奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102180211

作品紹介・あらすじ

脳科学者である「わたし」の脳が壊れてしまった-。ハーバード大学で脳神経科学の専門家として活躍していた彼女は37歳のある日、脳卒中に襲われる。幸い一命は取りとめたが脳の機能は著しく損傷、言語中枢や運動感覚にも大きな影響が…。以後8年に及ぶリハビリを経て復活を遂げた彼女は科学者として脳に何を発見し、どんな新たな気づきに到ったのか。驚異と感動のメモワール。

感想・レビュー・書評

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  • 脳科学者の著者が脳卒中で左脳を損傷してしまった時の体験、その回復までの貴重な記録。

    何年か前に著者のスピーチをYouTubeで観て衝撃を受けたことがあって、右脳の能力についてもっと知りたかったので、本も書いてると知ってすぐ購入。

    さすが脳科学者だけあって、自分の脳に起きてることを客観的に科学的に記録してくれている。
    左脳が機能しなくなって右脳だけになった彼女が体験した世界はほんと衝撃的だ。
    宇宙とひとつになって深い安らぎを経験したことには、ほんと驚いた!

    右脳と左脳の機能の違い、私たち人間の成り立ちetc 目からウロコの情報がいっぱいすぎて書ききれない。

    ぜひより多くの人に読んでみてほしい!!!

  • 脳科学者である著者が脳卒中を経験し、回復したのちに著した闘病記(&脳についての解説)。

     主軸としては脳科学や生理学ではなく、あくまでも「闘病記」ですが、巻末の付録には脳について専門的な解説が掲載されています。
     こういった闘病記にありがちな、冗長で、読んでいる方まで辛くなってくるような悲観的な気持ちなどは殆どなく、どちらかというと(読みようによっては)科学者として、「左脳が壊れたことによって何が起こるか」を観察し、実際に左脳の機能を取り戻すべく試行錯誤してみて、実際に左脳を取り戻すまでの実験記録、のようなニュアンスを感じました(前向きで意欲的な姿勢に溢れた感じ)。
     やっぱり研究者はどんなことがあっても研究者なのだなあ、と思いましたし、説明の理路整然とした感じや、「コントロール」しようとする姿勢から、一度左脳の機能を失ったとは思えないほど、ジル博士は根っからの(?)左脳型なんだなと感じました。脳卒中になる前の博士はかなーりカタブツだったんだろうなと容易に想像できます。

     左脳にゴルフボール大の血栓ができてしまったジル博士は、左脳の機能を大幅に失いながらも、手術を乗り越えて左脳を「取り戻す」ことに成功します(とはいえ、血栓のせいで死滅した左脳の細胞は取り戻すことはできず、代替する細胞が役割を担ったという形)。
     この体験を通じて博士が感じた右脳と左脳の役割について、そしてリアルな発作時の様相について、生き生きとした文体で綴られており、電話に辿り着けないくだりなんかは見ていてハラハラするというか、一種、何かの映画を見ているような気分になるほどでした。
     左脳と右脳の機能の違いについて、一般人である私などは一般書で「左脳は計算」「右脳は絵」くらいにしか考えていませんでしたし、知りませんでしたが、左脳が機能停止して、ほぼ右脳だけの世界になったジル博士の体験を読んでいると、「右脳って芸術一辺倒みたいに考えられているけど、実は違うんだな」ということが分かりました。
     左脳が機能停止すると「脳のおしゃべり」がなくなって涅槃の境地に達する、というのはジル博士の個人的な体験ですが、実際に「判断、批判、論理」をつかさどる部分が機能停止したら「この瞬間」にしかフォーカスできないのも頷けます。
     別の方(『壊れた脳 生存する知』の著者、山田規畝子さん)の本を読んだときも、「前頭葉の判断力が自分を助けてくれた」というふうな記述があったと思いますが、左脳が使えないと判断ができなくなるんですね。
     一方で右脳は様々な視覚的イメージを断片として(コラージュのように)記憶していて、左脳よりずっと記憶力が良いことも初めて知りました。感覚器と密接に結びついていて、私達が五感で世界を楽しめるのも、右脳のおかげなんですね。
     そのほかにも、本書のあらゆる箇所で左右の脳の役割について、詳しく述べられています。
     巻末には「回復のためのオススメ」として「病状評価のための一〇の質問」と、著者が医療者や周囲の人たちに実行して欲しかった事を集めたリスト、「最も必要だった四〇のこと」が収録されています。医療に携わる方や周囲に脳卒中を患った人がいる方にはお勧めできる本ですし、そうでない方にとっても、他人事ではない(日本人の三大死因である)事なので、興味がある方は一読をおすすめします。

