十二の秘密指令 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1994年7月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784102165256

感想・レビュー・書評

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  • イギリスの対外情報機関で建物が四角張った赤レンガ造りのビルで正に工場を想起させる事から通称「ザ・ファクトリー」と呼ばれていた。本作はこの「ザ・ファクトリー」に潜入した二重スパイの捕縛をテーマにした12の連作短編集。
    その内容は二重スパイの誤認、ロシアからの亡命者の話、潜入中の工作員の救出、ロシアへのスパイ派遣、首相のインサイダー取引疑惑事件、世界的経済壊滅事件、ロシア皇帝の末裔の話などヴァラエティに富んでいる。

    それぞれの短編を通して、「ザ・ファクトリー」に勤務する人物達を活写する手際はフリーマントルの職人技が冴え渡っている。
    財政のスペシャリスト、度胸満々のアラビア語を操るエージェント、暗号解読のスペシャリストなど、実に魅力的。こういった微に細に渡ったエージェントの諜報活動を読むのは、非常に胸を躍らさせ、これぞ読書の醍醐味というのを味わった。

    しかし、これら12の短編が1つのテーマを下に語られている割には前半の4編は散文的である。5編目の「もぐら」でとうとうサミュエルがロシアへスパイを潜り込ませるという背水の陣の攻めの一手を打つのだが、それ以降もイギリス首相のインサイダー取引疑惑の話や世界的な経済壊滅危機の話や、テロリストの武器調達源の捜索など、枝葉の話に移るのがバランスを書いているように感じた。
    確かにこれらは面白い。1つの作品として面白いが連作短編と謳っているのにもかかわらず、最終的に「もぐら」の抽出に寄与していないのが物足りなかった。

    作品として面白かったのは「マネー・チェンジャー」、「テロリスト・ルート」、「皇帝の密書」、「尋問」、「暗号破り」の5編。つまり最後の6編中、5編が面白かった。

    「マネー・チェンジャー」は先進各国は資源の確保のため、発展途上各国に行う資金投入がエスカレートして債務国の支払能力をはるかに上回るほどの過剰投資となっているという悪循環の内容が非常に興味深かった。これは恐らく事実なのだろう。本当に起こりうる話だというのが怖い。

    「テロリスト・ルート」はアラビア語を自在に操る工作員ヘンリー・ミリントンというキャラクターの魅力に尽きる。ヘンリーのスパイとしてのプロフェッショナルさが際立っており、最後の皮肉なラストも小説としてのレベルが高い。

    「皇帝の密書」はよくある設定なのだが、こういう始まり方は好き。しかし皇帝の末裔が語る「天下の一大事」の正体がいささか弱い気が。

    「尋問」はスパイ活動の非情さを克明に書いた一編。ロシアに侵入したジェレミー・ディーデスに行われる拷問についての詳細な内容は痛々しいし、また「もぐら」で潜入したスパイ、ウィリアム・デイビスの末路も哀しく、ここで打つ手がなくなったと思わせるフリーマントルの小説作法が心憎い。

    しかし最後から2番目の「暗号破り」で暗号解読のスペシャリスト、ヘンリー・アクストンの活躍で一気に好転する。これはヘンリーの人物を上手く描くと共に連作短編としての展開も見事だ。

    このようにクオリティの高い短編もあるが、今回の評価が低くなったのはやはりラストのどんでん返しによる。サプライズのために用意されていたのだろうが、あれは余計な設定だった。
    主人公の個人秘書が実は辣腕の二重スパイだったなんて、驚くどころか、興が削がれた。こういうところが職人作家のいらぬサービス精神なんだよなぁ。

  • いやー……スパイ物としても、意味なくエージェントが死にすぎで、読後感悪すぎ。

    「ファクトリー」内にいるはずの二重スパイ・もぐらを探そうとする、本部長ベル。
    この人がまあアル中で不倫中で、自分の保身まみれが理由で、内部監察班に調査を頼みたくない。で、自分でいろんな手を考え、囮のエージェントを使って失敗したりして、6人もの無関係のスパイが亡くなる。
    スパイ物なんてそんなものかもしれないが、ここまで犬死にさせられ三昧(しかも当のスパイ達は囮にされたことすら知らない)なのは、読んでて楽しくなかった。

    しかも、もぐらってこの人だよね~、と見当がつくだけに……。
    なぜ、ソビエトの二重スパイが一人勝ち、というラストにしたのだろう?
    血湧き肉踊る冒険もなく、騙し合い合戦でもなく、スカッとする展開もなし。なんだかなぁ……。

  • フ−13−25

  • フリーマントルの新作だとつい買っちゃうけれど、短編はイマイチかも。

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