蠅の王 (新潮文庫)

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感想 : 406
  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102146019

作品紹介・あらすじ

未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく…。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争の最中、イギリスから疎開する少年たちの乗った飛行機が南太平洋の孤島に不時着する。大人がいなくなった世界で、少年たちは秩序を設け協力し合いながら助けを待とうとするが――。

    手放しで面白いと言ってはいけないほど混沌に満ちた作品だけど、読んで良かった!と素直に思える凄い本でした。
    規律を重んじるラーフとピギー。それに反発するジャックとロジャー。孤独を好むサイモン。そして多くの小さな子供たち。秩序の象徴である「ほら貝」や火を起こせるこの島唯一の文明の利器「ピギーの眼鏡」を巡って、少年たちなりに「うまくいっていた」スタートから徐々に雲行きが怪しくなっていきます。

    志高くあくまでも理性的であろうとするか、あるいは自衛のために本能を曝け出すか。舞台は助けが来るかも分からない極限の状況下であると考えると、どちらが正しいとも間違っているとも言えません。そう思ってしまうのは、少年たちを通して“人には元来激しい暴力性や攻撃性が備わっており、それらは普段理性が抑えている”という人間の本質が浮き彫りになるからです。
    ラーフやピギーでありたいと思いながらも、ジャックやロジャーになり得る自分がいる。子供だからではなく大人も、人間なら誰しも。普段は心の奥の奥にしまわれている闇を引きずり出されたようで思わず背筋がぞっとします。

    小さな世界で起こった無垢な少年たちの悲劇にも終わりが訪れます。しかし彼らの心の傷は甚大であるし、そもそも脱出した先にあるのは戦争最中の自国。再び理性だけでは乗り越えられない悲惨な状況が待ち受けているかもしれないと思うと、なんとも恐ろしく救いのない作品です。

    周囲を冷静に眺め「蠅の王」と真正面から対峙したサイモンは、この作品の唯一の良心だったように思います。

  • 前から読んで見たかった本。
    日本語訳がちょっとわかりにくい所があった。
    初めはリーダーを選び、理性的に行動していた彼らだが、架空の魔物をみた話から一転、思わぬ方向へ。
    幼さ故の残虐さが怖い話だった。

  • "風をはらんだ外套にくるまれているその少年のからだは、背が高く、痩せて、骨ばっていた。黒の帽子の下に見える髪の毛は、赤い色をしていた。顔はくしゃくしゃしていてそばかすだらけで、愚かさというもののない醜悪な容貌を呈していた。二つの淡い青色の眼がそこからのぞいていたが、失望の色が見え、今にも憤怒に燃えそうなようすだった。(p.28)"
    "「獣ヲ殺セ! ソノ喉ヲ切レ! 血ヲ流セ!」(p.259)"
     
