ナナ (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (716ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102116043

感想・レビュー・書評

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  • 前作「居酒屋」の次の本。
    久しぶりにゾラを手に取り、彼の凄さを再確認した。
    文章から絵画のように、頭の中で描けるような素晴らしい技術。
    ジェルヴェーズの娘らしく調子乗り過ぎたナナの最期が気になり、一旦放置状態でしたが再び手に取りあっという間に読めた。
    少しだけ、谷崎文学みたいな箇所もあり、久しぶりにゾラを堪能できた。

  • 高等娼婦ナナの物語。美貌と豊満な肉体、それでいて、気まぐれ。貴族や地主、銀行家までも、まるで交通事故のように、なすすべなく巻き込まれていきます。男も女も、堕ちていく人は、美しい。

  • 悪女ものは数多くあるが、ナナを越える悪女を知らない。
    彼女は悪いことをする気が全くない。悪意のない人間に騙されないようにするなんてことはできない。自然災害のような女性。

  • 再読。たぶん人生で3回目に読んだ。
    『居酒屋』から3年後の1880年に書かれた作品だが、どうも『居酒屋』とはちょっと書き方が違うような気がする。『居酒屋』はバルザックばりの、怒濤のような物質的なディティールの書き込みが圧巻だったが、『ナナ』の方は人物が多く物語の進展もスピーディーなこともあり、より読みやすくなっている。
    冒頭の、劇場でオペラ?にナナが登場し、演技も歌も下手なのに、ただ性的魅力だけで客を圧倒し、フェロモンを爆発的にパリ市民に降り注ぐ場面が素晴らしい。ただし、この最初の場面で若者2人が、劇場に来ている様々な人物を名指し寸評したりするところは、固有名詞が一気に大量に並列されるのが辟易させられるが、ここで出てくる人物たちは重要なので、初めて読む人は簡単なメモでもいいから、登場人物表を作っておいた方がいいかもしれない。
    『居酒屋』は徹底してパリ下層社会を描写していたが、ジェルヴェーズの娘ナナをえがく本作には新聞記者、役者から伯爵、侯爵といった貴族連中まで出てくる。
    ナナは「高級娼婦」ということだが、要するに美貌を利用して社交界に出入りする紳士たちを籠絡する。それでうまいこと金を手に入れるのだが、必ずしも金目当てというわけでもなく、貧しい時期もある。
    ナナはあくどい女としては書かれていない。単に気まぐれで浮気っぽいだけで、むしろ純情なところもあり、この小説全体が、彼女の魅力的な造型によって成功している。
    彼女の一族が苦汁を飲まされた「社会」に対し、ナナは社会を性的手法で攪乱し、破壊することをとおして「復讐」しているのだ、という考えが、作者自身によって漏らされている。
    ただこの「復讐」は、現象としてそういう結果になっているだけであり、ナナ自身は素朴な気ままさで生きているだけだ。
    最後に天然痘により、自慢の顔をただれさせて死ぬナナの描写は、かなりグロテスクで気味が悪い。
    この「腐敗」は社会を震撼させる「性」そのものをかたっているのだろう。
    印象深く、かつ読んでいておもしろい傑作。

  • まるで濃縮還元のオレンジジュースを飲んだような感じ。むせかえるような香水と化粧の匂いと目が眩むばかりの黄金と宝石の輝きと金貨の流れ落ちる音。
    貴族や地主や銀行家を骨までしゃぶり破滅させるヴィーナス。麻薬のように脳をとろけさせ骨の髓を蝕む淫婦ナナ。ジェットコースターのように登って堕ちて登りつめて墜落した。その最後はあまりにもおぞましかった。

  • 『居酒屋』でナナが、母親と浮気相手のセックスを盗み見るシーンがあるが、あれはこの作品への伏線だったのかと思い、なるほど合点。
    序盤で登場人物が一気に出てくるので、それをしっかり把握しておかないと、途中で誰が誰だかわからなくなる。実際、前半をある程度読んで、何日か経ってから続きを読んだら意味不明で、最初から読み直す破目に陥った。
    たしか当時の新聞に一章ずつ掲載された作品だと聞いた憶えがある。そのせいか、文庫で一気に読み通すにあたっては、物語の構成にいささかのぎこちなさを感じた。
    破滅を招くとわかっていても(わかっていなくても)、人間が甘い蜜に食らいつくのは、古今東西変わらないんだなあと思った。

  • <肉体は財産にして最大の武器。安っぽささえ価値のうち!>


     一度味わったら忘れられない、悪徳はびこるゾラの作品★ 卑しい洗濯屋の娘から女優へ、高級娼婦へと、肉体の魅力を武器にのし上がっていったナナの生涯を書き綴っています。凄まじい!

