人間の土地 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102122020

感想・レビュー・書評

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  • 【読もうと思った理由】
    サン=テグジュペリと言えば、言わずと知れた「星の王子さま」。実はお恥ずかしながら本作まで、サン=テグジュペリ作品は「星の王子さま」しか読んでいなかった。ではどこで興味を持ったかというと、YouTubeチャンネルの彗星読書クラブだ。
    運営者である森大那(モリダイナ)氏の番組の一つのコンテンツで「絶対高品質 おすすめ小説10選」で知った。この方が紹介する文学作品は、いわゆる純文学作品で、僕が最も苦手な分野だ。
    尚且つ、この方が紹介する文学作品は、純文学の中でもかなりニッチで、小難しそうな作品が多い。ただ「絶対高品質 おすすめ小説10選」での紹介のレビューが、あまりに素晴らしく、ついつい10作品ともブグログの「読みたい」で登録したほどだ。 
    その中で最も読みやすそうな「人間の土地」を最初に読む作品で選ぶ。なお、新潮文庫版は、“あとがき“を宮崎駿氏が書いており、森大那(モリダイナ)氏曰く、宮崎駿氏の“あとがき“が、とにかく素晴らしく、この“あとがき“だけで、この本を読む価値があると、熱弁されていた。
    そこに感銘を受け読むに至る。

    【あらすじ】
    (文庫裏表紙)
    “我慢しろ…ぼくらが駆けつけてやる!…ぼくらのほうから駆けつけてやる!ぼくらこそは救援隊だ!“ サハラ砂漠の真っ只中に不時着遭難し、渇きと疲労に打ち克って、三日後奇跡的な生還を遂げたサン=テグジュペリの勇気の源泉とは…。職業飛行家としての劇的な体験をふまえながら、人間本然の姿を星々や地球のあいだに探し、現代人に生活と行動の指針を与える世紀の名著。

    (文庫本、帯より)
    読むべし、この言葉。
    「精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる」
    サン=テグジュペリの作品や、同時代のパイロット達が好きになればなる程、飛行機の歴史そのものを冷静に捉えなおしたい、と僕は考えるようになった。飛行機好きのひ弱な少年だった自分にとって、その動機に、未分化な強さと速さへの欲求があった事を思うと、空のロマンとか、大空の征服などという言葉では胡麻化したくない人間のやりきれなさも、飛行機の歴史の中に見てしまうのだ。(宮崎駿氏“あとがき“より抜粋)

    【著者サン=テグジュペリについて】
    (1900ー1944)
    名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生まれる。海軍兵学校の受験に失敗後、兵役で航空隊に入る。除隊後、航空会社の路線パイロットとなり、多くの冒険を経験。その後様々な形で飛びながら、1928年に処女作「南方郵便機」、以後「夜間飛行」(フェミナ賞)、「人間の土地」(アカデミー・フランセーズ賞)、「戦う操縦士」「星の王子さま」等を発表、行動主義文学の作家として活躍した。第2次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、1944年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず。

    【感想】
    うーん、まだ1回しか読んでいないが、正直半分も理解できていない。
    訳されたのが1955年で、結構時代が古いため、言葉のチョイスが現在と大分違っていて、そこが最も頭の中に入ってこない理由だと思う。残念で悔しい。悔しすぎるので、「歎異抄」の時にも実施した、古典作品を一冊読んで理解が追いつかない時は、「別の翻訳者の同作品を読む」を、この後すぐに実施します。次に読むのは、僕が信頼している光文社古典新訳文庫です。

    理解度が甚だ乏しいが、光文社古典新訳文庫を読む前に、ざっと感じた感想を。

    この作品は小説ではなく実体験を綴ったエッセイだ。
    8章からなる章立てで、サン=テグジュペリが15年間の職業飛行家としての豊富な体験をを元に、その時に感じた感情を赤裸々に綴っている。
    現在、飛行機はかなり安全な乗り物だが、サン=テグジュペリがパイロットを実際していた1920年代〜1940年代は、かなりパイロットの死亡事故も多く、危険な仕事だった。そんな中ある僚友であるギヨメの遭難事故や、自身もリビアの砂漠の真っ只中に不時着し、3日間全く飲まずに瀕死状態の体験をリアルに語っている。
    主にこの2つの出来事における、自身の心におきる葛藤や不安・目の前に迫った死の恐怖を、リアルで詳細に表現されていて、ここが一番心を揺さぶる筈なのだが、そこまで心に響かなかった。
    それは作品の質が低いわけでは決してなく、かなりの傑作であることが、感覚としてぼんやりと感じられるだけに、自分の理解力が追いついていないのが悔しい、悔しすぎる。

