Yの悲劇 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1987年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (463ページ) / ISBN・EAN: 9784102137024

感想・レビュー・書評

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  • ある一族の長が死体として見つかった。そこから始まる一族の話は、その一族の遺伝とも思われる狂気に満ち溢れその中で一人の夫人が亡くなる。
    誰が殺したのか、どうやって殺したのか、なぜ殺したのかなどの要素、アリバイや実行に至るまでの思考が一見するとバラバラかつ登場人物たちにうまく当てはまらない。ただ途中の作中の小説、つまりこの事件のプロットが明らかになったときその作者の思惑が、そして実行犯に流れた動機が明らかになる。マンドリンという一見凶器に使われない楽器、なぜか落ちている注射針、一つ増えた梨、そしてバニラの香りとツルツルの肌。全てに意味があり、そして全てを満たす実行犯の中に流れる一族の呪いが、そして、そこから実行犯に芽生えた一族の狂気が物語を結末へと誘う。
    こういったダークの雰囲気を帯びた古典的名作は読み進めるのが最初だらだらしてしまうが、途中から読む手が止まらない。話の中に没入できる名作。

  • 私の海外ミステリ〝初体験〟は「Yの悲劇」(1932)だった。まだ十代の頃、気ままに選んでいた国内/海外文学の流れで出会った。各種ランキングで長らく不動の首位に輝いていた本格推理小説黄金期の名作。これは、後になってから知ったことで、学校の図書室で何気なく手にした本作に関して、予備知識は全く無かった。
    一気に読み終えた。それまでの文学とは次元が異なる感動を覚え、しばらくは興奮状態にあった。同時にミステリへの興味/好奇心が大きく膨れ上がった。物語が進行するほどに深まる不可解な謎が、緻密な論理に基づく鋭敏な推理によって、鮮やかに解き明かされていく。それは、味わったことのない〝快感〟だった。必然、私は片っ端から海外ミステリを読み漁ったのだが、本作は常に原点としてあり続けた。

    ニューヨークの悪名高い富豪ハッター家を襲う災厄。発端の事件以外は同家邸内のみで起こり、核となる老婦人エミリー・ハッター殺害の容疑者は幕開けから絞り込まれている。いわば密室劇に近い構造のため、読み手は集中してストーリーの流れを追うことができる。元シェイクスピア俳優が探偵役を務めることが象徴しているように、戯曲になぞらえた章立て/構成をとり、アクの強い人物を揃えた配役と時代掛かった舞台装置によって独特の雰囲気を創り出している。ケレン味たっぷりの演出を施した愛憎劇。この〝舞台〟にはミステリの醍醐味が凝縮されていた。

    今回、数十年を経て再読したのだが、当然のこと大筋と真犯人は記憶していた。それでもなお面白さが色褪せることはなかった。あらためて感じたことは、状況を的確に伝える卓越した文章力、精緻且つ大胆なトリックを生かす高度な技巧、そして隅々までこだわり抜いた構成美だった。人物造型についてはデフォルメ過剰な部分もあるが、これは本格物としては許容範囲だろう。本作執筆時、エラリイ・クイーン(フレデリック・ダネイ/マンフレッド・リー)は、まだ20代後半の若さだが、やはり天才的な技倆を備えていたとしか言いようがない。

    「Yの悲劇」の有名な謎のひとつに、老女撲殺の凶器となる〝マンドリン〟がある。邸内には幾らでも〝適当〟な鈍器があるにも関わらず、殺人者はなぜ殺傷能力が低い楽器を選んだのか。極めて計画的な犯罪に見えながらも、奇妙な凶器が表象する意想外の粗/矛盾が積み重なり、さらなる迷宮へと導く。だが、パズルが複雑に入り組むほどに、老探偵は解明の鍵を手にし、扉の向こう側で息を潜める犯人へと迫っていくのである。最も効果的な〝最後の一撃〟を生むように張り巡らされた伏線。それを丹念に回収していく過程は明瞭に示されており、クイーンのいわゆる〝論理のアクロバット〟がどのように為されるのか、その剛腕ぶりを実感できる。実は「第三幕」の早い段階で凡その種明かしをしているのだが、初読で気付く読者は相当なツワモノだろう。
    物語では、三重苦のヘレン・ケラーを想起させる女が、触覚と嗅覚によって殺人者を示唆する重要な役目を担う。加えて探偵自身も聴力を失っている。障害があるが故に、限られた能力がより鋭敏になり、難事件を解決する突破口にも成り得る。この着想の妙が光る。

