- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102122020
感想・レビュー・書評
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ユーロになる前のフランスの50フラン紙幣は星の王子様。繊細な色彩で、象を飲み込むウワバミや、サン・テグジュペリの飛行機と飛行経路も書かれたかなり凝ったもの。
フランスにとってサン・テグジュペリは紙幣になる存在なのですね。
この「人間の土地」の表紙の絵と後書きは宮崎駿が書いています。戦闘機乗りの資料はかなり持っているようです。
サン・テグジュペリは、「平均寿命は2週間」と言われる戦闘機パイロットになり、偵察飛行中に行方不明、その後正式に墜落機が見つかり死が確認されました。
★★★
郵便飛行機の操縦士の時に体験した、欧州から南米へ砂漠や海を越えて空路の旅での肉体および精神的体験の記録。
飛行機乗りの命を支える小さな印。着陸を台無しにする草原の小さな川、一軒だけ建っている農家から漏れる灯り。
水の無い砂漠の民族の暮らしと生活、彼らは欧州の森で滝の終わりを見たがり、無尽蔵な水にフランスの神の気前の良さを感じる。
砂漠では危険な不帰順族もいる。不時着した飛行士を殺すこともあるし、親しくもてなすこともある。
10分通信が途絶えると行方不明を示すほどの危険な空路、ある仲間はそのまま姿を消し、ある仲間は不時着地から数日間歩き続けて帰ってきた。
サンテックス自身も危険な飛行を行い、ある時は砂漠にとらえられた。いきなりまっただ中から砂漠に乗り込んだ、まるでトリモチに捕まったように。
仲間の操縦士と3日間歩き続けて救出するまでの日々、砂漠の生物に見た生命の知恵、水や救助の幻。帰れないと思い泣くのは自分のためではない、待っていてくれる人たちのため、彼らの自分を見る複数の目。それを思うと堪らない。向こうで彼らが助けを求めている。
【「ぼくが泣いているのは自分の事なんかじゃないよ」そうだ、そうなのだ、耐え難いのは実はこれだ。待っていてくれる、あの数々の目が見えるたび、僕は火傷のような痛さを感じる。すぐさま起き上がってまっしぐらに走り出したい衝動に駆られる。彼方で人々が助けてくれと叫んでいるのだ、人々が遭難しかけているのだ。
これは実に変わった役割の転倒ではあるが、僕は普段からこう考えている。
(…中略…)
なぜぼくらの焚火が、ぼくらの叫びを世界の果てまで伝えてくれないのか?我慢しろ…ぼくらが駆けつけてやる!…ぼくらのほうから駆けつけてやる!ぼくらこそは救援隊だ!】(P162~)
★★★
嵐に会った仲間の場面が圧巻でした。
【そこには竜巻が幾つとなく集まって突っ立っていた。一見それらは寺院の黒い円柱のように不動のもののように見えた。それら竜巻の円柱は、先端に膨らみを見せて、暗く低い暴風雨の空を支えていた。そのくせ、空の隙間からは、光の裾が落ちてきて、皓皓たる満月がそれら円柱の間から、冷たい海の敷石の上に照り渡っていた、そしてメルモスはこれら無人の廃墟の間を横切って、光の瀬戸から瀬戸へとはすかいに海がたけり狂いつつ昇天しているに相違ない巨大な竜巻の円柱を回避しながら、自分の道を飛び続けた。月光の滝津瀬に沿うて、前後四時間の飛行の後、彼はようやくその竜巻の寺院の出口へ出ることができた。しかもsの光景が如何にも圧倒的なものだったので、黒鳴戸(ボトオノアール)から解放されたときになって初めてメルモスは気づいた。自分が恐怖感は持たずにしまったことに】(P25~)
この描写は、嵐に会った友人のメルモスの話を書いたものだが、語ったメルモスも、書いたサンテックスも情緒が深いというか飛行機乗りは危険な中に美しさを見つけてしまうものなのか。
この場面はまさに宮崎駿が映像化したくてうずうずしてそうだ(笑)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『人間の土地』、購入してから7年経ってようやく読了しました。サンテグジュペリの言いたかったことは最終章にあり、それまでの章で描かれてきたことが最後でつながる。わりと一般的な構成ではありますが、この最終章までの流れが素晴らしい。
私は40過ぎてちゃんと読んだけど、若い方に読んで欲しい本。高校生〜大学生、それから20代後半〜30代前半くらいまでの方で、仕事や人生に対して「本当にこれでいいのかな」と悩んでる方などにお薦めだと思う。
しかし、堀口大學さんの訳が読みづらいので、2015年に出た光文社古典新訳文庫の方から読んだ方が良いのではと思います。
