停電の夜に (新潮文庫)

制作 : Jhumpa Lahiri  小川 高義 
  • 新潮社
3.73
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本棚登録 : 1814
レビュー : 275
  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102142110

作品紹介・あらすじ

毎夜1時間の停電の夜に、ロウソクの灯りのもとで隠し事を打ち明けあう若夫婦-「停電の夜に」。観光で訪れたインドで、なぜか夫への内緒事をタクシー運転手に打ち明ける妻-「病気の通訳」。夫婦、家族など親しい関係の中に存在する亀裂を、みずみずしい感性と端麗な文章で表す9編。ピュリツァー賞など著名な文学賞を総なめにした、インド系新人作家の鮮烈なデビュー短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 「あんな女には絶対ならないと言っていた、そんな女になってきた。」

    「すべてがていねいに包まれているこの部屋で、むだ毛処理した膝から上が、やけに丸出しになっている」
     
    ドキリとする箇所が度々あり油断ができない。
    アメリカでイギリスでインドで、ひっそりと暮らす人々のささやく様な生活の一幕。
    インド文化がこんなに濃い物語を読むのは初めてで新鮮。
    どれも薄曇りの空に包まれているようなじっとりとした空気の中、淡々と話がすすむ。
    優しさ、おろかさ、したたかさ、たくましさ。
    人種は関係ない部分もあるけれど、異文化同士の確執や孤独もあり、日本以外で暮らしたことのない私ってぬるい生活なのね。
    暗い結末を迎える話もあるけれど、どれも読後がさわやかなのはなぜだろう。
    みんな何かに区切りをつけて再スタートをしているようにみえるからかな。
    ラストの「三度目で最後の大陸」がホッコリして更に気分よい読後。

    「あの宇宙飛行士は、永遠のヒーローになったとはいえ、月にいたのはたった二時間かそこらだ。私はこの新世界にかれこれ三十年は住んでいる。」

  • ロンドンで生まれ、アメリカで育ったベンガル系女性の作者。
    先祖の国から離れた寄る辺なさ、新たな文化の中での違和感や融合、
    そしてそんな背景で暮らす人々の、時には残酷さも現れる人間の心の機微。

    ★★★

    臨時の措置。復旧作業による五日間の一時間だけの停電。
    インド系の若い夫婦は妻の流産により心が通わなくなっている。
    こんなはずじゃなかったのに。
    身嗜みを調えなくなった妻と、ただ家にいる夫。
    だが最初の停電の日、妻は蝋燭の下で秘密の打ち明け合いを提案する。
    目線を合わせる、手を取り合う、微笑みあう、夫婦の危機は去ったのか。
    そして五日目、夫の耳にそそがれる妻の言葉…
     /「停電の夜に」
    短編集の最初がこれってかなりのインパクト。
    人の心の機微の残酷さを見事に捕えた秀作。
    最終日に夫が妻に伝えた秘密は心に刺さり続けるだろう。


    ビルザダさんは私のうちに通っていた。
    ビルザダさんの家族のいるダッカは独立を求めた内乱で混乱状態。ビルザダさんは連絡の取れない家族の安否を知りたくて、うちにニュースを見に来ていた。
    いつも私にキャンディをくれた。
    私はビルザダさんの家族の無事を祈ってキャンディを口に入れるの。
     /「ビルザダさんが食事に来たころ」
    祖国を離れて案ずる者、残った者、そして異国で生まれ育ったために親の国の情勢が分からなくなっている者…。


    インドで観光客相手の運転手をしているカパーシーは、平日は病院で通訳を行っている。
    彼の車に乗った家族連れ。夫婦はアメリカ生まれのインド人。たまにしか来ないインドは里帰りと言うより観光。
    夫婦の妻は、病気の通訳という仕事をロマンチックと言う。
    カパーシーは夢想する。奥さんともっと関われるだろうか。もう少し時間をとれるだろうか。
    そして観光の合間、家族と少し離れた妻はカパーシーに家族の秘密を打ち明け…。
     /「病気の通訳」


    カルカッタのアパートの階段掃除人のブーリー・マー。
    でまかせであろう昔の栄光を語る彼女は、まるでアパートの門番だ。
     /「本物の門番」


    ミランダはインド系男性デヴと知り合う。
    デヴの妻がインドに帰っている間は毎晩会った。
    デート、食事、散歩、「きみはセクシーだ」という囁き、そしてセックス。
    デヴの妻がインドから戻ってくると、デートも囁きもお洒落もない。ただ日曜日にジャージーとジーンズで会ってセックスするだけだ…。
     /「セクシー」

    エリオットは放課後セン夫妻の家に預けられる。
    夫妻はインド出身。セン夫人はインドにいた頃の魚料理を作る。祖国の家族のテープを聞いて涙を流す。車の運転は苦手。
    国を離れて暮らすことが当たり前であってもなかなか馴染めなく郷愁の想いが溢れる。
    エリオットはそんなセン夫人の家にいるのが嫌ではなかった。
     /「セン夫人の家」
    祖国から離れて過ごす者の静かな郷愁がしっとりと語られる。


