大地(四) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102099049

感想・レビュー・書評

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  • 中国から一転アメリカへ。ダイナミックに展開するかに見えて、自分のアイデンティティをさらに意識し、うちへと戻ってくる展開に驚く。アメリカでの自国に対する揶揄や蔑視に憤る王淵。自国を美化して考え、帰った時にそのギャップに悩む。一度は海外へ行ったことのある人は経験する苦い体験かもしれない。王龍から始まった3代の話はまた中国の土地へと帰っていく。

  • いつか読みたいと20年思い続けていた宿題を、ようやく読むことができた。知らなければ、白人が書いた作品だとは到底思えない。激動の時代におけるミクロな生活の描写力や東洋的価値観への理解度もさることながら、それらに対する潜在的な人種的優越感がまったく感じられないことに感動した。中国育ちとはいえ、時代的にも、なかなかできることではないと思う。土に振り下ろされる鍬の音が聞こえてくるような、骨太な大河小説。堪能した。

  • 第一部「大地」は祖父ワン・ロン(王龍)が小農から逞しく賢く、大地主にはい上がっていく物語。広大な中国の大陸的ともいえる強い生命力を感じ取るところが、『大地』の主題として印象に残っていたわたしは、第二部第三部はすっかり忘れてしまっていたのが再読時。

    記憶漏れの
    第二部「息子たち」では裕福な大地主になった王龍の3人の息子それぞれの生き方、特に軍人になってある地方を侵略統治する三男ワン・フーの個性的な頑固さを中心に描かれる。

    ​第三部「分裂せる家」は孫の世代、ワン・フーの息子ユアン(王淵)が主人公。父親に溺愛されるのだが、子供時代はおとなしくいじけたように成長する。優柔不断ながら、祖父の土に対する愛着を持つ。ひょんな(女性がらみ)ことから国家罪として死刑になりそうになるが、一族からかき集めた賄賂で逃れ、アメリカに6年留学する。農業を学ぶ留学中、そこでもメアリーという恩師の娘との恋愛にも煮え切らない。帰国後も自国の発展途上のあり様(1920~30年ころ)を見て、相変わらず悩み通しのユアンだが、あれよあれよという間にメイリン(美齢)という自国の女性とハッピーエンド、まるでハリウッド映画みたいな終わり方であった。

    さて、三代にわたる中国男性たちの物語だが、あなどれないのは登場する女性たち。

    「大地」のワンロンの最初の妻アーラン(阿蘭)の超寡黙で働き者、彼女の功がなければ小農家から脱出できなかったね。でも、大地主となりて第二夫人、第三と手前勝手なワンロンなのであった。しかし、晩年は献身的な第三夫人、リホア(梨花)と土を愛する質素な生活を送るしあわせさ、それも誠実な神様みたいなリホアあってこそ。「息子たち」ワンフー(王虎)の第一夫人もしかり。第二夫人の息子ユアン(王淵)を我が子のようにやさしく包む頼もしさ。彼の恋人メイリン(美齢)もアメリカ時代のメアリーも、頭の良い素晴らしい女性に描かれている。

    アメリカ人のパール・バックが両親ともども長きにわたって、中国大陸に住み暮らし、深い理解をしたからこそ中国女性の(東洋の)我慢強い誠実さを描きとったのだ。

  • 大地の久しぶりの再読を終えた。
    学生時代に読んだ時の感動は無かったが、変わりゆく中国の中で翻弄されながら生まれ変わろうともがく王一族の葛藤を感じ、最後は希望のもてる終わりを迎えてよかった。
    時代は太平天国の騒乱から洋務運動の辺りらしいが、中国が右往左往している中の市井の生々しい生活が浮き彫りになっており、改めて傑作だと確認できた。
    ただ、淵の単純な心の動きには時に腹が立ったりしましたが……

  • 戦争と平和に並ぶ、傑作。これ以上のものには人生でもう出会えないのではと思えるほどに。

  • 大河ドラマ的な三世代にわたる中国の一族の物語。第一部の王龍は大地というタイトルそのままに大地を耕し大地に根を張り一族の礎を築く。女によろめく人間臭さも魅力にさえなる。その息子で一番目立たなかった三男の王虎は力による出世を追い求め地方軍属にのし上がるが、時代の変わり目についていけず息子の王淵はその跡を継ぐ事は望まない。王淵は沿岸の都会でトラブルに巻き込まれなし崩し的にアメリカに留学する。アメリカの生活は彼を変えようとするが彼は自分の中の祖国に目覚める。祖国に戻った王淵は辛亥革命後から共産党の躍進の時代に祖国の役に立とうとする。その傍らに立つのは中国人としての芯をしっかりと持ちつつ新しい時代を自らの手で掴みとる心持のしっかりとした美齢だった。

