- Amazon.co.jp ・本 (487ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102100134
感想・レビュー・書評
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『武器よさらば』以来久々のヘミングウェイ。第一次世界大戦後、享楽を求めてさまよう若者の物語。彼らを、一次大戦に遭遇し様々なものが破壊され、従来のモラルや価値観に懐疑的になり、社会の中でさ迷うことになった「失われた世代」等と呼んだりするらしい。
大戦で性行為ができなくなった男「ジェイク」と、大戦で愛する男性を失ってしまった女「ブレット」。ジェイクはブレットを愛しているといっているが、肉体的な問題から彼女への想いを成就させることは叶わない。
また、ブレットは誰か男性と一緒にいなくてはいられず、様々な男性と関係を結ぶが、幸福感を得ることはできずに、自分のことも悪女と認識している。周囲にもまっとうではない女と見られているようだ。
他、ジェイクの友人やブレットに好意を寄せる人物等が出てくるが、誰も彼も充実という言葉とは程遠い、満たされない気持ちを抱えているように思える。
ジェイクについては、発散することすらできない嫉妬がさぞかし辛いのだろうと想像する。彼は自分の不能を埋め合わせようとしているのか、ブレットに対し「何か、僕にできることでもあるかな?」(p.123)と問いかけるが、答えはそっけないものだ。ブレットが闘牛士に好意を抱いている際も、「何か、おれにやってほしいことでもあるかい?」と同じことを問う。
彼の行動の真意は、ひとつには彼女の気を惹くことにあるのだろうが、同時に純粋な・・・でもあると思う。でなければ、小説の最後にあんな台詞は吐けないだろう。自分はこの虚無感から逃れることはできないのだ、それならばせめて・・・という気持ちは、惨めにもみえるし彼の矜持にも見える。そんな彼の想いは、一つの誰かの幸せとして実を結ぶ兆しを見せる。
ブレットについては、彼女が性悪なのかどうかは別として、従来と別の生き方を手に入れることができたように思う。闘牛士「ロメロ」の求愛に対し彼女が身を引くところだ。
もちろん、それが必ずしも正解だとは思わないし、ロメロの将来がどうなろうがそれは彼の選択であると思う。ブレットが身を引くことで、彼女が不幸になることも大いにありうるのだ。
それでも、すっきりとした気分になり、「こういう気持って、神様の代わりにあたしたちが持ってるものじゃないかしら」(p.451)と言い放つ。あらゆる価値観から見放された彼女が矜持を得たように思えた。
この物語をハッピーエンドと捉えるにはあまりにも文学的かもしれないが、とても好きな小説。過度に感情移入しながら読んだところはあり、時代的背景についてもうすこし考えて読んだらもっと楽しめそう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
パリの部分は正直長すぎて退屈だと思ったけれど、
スペイン旅行の部分になるとそこが活きてきて、俄然面白くなる。
主人公のジェイクが戦争の負傷で、男性として機能しなくなったというわりには暗さ重さがないのが不思議だった。
でも、解説を読んで納得。
この物語はヘミングウェイ夫妻と男女の仲間たちでスペインにいったときのことを基にしていて、
妖艶な女友達をめぐる緊張関係があったそう。
もちろんヘミングウェイも気持ちがザワつくけれど妻帯者。
そこで、小説化するときは自分である主人公を去勢して、
身の潔白を遠まわしに匂わせている…。
ヘミングウェイ、せこいよ…でもそこが面白い!
マッチョで行動的なパパ・ヘミングウェイの意外な一面を知ることができた小説。 -
とにかくスペインのパンプローナに行きたくなりました。サン・フェルミンの祭り、フィエスタに行って、牛追いや闘牛を見たくなりました。読んでいるだけでも祭りの熱気が伝わってくるようで、わくわくする作品でした。
登場人物のブレットは「浮気なたちだけど、人の面倒見がいい(p374)」女で、登場人物の男性陣たちを皆虜にしています。語り手ジェイクもブレットに惚れていながら、「恋人を旅立たせて、ある男と馴染ませる。次いで別の男に彼女を紹介し、そいつと駆け落ちさせる。そのあげくに、彼女をつれもどしにいく。そして電報の署名には、“愛している”と書き添える。そう、これでいいのだ。(p440)」と考えています。物語の中心に、魅力あるブレットがいるように感じました。 -
何度か読みましたが、こんな話だっけ?って感じです。
ぜんぜん「 日はまた昇る」って感じじゃないのが、いちばんいただけないです。
飲んだくれて、旅に出て、男女の仲も乱れて、お金なくて・・・
まぁ、「それでも、日はまた昇る」ってことなら分かりますが・・・ -
スペインを感じたくて読んでみました。
パンプローナ
若者の充実した日々が綴ってありました。
キラキラしてます。
釣りのあたりが好きです。 -
乾いた大地
照りつける太陽
繰り広げられる群像劇
交錯する価値観にわき上がる血肉
それでも今日もまた陽が昇る
スペインの祭典を中心に、数人の男女によって展開される群像劇。
それぞれの人物は決して交わりあうことはない、けれど惹かれあってしまう不思議な組み合わせ。
傍から見ればものすごく深刻に見える出来事も、当人たちには、ユーモアと喧騒によって溶け出して、数々の酒でかき乱され、あっけないほど簡単に元に戻る。まるですべてが予定調和。これが「許されている」そういうことか。
ひとが生きる大地。実り豊かな大地。
人工と自然は対立しない。人工だって自然から生まれ出たのだから。自堕落(lost)というよりかは、天空から堕ち、この大地に根を下ろしたと言うべきか。不思議とこの作品が印象的なのは、大地とひとの調和があるからか。
揺るがぬ力がしかとひとを支えている。陽が昇れば落ち、落ちれば昇る。始まりが終わりで、終わりが始まり。大地に蒔かれてしまったひとはそこに根を張り這って生きるより他ない。「そう、これでいいのだ」 -
名作
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古い翻訳で一度読んだことがあったけど、イマイチしっくりこなかったので再読。正直物語に大きな盛り上がりもなく面白い作品かと言われるとそうでもない。ただ物語の舞台となっている、パリ、バイヨンヌ、ビアリッツ、サン・ジャン・ド・リュズ、ブルゲーテ、パンプローナ等いずれも滞在したことがあり、90年前の小説なのに古臭さを感じないのが魅力になっているのかもしれない。