  • 脳科学者として充実した日々を送っていた著者が、脳卒中から回復するまでの記録。とても面白い本でした。
    脳卒中に襲われた朝の記述はとてつもない臨場感があって、読んでいてドキドキしました。脳卒中になっても脳のいっさいの機能が損なわれるわけではなく、何もかも分からなくなるわけではないんだと改めて気づかされるとともに、そこから病院で治療を受け、徐々に回復へと向かう道のりをここまで克明に文章にできる著者の強さと聡明さに感動しました。
    著者は左脳に損傷を受けたため、回復するまでは圧倒的に右脳が脳の機能を支配したようですが、そのさまを表した文章が素晴らしい。
    「かみさま、どうか、わたしのいのちをおわらせないで」と祈ったかと思うと「自分が生き延びたことに激しい失望を感じていたのでした」と葛藤する様子や、「肉体の境界を感じることができず、(中略)わたしは、自分が『流れている』ように感じました」という表現はとても文学的。
    そして「あらゆるエネルギーが一緒に混ざり合っているように見えたのです。」「わたしはこの粒々になった光景が、まるで印象派の点描画のようだと感じました」というような表現は映像的で、字を追わせながら強く視覚に訴えてきます。
    とにかく引き込まれるようにして読みました。
    私たちの日常は、右脳と左脳が絶妙なバランスを保っているからこそ普通に過ぎていくんだな、それってまさに奇跡的なことなのかも、と思ったし、自分の感情の手綱は自分で握る、というのも心がけたいと感じました。
    『回復のためのオススメ』の章の『最も必要だった四十のこと』を読むと、脳梗塞で倒れた母もこんな気持ちでいたのかな、と考えさせられます。子どもにものを教える人間として教訓にしたいと思うことも。
    非常に得るものの大きかった本でした。

  • すごい体験が語られている本。
    TEDというプレゼンサイトでこの著者のプレゼンの様子を見たが、この本で語られているような状態から、あそこまで回復したのかと思うと信じられない。
    脳卒中後の著者が周りの人の反応(ゆっくり話を聞かない、追い立てる、面倒そうに切り上げる)をどのように感じていたかを読んで、病気や障害で流暢に話ができない人は、本当はこんな風に感じているんじゃないかと思った。今まで、そういう人に対峙したとき、こっちが辛くなってしまって、話を切り上げたりしてしまったように思って、反省した。
    外から見える状態と中で感じている状態はまったく違うんだな、と。脳の働きの不思議さももちろん面白かったんだけど、個人的には、そこがいちばん印象に残った。

  • ジル・ボルト・テイラー(1959年~)は、インディアナ州立大学で博士号を取得後、ハーバード医学校で神経解剖学者として勤務する傍ら、全米精神疾患同盟(NAMI)の理事を務めた。1996年、37歳のとき脳出血により左脳の機能をすべて失ったが、8年のリハビリにより回復、2008年にはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。現在は、ハーバード大学脳組織リソースセンター(ハーバード・ブレインバンク)のナショナル・スポークスマンとして、重度の精神疾患の研究のために脳組織を提供することの重要性について、啓蒙活動を行っている。
    本書は、著者が脳卒中になったときの状況、脳卒中からリハビリを経て回復する過程、そして、脳卒中になる前と後で何が変わり、それによってどんなことを考えるに至ったのかを、赤裸々に綴ったものである、
    私は、文系キャリアの会社員だが、脳の不思議な働きについては従前より興味があり、これまで、エベン・アレグザンダー『プルーフ・オブ・ヘヴン』、オリバー・サックス『妻を帽子と間違えた男』、ダニエル・タメット『ぼくには数字が風景に見える』、クリスティン・バーネット『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』、東田直樹『自閉症の僕が飛びはねる理由』、坪倉優介『記憶喪失になったぼくが見た世界』、恩蔵絢子『脳科学者の母が、認知症になる』等々、幅広い本を読んできたが、本書もその流れで手に取った。
    前半では、著者が、ある朝突然脳卒中になり、職場の同僚が駆け付けてくれるまでに、自分の身に起こったことを、脳科学者の視点から具体的に記しており、(妙な言い方にはなるが)我々読者が脳卒中にかかったときの参考になるような内容である。
    そして、後半で書かれているのは、著者の脳卒中が起こったのがたまたま左脳で、左脳の機能をすべて失ってしまったために、その直後から、自分を取り巻く環境・世界の認知が右脳のみに依拠することとなり、それによって生じた世界観・人生観・価値観の劇的な変化についてである。具体的には、言語処理・論理的思考・分析・数学的能力・感情コントロールなどの左脳の機能が失われ、創造性・直感的思考・イメージ力・空間認識能力などの右脳の機能が前面に現れることによって、自分が宇宙と一体化する、所謂「悟り」のような境地に至るのだという。そして、著者自身、脳卒中前のように、(左脳の働きからくる)クソ真面目で、あらゆることを「正しいor間違っている」、「良いor悪い」で判断することがなくなり、(右脳の働きからくる)現在の瞬間の豊かさだけを考え、常に物事を楽天的に捉える性格に変わったのだという。究極の問いかけとして、「あなたは、正しくありたいですか、それとも、幸せになりたいですか?」とも言っている。
    後半は、宗教的というかスピリチュアルな印象が強く、基本的に合理主義者の私には少々苦手な内容になっているが、宗教体験や臨死体験を経験した(と言う)多くの人は、同じようなことを語っており、それは、おそらく右脳の働きと何らかの関係があるのだろう。
    脳の働きと、それによって人生の捉え方が変わる可能性があることを示唆してくれる一冊である。
    (2024年1月了)