    とても面白く読めた。登場人物の個性がはっきりしながら時代の移り変わりに翻弄されていくこの時代の中国の人々の一面がよく描かれている。最後に単純に大地に帰って農業に戻るという安直さでは無く、そこに住む人や文化も含めた大地との向き合いというところが印象的。

  •  王龍からはじまる王家の長い歴史は、息子王虎の長男、王淵の恋が成就したところで終わる。王龍の赤貧時代から地方の富豪に成り上がるまでの前半が面白い。息子王虎が地方の将軍になることで、更なる野望を息子へ託すのだが王淵の生きる新しい時代が到来し、昔から続く生活は激変する。どんな時代が来ても大地は不変である。すべての苦難は大地の上を通るにすぎない。王家の人たちの歴史もまた然り。

  • なんでこんなに心が動くのだろうか。

    感想を持つのに時間がかかる。

    おもしろかった。

  • 解説に曰く、猛がはじめ身を投じたのは国民党で、それに失望して共産党に鞍替えしたらしい。『The Good Earth』につづく二部目『Sons』の発表が1932年で、三部目『A House Devided』の発表が1935年らしいが、その時ですでに国民党や共産党などを認識していたのは脱帽もの。
    淵も美齢も、その共産党が奠都した先で、自らの人生を切り拓いていこうという夢を本巻後半で語っているが、その後の共産党もまた歴史の繰り返しに過ぎなかったという歴史の皮肉。作中で猛の"崇高な"理想をきかされた淵自身が、そんなことは今まで主君が易るたびにきかされてきたことだと皮肉っていたのに、幕引きの直前に、美齢の抱負をきかされて変心しているあたり、やはり淵は信用できない。笑
    思えば、三巻、四巻と、いづれも主に淵を中心として物語が展開されてきたが、淵の考えに筋らしい筋もついぞ見出せぬまま、幕引けと相なってしまった。個人的には美齢と最後に結ばれたオチが非常に残念。心変わりが劇しく、自己中心的で、世間知らずで、信念もない上に、好きな女一人碌に大事にできず、好きだ好きだの一点張り攻勢で女を口説けると思っている頭の弱い中二病。美齢ともあろう賢女がなにゆえここにきて眼が利かぬ。作者の新時代に対する期待感を無理やりに押しつけられたとしか思えない。
    そうとはいえ、人間に対する観察眼や、情勢を悟る肌感、そして中国への理解はやはりいづれもピカイチ。


    p.173
    ……紅梅は春、白百合は夏、黄菊は秋、雪の下に赤い実をつけている万年青(おもと)は冬を代表していた。
    【疑問】日本では万年青は秋の季語になっているらしいが、中国では冬なのか。しかも『大辞林』には常緑多年草と説明がある。

  • 王淵の感じる気持ちの揺れは、祖父・王龍の時代からすれば考えられないものでしょう。新たな時代の空気と教育を受けて自らのアイデンティティに悩む様子は非常に現代と近しいと感じます。
    ただ現代に近い分、話の面白さは減少したかな。個人的には王龍の時代が一番興味深く読めましたね。

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著者プロフィール

(Pearl Sydenstricker Buck)
1892-1973。アメリカの作家。ウェスト・ヴァージニアに生まれる。生後まもなく宣教師の両親に連れられて中国に渡り、アメリカの大学で教育を受けるため一時帰国したほかは長く中国に滞在し、その体験を通して、女性あるいは母親としての目から人々と生活に深い理解をもって多くの作品を発表した。1932年に『大地』でピュリッツァー賞を、38年にはノーベル文学賞を受賞。また1941年に東西協会設立、48年にウェルカム・ハウスの開設と運営に尽力するなど、人類はみな同胞と願う博愛にみちた平和運動家としても活躍した。

「2013年 『母よ嘆くなかれ 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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