ダブリン市民 改版 (新潮文庫 シ 3-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102092019

感想・レビュー・書評

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  • ユリシーズ寄り道中。
    「ユリシーズ」と同じ時期のダブリンで暮らす人々の日常。
    政治、宗教、社会の話が出てくるので、当時のアイルランド状況がわからないと掴めない小説ではある。
    1904年が舞台の「ユリシーズ」と同時期とすれば、アイルランドはイギリスの植民地であり(アイルランド島は、1801年1月1日から1922年12月6日までグレートブリテン及びアイルランド連合王国の植民地だった)、国籍はイギリス人であってもアイデンティティはアイルランドのものとして、独立の機運も高かった頃だろう。

    ユリシーズ関連の本はこちら。
    「若い芸術家の肖像」
    スティーブンの幼少期からユリシーズの数年前までの心の動き
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4087610330

    柳瀬さんによるユリシーズの写真集「ユリシーズのダブリン」
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4309202578

    柳瀬さんによるユリシーズエッセイ「ユリシーズ航海記」
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4309025854

    集英社共訳「ユリシーズ」1章から10章
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4087610047

    柳瀬さん訳12章までの「ユリシーズ」
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4309207227


    =====
     少年にとって亡くなったフリン神父は年上の親友だった。神父のお世話をしていた姉妹が語る最後の日々を聞く。「神父さんは亡くなる直前にはどうも様子が変わってね」『姉妹』

     子供の頃に学校をサボって遠出した二人の少年の小さな冒険のお話。/『邂逅』

     好きな女の子が「アラビー(アラビア人)のバザーに行きたいけれどいけないの」と言ったことから、自分は絶対に行ってこようとする少年のすれ違いにより苦い思い出が残った。/『アラビー』

     貧しい家の家事を引き受けているエブリンは、船乗りの恋人フランクと駆け落ちのために家を出た。でも私は本当に行ける?海の向こうへの全く違う世界に?/『エヴリン』

     4人の若者が自動車レースを見たり、その後飲んだり、賭け事をする話。/『レースあと』

     レネハンは友人コーリーがいかに女性に近づきものにするかを面白おかしく聞いている。今度の女からはいくらせしめる?
    …このレネハンは「ユリシーズ」でスポーツ記者として出ている。一見冴えないおっさんのブルームを「粋なところもあるヤツ」と高評価していたんだけど、実はこんな色事師だったのか。/『二人のいろごと師』

     下宿屋を始めたムーニー夫人は、年頃の娘ポリーによいお婿さんをあてがいたいと思っている。ポリーの取り巻きの一人ドーラン氏は自分が目をつけられていて、でも結婚の責任は負いたくないけど逃げられないよなあって思う。
    …このボブ・ドーラン氏は「ユリシーズ」に出てくる。8章で「年に一度の羽目外しといって飲んだくれている」、12章では語り手の”俺”は「義母は下宿屋をやっていたが夜中に丸裸でいる姿をみんなに見られてる。女房はちびで夢遊病であばずれ女」と言いたい放題。これはあくまでも飲んだくれの戯言で実際にこんなに酷くないと思うんだが。/『下宿屋』

     チャンドラーはロンドンに渡って新聞記者として名前を上げた友人ギャラハーと8年ぶりの再会の場に向かう。ギャラハーはすっかり都会野郎になっていて、チャンドラーは自分の生活を見下されている気分になる。確かにチャンドラーは、家庭にも愛情はないし他の国になんて行けないし。/『小さな雲』

     ファリントンは職場で叱られ酔っ払って帰ったら妻は買い物でいないのでますます腹がたった。だから息子を怒鳴りつけ殴りつける。
    …うん、まあ、普通の家庭なんだろうけれど、下層階級者が家庭で暴力奮うのが当たり前という価値観が受け継がれていく感じは読んでいて気分は悪い。/『対応』
     
     一人で暮らしている老女マライアは、むかし子守をしていたジョウの家の食事に向かう。未だに自分を慕ってくれるジョウと、その妻子とは家族のような関係でいる。親しい間だからこそ、食事会でがっかりしたりでもやっぱり大事にしてくれて嬉しい気持ちになったりする。
    …解説によると「土くれ」は死を意味するということです。/『土くれ』

     坦々とした日々を送るダフィー氏は、音楽会でシニコウ夫人と知り合う。魂の相手かと思われたが、コソコソしたことや、俗っぽい関係になるのは嫌なので、結局二人は離れた。その数年後、ダフィー氏は新聞で驚く事件を知ることになる。/『痛ましい事件』
     
     市議の選挙を巡って、政治や宗教のお話。…アイルランドの社会事情が分からなくて、話の面白さや意味もちょっと理解はできず(-_-;)。 
    …ジョン・ハインズ氏は「ユリシーズ」の新聞記者かな?/『委員室のパーネル記念日』
     
     カーニー夫人は、娘のキャスリーンが伴奏の契約をした音楽会の未払いに腹を立てて委員や主催者相手に文句を言い、周りが困った夫人だなーと思う話。/『母親』
     
     酔っ払って怪我をしたカーナン氏は、友人たちに「みんなで性根を洗い直そう」と誘われる。
    …宗教や政治のお誘いや趣旨替えの話が出るけれど、すみません、理解できず…。ここに出てくるカニンガム氏は「ユリシーズ」の裁判所勤めで故人ディグナムの遺児の遺産相続担当者かな?/『恩寵』
     