    ちなみに、森大那(モリダイナ)氏が薦めてくれた宮崎駿氏の解説は、本当に素晴らしかった。
    僕の理解度をおおいに助けてくれ、心より感謝しております。

  • 先日読んだ「夜間飛行」に感銘をうけたため、こちらも読むしかない!ということで…

    まだインフラが整っていない時代、夜間の郵便飛行業が命がけだったころ、職業飛行家として生きた15年間の豊富な体験の思い出を8編にした「星の王子さま」のサン=テグジュペリのエッセイである
    飛行家としての命がけの劇的な体験や、勇敢で誇り高い僚友たちのこと、そして自然とは、人間とは…
    きわめて詩的で哲学観(感)満載の書である

    通勤電車で読める本ではなかった…
    ふ…深い!ある意味哲学書である
    言葉を何度も噛みしめながら脳と心を働かせないとなかなか創造と理解が進まない
    結局連続して2回読んでみた(まだ完全には理解できていないが…)

    ちなみに「夜間飛行」もこちらも表紙の絵は宮崎駿氏である
    宮崎氏は20歳の頃、サン=テグジュペリや同時代の飛行士達に憧れを持ち、60歳頃にしても、一番影響された…と言う
    改めて「紅の豚」「風立ちぬ」を観てみたい
    違った目線で何か気づくことが出てくる気がする

    早速だが冒頭がいきなりこれだ↓
    〜ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える
    理由は、大地が人間に対抗するがためだ〜
    タイトルとこの文章だけで、何分も思考をめぐらせてしまう…
    サンテックスの頭の中はどうなっていたのだろうと毎度感心してしまう
    何かに達観しているような仙人さを感じる

    【彼らの功績と偉大さのわかる一部を3編に渡り紹介】

    ■メルモス編
    サハラ砂漠を乗り越える橋をかけた実績のある僚友メルモス
    今度は南米の空路調査
    与えられた飛行機は上昇限度5200メートル
    しかしアンデス山中の高峰は7000メートルに達する
    砂漠を克服したら、山に挑むのだ
    「ためしに」…である
    そういう職業である
    さらには空港に照明設備がない中、夜間着陸し、夜間航空を開発
    そして次は海洋
    このおかげで郵便物のスピードが飛躍的にアップ
    〜このようにメルモスは、砂漠を、山岳を、夜間を、海洋を開発した
    彼は一度ならず砂の中、山の中、夜の中、海の中に落ちこんだ しかも彼が帰ってくるのは、いつも決まってふたたび出発するがためだった〜

    ■ギヨメ編
    冬のアンデス山脈横断の途中(そう先ほどの7000メートルの高峰の山岳地帯である)
    7日間の行方不明
    機体の下に潜り込んで、暴風と雪から身を守るため、郵便物で身を囲み48時間待ってみた
    暴風がおさまり、彼は歩き出した
    5日間
    ピッケルもザイルも食糧ももたず…である
    ~ぼくは断言する、ぼくがしたことはどんな動物でもなしえなかったはずだ~
    サンテックはこれをもっとも高貴なギヨメの言葉とし、この極限下で生還することについて、下記のように述べる
    ~自分に対する責任、郵便物に対する、待っている僚友たち、家族………
    生きているあいだに新たに建設されつつあるものに対して責任があった
    さらには彼の職務の範囲内で、彼は多少とも人類の運命に責任があった……中略……
    人間であることは自分の僚友が勝ち得た勝利を誇りとすることだ
    人間であるということは、自分の石をそこに据えながら、世界の建設に加担していると感じることだ~

    ■サンテックス編
    砂漠の真ん中での不時着
    ~ぼくはすでにもう、この明らかな事実を知っていた、耐えがたいものなんか一つもありはしないと
    死を前の煩悶は感じないらしい ただ忍びがたい何ものかがあるのだ~
    水分がなくなった
    布切で機翼を拭いた夜露と塗料と油の混ざった液体を飲む
    拳銃があることを確認する(だが、「それがどうした」と思う)
    この極限状態の中何時間も歩き続ける
    疲労、妄想…とうとう幻覚が見え出す
    ここでは19時間、人は水なしで生きられる(生きられない)
    ~助からぬものと信じていた 絶望のどん底に達したと信じていた
    ところが、一度あきらめてしまうと、ぼくは平和を知った
    危急存亡の時機に人は己の真の姿を見いだし、また自分自身の友になるものらしい
    何ともしれないある本質的な欲求を満たしてくれるあの充実感には、何ものもまざりえまい
    首まで砂に埋もれ、じわじわと、渇きに喉を締めつけられながら、あの星の外套の下で、あんなに心が暖かかった時のことをどうして忘れられよう…~

