われらの時代・男だけの世界: ヘミングウェイ全短編 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (493ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102100103

作品紹介・あらすじ

1921年、一人のアメリカ人青年がパリにやってきた。地位もなく名声もなく、ただ文学への志に燃えたアーネスト・ヘミングウェイという名の青年は、このパリ時代に「雨のなかの猫」「二つの心臓の大きな川」「殺し屋」など、珠玉の名編を次々に発表する。本書は、彼の文学の核心を成すこれらの初期作品31編を収録。ヘミングウェイの全短編を画期的な新訳で刊行する全3巻の第1巻。

感想・レビュー・書評

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  • 無駄な修飾を全て取り去った純度の高い硬質な文体。一番それが表れているのは「殺し屋」かと思う。
    殺し屋の使う「秀才」というフレーズが「グレートギャッツビー」でいうところの「オールドスポート」のように独特のリズム感を与えていて、読んでいて心地よい。
    殺し屋が料理店にやってきて、従業員を脅して、ターゲットを待つも、彼はとうとうやってこない。このプロットだけを模倣して、修飾を増やすことで描写を鮮明にしようとしても効果は上がらないだろう。
    人間はあまりにも非現実的なことに直面した時、必要以上に感情を揺さぶられないように感度を落とす。

  • ヘミングウェイが人生で経験してきたことや人生観を、少しずつ切り出して切り出して作品にした感じ。

  • ヘミングウェイは長らくご無沙汰でしたが、若き日のパリ時代を回想した『移動祝祭日』が思いのほか面白かったので、再読しました。

    1921年、ヘミングウェイは米国からパリに移住します。セーヌ左岸の製材所の上のアパートに住み、近くのカフェに通いテラス席で執筆する日々。そこで書き上げたのが本作所収の『二つの心臓の大きな川』や『殺し屋』などの短編です。

    テーマは、ボクシングや闘牛などヘミングウェイらしいものあり、幼少期の森での生活や熱中した釣り、インディアンとの交流など開拓時代をほうふつとさせるものありで、アメリカ文学の雰囲気を堪能できました。生活に根差した喜びや哀しみを簡潔な文章で捉える腕前はさすがです。(ノーベル賞受賞者に向かっていうのも何ですが)
    例えば、闘牛がテーマの短文。

    ▼それが自分のすぐ目前で起きていたら、ビリャルタが雄牛に毒づき、悪態をつくさまが見えただろう。雄牛が突進すると、彼は風に吹かれるオークの木のように、たじろがずに身をひるがえした。両足はぴっちりと揃い、ムレタ(赤い布)が宙を舞い剣がそのカーブの軌跡を追う。それから、彼はまた雄牛をののしり、雄牛に向かってムレタを突きだし、両足をしっかり踏んばって雄牛の突進から身をかわす。ムレタが弧を描き、彼が身をひるがえすたびに、観客がどよめく。
     いよいよ仕留める段になっても、やはり勝負は一瞬のうちだった。雄牛は憎悪に燃えて、真っ正面から彼を見据える。彼はムレタの裏から剣を抜きだし、前と変わらぬ動きで狙いを定めて、雄牛に叫ぶ。トーロ!トーロ!雄牛が突進する。ビリャルタが突進する。束の間、両者は一つになる。ビリャルタが雄牛と一体になった瞬間、決着はついていた。ビリャルタはすっくと立ち、雄牛の両肩のあいだには剣が鈍く光って突き刺さっていた。ビリャルタが観客に向かって片手をあげ、雄牛は血を噴きだしながら唸り、ビリャルタをひたと見据えてから、膝を屈した。

    一読して、井上靖さんの詩を思い出しました。
    『猟銃』や『輸送船』と同じで、難しい言葉は使っていないのに、場面が臨場感をもって伝わってくる。
    達意の文章だと思います。

  • 私は大学生の頃、ヘミングウェイが好きでした。
    第一次世界大戦後の虚無感や喪失感を抱いたロストジェネレーションの感覚が、就職活動に失敗し、どうしていいのかもわからずただ毎日を過ごしていたあの頃の私と重なる部分があって、凄く共感する部分があったのだと思います。

    そんな時分を思い返して、今回この短編集を手にとってみたのですが、昔ほど感動はしませんでした。ヘミングウェイを読むタイミングは、一度過ぎ去ったのかもしれません。
    ただ、他の長編作品と比較したら読みやすいし、世界観がわかりやすいので、道に迷った人に、一緒に迷子になってくれる良いパートナーになってくれるような気がします。
    きっと次に感動するときは、もう少し自分が歳を取り、衰えて、今まで出来たことが少しずつ出来なくなってきた時に、生きることを応援してくれるパートナーとして、側にいてくれるような気がします。

  • kindle読書ヘミングウェイ「女のいない男」1927年(s2)若きヘミングウェイの短編小説集。ピークを過ぎ引退間近な闘牛士の物語「挫けぬ者」勢いある若者とのタイトル戦に八百長加担して臨む老獪なボクサー「5万ドル」など男の悲哀が際立つ。村上春樹さんと同じ表題だったのでこちらも読んでみました。