     モーカン姉妹が催す毎年の舞踏会に集まった人々。姉妹の甥で食事会のスピーチ担当のゲイブリエル氏を中心に、愛される老嬢姉妹や、姉妹の年頃の姪のメアリー・ジェイン、来客同士の交流や思想の違いが語られる。そしてゲイブリエルは妻が昔想いを寄せていた人のことを知る。複雑な感情を超えた後に、自分が死んでいった多くの人々がいる世界に近づいたような感覚と、妻への情を感じるのだった。/『死せる人々』

  • ネタバレ ◆出版100周年。◆ダブリンという街に住む人々の群像。まとわりつく古き良き故国。学校・職業・政党・宗派 …。何につけても存在する「育ち」の階層によってがんじがらめにされる人々。押しつぶされそうになり、自尊心と自意識は閉ざされた自己の内にたぎる。麻痺した者への侮蔑と麻痺していく自己への不安。◆各断片の主体と相似した人物が、他の断片にも登場・配置される。老若男女のかすかな声が重なり合い、荘厳な和声音楽のよう。やがて全ての主体はモブに吸収されていく。あとはただ、ダブリンがあるだけ。
    ◆LIKE: Eveline/A Little Cloud/Clay/A Painful Case/A Mother/The Dead
    ◆岩波文庫結城訳・旧新潮文庫安藤訳・新潮文庫柳瀬訳3冊読み比べ。
    ◆今回読んだなかで唯一の旧訳(1971改訳)であったが、特に読みにくさなどは感じなかった。解説についても、註についても(特にカトリックとプロテスタントなどの違い)、大変参考になったし、旧訳ならではの硬質な美しい表現も多々あった。

  • これも写真が無い;;ジョイスはこの後どんどんブッ飛んでいきますが、初期のこの作品、淡々と日常を追います。NHKのドキュメンタリーのように。ストーリーがあるようでない、だけど僕はこの世界観が好きなんです。

  • ジョイスは私が大学で研究していたケルアックにも多大な影響を与えていたので、いつか読まなければならぬという強迫観念でまずはこれからと。
    嬉しいことに意識の流れの技法も垣間見えました。
    この本の次はユリシーズに挑戦しようと思います。。

  • ジェイムズ・ジョイスの初期作品を集めた短篇集。アイルランド・ダブリンに暮らす庶民の生活を描き出します。

    20世紀初頭ブリテンの植民地となり閉塞感が充満するダブリン市での、どこか陰鬱とした市民生活の情景を静謐であるが濃密な筆致でスケッチしています。いずれの作品も登場人物の心理描写を中心とした連綿とした描写が続き、その絶え間のない観察の連続から当時のダブリン市の中に漂う空気感が読者の中に立ち現れていきます。本書が出版された1914年はアイルランド独立運動が激化する「イースター蜂起」の2年前です。本書で描かれている鬱鬱とした空気はギリギリの政治的緊張の中で、現実政治の世界から目を背け怠惰や精神的生活への没入などの逃避がゆえに生まれているように感じられます。

    この小説ではそれぞれの短編ごとに少年や若い女性、中年男性など様々な人物の心理描写がされていきます。一つの短編の中でも視点が変わるなどしますが、その語り口やテンポが変わることはないという点が一つ特徴的です。全体に統一された語り口はともすれば、変化が退屈な印象を与えるかもしれませんが、ダブリン市民の生活に流れる共通した沈鬱な雰囲気を感じ取ることができるのではないかと思います。ただしその精緻な描写が描き出す世界は独特の清らかさがあります。登場する人たちは決して倫理的でもなくほとんど悪人といっても良い人物も存在しますが、ジョイスの描写(そして訳を務める安藤一郎氏の描写)によって沈鬱ではありますが、濁りきって目も当てられないといった事にはならずどこか人間の本質的な部分に触れているのではないかといった感覚さえ呼び起こすのです。

    本書を気晴らしや娯楽として読むことは難しいかもしれませんが、この作品を読むことによって立ち現れるどこか神秘的な雰囲気を味わっていただけると良いと思います。

  • 短編集。最初に読んだジョイスの小説。死者たちは映画化もされましたね。

  • 英文学の紹介で知りました。
    アイルランドは英語を話すらしい。

    ダブリンに生きる市民の15の短編。
    最後の
    死者たち
    という話は,
    独身の老姉妹のパーティの話。

    it is not the first time that we have been the recipients
    or perhaps, I had better say, the victims
    of the hospitality of certain good ...

    という名場面をNHKの番組で紹介があった。

    1つでもとっかかりがあったので,読み進むことができました。
    「NHKテレビ3か月トピック英会話 2010 12―聴く読むわかる!英文学の名作名場面」
    ありがとう。

  • ダブリン、アイルランドなどを舞台とした作品です。

  • 再読。

  • 長年積んでたけど昨年からの積本消化キャンペーンでやっとこさ読了。15編の短編で読みにくい文章ではないのだけどだらだら読んでたら1ヶ月以上かかってしまった。アイルランドの立ち位置という物にあまり馴染みが無いので大都市の割には古い田舎気質な雰囲気が意外だった。

    私の持ってるのは安藤訳版なんだけどもしかして絶版?一番長い最後の「死せる人々」が比較的一番面白く読めました。

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