ある微笑 (新潮文庫 サ 2-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102118023

感想・レビュー・書評

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  • サガンです、世界的な超ベストセラー『悲しみよこんにちは』後の二作目。
    わずかに残っていた手持ちの、日焼けして活字印刷も薄い、古い古い文庫本。
    1952年前半初版、翻訳も朝吹登美子さんで1956年。

    そうですね、わたしの思い込みかもわかりませんが
    島本理生さんの作品からの連想ですね。

    すごく若くして(10代で)注目され、恋愛のみを書いているような
    なにともなく生活感が希薄な、それでいてシニカルな感じの文章。

    というわけで、実に60年ぶりに読みました。

    ストーリーは
    語り手ドミニクはソルボンヌ大学の学生(20)、恋人とのツーショットも絵になるようにほっそりとして素敵、と自分で言うようなお気楽さ。ひょんなことで彼ベルナールの叔父リュックに紹介されたのが始まり。その40男の落ち着いた魅力に惹かれ気味の彼女。そして叔父夫婦ともども仲良しになるも、リュックから「気軽に付き合わないかい?」とこっそり囁かれて度肝を抜かれるが、次第に引き寄せられて・・・パリの空の下で、カンヌで、ドミニクは若さではない人生経験の重み、渋みに魅せられて、それを愛情に変えてしまいそうになる、いやもう戻れないのではと困惑していくのである。

    サガンの筆はこの通俗的なストーリーに不思議に洒落た感性を盛り込むところが才能。『悲しみよこんにちは』よりも若さを惜しむ文学性が色濃くあると思う。
    無謀が続くわけではないとわかりつつ、果敢さ、臆病さ、好奇心、諦念に向き合う若いうごめきをさらっと描き出している。

    う~ん、当時わかっていたのかなあ~。

  • 主人公のドミニックが、元彼の叔父「リュック」を愛していると気が付くところがハイライトだと思った。
    ドミニックが、この恋愛を受動的でなく、自分の自発的な動機による能動的なものとして捉えた瞬間がこの小説の感動の中心だ、と僕は理解し、感動した。
    似たような感覚を最近の作家の作品でも感じた記憶がある。辻村深月のデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」(2007/8/10講談社文庫)の脇役=生徒会副会長の桐野景子が失恋を実感する瞬間だ。失恋した、と悲しむのではなく、失恋をしたことによって自分が苦しんでいる、と認識し、失恋で自分が苦しんでいる事に衝撃を受ける感覚を表現したシーンだ。(と書いて心配になったので十年ぶりに読み返してみた。第十二章「スカーレット」。少し違った(^_^;)

    つまり、自分の感覚に耳を傾け、自分の心の声を聞く瞬間である。

    自分の欲望を知っている人とは、恋人としても、友人としても付き合いやすい。逆に、自分の欲望を認識せず、何をするにも、他者に理由を求める人とは付き合いづらい。
    この違いは、一人旅ができる人と、一人で旅行出来ない人の違いだと思う。
    僕は
    「え? 俺、一人で旅行に行ったこと無いよ。」
    と言う人を知ってる。
    一人で何処にでも出かける人と、一人では出かけられない人との間には、実は大きな溝がある。でも、一人旅をしない人は、その溝を知らない。
    一人旅が出来ない人と旅行に行くと、とても不愉快で面倒な事になるが、その一方で一人旅が出来ない人は、その不愉快の原因を他者に求めて、そのつじつま合わせ(自分への言い訳)が非常に上手く、自分にその責任があることを(自分自身に対しても)巧妙に言いつくろって認めない。
    実際のところ、一人旅が出来ない人というのは、自立の能力が無い、と言うことなのだろう。
    Strength is ability to stand alone.
    中学か高校の英語の例文(日本人と対比して、アメリカ人が一人前の大人に必要な能力を述べたせりふ)だが、
    僕は、「日本人だから、独立心が低くて当たりまえ。」とは思わない。
    ドミニックが大人の女への扉を開いた鍵は、一人前の大人として、社会で人と対等に付き合うために必要な鍵でもあると思う。ただし、必ずしも誰もが手にする鍵ではない。一生その鍵を持たずに終える人もずいぶんといるのだろうと思う。でも、僕は付き合うなら、この鍵を持っている人と付き合いたいと思う。
    ドミニックはこの小説で語られる一年で、魅力的な大人へと変貌を遂げたと思う。

  • 1956年に書かれた小説でありながら現代に生きる私が読んでもその感覚に共感できるのはサガンの筆がきちんと愛に翻弄される普遍的な女性の心を描き出しているからなのだろう。洗練されている。
    この人の言葉はいやらしくなく、乾いている砂浜みたい。クールだ。

  • 女慣れしたリュックはずるい。
    そして、そんなリュックを理解しているフランソワーズには、誰もかなわない。
    客観的に見ると、最後どうなるかはすぐにわかる。
    自明の結果だ。
    それでも足を踏み入れてしまうのが恋なのだろう。
    現実的には、もう会わない方がよいのだけれど、それはまあ小説だからね。



