われらの時代・男だけの世界: ヘミングウェイ全短編 (新潮文庫)

制作 : Ernest Hemingway  高見 浩 
  • 新潮社
3.60
  • (30)
  • (47)
  • (74)
  • (9)
  • (1)
本棚登録 : 618
レビュー : 52
  • Amazon.co.jp ・本 (493ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102100103

作品紹介・あらすじ

1921年、一人のアメリカ人青年がパリにやってきた。地位もなく名声もなく、ただ文学への志に燃えたアーネスト・ヘミングウェイという名の青年は、このパリ時代に「雨のなかの猫」「二つの心臓の大きな川」「殺し屋」など、珠玉の名編を次々に発表する。本書は、彼の文学の核心を成すこれらの初期作品31編を収録。ヘミングウェイの全短編を画期的な新訳で刊行する全3巻の第1巻。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • ヘミングウェイは長らくご無沙汰でしたが、若き日のパリ時代を回想した『移動祝祭日』が思いのほか面白かったので、再読しました。

    1921年、ヘミングウェイは米国からパリに移住します。セーヌ左岸の製材所の上のアパートに住み、近くのカフェに通いテラス席で執筆する日々。そこで書き上げたのが本作所収の『二つの心臓の大きな川』や『殺し屋』などの短編です。

    テーマは、ボクシングや闘牛などヘミングウェイらしいものあり、幼少期の森での生活や熱中した釣り、インディアンとの交流など開拓時代をほうふつとさせるものありで、アメリカ文学の雰囲気を堪能できました。生活に根差した喜びや哀しみを簡潔な文章で捉える腕前はさすがです。(ノーベル賞受賞者に向かっていうのも何ですが)
    例えば、闘牛がテーマの短文。

    ▼それが自分のすぐ目前で起きていたら、ビリャルタが雄牛に毒づき、悪態をつくさまが見えただろう。雄牛が突進すると、彼は風に吹かれるオークの木のように、たじろがずに身をひるがえした。両足はぴっちりと揃い、ムレタ(赤い布)が宙を舞い剣がそのカーブの軌跡を追う。それから、彼はまた雄牛をののしり、雄牛に向かってムレタを突きだし、両足をしっかり踏んばって雄牛の突進から身をかわす。ムレタが弧を描き、彼が身をひるがえすたびに、観客がどよめく。
     いよいよ仕留める段になっても、やはり勝負は一瞬のうちだった。雄牛は憎悪に燃えて、真っ正面から彼を見据える。彼はムレタの裏から剣を抜きだし、前と変わらぬ動きで狙いを定めて、雄牛に叫ぶ。トーロ!トーロ!雄牛が突進する。ビリャルタが突進する。束の間、両者は一つになる。ビリャルタが雄牛と一体になった瞬間、決着はついていた。ビリャルタはすっくと立ち、雄牛の両肩のあいだには剣が鈍く光って突き刺さっていた。ビリャルタが観客に向かって片手をあげ、雄牛は血を噴きだしながら唸り、ビリャルタをひたと見据えてから、膝を屈した。

    一読して、井上靖さんの詩を思い出しました。
    『猟銃』や『輸送船』と同じで、難しい言葉は使っていないのに、場面が臨場感をもって伝わってくる。
    達意の文章だと思います。

  • 「われらの時代」と「男だけの世界」の二つの短編集を所収.
    高校生ぐらいの頃に大久保康夫訳でいくつかのヘミングウェイの短編を読んだことがあるはずだが,全く印象は残っていない.
    この1995年の新訳は非常によみやすい.前半の「われらの時代」は大部分が,筋も文章も切り詰められていて,その背後を想像しないと,なんのことだかわからない.詩と似ている.それでも私には珍しく退屈せずに,最後まで一気に読んでしまった.
    しかし,やはり,ストーリーのはっきり見える方が楽しめるわけで,中でも,釣り(「二つの心臓の大きな川」)闘牛(「敗れざるもの」)などは,体と心の声がうまく描写されており秀逸.他にも拳闘やスキーなど,筋肉系のヘミングウェイ好きのテーマがたくさん.

  • ★★★2017年5月のレビュー★★★



    パリ時代のヘミングウェーの短編集。



    なんといっても面白いのは「殺し屋」。
    荒木飛呂彦はこの短編からストーリーの作り方を学んだという。確かに、その場の空気が伝わってくるようなは迫力がある。荒くれものがカフェに乗り込んでくると、「あ、悪い奴が来た」とピリピリする。怖い感じも伝わる。そこからのカフェの店主と荒くれもののやりとりは最早芸術の域に達している。たまたま居合わせたニック・アダムス(ヘミングウェーの化身)の巻き込まれよう、まるで自分がニック・アダムスになったかのよう。
    殺される(予定)の、オーリ・アンダースンという男のけだるい感じも良い。夏の夕方の西陽を思い出す。


    「ぼくの父」も印象に残った。
    騎手をしていたお父さんと、幼い子供の物語。
    「でも、ぼくには分からない。この世の中って、せっかく本気で何かをはじめても、結局、何もあとには残らないみたいで。」
    果たしてそうだろうか?
    新しくスタートを切った「ぼくの父」は何もあとに残さなかっただろうか? 