    ただ、少年期に読んだ時には感じなかった〝引っ掛かり〟があった。鋭い識者も指摘していることだが、ハッター家は遺伝的な欠陥を持つ血統という前提の上に、物語が構築されていることだった。現在では大いに問題となる要素で、本作の土台を崩しかねない〝亀裂〟でもあると感じた。これは、真相に辿り着いた後、探偵が殺人者に下す最終的〝決断〟への重要な動因ともなっている。「Yの悲劇」発表時の時代背景を考えれば致し方ないことなのだが、精神疾患に関して遺伝学などの科学的根拠がないままに、優生学擬きの通念を取り込んでしまっている。
    あくまでも私の推測だが、来日時のフレデリック・ダネイが、しきりに「Yの悲劇」をクイーンの最高傑作に挙げる日本人の偏った称賛を〝喜ばなかった〟訳は、作家として成熟しきれていない倫理的な甘さが露呈している同作に対して、少なからず自責の念があったからではないか。

    苦い結末には、罪と罰のあり方、探偵自身が制裁を加えることが許されるのかという重い命題が内包され、初読時には大きな衝撃を受けた。だが、今回の再読では、呪われた血縁による悲劇を断ち切るために選択せざるを得ない、いわば歪んだ宿命論に基づく終幕だったのだと捉え直した。これは、本作が本国アメリカでの評価が決して高いものではなく、〝戦後〟の日本でのみ至宝の如く崇められていた理由のひとつかもしれない。公然たる差別の対象、狂気に呪縛された家/社会の闇。つまり、概ね暗く陰湿だった国内〝探偵小説〟が軸とした因果との親和性を、本作に認めたのではないだろうか。

  • ある閉ざされた・・の作品冒頭で出てくる推理小説のうちの一冊。ネタバレになるかもですが、たしか全員亡くなる的な紹介をされていたが亡くならなかったような・・。
    若い頃、ミステリーには夢中にならなかったのでこの名作も読んでいませんでしたが十分楽しめて満足。海外の作品は最近読んでいなかったので、あの「登場人物は誰だっけ?」問題が気になりましたが、そんなに複雑ではなかったのでご心配なく。
    私のような、非論理的な人間には、犯人を論理的に詰めていく展開は非常に心地よく、痛快でした。ミステリーは一気に読みたい派なので、通勤の友にはあまり相応しくない一冊。良かった。

  • 蒼林古書店へようこそで紹介されてたので、海外の本格ミステリを読んでみようと挑戦。

    遺書とともに海で見つかった自殺者の遺体。遺体は変人の家系と評判のハッター家の女主人の夫、ヨーク・ハッター。遺体発見を機に、それからゆるやかにハッター一家を悲劇が襲う。長女の毒殺未遂、女主人の撲殺と再度の長女毒殺未遂、実験室の火災…。
    それらの事件に関わるレーンの顔色が全く冴えない理由が分からなかった。原因はわかってるのに犯人が分からず、結局最後にレーンがサム警部に話した内容ではぁ~とため息をついてしまった。全然あの証言の内容がそこまで重いと思ってなかったー。
    レーンの心に影を与えたこの事件。レーンにとっては後味悪すぎる事件だったかもねー。

  • 非常に論理的で読んでいて気持ちいい。

  • もともとミステリを読みながら犯人を考えたりしないのだが、この事件は終幕まで解決する気配も感じないほど混沌としていた。謎解きされてみればなるほどと思う。確かに名作なのだろう。

  • 解説に最終巻の結末とか書かれてるほうが真相より衝撃だった

  • すぐそばに、絶対この中に犯人がいるのに、いったい誰なんだ…とドキドキしながら最後のページまで読める一冊です。
    奇妙な家族と不思議な殺人が続き、読みながらじっくり謎解きができて面白かったです。

  • 約20年前の中学2年生の時に課題図書として読んだ作品。
    20年ぶりに読んでみました。
    とりあえず犯人は分かっていたのですがどういうトリックだったのかもストーリーも忘れていました。

    前に読んだときは中間試験か期末試験までに読み終わらなければならず
    全然読み終わらなくてとても苦しかったという印象でした。
    今回はそんなこともなくすんなりと読めましたが
    自分の成長を感じられて嬉しいですね。

    でも中学生当時は梅毒という病気も知らず
    ハッター家の呪われた血とか言われても全くピンときていませんでした。
    本文中にあまり描写がないので今回も何とか気付けたというレベルですが。
    80年以上も前の小説なので時代背景が違い過ぎて
    そういう物語の肝の部分が分かりにくいのはありますが
    トリックや伏線の張り方なんかはとても良いですね。
    思えば「伏線」という言葉もこの小説で初めて知ったのでした。

