ペスト (新潮文庫)

著者 :
制作 : 宮崎 嶺雄 
  • 新潮社
3.78
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本棚登録 : 1863
レビュー : 164
  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102114032

感想・レビュー・書評

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  • カミュは不条理について書く。この作品ではペストを使って表現し、異邦人よりも明確で、ドラマティックで、やさしさがある。物語全体は暗いが、グランという愛嬌のある人物がひそやかな笑いを誘う。素晴らしい作品だと思う。個人的には異邦人よりも好きな作品。

  • カミュはアルジェリア人で、フランスに渡り作家として成功した。
    彼の中のアラブ人としてのアイデンティティーは、アルジェリア独立運動の最中、フランスとアルジェリアの間で揺れ動いていた。彼は「最初の人間」の中でその複雑な葛藤を描き、どちらの側にもつけないこと、そしてどちらの暴力にも反対することを述べていた。

    私は2013年の6月28日から始まったエジプトでの、反ムルシデモおよびその後のクーデターに至る一連の出来事の中にいた。
    その中でこの本を思い出し、レビューを少しだけ書きたくなった。
    エジプトでの民衆の閉塞感の高まりを感じつつ、日本人である自分にとっては不条理とも呼べるデモや軍、警察の規制の中、カイロで過ごした。まさにペストで描かれるような閉塞的な状況であった。外国人や知り合いは軒並み国外に出ていき、交通量の大幅に減った市内を見渡し、なんとも言えない、どうにもできない不条理を感じた。
    ペストではアルジェリアの街を舞台に、じわじわと進行していくペスト、誰もが逆らえないペストの死を通して、絶望感が広がっていく。
    エジプトにおける状況も似たようなところがある、インフレによって値上がりする物価、頻発する停電、悪化する治安、その結果として観光客が激減し収入源が減っていく。

    民主主義とは、そのプロセスが大事である。
    選挙によって必ずしも、良い政権ができるとは限らない。
    また、常に反対派や少数派とのコンセンサスを必要とする。
    そしてすぐには変わらない。
    エジプトにおけるクーデターの成功は、明らかに民主主義プロセスの後退であり、敗北である。
    この「ペスト」においても、人々は「敗北」する。
    そんな中、医師リウーは以下のように答える。
    『しかし、あなたの勝利はつねに一時的なものですね。…』
    『…それだからって、戦いをやめる理由にはなりません』
    『…しかし、そうなると僕は考えてみたくなるんですがね、このペストがあなたにとってはたしてどういうものになるか』
    『ええ、…際限なく続く敗北です』
    彼はそういいながらも医師として人を救おうとし続ける。
    その姿勢や行為にこそ価値があるのだと思う。

    私は外国人であり、安易にエジプトにおける反体制派(反ムルシー)と大統領支持派(ムルシー支持派)の両者のどちらかにつけるわけではないが、暴力の応酬に対しては反対である。

  • 簡潔にして美しい文章. 原文で読めたらもっとよかったんだろう. もう無理ではあるけど...
    でも, 今更ながら自分もこういう文章が美しいと感じられるようになったんだな, と思うとうれしくなった.
    ところで, 「神を信じる者」と「神を信じない者」が極限の中で見いだす答えが全く同じであることを描くことで, この作品は最も反キリスト教的であるとカミュは考えていたそうである. この辺りは自分の抱える疑問ともかなり相通じるところがある. もちろん, 自分自身については別に反キリスト教的だと思ってはいないが, 人生もそう短いものでもなさそうなので, ゆっくりと時間をかけて, そういった問題に対峙していきたい. 年を取ることでわかることもたくさんありそうな気がする.

  • 希望。

  • 「神様のカルテ」の夏川草介さんの書いた記事に紹介されていて、興味を持ち、読み始めた。「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということなのです」と言う主人公の姿が印象的。

  • すばらしい

  • 最初に印象に残るのは、句読点を多用しながら思弁を紡いでいくその特異な文体。読点の多用は思考の逡巡を露わにし、逡巡しながらも先に進もうとする誠実さの表れか。突如発生したペストによって封鎖された街中で生活する人々の描かれ方は、ペストに限らず我々が不条理な世界でどのように生きていけばよいのかを指し示している。「心の平和を得るための方法は、あるね。共感することさ」痛みに対する共感、悲しみに対する共感。それは不条理に引き裂かれた世界に橋を架けようとする意志そのものであり、やがて喜びや誠実さに対する共感への轍となる。

  • 読了してすぐに物凄い小説を読んだという気分になりました。

    前半は、まぁ、面白くもないんですよ。
    実際、ペストというのは、人間にとって決して面白い物ではないですし。
    (後から思えば懊悩や退屈や疲労が表現されていて、
    それもまた誠実さという気はするんですけどね)

    ただ、後半は圧巻でしたね。
    登場人物同士の対話やそれぞれの変化が丁寧に描かれていて、
    それがすごくいいんですよ。

    誠実で丁寧で、著者の情熱が感じられる良い小説だと思います。

  • 「最も救いのない悪徳とは、自らすべてを知っていると信じ、そこで自ら人を殺す権利を認めるような無知の、悪徳にほかならぬものである。殺人者の魂は盲目なのであり、ありうるかぎりの明識なくしては、真の善良さも美しい愛も存在しない」

    感情を抑制した語調。淡々としたオラン市での悲惨な災厄の描写。
    外界との接触を遮断され、絶対的な力のなすがままに、可能性のない戦いを強いられた人々。
    堅固な精神を持つ、医師リウーですら「際限なく続く敗北」と述べ、疲労と無感覚との中で終わりのない忍耐を続ける。

    「ペストはすべての者から、恋愛と、さらに友情の能力さえも奪ってしまった。なぜなら愛は幾らかの未来を要求するものであり、しかもわれわれにとってはもはや刻々の瞬間しか存在しなかったからである」

    背後にせまる恐怖、単調な毎日の繰り返しに、未来を描く能力を失わざるを得なかった人々は、放心した様相でよどんだ目を宙に泳がす。

    人としての尊厳を脅かす、不条理と対面した時に示される、種々の人間の様相を、「神」「愛」「英雄主義」などの側面から描く長編。

  • ペストが蔓延して隔離された中で真摯に生きる人々を 描いた作品。医師リウーを中心に、ペスト発生から隔 離が終るまでのドラマが淡々と描かれており、分量も少なくはないのだが、続きが気になってスラスラ読め た。
    同じカミュの『異邦人』は私には難しかったが、こち らは楽しめた。不条理だらけの世界でどう生きるべき か、ペストに立ち向かう登場人物の生き方はなるほど 参考にもなるし、色々考えさせられた。

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