     舞台に登ればたちまち紳士たちを虜に。今日もナナを呼ぶ声がこだまする。人々はナナを求める。聖女ではなく悪女の名を唱え、痺れてひれ伏す! ゾラの書き方も勢いづいていて、フランスの風俗を引きずりえぐり、ある意味で品がないまでの迫力、とりわけ群集の描写が圧巻です☆

     ところが、舞台では一気に観客の関心をさらった堂々たる美人が、別の場面では一人の男を失いたくないばかりに、なすがまま……。そんな時、濃密な生き方とは裏腹に、案外ナナは個性が薄い女だとも感じます。
     ナナその人にキャラクター臭はないけど、状況が彼女を娼婦にした。そこにこそ、あらゆる年齢、階級の男を殺すことのできる理由がひそんでいる☆ ナナは、相手の欲望を鏡のように映し出して変貌する女なのです。

     そんなわけで(?)伯爵の愛人となったナナは、お次は大金持ちの膝もガクガク言わせるほどの、とてつもない浪費癖を発揮。金を金とも思わずに使い倒しながら、謎の輝きを巻き散らします★
     浪費というのは強烈なエネルギーの大放流であると同時に、実はこれも個性のない行為だと思うんですよ……。しかし、軽薄さでさえ魅力のうち。ナナに誘惑された男の人生は、徹底的に破滅します!

     実は同性もくらくら来ていると見ましたね。「何さ、あんな女!」と言いながらも自分にはできない大胆な生き方に揺さぶられるのでしょう。軽蔑の視線の裏には羨望がひそんでいる。みんな、ナナがかっこよくて妬ましくて、きーきー言ってたんですよ。悪女倶楽部万歳~!!
     ただ、作品の狙いは明らかに悪女賛美ではないですね★ 作家ゾラは、人間がどうやったらどこまで堕ちてゆくのか、負の可能性を研究していたのでしょう。

  • ルーゴン・マッカール叢書第9巻にして、『居酒屋』の続編。前作の女主人公ジェルヴェーズの娘ナナのその後。

    前作『居酒屋』では社会の最下層の人物たちが描写され、ダメ男と貧乏と酒で家庭が崩壊するという悲惨な話だった。その家庭を飛び出した娘のナナは、その美貌と自由奔放な性格を武器にパリの社交界に乗り出していくことになる。

    まず注意点として、人物が多く人間関係も混み合っているので、序盤は何度か読み直しながら進むか、メモを取らないとこんがらがる。700ページオーバーの大作だが、序盤を越えて人間関係を把握してしまえば、、次第にそれぞれの人間描写の生々しさに面白みを感じるようになってくるので、中盤以降は意外に読みやすい。

    高級娼婦としてパリに君臨したナナは、貴族などの上層階級の男たちを虜にし、次々に食らいつくしていく。メインの相手となるミュファー伯爵だけでなく、彼女に関係するあらゆる人物の描写には、泥臭いというか生々しいというか、その負の部分に引きつけられるものがある。脇役ながら虎視眈々と野心をあたためる使用人や、某ドラクエの「遊び人が賢者になる」をまさに体現するかのようなシーンなど、印象深いエピソードがいくつも積み重なって物語は進んでいく。新聞記者フォシュリーがナナを最下層の溝泥から飛び立った「金の蝿」と例え、彼女が無意識に上層社会に復讐している様を評したのは考えさせられるものがあった。後半がおなじみの展開に思えるのは、19世紀フランスの恋愛小説を読みすぎているからだろうか。とはいえ、期待を裏切らない圧巻のラストだった。

  • ゾラは常に雪崩の如き過剰を、朦朧とさせる無間を描く。欲望、蕩尽、腐乱、獣性。ドゥミ・モンドの頂点へ一足飛びに昇りつめ、瞬く間に文字通り腐れ落ちるナナは、哀しい無邪気な仇花である。
    親の世代、そのまた親の世代から連綿と続くやるせない女の恨みを、裕福な伯爵から一身代むしりとることで男に復讐して幾ばくかでも晴らしているという意識は、本人には微塵もない。そして男を何人破滅させようと、ナナの心は満たされない。それは気晴らし、息抜き、退屈しのぎにはなっても、生きる目的ではなく手段であるから。
    ナナの望みは何だったのか。自身がそれを知る前に、子どもといっていいほど若いナナの命は淀みの泡のように消えてしまう。
    一般にいわれる悪女とは男にとっての悪女であって、ナナが悪女とは到底感じられない。
    ところでこの表紙、気分アガるな。ナナのブドワールそのものでわくわくする。

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