    究極の精神と究極の魂の神々しさを感じる
    (自分が苦しみと絶望の極限状態でこのように達観できるだろうか…)
    そしてどんな場合でさえも、美しい詩となり表現される

    他にも
    砂漠についてや、あるおとぎ話のような家と娘たちの出会い、様々なモール人、モール人の奴隷解放…
    他では聞いたことのない出会いや出来事が興味深い
    サンテックスの筆にかかるとまるでSFのようだ

    あらゆる場面にサンテックの哲学が散りばめられている
    自然の脅威と美しさ
    人間の本質、生物の誕生と死
    宇宙
    飛行機の光と影
    職務
    友情
    そして情景描写の詩的な美しさを常に感じる

    一読、二読ではもったいない
    究極に精神に届く書である

    (稚拙な言葉しか出ないのだが…本当にすごい人物である)

  • ユーロになる前のフランスの50フラン紙幣は星の王子様。繊細な色彩で、象を飲み込むウワバミや、サン・テグジュペリの飛行機と飛行経路も書かれたかなり凝ったもの。
    フランスにとってサン・テグジュペリは紙幣になる存在なのですね。

    この「人間の土地」の表紙の絵と後書きは宮崎駿が書いています。戦闘機乗りの資料はかなり持っているようです。

    サン・テグジュペリは、「平均寿命は2週間」と言われる戦闘機パイロットになり、偵察飛行中に行方不明、その後正式に墜落機が見つかり死が確認されました。

    ===
    郵便飛行機の操縦士の時に体験した、欧州から南米へ砂漠や海を越えて空路の旅での肉体および精神的体験の記録。
    飛行機乗りの命を支える小さな印。着陸を台無しにする草原の小さな川、一軒だけ建っている農家から漏れる灯り。
    水の無い砂漠の民族の暮らしと生活、彼らは欧州の森で滝の終わりを見たがり、無尽蔵な水にフランスの神の気前の良さを感じる。
    砂漠では危険な不帰順族もいる。不時着した飛行士を殺すこともあるし、親しくもてなすこともある。
    10分通信が途絶えると行方不明を示すほどの危険な空路、ある仲間はそのまま姿を消し、ある仲間は不時着地から数日間歩き続けて帰ってきた。

    サンテックス自身も危険な飛行を行い、ある時は砂漠にとらえられた。いきなりまっただ中から砂漠に乗り込んだ、まるでトリモチに捕まったように。
    仲間の操縦士と3日間歩き続けて救出するまでの日々、砂漠の生物に見た生命の知恵、水や救助の幻。帰れないと思い泣くのは自分のためではない、待っていてくれる人たちのため、彼らの自分を見る複数の目。それを思うと堪らない。向こうで彼らが助けを求めている。
    【「ぼくが泣いているのは自分の事なんかじゃないよ」そうだ、そうなのだ、耐え難いのは実はこれだ。待っていてくれる、あの数々の目が見えるたび、僕は火傷のような痛さを感じる。すぐさま起き上がってまっしぐらに走り出したい衝動に駆られる。彼方で人々が助けてくれと叫んでいるのだ、人々が遭難しかけているのだ。
    これは実に変わった役割の転倒ではあるが、僕は普段からこう考えている。
     (…中略…)
    なぜぼくらの焚火が、ぼくらの叫びを世界の果てまで伝えてくれないのか?我慢しろ…ぼくらが駆けつけてやる!…ぼくらのほうから駆けつけてやる!ぼくらこそは救援隊だ!】(P162~)