    2003.9.2
    ドミニックは若かった。自分を過信していたのだろう。そうでなければ、リュックと旅行になんて行きはしない。人を好きになると、自分を止められなくなってしまう。だから、最初が肝心だ。止められるチャンスがあるうちに止めてしまわなくては。止めてしまうと恋愛の素晴らしい部分を捨てなくてはいけなくなる。それは、あるいは、人生において一種の醍醐味を捨てることになるのかもしれない。でも、自分がどうなるかを知ってくことは必要かもしれない。何事も経験だから。めいいっぱい背伸びをして相手に合わせようとしているドミニックがかわいい。残酷で、自分のことに必死で。リュックは一時的な興味を持ってドミニックに近づいただけなのに。いわば、恋愛ゲームをしていただけなのに。そういう恋人を本気になりかけてきたと自分で気が付いたら、手を引かなくては。恋愛はバランスだ。だいたい同じレベルでないと、何かと苦しい。遊びの相手は遊びで、なんて、うまくいけば誰も苦労はしないのだけれど。



    1999.2.19
    ドミニックは20歳、私と同じくらいだということもあってか、とても共感しながら読めた。もちろん、状態的にはちっとも似ていないけれど、ややクールで落ち着いて周囲を見ているようなドミニックの目の動きがおもしろい。結局リュックを愛してしまうのだが、この行動は20歳ゆえのものだと思う。大人になりつつある、でもややあどけないドミニックを見て、今の自分を少し感じることができた。

  • 私の記憶を揺さぶるひとつの小説。

    結局突きつけられる現実は、
    彼は私を愛していないということ。
    決定的であり理解のできない事実だから、
    諦める以外に方法はどこにもなかった。

    散々泣きじゃくった後に湧き上がる、
    ある種の微笑みは、
    自分がまた着地したことによる、
    客観的な過去の自分への嘲笑であり、
    求められたことへの満足との
    二重の意味を持っている気がする。

  • 明晰、ただ明晰と言っても本当に本当に明晰だと思う。普通こんな風には書けない。サガン全般に言えること。
    まだ二作目ということもあってかなりその色が濃い。物語を引っ張るのはただ一人の女の感じたこと、考えたこと。もちろん、力強い展開や繊細な表現抜きには語れないが、特に奇抜でない設定の中に生きるただ一人の女からみた景色がどうしてこんなにも新鮮にうつるんだろう。
    それはすべて彼女の明晰さから来ている。そしてその明晰さは若い女性が持つには残酷すぎた、そりゃあ少し倦怠感も感じるだろうよ。

  • 人生にすでに倦怠している若い女性が、恋に執着する。
    他になにも知らないからこその執着心なのだと思う。
    恋は、他のものがすべてくだらなく思えるくらいの魔力はあるんだけど、なにか持っているかいないかで、恋の意味合いは全然変わってくると思う。

    相手の方が恋愛について上手で、楽しんでいて、
    ドミニックは、若いからこそ、恋に飲まれて一人で苦しんでしまう。
    ロマンティックだけど、当の本人の苦しみは凄まじい。
    自分は世界で一番相手を想っているのに、相手にとってはなんてことない出来事ってすごく悲しい。ほんとうに孤独だ。

    フランソワーズが「私はあまり若くないでしょ」っていう言葉を絞り出すように言った場面が印象に残った。

  • リュックさんは多分ただただ正直なだけ。
    でもきっとサイテー。
    しかしそれをサイテーだと思うのは日本人の私たちの感覚で、そしてドミニクが若いからなのかもしれない。
    アンコンシャスバイアスなのか。
    でもほんと単純よね、多分現代日本で同じ設定で物語を作ると、色恋以外の様々なことが絡んできてそれはそれは複雑なことになるんじゃないかな…。
    時代の問題なのか、当時もあえてそこだけに絞ったのか。

  • 3冊目のサガン。
    くどい。

    ひとりよがりの彼女であり、わかりきっていた根元のリュック。
    3ページでベルトランが叔父に会いに行かなくてはいけないと言った瞬間からわかった。きっと彼女は彼と恋に落ちると。

    説明に継ぐ説明は、彼女もきっと沼にハマる予感があったからこそ。でも抜け出せない、そこに沼がある限り。それが恋ってものよ。

    ちょっと疲れた。
    でもきっとまた読む、それがサガン。

  • 愛と孤独は常に肩を寄せている。

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著者プロフィール

1935‐2004。フランス、カジャルク生れ。19歳の夏、デビュー小説『悲しみよこんにちは』が批評家賞を受け、一躍時代の寵児となる。『ブラームスはお好き』『夏に抱かれて』等、話題作を次々に発表した。

「2021年 『打ちのめされた心は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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