    1983年にノーベル文学賞を受賞したウィリアム・ゴールディングの代表作。”少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。(文庫裏表紙より)”
     無人島に漂着した少年たちは、選挙により隊長を決め、自分たちが決めた規則の下で秩序だった生活を送るが、頭を朦朧とさせるようなジャングルの酷熱と夜の暗闇の中次第に理性を失っていき、心の中に潜む獣性に支配されてゆく。
     僕が思うに、優れた寓話とは、(1)比喩・象徴を用いて抽象的な概念を表現しつつも、(2)一元的な解釈に収まりきらない側面を持ち、(3)現代批評を含んでもいいがその役割は限定的で(そうでなければ風刺になる)、時代を超えた普遍的な物語である、という3つの要素を含んだものだ。
     この小説では、少年のうち主だった人物として、ラーフは良識を、ピギーは知性・科学的精神を、ジャックは獣性を、サイモンは聖性を代表すると言われる。 ラーフは選挙で選ばれた少年たちの隊長で、救助のために烽火を絶やさないことを他の少年たちにも求める。彼自身はどちらかというと優柔不断な少年であるのだが、最初に「ホラ貝」を吹いて島に散らばっていた少年たちを集めることになったために隊長に選ばれる。そこに、彼の悲劇がある。 ピギーはおそらく上流階級の出身(彼だけ他の少年と発音のアクセントが違うという描写(p.104)がある)で、冷静に状況を把握し、するべきことを実際的に考えられる聡明さを持つ。彼だけが眼鏡(=文明の利器)を持っているが、物語が進むにつれてそれは少しずつ壊れていく。また、名前が登場する他の少年たちは本名で呼ばれるのに対し、ピギーだけは本文中で一度も本名が明かされず「ピギー(豚ちゃん)」という綽名で呼ばれ続ける点にも注目すべきだとは思うが、僕の中でまだ上手く解釈しきれていない。 ジャックは、島にいた野豚を狩る狩猟隊を任された少年だが、狩りのなかでその悦びに囚われ、遂には仲間たちとともにラーフを離反し、島の最大派閥の長となる。ここで「最大派閥」と書いたが、実のところ本書の記述からはそれが何人なのか分からない。ジャックは確かに獣性の「狂暴さ」を表しているが、獣性の「底知れなさ・根の深さ」のようなものは、この何人なのかさえ曖昧模糊としている大多数のモブ少年たちによって表現されているのではないか。そう考えると、結局物語の最後まで、島にいる少年全員の人数が彼ら自身にも把握できなかったことは、作者が慎重にそのような描写を控えているからなのだと言えそうだ(例えば、1章で合唱隊が浜辺に現れたとき、彼らは二列縦隊を組んで歩いていたから人数を数えやすいはずで、他の少年に「○○人の少年たちが来た」と言わせたり思わせたりすることは簡単だっただろうに)。 サイモンは孤独を好む人物で、ラーフやピギー・ジャックが持ち得なかった、心の奥に巣食う「悪」に立ち向かう勇気を唯一持つ。彼がたった一人で「蠅の王」と対決するシーンはとても見事である。”「獣を追っかけて殺せるなんておまえたちが考えたなんて馬鹿げた話さ!」と、その豚の頭はいった。その一瞬、森やその他のぼんやりと識別できる場所が、一種の笑い声みたいな声の反響にわきたった。「おまえはそのことは知ってたのじゃないのか? わたしはおまえたちの一部なんだよ。おまえたちのずっと奥のほうにいるんだよ? どうして何もかもだめなのか、どうして今のようになってしまったのか、それはみんなわたしのせいなんだよ」 笑い声が、また震えるように反響した。(p.245)” 他にも、ラーフが少年たちを集めて集会を開くのに使う「ホラ貝」は民主主義の象徴だろうし、最初は救助を求めるための烽火だったが、「獣」に追われて山の頂上から下ろすことになり、最終的にはジャックに奪われ料理用の焚火に堕する「火」は、プロメテウスの神話を持ち出すまでもなく、文明や理性の象徴だと考えられる。さらに、火を点けられるのはピギーの眼鏡だけというのも面白いし、その眼鏡は近視用の凹レンズだから実は日光を集めて着火するには使えないはずだというのもまた興味深い。
     一方で、上述のような象徴的解釈では説明し切れない部分もある。例えば、ラーフは立場・主張的にはピギーに近いにも拘わらず、彼のことを疎ましがり、寧ろジャックの方に親しみを感じていたように思われる(とは言え、物語中盤でラーフとジャックは袂を分かつことになるのだが)。また、嵐の中の熱狂でサイモンを殺してしまうことになるシーンでは、ジャックを中心とする狩猟隊の荒々しい踊りに、ラーフとピギーも一体感を感じて安堵する描写がある(p.258)。
     また、出来事の間に挟み込まれる風景描写も素晴らしいと感じた。実は一読目は半分くらい読み飛ばしていたのだが、続けて二読目のときもう少し真面目に読んでみると、情景描写やこれから起こる出来事の予言として効果を上げていることに気づかされた。特に、サイモンの亡骸が波に流されていくシーンは美しいと思う。

  • ある戦争期のお話。
    イギリスの少年たちが疎開のために飛行機に乗っていた。が、途上で撃墜され、ある孤島に不時着した。幸運にも島には食べ物があった。樹々に果物や椰子の実が生り、なにより豚がいる。大人たちの助けが来るまで少年たちは自給自足することに。
    全員でリーダーを選び、ルールを決めた。ほら貝を吹くと集会の合図。発言するには必ずほら貝を持つこと。救助のための目印に山の上で烽火を焚くことになった。助かるため、決して火を消すな。煙を絶やさないよう当番を決め順々に担当することに。
    でも食べるものが欲しい。島には豚がいるし。捕まえて食べよう。そうだ、狩りに出よう。
    選ばれたリーダーがいう。いや、烽火を絶やさないことが大事だ。少し年上の少年がいう。いやいや、飢え死にする前に豚を捕まえ食べよう。
    烽火を焚くか/ 食べ物を探すか。意見が対立する。これがもとで少年たちは分裂し、いがみ合い、敵対関係へと発展し・・。

    これは無人島でサバイブできない愚かなイギリス少年たちをただ描いたものでも、スクールカーストを書いたものでもない。おそらく本質は人が集まると必然的に生じてしまう、統べる/統べられる関係性(政治)を描いたものだろう。
    どのように力(権力)が生まれ、それを目的のために機能させるか。力の維持がいかに難しく、破綻すればどのような現実が待っているか。その非情さと残虐性までも描く。少年漂流物の冒険譚の形をとりながら、政治の機能と破綻を物語として描いている点にこの小説の凄みと魅力がある。政治学や国家論で必ずこの作品が言及あるいは参照される理由がここにある。

