ペスト (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102114032

感想・レビュー・書評

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  • 外出自粛期間中に非常に臨場感を持って本著を読み終わったが、まず最初に「コロナ」が「ペスト」級の感染影響を持つレベルではなかったことがこの状況下での救いではないかと、この本を読んで考えるところである。

    コロナの影響は2020年5月初旬時点で感染者350万人、死亡者25万人弱(今後増加しても恐らく感染者1000万人、死亡者100万人以下でしょう)であるのに対し、ペストは過去3度も世界的パンデミックを巻き起こし、14世紀に起きた「黒死病」と呼ばれるペストは世界全体で8000万人以上(最も被害が出た欧州では人口の1/3以上、そして世界大戦の戦死者以上)も死亡したと言われている。

    我々はペストがもたらした無慈悲さと不条理性(ある意味で戦争体験)を実感することは不可能だが、まさにそれを実感した著者が本著を通してペスト(パンデミック型感染症)に対する政治の無力さ、人々の感情変化、個人的背景による感受性の差異などを、現実逃避する宗教性の問題、冤罪リスクをはらむ死刑制度の問題を絡めて忠実に描写し、歴史上類稀なる体験をした当時の人々の想いが込められている事が、ノーベル賞評価ととも伝わる作品である。

    そういう意味でも現代に生きる我々はこの歴史的名著から多くを学び、教訓としなければならないが、残念ながら、人間の本質的課題とでも言うべきか、人間社会の宿命とでも言うべきか、「人間の無情なる忘却」から脱却できてない。

    特に、今回のコロナ問題で特筆すべきは、本来であれば最もその警鐘を早期に迅速に世界へ発信し、毅然とした態度を示すべきだったWHOがその役割を果たせず、まさにカミュが本著で指摘する「誠実さ」というべきものが損なわれてしまった点である。(これについては今後評価が下されると思うが、問題は世界各国への迅速で正確な情報開示が毅然とした態度で行われたか否かである)

    本著者のカミュはその強烈な人生経験から、宗教に見られる超越的存在(神)を否定し、個の存在を縮ませる全体主義に反抗し、社会的な不条理性に痛みを伴ってでも抗うヒューマニズム精神を奨励したが、まさにこの姿勢を改めてコロナ後の世界で考え直さねばならない事を示唆している様に思う。

  • ベストセラーを読むことはないのだけど,コロナ騒動には困り果て,読む.
    戦後間もないアルジェリアのオラン.ペストに襲われ都市封鎖.その中で淡々と誠実に職務を果たすことでペストと戦う医師リウーを中心とした群像劇.
    訳が悪いという評価が多いが,訳は古いが難しくはないのではと思う.もとのカミュの文章が思索的でもって回った表現が多いのだろう.
    表面的に見ればコロナよりずっと怖いはずのペストに襲われた都市は今の東京よりも開放的.映画館もレストランもカフェも夜までやってる.
    ペストはカミュ的倫理における悪のメタファーというのが定説らしいし,エピグラムも,そしてこの本の核心をなすタルーとリウーの海水浴に先立つ会話のシーンでもそれは裏付けられる.それを現代のコロナ禍のもと即物的に読むのは無理があるのではないか.
    実存主義全盛の頃ならともかく,今の世の中,本の描かれた時代背景や社会情勢を知らないと何を言ってるのかわからないところがある.そういうところは解説の役目だろうが,こういう思想的な小説は読まれなくなるのも早いのかなと,少し思った.

