。短編としての物語展開性にも優れ、短編であることを縦横に活かした作品群になっている。

  • このところ国木田独歩とチェーホフの短編を読み返している。
    すごいなあ、ぎゅっと圧縮された人生模様、到達感、達成感の文章。

    両作者とも早世、独歩37歳(1908年)チェーホフ44歳(1904年)で、その晩年に円熟したとある。
    だからなのか?

    読み比べているのだが「いづれがあやめか、かきつばた」
    晩年の作品集は、国木田よりチェーホフがすこしはやく亡くなっているので、発表も少し早かっただろうが、国木田に影響があったのかどうか?ロシア文学と日本の文学の夜明け、明治時代にそんなにも伝わるのが早かったとしたらすごいなあ。

    ともかくも、人生の機微をもりあげ、解剖していく文章は、胸を撃つこと、なおそこに詩心を加味されて、なんとも心揺さぶられる。

    今回印象深かったのは

    「イオーヌイチ」「犬を連れた奥さん」「谷間」

  •  チェーホフ円熟期の中・短編を収録。彼の円熟期は当時不治の病だった結核との闘病と重なる(44歳で死去)。しかし各作品は皮肉が効いていて面白く、温かみがある。登場人物がどこか高等遊民っぽいのは、洋の東西を問わずこの時代の特徴なのか?

    『中二階のある家』
    画家が良家の少女に恋するがその姉との対立により失恋、最後の「ミシュス、きみはどこにいるのだろう。」が有名。

    『イオーヌイチ』
    医師が町一番の教養豊かな家の娘に求婚するが断られる、そして娘に数年後言い寄られて辟易する話。

    『往診中の出来事』
    往診に訪れた工場の劣悪な環境(まるで監獄)、さらに経営者も不幸でその家庭教師のみが利益を得ている(親玉は悪魔)様を描写。

    『かわいい女』
    いつでも誰かしらを愛さずには生きていけず、そして常にその色に強く染まる女オーレンカ。遊園地の経営者、材木商との死別、獣医との別れを経て、最後血縁のない少年に無償の愛を注ぐ姿を温かく描く。

    『犬を連れた奥さん』
    放蕩者グーロフと若い人妻アンナのクリミヤの保養地ヤルタでのダブル不倫を描く。ヤルタで別れた後、男が急に女とその夫が住む町に現れ、ストーカーのように家の周りを徘徊する姿、男との予期せぬ再会に驚く女の様子が面白い。恋が冷めると「下着のレースまでが魚の鱗のように見えてくる」というのには笑った。

    『谷間』
    谷間の劣悪な環境の村で阿漕な商売をするツィブーキン一家と、貧しさや赤ん坊の死という悲劇を乗り越え美しい心を失わない美少女リーパの話。ロシアの哲学がつまった作品。

    『いいなずけ』
    資産家の娘が、働かず何もせずに暮らす自分たちの生活が嫌になり、婚約を破棄して飛び出す話。

  • 演出家の妻になると夫と共に芝居について語り、材木商と結婚すれば会う人ごとに材木の話ばかり。獣医を恋人に持てば、恋人との別れと共に自分の意見まで失くしてしまう。一人ぼっちになった彼女が見つけた最後の生きがいとは──。

    チェーホフ晩年の短中編集を収めたもので、人間が懸命に生きようとするがゆえに生じる悲劇や日常の中で起こる何気ない感動を描いている。
    本編の中で自分の心に最も残っているのは『谷間』で、一人の女性の運命の変転に初めは同情したが、最後には彼女は心優しき女性として描かれており、強く生き抜こうとする彼女の逞しさを垣間見た気がした。

  • 独特な文体、一つ一つの文章がとても細やかで、小さなお芝居をみているような気分になった

  • 「かわいい女」、「犬を連れた奥さん」の題名は知っていたが、チェーホフだから、てっきり戯曲かと思ってた。

    短編なので、基本主人公中心の物語なのが演劇と違う処。
    「かわいい女」、「犬を連れた奥さん」は現代の日本でも成り立つような話。
    その他の短編から立ち上がってくるのは、不労所得を得ている地主や工場主、虐げられている自覚もない貧困層、理想を口にするが、地に足のついてない高等遊民。

    やや長めの作品「谷間」。谷間の小さな村を牛耳る業突く張りな商人とその家に嫁いだ三人の女性の物語。如何にも有りそうで、救いようのない話なんだが、昔のロシアの大地にじんわりと包まれていくような感触。
    チェーホフが何のためにこの短編を書いたか判らないけれど。暫く、頭の中で燻っていることになりそうだ。

  •  『犬を連れた奥さん』は、まるで一つの映像作品を見ているかのよう。情景描写は勿論、心の機微までも細やかな文章で表現されていて、とにかく「凄い」のひとこと。

  • 嫌な事は見ないふり、都合よく生きていきたいという人々を情緒溢れる美しい文章で書き上げている。

    かわいい女の主人公オーレンカのような女は、割とよくいる。
    旦那の意見=自分の意見、と心から思っている。
    うちの旦那が、うちの旦那が、とよく言うのでうちダンというニックネームをつけられる。


  • よくわかんなかった
    外国文学はやはり自分には合わない

全43件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一八六〇年、ロシア生まれ。モスクワ大学医学部を卒業し医師となる。一九〇四年、療養中のドイツで死去するまで、四四年の短い生涯に、数多くの名作を残す。若い頃、ユーモア短篇「ユモレスカ」を多く手がけた。代表作に、戯曲『かもめ』、『三人姉妹』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』、小説『退屈な話』『六号病棟』『かわいい女』『犬を連れた奥さん』、ノンフィクション『サハリン島』など。

「2022年 『狩場の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

チェーホフの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×