移動祝祭日 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102100158

作品紹介・あらすじ

1920年代、パリ。未来の文豪はささやかなアパートメントとカフェを往き来し、執筆に励んでいた。創作の苦楽、副業との訣別、"ロスト・ジェネレーション"と呼ばれる友人たちとの交遊と軋轢、そして愛する妻の失態によって被った打撃。30年余りを経て回想する青春の日々は、痛ましくも麗しい-。死後に発表され、世界中で論議の渦を巻き起こした事実上の遺作、満を持して新訳で復活。

感想・レビュー・書評

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  • 「その昔、私たちがごく貧しく、ごく幸せだった頃のパリの物語である」
    作家としての活動をはじめた20代前半、妻ハドリーとのパリ滞在記であり、事実上の遺作にあたるという若き日の回想録。300ページ弱。実在の登場人物などを捕捉する注釈を豊富に掲載する。

    作家として身を立てるため、芸術家が集うパリに移住し、新聞の特派員のような活動で生計を立てながら専業作家へと移行していった時代を思い返しながらのエッセイのような作品となっている。パリの芸術家コミュニティでの他の芸術家たちとの交友録も兼ね、おおむね、誰それに会った、どこそこの店に行った、何を飲み食いした、芸術論など、そんなことが綴られている。終盤の70ページ以上はスコット・フィッツジェラルド夫妻との交流だけに紙幅が費やされており、著者にとって重要な出会いであったことを窺わせる。

    全体にやたらさっぱりとしてとっかかりがない。感想としては、あとで本作を読んだこと自体を忘れるだろうと思えるぐらい印象が薄い。私の知識不足以外に、芸術家コミュニティでの交わりやそこでの議論といったものにたいして、個人的にあまり好感や興味を覚えないことも心に響かない一因かもしれない。著者についてひとつ思ったのは、自ら芸術家であることを選びながらも本来は報道指向だったのではないかということ。

  • アーネスト・ヘミングウェイ22歳。新妻ハドリーを伴い、文学修業のためパリに渡ってからの思い出の日々を綴った青春回想エッセイです。ヘミングウェイの死後、発表されたものとのことです。

    「もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。パリはどこへでもついてくる魂の饗宴=移動祝祭日だからだ。」

    1920年代パリ。第一次世界大戦が終わった後のパリは、次世代の新しい芸術を志す者が集まり、様々な才能が競い合う芸術の都であった!パブロ・ピカソ、ジャン・コクトー、ガートルート・スタイン、ジェイムズ・ジョイス、エズラ・パウンド、フォード・マドックス・フォード、エヴァン・シップマン、スコット・フィッツジェラルド・・・。
    名がまだ売れていない若き日のヘミングウェイは、つましい生活を送りながらも、こうしたパリで文学を志し、文学サロンでの多彩な芸術家たちとの交流、美術館訪問、貸本屋で借りる文豪たちの小説、カフェでの執筆とさまざまな出会いを通して、その文学才能を開花させていった。それに、お腹をすかせながらもパリで興ずるボクシング、競馬、カフェでのワイン、高級でないフランス料理、そして妻との新婚生活!
    まさにヘミングウェイにとっての青年時代の祝祭の日々が、当時を思い出しながらの会話やシニカルな観察眼を踏まえた文章力にて絶妙に再現され、それらに思わず笑みがこぼれます。また、当時に交流していた「自堕落世代」の芸術家たちへのどちらかといえば厳しくあからさまな批評・批判の数々は、読者にはとても面白いのですが、これは当時の文学界に波乱を巻き起こしたのではないかなあ。(笑)特にフィッツジェラルドとの破天荒な会話や2人珍道中は映画になっても面白いかもしれない。いや、それよりもこの『移動祝祭日』自体、映画でも相当面白くなるだろう。
    青年時代の苦くもきれいな思い出に彩られたパリでの生活。解説を読むと、祝祭の記憶をこのような形で封印したかったヘミングウェイの想いが伝わってきて、羨ましくも物悲しい気分にさせられました。
    パリ!そこは一度は暮らしてみたい憧れの都。しかし、祝祭の日々は若い時代に味わうものなんですね・・・。あ~ホントに限りなく羨ましい。魂だけは若返らせ、自分も一度は暮らしてみたい!

