転落,追放と王国 (新潮文庫 カ 2-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102114049

感想・レビュー・書評

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  • 再読(2022/4/9)

  • 転落については、ちょっととっつきにくいなという感じがあった。カミュ自体が久しぶりというのもあるが、この独特の独白体の力なのかもしれない。独白体の中に、その対話主を徐々に明らかにしていく構造を盛り込んでいくのだから、かなり周到に用意されている。
    転落という事態は、社会的に優れた判事の転落の様であると同時に、価値そのものの転落ではないか。ありとあらゆるものの価値が転落したその時に、不条理が不条理として解ける。反抗のはじまりである。そういう意味で悔悛した判事は、反抗する判事であると感じている。どういうわけか、真理は逆説的になってしまっている。反抗とは、不条理を不条理として生きるという逆説的な営みだ。この転落では、そのプロセスを追って行ったものだと思う。対話者の姿が明らかになるに連れて、判事の反抗の姿が反射されて作品を超えて、読者にたどり着く。
    追放と王国は、断片的な物語が映画のようにつなぎ合わされている。たしかに、ひとつひとつの物語は、時間も場所も人物も異なる。しかし、物語に登場する何気ない場面や配置されたものが、滑らかに次の物語の導入になっている。そして、最後の生い出ずる石はシーシュポスへと還る。転落もこの短編集のひとつに収まるものだったようだが、もし、転落を配置するなら、ヨナの前か、唖者の後だったのではないか。
    どの物語もそれぞれに追放されていく。はじめから帰る場所などないかのように、どこか物語で描かれる世界からはみ出してしまったみたいに、違和感を抱え、そしてやっぱりそこから追放されてしまう。
    では、彼等は王国に安住の地を見出したのか。それもそれで違うと思う。それぞれに王国を見出しているかもしれない。しかし、彼等はそういう王国に決して落ち着くことはない。むしろ見出した王国さえも背を向けて流れて行くようだ。あるいは、彼らはすでに王国から追放されたのかもしれない。連帯と孤独はわずかに一字違いなのである。どこまでいっても孤によって満たされた砂漠なのだ。
    わかりあうこともなければ、交じりあうこともなく、帰る場所さえもたぬ孤独な存在であるにもかかわらず、どういうわけか、人間の関係の中で暮らしてしまっている。存在という場所をもってしまっている。これを不条理と言わずなんと言えばいいのか。そんな風にできてしまっている。そんな底から見渡しているから、反抗することという、逆説的に価値を見いだす力に変えられるのである。彼の考えは決してニヒリズムではない。そういう意味で反抗とは本質的に自由なのである。転落し、追放されたとしても、王国に安住することなく、砂漠の中を渡って行けるのである。それがこのカミュという男のやり方だ。

  • 本の解説で窪田氏が記しているように、主題は「追放」
    その追放というテーマで6つの物語が語られていく。
    追放された人間が見出すべき王国。自分にとっての王国とは何か。
    風刺の強い短編集。

  • 転落の長さに絶句し、追放と王国の始まりに目を塞ぎたくなり、その狭間でそれとなく空しくなり、王国を見つけて、追放の結果と知りながらも、どこか落ち着ける場所を見つけたような安堵にほっと息をつく。

  • 2月12日13:48読了。

  • 異端のなんと美しいことか

    狂おしいほどの悪徳

    神を信じようと信じまいと救われないものは救われない

    なんだろうか

  • 私は、延々と語られる節に少々飽いてしまう悪癖があるのだが、それでも読んでよかったと思う。カミュは、言葉の選び方がじつに面白いと思って、じっくり読んでしまった。読み終わったあとに。酷く考えさせられる。

  • これほど20世紀人間の実存を投影し切った文学作品を知らぬ。正に一歩もここから踏み出せない感じ。

  • 人生アヤマルおそれアリ。「カリギュラ」絶版はなぜ。。

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