    ===

    嵐に会った仲間の場面が圧巻でした。
    【そこには竜巻が幾つとなく集まって突っ立っていた。一見それらは寺院の黒い円柱のように不動のもののように見えた。それら竜巻の円柱は、先端に膨らみを見せて、暗く低い暴風雨の空を支えていた。そのくせ、空の隙間からは、光の裾が落ちてきて、皓皓たる満月がそれら円柱の間から、冷たい海の敷石の上に照り渡っていた、そしてメルモスはこれら無人の廃墟の間を横切って、光の瀬戸から瀬戸へとはすかいに海がたけり狂いつつ昇天しているに相違ない巨大な竜巻の円柱を回避しながら、自分の道を飛び続けた。月光の滝津瀬に沿うて、前後四時間の飛行の後、彼はようやくその竜巻の寺院の出口へ出ることができた。しかもsの光景が如何にも圧倒的なものだったので、黒鳴戸(ボトオノアール)から解放されたときになって初めてメルモスは気づいた。自分が恐怖感は持たずにしまったことに】(P25~)
    この描写は、嵐に会った友人のメルモスの話を書いたものだが、語ったメルモスも、書いたサンテックスも情緒が深いというか飛行機乗りは危険な中に美しさを見つけてしまうものなのか。
    この場面はまさに宮崎駿が映像化したくてうずうずしてそうだ(笑)

  • サン=テグジュペリが職業飛行家時代の体験を元に描いた本。
    同僚もサン=テグジュペリ自身も、不時着して、砂漠をさ迷い死を覚悟するような目にあいながらも、飛行機に乗り続ける。
    当時の飛行機乗りは、死と隣り合わせの危険な職業だったのに、それでも人を惹き付ける飛行機の魅力ってなんだろう。それは、ギリギリのところで"命"を実感できるところかもしれない。

    そのせいか、人間の土地"と"星の王子さま"では、文体、印象などは全然違うが、根底に流れるものは近いように感じた。

  • 「人生を狂わす名著50」で紹介されていたので、読んでみた。サン・テグジュペリと言えば、言わずとしれた「星の王子さま」の作者。彼が書く他の本も、ぜひ読んでみたかった。

    本書は、飛行機乗りであった筆者の自伝のようなお話。さらに自身の体験を元にした、エッセイ的な内容を含む。

    翻訳は悪くない。とても自然な日本語で、読みにくいところはあまりなかった。むしろ、各所に散りばめられた、それこそ星の瞬きのような至言は、日本語としても美しかった。

    内容はと言えば、正直に言うと前半は退屈な部分もあった。よく言えば、静かで味わい深い語り口、とも言えるかもしれない。単純に、自分の好みと合わなかったのかもしれない。

    しかし、後半。筆者が砂漠で遭難するパートはのめり込むものがあった。遭難し、生死の境をさまよった筆者。彼が最後にどうなるのか、その部分の描写はとても引き込まれた。

    本書が教えてくれるのは、まず自然について。都市に住んでいると忘れてしまうけれど、自然は本来人間に優しくない。というより、人間の都合の良いように、その姿を変えてはくれない。しかし、有史以来の不断の努力によって、僕らは水・天候・食物と向き合ってきた。そんな当たり前の事実を思い出させてくれる。

    また、過酷な自然と向き合う中で、筆者は人間の、そして生きるということの真実を見つける。

    死を肯定的に捉えるのは、自分も同意する部分がある。本書の終盤で語られる内容は、とても面白かった。サン・テグジュペリの至言が詰まった一冊。

    (書評ブログもよろしくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E9%81%8E%E9%85%B7%E3%81%AA%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%A7%E3%80%81%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AE%E7%9C%9F%E5%AE%9F%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%8D%E5%90%88%E3%81%86_

  • “紅の豚“に出てくるような飛行機の時代、フランスから南米までの郵便機での飛行。吹き曝しの操縦席で、何時間も羅針盤と自分の感覚を頼りに操縦する。その職人技に驚かされた。1939年にこれだけ素晴らしい本が発行されても、どこかで戦争が行われている…。

  • 凄かった。サン=テグジュペリの表現力にただただ感銘を受けました。彼のこの感性を培ったのもまた、大地だったのでしょう。
    人間らしい生き方の一つの正解を教えてくれた一冊でした。数年後に再読したいと思います。

  • 『人間の土地』、購入してから7年経ってようやく読了しました。サンテグジュペリの言いたかったことは最終章にあり、それまでの章で描かれてきたことが最後でつながる。わりと一般的な構成ではありますが、この最終章までの流れが素晴らしい。

    私は40過ぎてちゃんと読んだけど、若い方に読んで欲しい本。高校生〜大学生、それから20代後半〜30代前半くらいまでの方で、仕事や人生に対して「本当にこれでいいのかな」と悩んでる方などにお薦めだと思う。

    しかし、堀口大學さんの訳が読みづらいので、2015年に出た光文社古典新訳文庫の方から読んだ方が良いのではと思います。

    私は堀口大學さんはNHKの番組を観て好きになったけど、それと訳はまた別。堀口さんがもし今ご存命だとしたら、また違う感じになったのではないかと。
    前作『夜間飛行』『南方郵便機』も読みづらかったのですが、この二作ですでに訳し方が若干違っていて、『夜間飛行』→『南方郵便機』→『人間の土地』と進むにつれて、だんだん読みやすくなっています。特に飛行機の専門用語の訳し方はちょいちょい変えてあって、『人間の土地』は専門家の方に協力してもらったそう。