    インド系の新婚夫婦。アメリカの新居に引っ越してきた。
    家中のあちこちからみつかるキリスト教の小道具。
    うちはヒンドゥー教だ。飾るなんてとんでもない。だが妻は宗教も含めてアメリカに馴染もうとしつつあるんだ。
     /「神の恵みの家」


    ビビはしょっちゅう発作を起こすし家事は出来ないし引きこもって自分の不幸を嘆くだけだ。
    何人目かの医者は言った。「この人は結婚すれば治るよ」
    ビビの夢想はますます深くなってしまった!
     /「ビビ・ハルダーの治療」
    他の作品と同じようにすれ違いや孤独に進むかと思えば…一応解決したので却って驚いた(笑)


    私はインドを離れイギリスで学んだ。仕事はアメリカで見つかった。
    一度インドに帰り、妻をもらった。
    アメリカでの下宿の女主は百歳を超えたミセス・クラフト。
    彼女は私が最初に交流したアメリカ人だ。
    彼女との決まりごとのような六週間。
    その後は妻とのあらたな生活。
    そしてそれから三十年。
    最後にして三番目のこのアメリカ大陸で自分は骨を埋めるだろう。
    私は特別なことをしたわけではない。だが祖国から旅をして多くの人を知り、一歩一歩進んできた行程を振り返ると、想像を絶する想いがするのだ。
     /「三度目で最後の大陸」
    短編最後の締めくくりに相応しい作品。最後の2ページ分文章が素晴らしいです。

    P218
    息子の目の中には、私が地球の裏まで飛び出したくなった時の野心が見て取れる。わずかな年月のうちに、息子は大学を出て、自分の力で道を拓いていくだろう。でも私は、こいつには生きている父親がいて、しっかりした母親がいるではないか、とも思う。息子が落胆したとき私はいってやる。この俺は三つの大陸で生きたのだ。おまえだって越えられない壁があるものか。
    あの宇宙飛行士は、永遠のヒーローになったとはいえ、月にいたの他はたった二時間かそこらだ。私はこの新世界にかれこれ三十年は住んでいる。なるほど結果から言えば私は普通の事をしたまでだ。国を出て将来を求めたのは私ばかりではないのだし、もちろん私が最初ではない。それでも、これだけの距離を旅して、これだけ何度も食事をして、これだけの人を知って、これだけの部屋に寝泊まりしたという、その一歩ずつの行程に、自分でも首をひねりたくなる。どれだけ普通に見えようと、私自身の想像を絶すると思うことがある。

    • だいさん
      この作品は男と女で感想がかなり違うんじゃないかな?
      以前読んだ時には 愛は長く続かないト 感じましたヨ
      この作品は男と女で感想がかなり違うんじゃないかな?
      以前読んだ時には 愛は長く続かないト 感じましたヨ
      2016/03/15
    • 淳水堂さん
      だいさん

      おお!男性からの感想ありがとうございます!
      表題作は、”言葉”と言う意味では妻→夫より、夫→妻の「肌は黒と言うより赤だった...
      だいさん

      おお!男性からの感想ありがとうございます!
      表題作は、”言葉”と言う意味では妻→夫より、夫→妻の「肌は黒と言うより赤だったよ」がグサーーーーっときたのですが、
      男性だとどうなのでしょう。

      不倫の話は、男性側は失ったもの無いわけですからねえ、これも男女感想違うのかな。
      2016/03/15
  • 本当に好きなものは繰り返し読む。ジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』と『その名にちなんで』はワタシにとってそういう本だ。好きすぎてなぜこんなに好きなのか考える。原書を読めないので、翻訳者に委ねるけれども、それでも世界のどこかでジュンパ・ラヒリさんが今も小説をこつこつ書いていると思うと、ふわっと幸せな気持ちになるくらい好きだと思う。
    『停電の夜に』『三度目で最後の大陸』『神の恵みの家』が特に好き。普通の人たちの日常を普通じゃなく切り取る方法を考える。普通に生きていても人生はずーっと全うなだけじゃなくて、気持ちが揺れ動くこともたくさんあるわけで、もしかしたら、そうしたことはつまらないことではないのかなと思った。昨日好きでも今日好きとは限らないとかそういうこと。同じことがずっと続いていくのが人生とは限らない。なぜかそんなことばかり考えてしまうのです。

  • アメリカで暮らすインド系の人にスポットライトを当てた話が多い。アメリカとインドの狭間で生きる人々の切ないような、寂しいような、それでいて暖かいような不思議な感情が描かれている。それと同時に、文化の違いとかは関係なく自分が日々の生活の中でふと感じるような、少し冷めた目で自分の取り巻かれている状況を第三者的にみている瞬間に似たものが描かれている本。

  • 「停電の夜に」はねぇ、「アイラインは木炭でもなすりつけたようになってる」とか、「こんな女にはなりたくないと思っていた、そんな女になってしまった」とかそこしか覚えてない!