  • 今のこの時期(コロナ禍)だからこそ、一度読んでみようと思った一冊。
    ペストに襲われた街、オラン市の人たちは、それぞれどのように行動し、災厄に立ち向かうのか。今の世界情勢と照らし合わせ、この事態は現実世界ではどのようになっていくのか考える一助にしたくて読み始めた。
    この本、個人的に良かった点をあげるなら、①オラン市の人たちの反応、②リウー医師とタルーの交流と友情、③リウー医師の医者としての姿勢の3つである。
    まず①について、これがまあ、現代の私達とほぼ同じで、人は少なくともこの小説が発行された1947年、今から約70年前には今とほとんど変わりない思考や反応をしていたとわかって面白かった。ざっくり言うと、なかなか動かない政治家、宗教に救いを求める人、心を殺して頑張る医療者、金もうけしようとする悪党等々…今も昔もあまり変わりない。
    ②について、この小説、基本第三者視点でたんたんとオラン市民たちの様子を年代記風に書いてるので、最後の方まであんまり感情移入はしにくい感じになっている。でもその分、最後の最後で描かれるリウー医師と、彼に協力する市民タルーの交流と友情と喪失に心を持っていかれた。
    ③、これは個人的に一番グッときたポイント。ずっとペストを何とかしようと頑張っているリウー医師の医者としての姿勢について。毎日何百人と死んでいる状況で、結局どんなに頑張ってもあなたの勝利は一時的なもの(人は最後は死ぬから)だろうと言われた時に「知っている。それだからといって、戦いをやめる理由にはならない」と応えていて、同じ医療関係者として「せやな!」と思った。
    最後に、☆3つのした理由であるが、途中まであまりにたんたんと書かれているので、いわゆる小説的に読者が感情移入するという点では取っつきにくい感じがしたから。ただし、良かった点②に書いたように最後の最後に感情移入させられて心を持っていかれたので、本を読みなれている人ならぜひ一度読んでみて欲しい。特にこの時期だからこそ、きっと普段よりも興味深く読めると思う。

    • naonaonao16gさん
      upako365さん

      こんばんは!レビュー拝見いたしました。
      医療に従事してくださっているんですね。ほんとうにお疲れ様です、そして、ありが...
      upako365さん

      こんばんは!レビュー拝見いたしました。
      医療に従事してくださっているんですね。ほんとうにお疲れ様です、そして、ありがとうございます。
      わたしは自粛中にこの本を読み切るのにかなりエネルギーを使いました。upako365さん、大変な仕事をしながら同時並行で読み切るとは…素晴らしい!

      わたしもupako365さんと同様に思ったことがあって。
      リウーの医師としての姿勢と、タルーとの友情、後半の感情移入はずるいですよね!
      あと、最後に語り手が明かさる部分は「え!」という気持ちと「やっぱり」という気持ちが混在したり…
      終わり方はちょっと怖かったですね。。

      突然のコメント大変失礼いたしました!
      体調にはお気をつけて、お過ごしください^^
      2020/05/03
  • 物語は複線で進んでいくので、少し異なる物語を追っていくのが難しかった。普段は小説などはすらすら読んでしまう方だが、これはとても時間がかかむた。

    感染症という圧倒的な不条理に対して個人が、または都市全体がどのように反応するのかを淡々としたタッチで描いていく。突然やってくる災厄、当初の楽観的見通し、突然の戒厳令、違反者に対する容赦ない厳罰、強制的隔離や脱出者の射殺、抜け道、危機を利用した商売、抜け道、懇願、諦め、狂気、無関心、慈悲、偽善的ボランティア、日常的な死、、、これらは今のコロナ拡大によって自分たちが経験してきた、あるいは経験することになることなのかもしれない。印象的なのはペストによる死そのものではなく、これらに対して人間がどのように受け入れるのか、抗するのか、にフォーカスがあることだ。

    個人的に面白かった点は、解説で指摘されていたこの作品が第二次大戦直後に発表されたもので、ペストは世界大戦という不条理に関連されているということ。圧倒的な支配に対して、個人の反応と都市全体の連帯や全体主義の間で視点が移り行くのが面白い。