  • ヘミングウェイ若かりし頃の短編集であるが、鱒釣り、闘牛士、ボクシングなどの題材では、その精緻な表現につい引き込まれるし、いくつかの作品でのテンポのよい会話がいかにもその場の雰囲気をよく表現していて、若書きの作品集ではあるが、その才能の一端を窺い知ることができる。

  • 「われらの時代」と「男だけの世界」の二つの短編集を所収.
    高校生ぐらいの頃に大久保康夫訳でいくつかのヘミングウェイの短編を読んだことがあるはずだが,全く印象は残っていない.
    この1995年の新訳は非常によみやすい.前半の「われらの時代」は大部分が,筋も文章も切り詰められていて,その背後を想像しないと,なんのことだかわからない.詩と似ている.それでも私には珍しく退屈せずに,最後まで一気に読んでしまった.
    しかし,やはり,ストーリーのはっきり見える方が楽しめるわけで,中でも,釣り(「二つの心臓の大きな川」)闘牛(「敗れざるもの」)などは,体と心の声がうまく描写されており秀逸.他にも拳闘やスキーなど,筋肉系のヘミングウェイ好きのテーマがたくさん.

  • ★★★2017年5月のレビュー★★★



    パリ時代のヘミングウェーの短編集。



    なんといっても面白いのは「殺し屋」。
    荒木飛呂彦はこの短編からストーリーの作り方を学んだという。確かに、その場の空気が伝わってくるようなは迫力がある。荒くれものがカフェに乗り込んでくると、「あ、悪い奴が来た」とピリピリする。怖い感じも伝わる。そこからのカフェの店主と荒くれもののやりとりは最早芸術の域に達している。たまたま居合わせたニック・アダムス(ヘミングウェーの化身)の巻き込まれよう、まるで自分がニック・アダムスになったかのよう。
    殺される(予定)の、オーリ・アンダースンという男のけだるい感じも良い。夏の夕方の西陽を思い出す。


    「ぼくの父」も印象に残った。
    騎手をしていたお父さんと、幼い子供の物語。
    「でも、ぼくには分からない。この世の中って、せっかく本気で何かをはじめても、結局、何もあとには残らないみたいで。」
    果たしてそうだろうか?
    新しくスタートを切った「ぼくの父」は何もあとに残さなかっただろうか? 


    解説を読んで「あ~、そういう事だったのか」と気が付く部分が大いにあった。なので、いつの日か再読した時にはより深い読書ができるはずだ。


    ☆☆☆2018年12月再レビュー☆☆☆
    「二つの心臓の川」
    戦争で傷心のニックが1人原野でキャンプをして過ごすという物語。戦争から帰ってきた男の孤独を表現している点がポイント。風景の描写が詳細で、朝露に濡れた草原でニックがバッタを大量に捕まえ、川鱒を釣る様子が目に見えるようだ。夜のテントでは缶の食材を空け、コーヒーを沸かす。一つ一つの動作を自分が行っているように感じる。
    一度目に読んだ時にはあまり感じることのなかった作品だが、今回読んでみてより作品を身近に感じるようになった。

    「敗れざるもの」
    ベテラン闘牛士・マヌエルの闘いを描く。何度倒れても立ち上がる男の姿。彼はこの闘牛のあと医務室に運ばれる。そこでの手術の場面で物語は終わるが、マヌエルは死んだのだろうか?
    「陳腐なストーリー」で最後に埋葬された闘牛士、マヌエル・ガルシア・マエラは「敗れざるもの」のマヌエル・ガルシアと同一人物だろうか?

  • ヘミングウェイは短編集にかぎる。
    なんかもう短編の鑑みたい。

  • 3.4

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著者プロフィール

Ernest Hemingway
1899年、シカゴ近郊オークパークで生まれる。高校で執筆活動に勤しみ、学内新聞に多くの記事を書き、学内文芸誌には3本の短編小説が掲載された。卒業後に職を得た新聞社を退職し、傷病兵運搬車の運転手として赴いたイタリア戦線で被弾し、肉体だけでなく精神にも深い傷を負って、生の向こうに常に死を意識するようになる。新聞記者として文章鍛錬を受けたため、文体は基本的には単文で短く簡潔なのを特徴とする。希土戦争、スペインでの闘牛見物、アフリカでのサファリ体験、スペイン内戦、第二次世界大戦、彼が好んで出かけたところには絶えず激烈な死があった。長編小説、『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』といった傑作も、背後に不穏な死の気配が漂っている。彼の才能は、長編より短編小説でこそ発揮されたと評価する向きがある。とくにアフリカとスペイン内戦を舞台にした1930年代に発表した中・短編小説は、死を扱う短編作家として円熟の域にまで達しており、読み応えがある。1945年度のノーベル文学賞の受賞対象になった『老人と海』では死は遠ざけられ、人間の究極的な生き方そのものに焦点が当てられ、ヘミングウェイの作品群のなかでは異色の作品といえる。1961年7月2日、ケチャムの自宅で猟銃による非業の最期を遂げた。

「2023年 『挿し絵入り版 老人と海』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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