    翻訳というのはそういう風に、時代に合わせてマイナーチェンジされる、アップトゥデイトされるものだと私は考えています。これは外国映画の翻訳もそうだし、また逆に日本映画の海外翻訳から考えさせられたことです。古い日本映画はセリフが聴きづらいことが多いけど、海外だと字幕がつくから、日本ではなく海外の方が受け入れやすかったりするのでは。

    堀口大學さんはたぶん、なるべく直訳に近い形で訳されていると思う。しかしフランス語と日本語では当然文型が異なるので、そのまま訳すと倒置されてしまう。これも読みにくい理由かと。日本語ラップかよ!って感じですね笑。

    ✳︎

    前置きが長くなりましたが内容について。

    まずこの本は冒険小説。ほぼノンフィクションかな。似たことが解説でも書かれてますが、サンテグジュペリが「実際に行動して経験したこと」と、「文章を書ける表現力がある人、詩人」の両輪がなければ、この小説は成り立っていないと感じました。

    例えば有名な問い、「なぜ山に登るのか」ということを考える。登山以外でも、なぜマラソンをするのか、とか。あんなに苦しいのに。きついのに。
    サバイバル登山家の服部文祥さんとか、あと開高健がなぜベトナムの戦場に行ったのか、とか。
    極限状態に自分を置くこと、荒ぶる自然と肉薄することで、「なぜ生きているのか」という哲学、実存についての問いになってくる。(映画の場合、刑務所や収容所もの、戦争ものなどに多いテーマ)

    我々、普通に生活をしている現代人の多くは、こういう極限状態を体験することはほとんどない。読書を通じて、サンテグジュペリのこの体験を知れるということはそれだけで貴重です。

    各章のエピソードはどれも良いけど、印象的だったのは奴隷だった男の話。先程書いた最終章からは、映画『ハートロッカー』を思い出した。

    私はこの本をブックオフで105円という安価美品で購入したのだけど(前の増税前!)、こんなに良い本を手放す人も多いので、読書が好きな人、学生さんなどお金がない人にとってはチャンスですよ。ぜひ読んでみてほしいです。

  • 「たとえ、どんなにそれが小さかろうと、ぼくらが、自分たちの役割を認識したとき、はじめてぼくらは、幸福になりうる」

    自分の役割を認識すること
    あれやこれや回り道をして
    ようやくその小さな役割を見つける
    ああ、これなんだ
    そのときの満たされた感覚と、動き出す感覚

    人に飼われていた羚羊が、ある日柵をしきりに押す
    自分を完成してくれるはずのひろがりを求めて
    自分たちの踊り
    まっしぐらな遁走
    本然、憧れ

    人間のそれは、君のそれは何かと
    この本は問いかける

  • レーダーも無線も無い時代に、
    飛行するなんて、恐ろし過ぎる。
    夜なんて無茶でしかない。
    郵便物を運ぶ為に命懸けだったとは…。
    夜間や台風の中の飛行、砂漠での遭難場面など
    追体験をしている気になる。

    ただ難しかった。
    難解だった。
    後にサンテグジュペリが飛行機に乗ったまま行方不明になる、と知った上で読んでいるので、不安がつきまとっていた。
    命懸けで空を飛び、死の淵を彷徨った作者の
    達観した哲学を少しでも理解したかった。
    光文社古典新訳文庫で再チャレンジしよう、と思う。

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著者プロフィール

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ。1900年6月29日、フランスのリヨン生まれ。
幼少の頃より飛行士に憧れてその職につく。飛行士と兼業して、飛行士の体験をもとに『南方郵便機』、『夜間飛行』などを発表。
第二次世界大戦中、亡命先のニューヨークにて『星の王子さま』を執筆し、1943年に出版。同年軍に復帰し、翌1944年7月31日地中海コルシカ島から偵察飛行に飛び立ったまま、消息を絶つ。
その行方は永らく不明とされていたが、1998年地中海のマルセイユ沖にあるリュウ島近くの海域でサン=テグジュペリのブレスレットが発見される。飛行機の残骸も確認されて2003年に引き上げられ、サン=テグジュペリの搭乗機であると最終確認された。

サン=テグジュペリの作品

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