  • 不条理主義。感想書いたが、消えてしまったので残念。

  • 実際、ペストが、その語の深い意味において、追放と別離とであったことを物語っていたのである。…

    本当は、病だけでなく、宗教や哲学にも触れられた一冊です。が、今回はとにかく話の結末を知りたい一心で読みました。ネズミやノミ、ダニを媒介に、じわじわと人々を蝕むペスト。現在、コロナウィルスと闘う医療関係者と、「チームリウー」と呼ぶべき登場人物らが重なります。1940年代のアルジェリアを舞台に、淡々とした筆致で描かれていますが、闘う医師リウーの結末と、多大な犠牲を払いながら解放された街で喜びを享受する市民の姿とのコントラストは、淡々としているが故に胸に迫ります。

    今この瞬間も闘っている患者さん、医療関係者さん、そのどちらものご家族、この生活で不安になっている全ての人、今生きていることに感謝しよう。しにくいけど、自分も人も解放を待ち望む一人の人間だと自覚しよう。

  • 新型コロナウイルスが蔓延している今、この本にたどり着けて良かった。世界というのはまぎれもなく「不条理」なもので、それは突然襲いかかってくる。
    そして、そこで経済活動ができなくなった時にどう対応するのか。多様な登場人物でそれぞれの対応が描かれているのが興味深い。現代にも十分通じる。
    さて、2011年は天災だったし、2020年は疫病。
    その中で人はどう考え、どう行動するか。
    私自身も問われている。できることをやろう。

  • 災害、パンデミックが起きたときのそれぞれの考え方

    病気の妻をおいて医者として職務を全うする人
    裁判官の父親が死刑を宣告する姿をみてから死についてずっと考えてるひと
    たまたま来た街でパンデミックがおこり自分の故郷へ帰れない人、自分のことだけ考えて脱走をこころみるひと、でも、どこかで気持ちがかわり、みんなで乗り越えようと考え直すひと
    パンデミックの前に逮捕されるはずだったがパンデミックがおこり逮捕されずにすんだひと、この状況がかわらなければいいと思ってるひと
    キリスト教の司祭でこうなったのは人間せいだと思ってるひと、意味があることだと思ってるひと、でも無垢な少年の死を目の当たりにし神とはなんなのかがわからなくなるひと

    いろんな登場人物がでてくるが、どれが正しいのかどれが正義なのかは言及されない
    みんなそれぞれ正しいのかもしれない
    ペストはなくなったわけではなくまたどこかで起こるかもしれない。という終わり方
    ペストだけでなくパンデミックや災害はいつ起こっても不思議ではない
    いままさに世界はコロナショック
    正義はないけど、自分が思う正しい生き方をしたい

  • ちょうどコロナが流行り、学校も休校になった頃に読んだ。
    ペストの流行後に起こったいくつかの出来事が現実でも起こっているのには驚いた。
    ペストの兆候を示した男が、錯乱状態で戸外にとびだし、いきなり出会った女に「俺はペストだ」と言いながら抱きついた→コロナに罹った人がフィリピンパブで「俺はコロナだ」と言っていた事件を思い出させる。
    不測の感染を予防するためにハッカのドロップをしゃぶるようになった。薬屋からハッカドロップが姿を消す→マスクとアルコール消毒液が買えないことを想起する。
    マスクが何かの役に立つのか、という疑問に「そんなことはないが、つけていると向こうが安心する」という答え。
    街が封鎖され、死者数が増えて行って葬儀が間に合わない、という事態になっている国も実際にある。

    この本の病気の始まりが春なので、その点も絶妙だ。
    暗いクリスマスを現実が追従しないよう切に願う。

    リウーは最前線でずっと治療に当たって、睡眠時間も4時間でくたくたに疲れながら頑張ったのに、友達になったタルーも奥さんも失ってしまってかわいそうだった。

  • 不条理なこの状況、人間はどうあるべきか。新型ウイルスが猛威をふるう2020年のいま、この書にわたしたちの救いはある。終息に向かうまではこの書を片手に。

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