    中学生の時に課題図書としてこんな難しい本を設定してくれた先生に
    感謝したいと思いました。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:933.7||Q
    資料ID:58600853

    エラリー・クイーンって、アガサ・クリスティーほど人気はないですが、このYの悲劇は、海外ミステリー小説が好きなら絶対オススメです!
    (生化学研究室 大塚正人先生推薦)

  • ふと手に取った高校生の頃買った本。相変わらず面白かった!と見栄はって言ってみたが、すっからかんに内容を忘れてたんです。

  • The Tragedy of Y(1932)

  • ミステリーの頂点と言っていいと思います。もちろん内容の紹介という野暮はしませんが、とにかく凄い。ドルリー・レーンが探偵役の4連作の2作目。これ連作そのものにも仕掛けがあるんですよね。

  • 前から気になっていた作品。最後の犯人は正直ちょっと無理があるかなと思う。現代なら十分ありうる話だけどそれを予測したのだろうか。面白さ的にはXの悲劇の方が僕は好きです。

  • 古くさい設定だなと思ったが、おもしろかった。
    見取り図があるのがいいな。

  • 証拠(ピース)はすべて、驚くほどわかりやすく読者に与えられる。
    しかしピースをどう組み合わせるのかわからない。
    とりあえず組み合わせていくと矛盾だらけに…。

    そして最終章。
    レーンは、ばらばらのピースを美しい絵に仕上げてくれる。
    なんというカタルシス。

    なんでその順番に気付かなかったのかって。
    「言われてみるとすごく単純」のお手本にしよう。


    しかしそんなレーンでも、作中はずっと悩み続けている描写ばかり。
    サムやブルーノと話すたび、レーンは沈んでいく。
    その理由は。
    最終章で驚かされてください。

  • (1983.09.04読了)(1979.11.18購入)
    *解説目録より*
    悪名高きハッター家を次々と襲う不吉な死の影。腐乱死体となって海から引きあげられた主人、夜中マンドリンで殴殺された女主人、絶えず狙われている唖で聾で盲の娘。サム警部の依頼で出動した名探偵ドルリー・レーンの顔も今度ばかりは憂えがち。クイーン得意の論理の技巧が極致に達した一大犯罪絵図。

    ☆E.クイーンの本(既読)
    「Xの悲劇」E.クイーン著・大久保康雄訳、新潮文庫、1958.10.30

  •  ドルリー・レーンは推理を披露する時の、理路整然とした説明の仕方が見事だ。あっと驚かされるけど、疑問の余地を許さない。それはサム警部が頭の悪さを発揮して、あらゆる可能性に疑問を挟むことで、パズルの隙間を全て埋めていくから成り立っている。完璧なレーンと少し足りない周囲の人々は、ミステリーの駒以外の面、キャラクターとしても非常に愛らしい。ぷりぷり怒るサム警部は読んでて飽きない。

     緻密な謎解きと個性的なキャラクターは、レーンシリーズの最大の魅力。しかし物語自体には、パズルの隙間を埋めていく退屈さが見受けられる。解決編への期待でなんとか読み切ったのも事実だった。

     最高傑作と呼ばれるYを読めたから、Zはもういいかな。

  • 途中でレーンの行動が加速したり、かと思うと突然止まったりと動きのある小説で、けしてそれは明るいものではない。結末なんてとくに。何よりエピローグ、に入るタイミングなんて、映画が全然ラストシーンでなさそうな、まだ場面が続きそうな場面でふっと終わってしまったみたいな唐突さで、説明を求めるように最終章は一息に読むほかない。
    Xの悲劇も探偵の横顔に影はさしていたが、今回は以前にも増して、見えない。サム警部みたいに何も知らないままでいたほうが人生悩まなくてすみそうだと思った。

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著者プロフィール

エラリー・クイーン。フレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リーの合作ペンネーム。従兄弟同士で、ともにニューヨーク、ブルックリン生まれ。1929年『ローマ帽子の謎』で作家としてデビュー。ラジオドラマの脚本家やアンソロジストとしても活躍。主な代表作に『ギリシア館の謎(32)、『エジプト十字架の謎』(32)の〈国名シリーズ〉や、『Xの悲劇』(32)に始まる〈レーン四部作〉などがある。また編集者として「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」を編集、刊行した。

「2021年 『消える魔術師の冒険 聴取者への挑戦Ⅳ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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