    でも、「三度目で最後の大陸」のまるでとみちゃんみたいなオバアのねぇ、「完璧!いい人を見つけたね!」には未だにうるみます。そんな心細さは、サリンジャーの「グスコーブドリ」とか長渕剛?知らんけど、と共通なんじゃないかなぁ。

    それがね、直接、はいこうです、っていうんじゃなくて色んな状況や心の動きから描き出されているのが、とってもいいね!私もね、ついめかしこみすぎる時はあって、この話を思い出しますのよ。ああ、だいすき。

  • 最初からちょっと掴まれた。短くて淡々としたセンテンス。

    停電の夜に ★
    ピルザダさんが食事に来たころ ★★
    病気の通訳 ★
    本物の門番
    セクシー ★
    セン夫人の家 ★★
    神の恵みの家
    ビビ・ハルダーの治療
    三度目で最後の大陸 ★★

    原題は「病気の通訳」のほうなのだが、邦題は「停電の夜」になっている。まぁそうだよな。

    3分の2くらいまで読んだけれども、なんだかとても良い。何がいいのだかうまく説明できないのだけれども、なんとなく思うのが、短編小説には2つの良さがあるような気がする。1つはストーリーの面白さ。もう一つは人物をいかにうまく描くかということ。しかもそれが魅力的な人物をいかに描くかということと、普通の人物をいかに魅力的に描くかということ、の2つがあるような気がする。ここはまだ自分でもうまく整理できていないのだが、例えば堀江なんかは後者なのかな?

    人をきちんと描いていて、それがストーリーとして動いていくのがとても好み。

    ストーリーがまずあり、それを演じるための人物設定があるというのではなく、まず人物があり、それがどうストーリーを動かしていくか、という印象。とくに「セン夫人」、「最後の」。

    アメリカにおけるインド系移民という人物設定が多いのは、これまで読んだ経験がなく新鮮だった。

    結婚がテーマとなっている短編がいくつかある。理解と誤解。

    「三度目で」はなんとなくポール・オースターの「ムーンパレス」が読みたくなった。

    簡潔で明瞭な文章。落ち着いていて、エモーショナルに高揚するようなことがないのもいい。

    他の本を探すなかで、堀江が編纂した短編集に「ピルザダさん」が入っているのを発見し、繋がったことが嬉しかった。

  • 2000年にピュリツァー賞を受賞した標題作を含む9編の短編集。
    作者は両親がカルカッタ出身のインド人で、彼女はロンドンで生まれ、アメリカで育った移民2世。
    9つの作品はそんなアメリカとインドの狭間に身を置いた彼女ならではの目線が生きる。どの主人公も特別なことをしているわけではない。日常の一瞬を切り取れば大きな事件は起こらないものの、それでも人生は起伏に富んでいるということがわかる。人々は日々を懸命に生き、その姿が愛おしい。
    特に最後に収録された「三度目で最後の大陸」は特によかった。

  • 夫婦間のぎくしゃくとしたところや底辺の階級のひとと、ふつうに生活できているひとびととのあいだの関係、溝。そういった、心理的に避けてしまいがちな、できれば「無いもの」にしたいような気持ちが働く状況やシーンを、瞬時に忘れ去ってしまうことなく、逆に記憶にとどめるように描くのがこの作家の特徴、あるいはこの短篇集の特徴でした。つぶさに日常を見て、いい意味で真面目に文章にしています。作家の、誠実さや、はすに構えず正面から見据えるような視点、そういったものが感じられ、好感を持つことになると思います。インドという異文化に過敏になってしまうアレルギーのないひとであれば、ぞんぶんに、この誠実な目で描かれた、落ちついたタッチの短篇集を楽しむことができるでしょう。作家の内部の静謐さを感じられるようでもあります。

  • この作者の本は初めて。
    非常に密度が高く、濃厚な作品が集まった短編集だなという印象を持ちました。
    短編は読後、目次を見返してみた時に印象が薄い作品があるということが間々ありますが、今回はそういう作品がありませんでした。
    それだけ、どれも質が高い作品であったということだろうなと。
    個人的には「ビビ・ハルダーの治療」と「三度目で最後の大陸」が気に入りました♪
    あとは訳者あとがきの「男女の出逢いもまた理解と誤解が交錯する異文化の接触」との言葉も印象的。

  • こういうジャンル、短編集があるのだな。インド系英語文学。私の住んでいる地域にもインド系の人の姿をよく目にする。しかし、他の国籍の人に比べて圧倒的に接点がない。移民とはなんなのか。生きる重み、葛藤、すれ違い、そして何よりも感じたのが文化の違い。日本人のように郷に入っては郷に従うのは、当たり前ではないのだな。どれもささやかだが、それゆえに良かった。

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