私は堀口大學さんはNHKの番組を観て好きになったけど、それと訳はまた別。堀口さんがもし今ご存命だとしたら、また違う感じになったのではないかと。
前作『夜間飛行』『南方郵便機』も読みづらかったのですが、この二作ですでに訳し方が若干違っていて、『夜間飛行』→『南方郵便機』→『人間の土地』と進むにつれて、だんだん読みやすくなっています。特に飛行機の専門用語の訳し方はちょいちょい変えてあって、『人間の土地』は専門家の方に協力してもらったそう。
翻訳というのはそういう風に、時代に合わせてマイナーチェンジされる、アップトゥデイトされるものだと私は考えています。これは外国映画の翻訳もそうだし、また逆に日本映画の海外翻訳から考えさせられたことです。古い日本映画はセリフが聴きづらいことが多いけど、海外だと字幕がつくから、日本ではなく海外の方が受け入れやすかったりするのでは。
堀口大學さんはたぶん、なるべく直訳に近い形で訳されていると思う。しかしフランス語と日本語では当然文型が異なるので、そのまま訳すと倒置されてしまう。これも読みにくい理由かと。日本語ラップかよ!って感じですね笑。
✳︎
前置きが長くなりましたが内容について。
まずこの本は冒険小説。ほぼノンフィクションかな。似たことが解説でも書かれてますが、サンテグジュペリが「実際に行動して経験したこと」と、「文章を書ける表現力がある人、詩人」の両輪がなければ、この小説は成り立っていないと感じました。
例えば有名な問い、「なぜ山に登るのか」ということを考える。登山以外でも、なぜマラソンをするのか、とか。あんなに苦しいのに。きついのに。
サバイバル登山家の服部文祥さんとか、あと開高健がなぜベトナムの戦場に行ったのか、とか。
極限状態に自分を置くこと、荒ぶる自然と肉薄することで、「なぜ生きているのか」という哲学、実存についての問いになってくる。(映画の場合、刑務所や収容所もの、戦争ものなどに多いテーマ)
我々、普通に生活をしている現代人の多くは、こういう極限状態を体験することはほとんどない。読書を通じて、サンテグジュペリのこの体験を知れるということはそれだけで貴重です。
各章のエピソードはどれも良いけど、印象的だったのは奴隷だった男の話。先程書いた最終章からは、映画『ハートロッカー』を思い出した。
私はこの本をブックオフで105円という安価美品で購入したのだけど(前の増税前!)、こんなに良い本を手放す人も多いので、読書が好きな人、学生さんなどお金がない人にとってはチャンスですよ。ぜひ読んでみてほしいです。 -
フランス文学屈指の名作である。
多くの人が堀口先生の訳を難解と感じ挫折されているようだが、私はとても正しく美しい訳だと感じた。この訳で内容が理解出来ないのならば、フランス語で読むか、或いは理解出来るようになった時にもう一度読むべきだろう。
空について、砂漠について、土地について、人間について――飛行士の生き方が、美学がこのたった一冊に凝縮されている。
無人島や砂漠に放り出されて、けれども一冊だけ本を持っていけるならば、私は本書を選びたい。-
堀口大學と言えば「月下の一群」ですねぇ、、、
ところでサン=テグジュペリですが、光文社古典新訳文庫に「夜間飛行」が入ったので、堀口大學訳と読...堀口大學と言えば「月下の一群」ですねぇ、、、
ところでサン=テグジュペリですが、光文社古典新訳文庫に「夜間飛行」が入ったので、堀口大學訳と読み比べをしようと思いつつ未だ出来ていません、、、この「人間の土地」も新たに訳されるかも。2013/01/15
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「夜間飛行」の世界観が好きで手に取ったのですが、
これが実話というなら、なんと生きていたことの奇跡か。
1〜7章までのエピソードが締めくくられる8章は、
印象的な言葉の数々。
・どうやら、あのような危急存亡の時期に、人は己れの
真の姿を見いだし、また自分自身の共になるものらしい
・麦を見分ける術を知っているのは、土地なのだ
・愛とはお互い見つめ合うことではなく、共に同じ方向を
見つめること
・精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる
comfortable zoneにいる限り、
人は自分の本然を土の中に埋まらせたまま、
力を持て余したままだ、というメッセージ。
力を解放するには、新しいチャンス、適材適所、危機的に追い詰められた状況という条件が必要。
人生を、同じ方向をみて、同じように力を出し合って走る