  • « 幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこで過ごそうとも、パリはついてくる。パリはParis est une fête (移動祝祭日) だからだ。 »

    彼の冒頭の言葉がすごく心にしっくりと来て読み始めた本。わたしにとっても、パリは移動祝祭日だなあ、と思う。偶然にも、わたしが今住んでいる場所が、彼がパリで始めて暮らした場所と同じ地域。通り、カフェ、全ての場所に馴染みがあってとても感慨深い気持ちで読んだ。
    とにかく描写が鮮やかで、読みながら頭の中で、ひとつひとつのシーンをとても簡単に鮮明に描けた。

    フィッツジェラルドとゼルダとの話が特に面白かった。

  • やはりフィッツジェラルドとの交流の箇所が興味深い。

  • 英語版を読んだので内容の確認のために目を通した。昔のパリの様子がなんか目の前に浮かぶようだ。

  • やっぱり、食事の描写とヘミングウェイがカフェで開くノートと鉛筆の走る音を想像するのが最高に良い。

  • 大昔、まだ20代の頃旧訳を買ったが、どうしても一冊読み通せなかった。しかし今回、青山浩の新訳を古本で見つけて読んだら、あっさり読めた。

    冒頭の章、パリのお気に入りのカフェで若き日のヘミングウェイが短編を書くところが好きで、そこだけは昔から、何十回も読んでいる。

    昔読んだ時は、若き日のヘミングウェイに感情移入していたわけだが、今はこの本を書いた年代のヘミングウェイの視点で読む。悲しい。読み通せたのは、そのせいかもしれない。

    スコット・フィッツジェラルドに関してはひどい書きぶりで気の毒になるが、確かに旅先で病まれた話を読むと、まあむべなるかなとも思う。
    だけどリッツ・ホテルのバーで店員にフィッツジェラルドのことを尋ねられて「長編の傑作を二つ書いている、未完の長編も完成したら傑作になっていただろうと言われている」と答えている。その才能を認め、畏怖していたことは間違いないだろう。

  • ”心配しなさんな。おまえはこれまでちゃんと書き継いできたんだ。こんどだって書けるさ。やるべきこことは決まっている。ただひとつの真実の文章を書くこと。それだけでいい。自分の知っているいちばん嘘のない文章をかいてみろ”。(24ぺージ)

    隅から隅までカッコいい…。しびれる。本当にすごい人というのは「やるべきことが決まっていて」ビジョンがしっかりしている。ヘミングウェイもそうだったに違いない。(それだけに最後が悲しいけど…)。

    教養書と呼ばれているらしい。私は、この本は文章を書く心構えについてのレクチャー本なんじゃないかと思って読んでいる。こうやって書くことと向き合っていたのか…。私もヘミングウェイみたいに簡潔で分かりやすい文章を書いていきたい。

  • フィッツジェラルドが自分の性器が小さいかもってヘミングウェイに相談して、一緒にトイレに行って確認してもらってもまだ不安が続き、連れ立って今度はルーブルの彫刻を見に行く編が二次創作みたいでウケる。

  • https://tricolorparis.com/paris-blog/french-film/midnight-in-paris/

    観賞後すぐ、私はヘミングウェイの「移動祝祭日」を読み直しました。パリでの暮らしが描かれているこの作品は映画と重なる部分が多く、特にフィッツジェラルドとの関係性など、以前とはまた違った角度から楽しむことができました。タイムトラベルの待ち合わせ場所である「サン・テチエンヌ・デュ・モン教会」は、ある意味マイナーな教会なので、なぜ選ばれたのか不思議に思っていたのですが、「移動祝祭日」の初っ端に登場することが分かり(すっかり忘れてた)思わず納得の声が漏れました。こんな風に、知っていると思っていたことすら、新しい目線でもう一度見直すことができ、ひとつの作品からまた別の作品へと、数珠つなぎに知識や世界が広がっていくという、映画体験の醍醐味が『ミッドナイト・イン・パリ』には詰まっています。

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著者プロフィール

Ernest Hemingway
1899年、シカゴ近郊オークパークで生まれる。高校で執筆活動に勤しみ、学内新聞に多くの記事を書き、学内文芸誌には3本の短編小説が掲載された。卒業後に職を得た新聞社を退職し、傷病兵運搬車の運転手として赴いたイタリア戦線で被弾し、肉体だけでなく精神にも深い傷を負って、生の向こうに常に死を意識するようになる。新聞記者として文章鍛錬を受けたため、文体は基本的には単文で短く簡潔なのを特徴とする。希土戦争、スペインでの闘牛見物、アフリカでのサファリ体験、スペイン内戦、第二次世界大戦、彼が好んで出かけたところには絶えず激烈な死があった。長編小説、『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』といった傑作も、背後に不穏な死の気配が漂っている。彼の才能は、長編より短編小説でこそ発揮されたと評価する向きがある。とくにアフリカとスペイン内戦を舞台にした1930年代に発表した中・短編小説は、死を扱う短編作家として円熟の域にまで達しており、読み応えがある。1945年度のノーベル文学賞の受賞対象になった『老人と海』では死は遠ざけられ、人間の究極的な生き方そのものに焦点が当てられ、ヘミングウェイの作品群のなかでは異色の作品といえる。1961年7月2日、ケチャムの自宅で猟銃による非業の最期を遂げた。

「2023年 『挿し絵入り版 老人と海』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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