ドルジェル伯の舞踏会 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102094013

感想・レビュー・書評

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  • 巻頭のジャン・コクトーの追悼文によれば、本作品はレイモン・ラディゲが20歳でモノした彼の最高傑作ということで、ベッドで高熱に苦しみながらも校正刷りを読んでいたが、その後しばらくして亡くなったという。
    文壇の批評では「冷たい心」を持っていたといい、コクトーによれば「硬い心」を持っていたといい、些細な接触には動じない人柄だったという。
    確かにこのような心の機微を事細かに文章として表現する人は冷たくて硬い心が必要なのかもしれない。

    この作品は個人の心の内面をこれまでもかというほどに描き晒すことに重点が置かれている心理小説で、物語の経緯とか登場人物間のかかわりの多くを捨象してまで内面の奥底を抽出することに力を入れている作品となっている。
    訳の雰囲気にもよるのだろうが内面へのアプローチがある意味、明治の文豪たちの作品のような趣があり古き香りが漂ってくる感じであった。
    あまりにも心理描写に力を入れすぎていてこんな風に思うことが本当にあるのかと感じる部分がところどころあるのと、また、ドルジェル伯爵夫人マオの女中や恋人フランソワの下宿先の身障者などいろいろ登場してくる人物の説明が最初にあったかと思えばその後スルー状態となる登場人物が何人もいたりして、これ以外にも多くの経緯が捨象されていてこれでもかと心理描写のだらだら感がひたすら続くので、若者が背伸びしたような繊細さと荒削りさが同居した作品のように感じられた。
    特にフランソワの母親がマオの手紙を受け取った後の行動などは、えー!?本当にそんな風に考えるのかなという感じで違和感ありありだったかな。
    また、マオがフランソワに惚れていくくだりなどはもう少し細やかな記述が欲しかったと思う。何せ最初マオは夫であるドルジェル伯爵に惚れていたのだから。
    経緯の描写が削られているところが多々ある点については、フランソワの友人のポールとのかかわりが当初の出だしから考えるとあまりにも尻すぼみになったことや、ウィーンでドルジェル伯爵にいいよる美人のくだりをいっさい端折るなど、本当は物語を展開し心理に裏付けを持たせるために必要な部分で肉付けしたいところであるが、時間的制約もあり、あえて構想ノート的な部分も含めて作品化したのではないかと勘ぐりたくなる。
    心理面に純化したといえばそれまでだが、小説というか小説家としては少々生き急ぎすぎたのではないだろうか。

    この作品の一番の見どころは物語最後の仮面舞踏会を企画するくだりであるだろう。
    突然にロシア亡命貴族のナルモフ公爵が登場して多少面食らったが、悲劇的なナルモフ公爵とノー天気なドルジェル伯爵、恋に悩む伯爵夫人のマオと開き直ったフランソワの4者の絡みと心理描写が面白く、究極のところラディゲはこの場面を描きたかったがためにこの物語を創作したのではと思ってしまう。
    このあたりのラディゲの感性には若き才能が感じられたかな。

    本書の裏には「最も淫らで最も貞潔な恋愛小説」とあったが、どこが「最も淫ら」なのかとんと分からなかった。
    騙された・・・。

    • nejidonさん
      mkt99さん、こんばんは(^^♪
      私は「肉体の悪魔」しか読んでないのですが(それもはるか昔)、レビューを読むと「淫ら」がないのですね。
      ...
      mkt99さん、こんばんは(^^♪
      私は「肉体の悪魔」しか読んでないのですが(それもはるか昔)、レビューを読むと「淫ら」がないのですね。
      ああ、残念ですねぇ。私も淫ら好きなんですよ・笑
      それとも発表当時はそうだったのでしょうか。
      ところでmkt99さん、座頭市見る見る詐欺ですよ(*'▽')
      2020/09/27
    • mkt99さん
      nejidonさん、こんばんは。
      コメント頂きありがとうございます!(^o^)/

      いや、たぶん当時としても全然淫らでは無かったのでは...
      nejidonさん、こんばんは。
      コメント頂きありがとうございます!(^o^)/

      いや、たぶん当時としても全然淫らでは無かったのではないかなあ。(^_^)
      貞潔な小説というのは頷けますけどね。(^-^)
      なんかキャッチコピーにしてやられた感があります。(苦笑)
      nejidonさんが淫らのが好きというのは意外性がありましたが(笑)、今回はそれを収穫として良しとしましょう。(笑)

      ははは。座頭市ですか。(^_^)
      今年は個人的にフランス年ですので、まあ気長にお待ちください。ふふふ。(*´∀`)
      2020/09/27
  • 規定演技で技の出来栄えを競う、フィギュアスケートや体操競技などを観ているような印象。回転すべきところで回転し、跳躍すべきところで跳躍する、大層丁寧な演技を拝見しました、という感想。

  • 訳:生島遼一

  • 1923年9月末、完成作品。
    1923.12.12、レーモン・ラディゲ死去。20歳6か月弱。
    1923年は大正12年。
    1923.9.1 関東大震災。

  • ページ数は多くないがかなり重厚な作品で、必要により1日でざっと読んでしまったものの、本来は最低でも一週間は読むのにかかると思う。

  • 好きだなあ

  • フランスのレイモン・ラディゲの遺作となった作品です。フランス心理小説の傑作の一つに数えられています。ドルジェル伯爵、ドルジェル伯爵夫人、フランソワの3人を中心に群像劇が展開し、それぞれの登場人物の心理の動きが緻密に描き出されています。ただ緻密に描かれすぎて、機械的な冷たい印象を持ちました。もう少し感情の起伏が見えたほうが読みやすいと思います。ページ数は200ページ弱しかありませんが、贅肉を落とし本質を見透かそうとする濃密な文章で綴られています。ラディゲが本作を若干20歳で書いたとは思えないほどの内容です。

  • この古典がとてつもない傑作と感じられた。
    原文がすごいのか、翻訳がすごいのか、それともその両方か。
    読んでいる間、若きウェルテルの悩みを思い出したが、登場人物の感情のひだを描く細やかさはそれ以上といえる。
    舞踏会に出席した面々は、みな仮面をかぶりたがっていた。この社会に生きるものとしてのパーソナリティを捨てたがっていたのに、フランソワだけは私は誰にもなりたくない、自分自身でいたいと願ったのだった。

  • 人形劇を観る時、初めは操り糸が気になるが物語に惹き込まれると見えなくなるようにいつしか作者の操り糸が見えなくなっていた。作中にも出て来たが確かにフランス心理小説を継承している。「肉体の悪魔」もよかったがそれ以上だ。二十歳で書いたのは正に早熟の天才だ。三島由紀夫が心酔したのもよくわかる。アンビバレンツなマオはこの後どうするのだろう?夫婦とも無宗教なので悲劇にはならないだろう。

    三島由紀夫が書いた「青の時代」はラディゲの影響だとわかった。三島の場合は最後まで糸が目についたけど。

    呼び名はファーストネームは親しさ、心理的な距離の近さを、フルネームや称号は格式や心理的な遠さを表しているんだろうか。それとカメラの視点かな?名前はズームで、フルネームや名字は引き、称号は俯瞰とか。

    18世紀のいやらしい小説として「危険な関係」が書いてあったので思わずニヤリと笑ってしまった。「クレーヴの奥方」のヌムール公も出てくる。

  • 今となっては、つくづく、この人の早熟はホンモノだったのだなあ、と思います。

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