ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

制作 : Harriet Ann Jacobs  堀越 ゆき 
  • 新潮社
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レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102201114

感想・レビュー・書評

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  • ある奴隷少女リンダの伝記小説
    126年後に実話と証明され作者が主人公の奴隷少女だったとわかるという長い時を得て日の目を見た本

    奴隷少女が書いたとは思えないほど知的でセンスの溢れる文章
    だからこそ、執筆者を著名な白人に間違われていたのかもしれない

    それほど物語としての惹きつける力がある
    そして彼女に起こる残酷で凄惨な現実に打ちのめされる
    死を選ばなかったことを単純に賞賛できないほど苛烈だった
    実際自分に置き換えたら...

    リンダの弟ウィリアムは言う
    鞭で打たれる痛みには耐えられる
    でも、人間を鞭で打つという考えに耐えられない

    リンダは思う
    大きな毒ヘビですら文明社会と呼ばれる地に住む白人男性ほどは怖くはなかった

    リンダは奴隷売買に思う
    自分の心が啓発されていくに従い自分自身を財産の一部とみなすことはますます困難になった
    正しく自分のものでは決してなかった何かに対し、支払いを要求した悪人のことは嫌悪している
    私は売られる
    私の自由を売買される

    リンダは奴隷逃亡生活の苦しい中で尊厳は取り戻していく
    自分を差別しない友との交流で
    リンダは自分の子供を奴隷制度から逃れさせるため逃亡をするが、人間の自由が売買される制度に強烈な嫌悪感を抱く
    剥奪されるのは人権だけではない
    尊厳や自主性、主張も持つ事を許されない
    奴隷のくせに傲慢だとみなされる

    聖書がなんの救いになるのだろう
    何を我慢すればいいのだろう
    なぜ なぜ なぜ
    と憤るしかなかった

    弱者に押し付けられる清廉という欺瞞の中で
    これだけの意見を持つ彼らはその聡明さが故に理不尽極まりない現実に苦しみ悶えた

    リンダの戦いは自由になったから終わるわけではない

    奴隷制度が撤廃されても歴史は残る
    リンダの言葉は今を生きる私にも必要なもの
    先人が血と汗と涙をふり絞って手に入れた人権、尊厳を権力の元に投げ出してはいけないと

    リンダという名も無き奴隷少女が綴った小さくて聡明で抗う力を与えてくれる本



  • ハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』新潮文庫。

    出版から120年以上経過し、やっと陽の目をみたという貴重な自伝的ノンフィクション小説。本作に描かれているのは生まれてから物心がつくまで自身が奴隷であることを知らなかった著者が、奴隷として生きてもなお希望を失わずに、自由を求める物語である。

    奴隷制度について描いた作品と言えば、アレックス・へイリーの『ルーツ』が有名である。しかし、『ルーツ』は、あくまでも事実に基づいたフィクションということで読み物としては確かに面白い作品だった。一方、本作は奴隷という身分に身を置いた経験を持つ著者が書いただけに恐ろしいまでのリアリティを感じると共に人間の残虐さを再認識する内容になっている。そして、読み進むうちに知らぬ間に著者の奴隷という視点で考えることを追体験することとなり、本当に不思議な感覚を味わうこととなった。

  • 偶然出会った本。届いて一気に読みました。

    150年前に実在した女性が実体験を忠実に綴った、奴隷少女の話。
    当時、奴隷は読み書きができなかった時代に
    運良く読み書きができたアメリカ南部の黒人女性。
    自由州と呼ばれた北部の女性に、南部の奴隷女性のことを知らせたくて
    筆をとったそうです。

    当時は、フィクションと思われ、自費出版だったこともあり
    埋もれてしまったそうですが、
    いくつもの偶然が重なり、時をこえて掘り起こされたアメリカの名著です。

    この本の翻訳者と同様に、
    自分も読まずにはいられず、一気に読みました。

    内容は大変過酷なものです。
    でも、こういった歴史のうえに世界が続いていて、
    今があるということを知っておくことは
    のちのち大変重要な要素になると思うのです。

    そういった側面で、この本に出会えてよかったと思います。
    気になった方は、ぜひ読んだ方がいいと思います。

  • 「事実は小説より奇なり」ということは、往々にしてあることを痛感させてくれる一冊。

    同じことが『アンネの日記』にも言えるのでしょうが、ジェイコブズの場合は、ある少女に起こった出来事を事実として記すだけでなく、読者に伝えようとしています。その点において、小説を読んでいるかのように思えるときがあり、結果として文学性を獲得しています。訳者あとがきにおいて、本書を『ジェーン・エア』などの古典文学と並ぶ位置づけにしているのも頷けます。