仲間が出来れば、それ程幸せなことなんてない。
現代でも通じる、人間の話ですね。
自分の職業、職場環境について考えている時分、
余計に刺さりました。
また読み直したい。 -
絵本「星の王子さま」で有名なサン・テグジュペリ氏。まさかこれほどまでに壮絶な体験をされていたとは、まったく知らなかった。なぜ星の王子さまがあれほど哲学的なのか、そのベースとなる著者の考えに触れることが出来る名著。翻訳が少し読みにくい箇所が多々あるが、それを補って余りある内容である。
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Terre des Hommes(1939年、仏)。
ともすれば、エゴイズムを個性の発露として美化しがちな文学の世界で、この作者は稀に見る高邁な精神の持ち主だったようだ。空や砂漠という過酷な自然と日々対峙していると、本質的なものを見抜く感覚が鋭敏になるのかもしれない。不要なものは自ずと削ぎ落とされるのだろう。一世紀近くたった今でもなお、色褪せることなく、むしろ一層の現実味を帯びて胸に迫ってくる名言の数々。人生の道標たりえる一冊だと思っている。 -
無人島に1冊だけもっていくとしたら、
刑務所に差し入れてもらうとしたら、
死ぬ前に1冊だけ読めるとしたら、この本にします。
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2010/01/12
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『星の王子さま』で有名なサン=テグジュペリのエッセイ。飛行士としての経験と、そこから考察した人間観が語られる。
星の王子さまを読んで、サン=テグジュペリって何て素敵な表現をする詩人なんだろうと思ったけど、これを読んで印象がガラッと変わった。行動力と精神力がとてつもなく高い冒険家で、洞察力に優れた哲学者なんだなと。
幾つかのエピソードが描かれていて、全体として「人間として気高く生き、世界に対して責任を持つこと」の重要さが語られているのだけど、奴隷のエピソードはすごい心に残ったなぁ…どれだけ過酷な環境でも人間としての尊厳を失わず生きるという話なんだけど、『夜と霧』みたいな印象。
あと、「愛するということは向かい合うことではなく、同じ方向を向くことだ」ってこの本の言葉だったのね。。しかも恋愛関連の名言かと思ったら全然ちゃうやんけ。「これは知っておきたい!恋愛に関する名言10」みたいなネイバーにありがちなチープなまとめ記事によく載ってたから騙されちまったぜ…
表紙が宮崎駿ってのも良いね。あとがきも宮崎駿が書いているけど、これを読むと駿が「風立ちぬ」をどれだけ作りたかったのかがよく分かります。
ただ、すごくすごくいい作品だというのは分かるのだけれど、如何せん文章が読みにくい…これくらい固い文体の方が格調高くて良いというのも分かるのだけれど。。。 -
伊坂幸太郎の砂漠をキッカケに手に取った一冊。
まだ飛行機の故障が多く、空路も定まっていない時代
操縦士として働いた彼は、友人の死や不時着した砂漠での
四日間を通し人間の生きる意味、自由と責任などについて
熟考します。言葉一つひとつが詩的で美しく、重みを持っています。
“真の贅沢というものは、ただ一つしかない。それは人間関係の贅沢だ。”という一文が有名。また文章のいたるところから自然の雄大さ、脅威を感じられることが魅力の本書だが、私はこの本の魅力は人間の『責任』、生きる意味を考えさせるところにあると感じた。
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人間についての、机上ではない考察。
その土地、経験、職業が人生観や人間観、もっと大きく捉えると哲学というものに、いかに大きな影響を与えるか、あるいはそれらこそが哲学の土台になるものではないかと思う。
日本人は自然と対決するというよりは、自然と寄り添い、折り合いをつけていくという思想になっていると思うが、それはたぶん、この国の地理や気候のせいだ。何人であっても、長年この土地で代々暮らしてくればそういう思想になると思う。同様に、砂漠などの厳しい自然に対峙しなければならない環境では、自ずとこの本に書かれているような人間観になるだろう。
哲学は、それぞれの人が自らの経験に基づいて構築するものだ。だから皆、固有の哲学を持つ。それでいい。
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