    無人島に不時着した当初の少年たちの間にも、政治があった。ほら貝を吹けば集会の合図で、ほら貝を持った者が発言権がある。リーダーを選び、役割を分担する。秩序とルールがあり、統べる/統べられる関係性、つまり政治が機能していた。

    ところが、救命のための印(烽火)か。飢え死にしないための食糧(豚狩り)か。意見が対立する。難しい問題だ。どちらがより正しく、どちらが優先されるべきかは簡単には判断できない。でも、だからこそ、少年たちの意見は鋭く対立する。政治は権力をもったリーダーが全体的な理念に基づいて集団を組織化していくための技術でもある。ここでは、少年たちの考え(全体的な理念)を巡って集団は分裂する。人を束ねるための方法が分からない(うまくできない)がために力の均衡が崩れる。対立が先鋭化する。集団が暴走し始め、凄惨な現実を迎える。

    子どもだから上手くできなかったのか。大人なら上手くやれたか。この問いへの答えは明確に書かれていない。

    が、島の外の世界では大人たちが戦争をしている。無人島で少年たちが繰り広げた争いは、大人の世界の縮小版でしかない。沖合に停泊した端正な巡洋艦の描写で小説が終わるのは、そういうことだろう。冒険譚としてスリリングな展開や感動があるわけでもないこの小説の後味は悪い。が、含まれる意味や示唆はどこまでも深く広い。

  • 読んでみたかった本。思春期の頃に出会いたかった。
    この手の作品の感動は無垢な頃の方が大きいと思う。
    読むには、あまりにも歳をとり過ぎた。

    人の心の変化は現実の世界では、もっと恐ろしい。

  • 2017年の読書目標、宿題。
    学生時代、授業で初めて本書を知った。
    おぞましいと思った。
    とても読めないと思った。
    しかし、この作品についてはずっと頭にあり、何か考える時に「蠅の王」的な事項、と区分したりと一つの足がかりにまでなっていた。
    それで未読は酷いと覚悟を決めて開いたのだけど。
    確かに厳しい、しかしそれ以上に展開に納得する私がいた。
    学生時代に読んでいたら、多分こうは思わなかっただろう。
    だが、これが現実に起こり得ることだと今の私は知ってしまっている。
    実際、現在の日本とそう遠い世界だとは思えないのだ。
    私は蠅の王とどう対峙していくのか。
    それを考えていかなければならない。
    やはり読んで良かった。

  • 狂気の物語と書いてたけど流石イギリス、お上品な狂気だなあ……とか考えて読んでたけど、蠅の王の辺からは一気に息の詰まるほんとにとんでもない狂気の連続だった。レベル違いすぎる……。
    最初から読んでたら、自分も少し運が悪ければこうなり得るって思えるのがほんとに怖い。最初は統率されてても、ほんとに小さな切っ掛けで崩れてしまう人間の文明の脆弱性が身に染みる……。
    最後まで救いがなくて、陰鬱とした気分になる。読み終わった時のじわあって来る感動が最高の小説だった。

  • これほど胸糞悪い小説は初めてかもしれない。「女が集まると大奥になり男が集まると十五少年漂流記になる」と言うが、この島ではその「十五少年漂流記」が徐々に瓦解してゆく。それも徹底的に。見事なまでに。
    最後の最後に救いの手が差し伸べられるとはいえ、その救いさえ絶望的に見えてしまうのは杞憂だろうか?

  • 子どもたちが殺戮に走るさまがこわかった。

  •  ラストシーンで、「初めはうまくいってたんです」というラーフの言葉は結構、心に響いた。翻訳が悪いだの、物語がつまらないなど、ディスられるレビューが多いのだが、結構楽しんで読めた。
     無人島で、少年達は、最初は一致団結して山の上で煙を焚いて自給自足の生活を営みつつ、救助を待つ。だが、そのうちグループ同士の対立ができ、「救助を待つ大義名分グループ」と、「狩猟で食料を確保できる俺達が一番偉いんだグループ」に分かれ、殺し合いがはじまる。そのきっかけが、島の一番高いところに潜むとされる謎の黒い影の動物(?)、蠅の王だ。それは人を襲う怪物だとして、子ども達に恐怖心を植え付ける。(実際は自分たちでそういう怪物を作り出して恐怖している)その恐怖の対象に立ち向かう狩猟グループ一派が、内部抗争を繰り広げ、島は滅茶苦茶になる。
     眼鏡で火をつけるのが都合良くいきすぎていたり、ツッコミどころはあるのだが、ほら貝の奪い合いとか、子ども達が救われた先に、巡洋艦と戦争が待っているとか、示唆的で面白い。ただ、ノーベル文学賞ものかどうかは少し疑問だと思った。

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