    解説を読んで「あ~、そういう事だったのか」と気が付く部分が大いにあった。なので、いつの日か再読した時にはより深い読書ができるはずだ。


    ☆☆☆2018年12月再レビュー☆☆☆
    「二つの心臓の川」
    戦争で傷心のニックが1人原野でキャンプをして過ごすという物語。戦争から帰ってきた男の孤独を表現している点がポイント。風景の描写が詳細で、朝露に濡れた草原でニックがバッタを大量に捕まえ、川鱒を釣る様子が目に見えるようだ。夜のテントでは缶の食材を空け、コーヒーを沸かす。一つ一つの動作を自分が行っているように感じる。
    一度目に読んだ時にはあまり感じることのなかった作品だが、今回読んでみてより作品を身近に感じるようになった。

    「敗れざるもの」
    ベテラン闘牛士・マヌエルの闘いを描く。何度倒れても立ち上がる男の姿。彼はこの闘牛のあと医務室に運ばれる。そこでの手術の場面で物語は終わるが、マヌエルは死んだのだろうか?
    「陳腐なストーリー」で最後に埋葬された闘牛士、マヌエル・ガルシア・マエラは「敗れざるもの」のマヌエル・ガルシアと同一人物だろうか?

  • ヘミングウェイは短編集にかぎる。
    なんかもう短編の鑑みたい。

  • 2019.7.26 図書館

    初ヘミングウェイ。
    老人と海の人。ノーベル文学賞の人。

    がちがちのハードボイルド!
    元祖らしい。無駄な状況や心情説明を省いて、最低限の状況と会話で成り立たせている。
    読んでいくうちに、なんとなくこういう状況か、ってわかってくる。
    ただし、かなり短い短編が多いので、なんとなくわかったところで終わったりする。
    なる・・・ほど・・?みたいな読後感が多い。
    分かったようでわからないようで、なんとなくわかる。
    ハードボイルド大好き。無駄がなくてわかる人にはわかるように完成されている文章。変にきれいにまとめないところもよい。
    筒井康隆のショートショートと似た雰囲気を感じた。

    けれども、中には長々と状況説明を繰り返している話も数篇あった。
    この数篇は他に比べて長い短編で、釣りや闘牛といった一つのコンテンツを細かく説明している。
    その情景はリアルで、作者の好きが伝わってくる。
    これはこれで高く評価されているのもわかる。が、私にはくどく感じてしまった。
    他の短編との緩急も、この短編集の良さなのかもしれない。

    有名な老人と海は、私の苦手な方の流れかなあと思うが、一度は読んでみようと思う。
    2巻目も楽しみ!

  • 2019/04

  • 解説に書かれているような作者の背景的なことの読み取りとか
    文章の技法的なことはなるほどと思うけれども
    前者は国語のテストだし後者は原語で読まなければ意味がない
    アメリカ文学史の一資料として以上にどう楽しんだら良いか良くわからず

  • 文豪が若き修行時代を過ごしたパリでの日々を綴ったエッセー『移動祝祭日』を読んだのが、今年の一月。その時から気になっていたのが、そのパリ時代に書かれた二つの短編集を収めたこの一冊。
    荒い展開の中にも繊細さが感じられる、男のための小説がぎっしりつまっている。その中でも、老いた闘牛士を描いた「敗れざる者」がいい。頭では分かっているはずなのにプライドがそれを認めないがために闘いを求める男の姿は、哀愁を感じさせると同時に勇気も与えてくれる。

  • 原書名:The complete short stories of Ernest Hemingway
    われらの時代◆北ミシガンで◆だけの世界

    著者:アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961、アメリカ・シカゴ、作家)
    訳者:高見浩(1941-、東京、翻訳家)

  • 村上春樹の「女のいない男たち」のまえがきで、ヘミングウェイの「男だけの世界」についてふれられており、その流れで読むことにした。「われらの時代」という短編集も収められていて、順番はそちらが先だ。最初何篇かはニックというアメリカの少年を中心に描かれており、その成長記のようなものなのかと思った。しかし短編と短編の間に1ページも満たないヨーロッパ戦線の描写と思われる文章がはさまれており、ニックの話との関連性がわからなかった。読み進めるうちに短編のほうもニックが出てこなくなり、ヨーロッパを旅する夫婦の話のようなものが何篇かあり、またニックがでてきたりと話の関連性は全くつかめなかった。「男だけの世界」のほうも小説らしい起承転結を持った作品もいくつかあるが、題名に背いて女性が主な登場人物であったりする作品もあり、作者が何を描きたいのかわからなかった。まぁこれが純文学というもので、ちゃんと文学を勉強しないとわからない鑑賞方法があるのだろうと思った。いろいろ?が頭に残ったが、少し興味も出てきたので他の作品も読んでみようと思った。

全52件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

アメリカの詩人・小説家(1899-1961)。
イリノイ州オークパーク生まれ。高校卒業後新聞記者となる。第一次大戦やスペイン内乱での従軍経験をもとにした『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』など、自身の実体験に取材した作品を多く残した。
長編小説『老人と海』が世界的ベストセラーとなる。1954年ノーベル文学賞受賞。簡素で力強い文体と冒険的なライフスタイルは20世紀のアメリカの象徴とみなされ、各方面に影響を与えた。

「2016年 『ストレンジ・カントリー THE STRANGE COUNTRY』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アーネスト・ヘミングウェイの作品

われらの時代・男だけの世界: ヘミングウェイ全短編 (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする