人間をお休みしてヤギになってみた結果 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784102200032

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  • 自宅の裏庭で鉄鉱石から鉄を抽出し、ジャガイモの澱粉からプラス
    チックが作れると知ればチャレンジし、某国の硬貨からニッケルを
    入手する。考えられるあらゆる手段を駆使して原材料を揃えて、
    自作のトースターを作り上げたイギリス人のトーマス。

    大学院の卒業制作だったこのトースター・プロジェクトをまとめた
    『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫)は世界中で
    反響を呼び、作品はトーマスが暮らすイギリス以外の国の博物館で
    も展示された。

    無謀とも思えるチャレンジを繰り返すトーマスの姿に笑えた一方、
    大量生産・大量消費を考えるきっかけも与えてくれた。そんな
    トーマスが、またやってくれた。今度は自分が作品になってし
    まっているのだ。それも、ヤギ。

    めでたく大学院を卒業してフリーランスのデザイナーになったもの
    の、暇である。仰せつかったのは姪っ子の愛犬の散歩。既に33歳に
    なったトーマスは、将来に対するぼんやりとした不安を抱えていた。

    その解決方法は…そうだ!しばらく動物になって人間としての悩みを
    忘れちゃえばいいじゃんっ!

    ど、どうしてそうなる?トーマス。フリーランスを辞めて就職する
    とかって選択肢はないの?それか積極的にデザイナーとしての自分を
    売り込むとかさ。

    私の思考の斜め上を行っているのであろうトーマスには現実逃避が
    一番の選択だったようで、思い立ったら行動は早い。早速、医学研究
    などの支援をしている団体に「象になりたいプロジェクト」の申請
    を出す。

    そう、そもそもの始まりは象になることだった。でも、実際に象を
    見る機会があってその大きさにあっさり断念。象になりたくなくなっ
    ちゃった。さて、どうしたものか。

    そこで相談したのがシャーマン。えっと…動物学者とかじゃなくて、
    何故にシャーマン?ねぇ、トーマス。どうしてそうなっちゃうの。

    そしてシャーマンの助言は「ヤギなんてどう?」だった。それ、
    いただきっ!ヤギになって草原をギャロップしたいっ!

    見事な方向転換だよ、トーマス。

    イギリス国内のヤギの権威に「ヤギって悩むんですか?」などと話を
    聞きに行き、言語神経の研究者に電気ショックで人間の言葉を失わせ
    て下さいとお願いし、病気で死んだヤギの解剖に立ち会って体の構造
    を調べ、義肢技術者に頼んで本来の仕事の合間にヤギのように動ける
    補助具を作ってもらう。

    完璧だよ、トーマス。ママに作ってもらったヤギ用防水スーツもある
    し、これで一通りヤギになりきるツールは揃った。さぁ、ヤギの群れ
    に同化する為、アルプスへ出発だ!

    なんでわざわざアルプスなのか分からん。ヤギについてレクチャーして
    もらった保護施設でもいいんじゃないか?でも、きっと雄大な自然の
    なかで草をモグモグするヤギがトーマスの目標だったのだろうな。

    アルプスでのトーマスはしっかりヤギになっていた。しかも、ヤギたち
    から「仲間」と認められちゃってた。

    こうと決めたら走り出す方向が人とは少々違っているけれど、トース
    ターの時といい、今回のヤギになりきるプロジェクトといい、「やり遂
    げる力」の発揮度合いは超人的だ。

    トーマスがアルプスに行ってヤギになりるまでには哲学的考察があり、
    人間と動物の進化についての言及があり、人間の言語を理解すると
    言われる動物に対しての検証もありで、人間とその他の動物との
    違いを考える上で非常に参考になる。

    やっていることは破天荒かもしれないが、トーマスって実はとても
    教養豊かで感受性の鋭い人なのではないかしら。

    嫌な出来事が重なったりすると「あ~、鳥になって好きなところへ
    飛んで行きたい」とか、「猫になって1日中ゴロゴロしていたい」と
    思うことがある。だからって、トーマスのように本当に人間をお休み
    してしまうことはないんだけどね。

    だって、本書を読むと人間と動物の体の構造の違いが分かってしまう
    から、人間は人間以外のものにはなれないんだと思っちゃう。

    さて、念願の(?)にヤギになってアルプスを歩き回ったトーマス。
    次は何をしてくれるのだろうか。期待しちゃうよ。

    尚、ヤギになれたトーマスだがギャロップは人間の体の構造上無理
    だった模様。ヤギのように前脚(人間なら両腕)から着地したら、
    鎖骨が折れてしまうのだそうだ。

    各章、カラーでの写真が豊富でヤギ・プロジェクトの様子がよく理解
    出来る。だが、解剖時の写真もあるので苦手な人は要注意だ。

  • 周りの人間は就職して頑張っているのに不甲斐ない日々を送っていた僕は閃いた。

    「そうだ、象になろう」

    人間の「悩み」から解放されるためにヤギ(象から変更)になる道を模索する僕。内臓を含めて身も心もヤギになるために四苦八苦。ヤギになるのは意外と難しい。多方面のエキスパートの手を借りて僕はヤギになれるのか。

    著者の『ゼロからトースターを作ってみた結果』も面白かったですが、こちらも著者ならではのアクティブさでガンガン推し進めてしまうところにある意味感動しました。

    一番驚いたのは「そうだ、象になろう」プロジェクトにお金を出してくれる企業があるということかな( *´艸`)2016年イグノーベル賞受賞。

    ※解剖など一部グロいシーンもあります

  • 就職出来ないという悩みを、ヤギになることで忘れよう。
    といわれてどうお感じになるだろうか。
    十中八九、「何を言っているんだこいつは」と感じるだろう。
    しかし著者はこれを思いついてしまったので、実行に移してしまうのだ。著者は最初から最後まで、勢いで生きている。本人も自分の顔写真に「Mr.無計画」とキャプションをつける程である。
    はじめは私もはははと笑いながら読んだ。だが読み終わって、ふと考える。我々は、私は、頭でっかちになっていないか?慎重は行動に起こさないことの言い訳ではないのか?著者は、思いつきを行動に移し、周りを巻き込み、計画は変更になりまくっても最後までやり通す。そんな著者を、周りの人も呆れながらも手助けしてしまうのだ。

    考えすぎて、足がすくんだ時に読み返したい。飛び込め!

  • 「ゼロからトースターを作ってみた結果」を読んだのが、ブクログによるとどうやら2015年の10月だったらしい。
    あれは面白かったなー。
    ちゃんとは覚えてないけど、インパクトが凄かったなー。
    と、いうことで去年の11月に公開されたゆる言語学ラジオのラザロ回で、その著者であったトーマス・トウェイツのドキュメンタリープロジェクトの2作目である本書の復刊企画にのってみた。

    今回は、現状無職の宙ぶらりん状態に嫌気がさした著者トーマスが、まともに就職して根本の悩みに向き合う…、
    のではなく、人間だから悩むんだ!
    象になっちゃえばこんな悩みなんてなくなるはず!
    とのトンデモ思考でプロジェクトをはじめて、紆余曲折を経て人間を休んでなろうとする動物を象からヤギにチェンジ。ヤギの魂、思考、体、内臓の違いを乗り越えてはアルプスでヤギの群れとひとときをともにし、アルプスを越える…、
    というドキュメンタリー。
    荒唐無稽ながら、動物愛護問題やら地球環境問題やらがふんわりと意識される部分もあり、クスッとさせるところもあるけど、なかなか考えさせられる内容でもある。
    ただトースターの時もちょっと思ったの思い出したんだけど、
    わたしはこのトーマスが近くにいたらたぶん仲良くはなれないなぁ…。
    全然部外者として文章で読んでいる分には面白いけど。
    だけど実際にはこういう異次元の考えで、たとえまわりに理解されなくても、やろうと決めたプロジェクトをゴリゴリ進める行動力があるホモサピエンスは強いんだろうな、と思った。
    これ読んで、ちょっと眉を顰めちゃう自分の小ささにも気づきました。

    いずれにせよこちらも前作同様、着地点はわりとグダグダだったものの、
    過程やその背景にいろんな思考を促されたし、全体的にみてもかなりインパクトのある内容でした。
    あ、相変わらず訳のクセも強かった。 

  • 引き続き、村井理子さんの手がけた本を読んでみた。

    私の場合、前段「ゼロからトースターを作ってみた結果」の存在を知らないまま、この本だけを読んだが、おそらく前段から続けて読むとさらに面白かったとおもわれる。

    さて、トースターで注目されたデザイナーというかアーティスト、兼、研究者のトーマスが、今回はヤギになるプロジェクト。
    何を言ってるんだと思うが、それを本当に真摯にやってるのだから、なぜかこちらもそれについての疑問は無くなる。
    各分野の専門家に丁寧に話を聞きに行き、クレイジーさに呆れられつつも、丹念にプロジェクトを練り直していく様子は尊敬に値する。

    第1章の魂の話がけっこう長くて、離脱しそうになったが、2章の思考、3章の体、4章の内臓、と来て、どんどん話は短くなり、具体的になっていくので、後半は読みやすさが加速する。
    そして5章で、トーマスはついにヤギと共に時間を過ごし、ヤギスタイルでアルプス超えを実行する。すごい。
    というか、やっぱり足腰腕首がすごく痛そうだ。
    バッタ?を食べるシーンは写真だけなのか、これは涙目にもなるでしょ。

    2章の後半で登場した、人間もだんだん家畜化され、おとなしい個体が多く生き残ってきた、というエピソードが面白い。
    若い、攻撃的な雄が、反社会的、反体制的みたいな理由で、死刑になることでその遺伝子が淘汰されてきた、とのこと。
    そして動物にもいくつか存在が認められている、その種族で通じる、主に音声による複雑なコミュニケーション=言語についての一節が面白かった。
    いわく、言語には過去を表すシステムがある。自己に起こった出来事を物語として、アイテムのようにいつも出し入れできることが言葉の強みであるというような話で、ふむふむと楽しく読むことができた。

    カラーの写真が後半に多いのも注目。
    グロいかもしれないがリアルさが伝わる解剖シーン、そして美しいアルプスとヤギとトーマス。
    わざわざこの両者をカラーにしてある親切?設計にいろいろと恐れ入った。

  • こんどはやぎになった

  • 図書館で。
    人間である事やめたい、(悩みが無さそうな)ヤギになりたいって発想はちょっとわかるけど(猫になりたいと思った事はある)実際行動に起こすところがスゴイ。すごいけど…今回のプロジェクトはちょっと片手落ちじゃないかなぁ?

    と、思ったのも。
    ヤギになるのがゴールなのか、人としての悩みを忘れるのが目的なのかがよくわからないのが一つ。ヤギの格好をして、ヤギのように歩き、ヤギと同じものを食べる事でヤギになれるのか?ヤギと呼べるのか?という疑問が二つ目。(じゃあヒトと同じような服を着せられて、ヒトと似たような食事をし、2足歩行する犬やネコや猿はヒトなのか?)
    そしてヤギの格好をして4足歩行をしてヤギの群れと同行したことで人としての悩みを忘れられたのか?という結論が語られてなかったのが3つ目。他にもあるけどまぁ大きな疑問点はこんな感じ。ヤギの格好で4足歩行してアルプスを越えるのが目的じゃ無かったんじゃない?と読み終えて思いました。(ある意味、最初の章のシャーマンは正しい。ヤギのコスプレするのが目的なわけ?というね)

    そして動物には過去という概念が無いというのも疑問。人にも過去なんて無いのかもしれないし。あるのは現在だけで、過去の記憶を思い返している現在の自分が居るだけだと言われればそれまでだし。来たるべき冬に備え、食料を備蓄するリスには未来という観念は無いのか?非常に難しい問題。そもそも、ヒトと同じ考え方をするのがインテリジェンスって訳でもないし…とか言う議論をしている本ではないのですが象が難しそうだからヤギでってのも…ねぇ?(笑)

    トースタープロジェクトの方が面白かったな。着眼点が面白かったし、昔の技術が廃れていく事の恐怖と、自分が作りだせないものに囲まれて生きている現代人の矛盾が面白かった。けどヤギはねぇ… なんかけっこうヤギに失礼な本だなぁと思ったり。

  • トーマス・トウェイツは、ロンドン出身、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン及びロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒のグラフィック・アーティスト。
    トーマスが大学院の卒業制作として行った「Toaster Project」は、トースターをゼロから自作することを目標に掲げ、鉱山で手に入れた鉄鉱石と銅から鉄と銅線を作り、ジャガイモのでんぷんからプラスチックを作るなどして完成させたもので、世界中の様々なメディアで取り上げられ、その記録(日本語訳)は『ゼロからトースターを作ってみた』として2012年に出版(2015年文庫化)されている。また、完成したトースターはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館のコレクションとなっている。
    本書は、トーマスが第二弾として挑戦した「GoatMan Project」、即ち、ヤギのように四足歩行できる人工装具を使ってヤギになり、アルプス山脈を越えるプロジェクトを描いたノンフィクションである。尚、このプロジェクトは、イグノーベル賞(人々を笑わせ、かつ考えさせた研究に与えられる賞で、1991年に創設された)の生物学賞(2016年)を受賞した。
    最初に、コンセプトを聞き、更に、(冒頭に書かれているように)そのきっかけの一つが、人間特有の悩みから逃れるために「人間をお休みする」ことと知ると、「何とバカげたことを」と思ってしまうのであるが、実際のプロジェクトの中で行っていくことは、ヤギの魂を知るためにアニミズムを研究し、ヤギの思考に近づくために脳の刺激実験を受け、ヤギの四足歩行を真似るためにヤギを解剖して補助器具を作り、ヤギと同じ食事をするために草から栄養を取る装置を開発するという、徹底したものである。
    これらの実験や研究が何かの役に立つのか否かはわからないのだが、「役に立つこと=価値」という行動原理が限界に達し、社会に歪みすら与えつつある現代においては、役には立たないけれど面白いことをとことんやってみることに、また、その記録を笑いながら読んでいることに意味があるのかも知れない。
    因みに、イグノーベル賞を継続的に受賞している常連国は日本と英国で、創始者のエイブラハムズ氏は「多くの国が奇人・変人を蔑視するなかで、日本と英国は誇りにする風潮がある」と語っているそうなのだが、それは、日本人的な発想・アプローチが、現代世界の問題を乗り越えていくためのヒントになることを示唆しているのかも知れない。(少々飛躍し過ぎだろうか。。。)
    読者としても、「人間をお休みして」笑いながら読めばいい一冊なのだろう。
    (2023年2月了)

  • ふざけた動機部分を乗り越えて読み進め、第一章半ば、シャーマンと行動を共にした人物の経験談から、鹿に擬態することで、ひと時鹿がヒトに見えた瞬間があり、それはつまりその時ヒトは鹿になり同時に鹿はヒトになったのだ(断定)、との作者強調部分で、論理が横暴すぎと本を放り投げたくなった。
    そもそも命題が突飛過ぎるのが原因なのだろうけれど、段階ごとの妥協の仕方が雑で、結局最終的に人間休んでどうだったのよ、っていうところはもはやどうでも良くなっているところが作者らしくて笑える。
    でも前作トースター同様、全力で本気であらゆる専門家の手を借りてプロジェクトに取り組む力、コミュニケーション力、人間力は素晴らしい。実際に体当たりしてこその体験談は読者にもたくさんの気づきをくれていると思う。

    冒頭の
    『満足な豚であるより、不満足な人間であるほうがよい。満足した馬鹿であるより、不満足なソクラテスの方がよい。』
    という引用がぴったりの本だった。

  • ヤギになろうとして、精神面と身体面の両方から攻めるのが素晴らしい。
    トースターをゼロからつくる!のスタート地点を「郊外の湖に自転車で行って、全裸になって自転車と服を全部捨ててから」に定めた人だけのことはある。

    象になるプロジェクトにお金だしてくれる機関に、象じゃなくてヤギになるプロジェクトに変更したことを伝えなかったくだりまじヤギ(褒めてる)。
    そもそも、まだ起こってもいない未来に怯えたり、やらかした過去を後悔したりしないようにヤギになろうとしてきてたはずなのに。
    「許可もらうより謝った方が早いから」報告しないとか…それできる時点でもうかなりヤギなのよ(褒めてる)。

    実はこの時点から思考もヤギ化しつつあったのではという疑問を持ち始めるとちょっとホラー。

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