暗殺者オファレルの原則 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1993年5月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784102165232

感想・レビュー・書評

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  • ・・・読後、しばらく声がでなかった。

    最近読んだ本の中では、最も後味の悪い結末だ。

    何を語りたくてあのような結末にしたのか、全く以ってフリーマントルの意図が理解できない。
    この作品を著した当時、家族間に何か問題があったのか、そう勘ぐってしまうほどの結末だ。

    もともとフリーマントル作品の特徴に、最後に皮肉な結末が必ずといっていいほど用意されていることが挙げられる。特にチャーリー・マフィンシリーズでは、時にそれは行き過ぎでは、と思ってしまうほどの悲惨な結末もあるが、それはやはり主人公であるチャーリーが色々な難関を乗越えた末の相手に行った仕返しといった一種の痛快感が伴っているから、許容できたわけなのだが、今回はそれがない。
    もう本当に救いがない。

    主人公オファレルだけではなく、敵役であったリベラの遺族に対しては輪を掛けて悲惨な幕引きが用意されている。これは作者が民主主義と社会主義の暮らしの違いを最後に提示した一種の叙述に過ぎないのかもしれないが、特に子を持つ親の立場である今では、とても正視に耐えない結末だ。

    そして、主人公であるオファレル。

    当初題名から連想していたのは映画『レオン』のレオンの如く、日々の日課を欠かさず、1つのフォーミュラのように固持して生活する内省的な暗殺者を思い浮かべていたが、さにあらず、家族みんなに頼りにされる模範的な父親・夫という人物だったのが意外だった。

    そしてこのオファレルという男は表面上は、動揺を見せないが―それは工作員として訓練を受けているからだが―実は、不惑の年は既に過ぎているのに大いに惑うのである。

    オファレルが46歳という暗殺工作員としては高齢とも云える年齢に差し掛かってなお、まだ現役でやれると不安を押し殺して信じていたのは、かつて保安官だった曾祖父の存在があるからだ。

    自分と同じ年に見える写真の曾祖父の自信に満ちた姿は自分もかくありたい、自分も負けてはいられないと奮い立たせる精神的基盤になっている。そしてその曾祖父の存在は自分の仕事である暗殺という行為を正当化する象徴でもあるのだ。
    オファレルは「暗殺は人命を救う」という己の教義に従って自分の仕事に誇りを持ってきた。それは法の網の目をかいくぐってのうのうと暮らす悪人、巨大な権力を行使して私腹を肥やす悪人たちを制裁するのに暗殺こそが有効な手立てだと信じてきた。
    そしてその信義を支える存在としてこの曾祖父の存在がある。
    自分のしてきたことに間違いはないのか?
    時折いいようのない恐れに涙を流したくなる時にこの曾祖父の姿を思い浮かべ、保安官は決して泣かないと呟き、夜を過ごす。

    そしてまた彼には、両親が無理心中して亡くなったという暗い過去がある。
    ラトヴィア人である母がソ連兵士にレイプされ亡くなった事が原因で、鬱病を患っていた母。朝鮮戦争に出兵し、勲章を受けながらも片腕を失った父。そしてやがて母はある夜、父を撃ち殺し、自分も自殺する。

    このオファレルという暖かな家庭を持ち、規律正しい生活を信条とし、なおかつ潔癖とまで云える正義感を備えた暗殺者というこの設定がこの作品に厚みを持たせている。
    通常の小説で語られる精密機械のような感情の持たない暗殺者、人殺しに無上の喜びを感じる歪んだ性格の持ち主ではなく、このような生真面目な人物を設定したところにフリーマントルのアイデアの冴えを感じる。

    その他にも、ハッと気付かされることはあった。

    例えば麻薬の運び屋でベトナム戦争経験者であるチンピラ風のパイロットが主張するベトナム戦争で得た彼の人生哲学の話。この話がオファレルの仕事に対する信条に揺るぎをもたらした一因といっても間違いではないだろう。

    正義のために戦いに行って、知りえた事は自分の利益を如何に守るかだ。
    帰還兵に対して何の恩恵も与えなかった政府への憤り。
    何のために戦っているかも解らなくなる極限状態の中で開眼した彼の唯一の真実。
    それは自らの正義に基づいて暗殺を行ってきたオファレルにとって自分の信義よりも現実味のある内容だったに違いない。
    そしてイギリス人であるフリーマントルがこういう意見を登場人物の口から云わせることからも、他国から見てあの戦争が如何に無意味であったのかを知らされるシーンだと思った。

    そして、ビリーの台詞。
    知らず知らずに麻薬の運び屋として利用されていた孫のビリー―後に知らず知らずではなく、薬の売人から脅迫を受けて已む無く手伝わされた事を白状するが―が、不正な仕事で得た金の使い道を泣きながらオファレルに語るシーン。
    こういうシーンに私は弱い。自分の子供がダブってしまう。
    ずっと新しい物が買えなかったママにプレゼントするために使わずに貯めていた、こういう話に弱いのである。

    しかし、これら小説的技巧の巧さがあっても、あの結末でかなりのマイナスは否めない。どう考えても受け入れがたいのだ。
    この本、面白いから読んで、とは絶対薦められない1冊だ。

    結局、暗殺は不毛だというメッセージなのかもしれないが、この本の結末自体があまりに不毛すぎる。

  • フ−13−23

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