  • 科学者「左脳タイプ」が脳卒中になり、左脳の機能が著しく低下した。
    8年かけて回復した話。

    左脳が低下して
    筆者は右脳の存在役割を目の当たりにする。
    右脳マインドのキーワードを挙げるのであれば「思いやり」「愛のこもった共感」【平和と愛の心】
    全体像を感じ取り、自分の周囲や内部のすべてのものは宇宙という織物に織り込まれたエネルギーの粒子でつくられている。

    右脳の人格にいい悪い正しい間違いの判断はない。いつまでも楽天的。
    慈しみ深い。感謝でいっぱい。
    新しいことへの挑戦。型にはまらない。創造的。


    ✳︎怒りは90秒で生理的に消える。消えない場合は、わたしがそれを選択している。【左脳で】
    怒りを反映して論争をするか(左脳)
    感情移入して同情的な気持ちになるか(右脳)
    えらんでいる。


    障害、これまでと違う生活を余儀なくされた人にあった場合。憐れむのではなく【優しさと好奇心】で接している。

  • 何度読んでもすごい。
    著者は脳科学者。脳梗塞で左脳が働かなくなった事で、思いかけず右脳の真の働きを感じるようになる。
    右脳の世界には過去や未来、時間の感覚がなく、今・ここに・あることだけ。世界との調和と一体感、幸福を感じている。
    仏教的な悟りや解脱とも近く、科学と宗教との統合感も面白い。

  • 過去の嫌な事、失敗を思い出して、「わー」てなることありませんか?


    私はよくあります。


    あんなこと言ってしまった。やってしまった~ぐるぐる~と回って、声をだしたくなる。出す。


    これって、左脳のマイナスなループを右脳が止めてくれてるんだと思いました。

    そんなことがわかる素晴らしい本でした。

  • 回復までの体験から著者が感じた事が描かれている。
    医学的な様々なデータを引き出して説明していくのかと思いきや、凄く感覚的な文章。
    かなり主観的な印象をうけた。(良い悪いは別として)
    医学の話ではなく、哲学的な内容
    自分の思考をコントロールし幸せに生きるための方法が描かれている。

    ただ、文章としては、リズムや表現がちょっと自分の感覚と合わず、読み辛かった…
    この翻訳者と相性が良くないのかも

  • 著者は脳科学者であり、それも学会を代表するような非常に優秀な脳科学者であった。しかし、突然、朝、左脳に異変を感じ、脳梗塞になり、言語等失ってしまった。しかし、そこは脳科学者であった。左脳が損傷を受けていることを自分の内から認識し、右脳を駆使しつつ、左脳の回復、というより、左脳と右脳を結ぶシナプスの再構築を行っていく、リハビリの中で、自分がどう考えてきたかをつづっている。
    そこでは、理性等を司る左脳が当面使えなかったので、非常に心が落ち着いていたという。怒りや妬み、自尊心などをそこまで感じず、右脳という直感を司る脳だけで、非常に幸せな時間を過ごせたともいう。回復はしたいが、できれば、そのような余分な左脳の機能は回復せずにおけないだろうか、とも考えたようだ。

    本書は、脳梗塞を起こした人を支える人に読んでもらいたい。というのも、脳梗塞をした人は、どのように感じ、生きているかをかなり具体的に記載しているからだ。大きな声でしゃべらないで、ゆっくりしゃべって、十分な睡眠をさせて、など。

    でも、作者は、非常に有能な学者であったためか、本書の端々に、自分はえらいんだ、というような書きぶりが垣間見える。もう少し、謙虚な人物であったなら、私ももう少し素直にこの本を読めただろう。ということで星2つ。中身はよい。

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