    本書の訳文はすばらしく、その読みやすさに感じ入ったのですが・・・。あとがきを読むと、現代の読者には通じにくい箇所などを割愛したりと、意図的に読みやすくしているとのこと。判断の分かれる訳業ということで★★★★。

  • アメリカの国営放送(VOA)が英語学習者向けに編集しているサイト「VOA Learning English」の中の1コーナー「America's Presidents」が非常におもしろくて、1代目から順番に楽しんで読んでいます。(でもまだ8代目あたりですが)
    で、3代目のトマス・ジェファーソンの回で衝撃を受ける事実が。
    トマス・ジェファーソンと言えば、ラシュモア山に顔が刻まれている4人の大統領の一人で、「全ての人間は平等に造られている」と謳う独立宣言を起草し、今でもかなり人気のある、あのトマス・ジェファーソン。「奴隷制度には反対」を表明していたらしいですが、そんな彼が、黒人奴隷と長く性的な関係を持ち、子供も複数いたと書いてあるではありませんか。
    ・・・( ゚Д゚)はぁ?!
    と思って、リンクが張ってあった記事から記事へと読み進めるうち、彼の正妻とその奴隷の女性は異母姉妹(つまり、父親はその奴隷の所有者)だったということも分かりました。遺族の反発などもあり、彼のこうした側面はずっと謎のひとつだったようですが、比較的最近(1980年代?)、その奴隷女性の子孫とされる人たちのDNA鑑定などを経て、今ではほぼ事実と認められ、ジュラシック・パークのサム・ニール主演でTVドラマも作られたらしい。
     ま、まじすか! と、さらに関連記事をむさぼるように読んだのですが、その中で、アメリカの奴隷制を知る貴重な資料として、この本が紹介されてました。というわけで、読んでみることにしました。(・・・長い前置きでスイマセン)

    ジェファーソンの奥さんと、ジェファーソンの子供を産んだ奴隷とが異母姉妹だった、という事実、聞いた時は、胃がひっくりかえりそうになりましたが、この本を読めば、それが当時は非常にありふれた出来事だったと分かります。
    白人紳士が黒人奴隷との間に子供を持つことは全然恥ずかしいことではなかった一方で、子供を買い取って自由にしてやることは、南部の経済基盤を脅かすとして、とても軽蔑される行為だった、と書いてあって、ビックリしました。なんだ、その都合の良い道徳観は!

    著者は、当時の感覚からすれば、もしかしたらラッキーな方だったのかもしれないなと思います。狭いコミュニティに住んでいたおかげで、体面を気にする所有者から力ずくで乱暴されることはなかったのだから。(当時はレイプなんていくらでもあっただろうと思うし、彼女の所有者であるドクターも、本気で「自分は寛大だ」と思っていただろうと想像する)

    ジェファーソン記念館の公式サイトにアップロードされているビデオは「ここを訪れる人は、ジェファーソンが良い奴隷所有者だったかと知りたがるが、なかなか説明が難しい。制度的に、善い奴隷所有者でいるのは不可能」と言っていました。
    この本を読むと、著者一人の生涯だけでなく、この制度そのものがいかに恐ろしく、抜け道がなく、奴隷たちをあらゆる方向から苦しめてきたかが構造的に分かります。
    良い奴隷所有者なんてものはこの世に存在しないという事実、少なくとも、私はこの本を読むまでは分かっていませんでした。

    ちなみに、この本を訳された方はプロの翻訳者ではないせいか、あとがきがちょっと変わっていて印象的でした。非常に熱い思いからこの本を訳したようで、思いが過熱しすぎて、あとがきのところどころが「ちょっと、何言ってるのか、よく分からない」状態になっていて、少し笑いました。
    こういう変わった経歴の人が訳す本には、プロとはまた違った気合が入っていて良いなぁ、と思いました。

  • ★3.5
    元奴隷の黒人女性が自身の体験を執筆し、刊行から約130年後にベストセラーとなった数奇な1冊。肌の色の違いだけで黒人が虐げられていた、奴隷制という恐るべき風習。著者が受けた印象ではあるものの、黒人に人権がなかっただけでなく、感情を持たないと白人に思われていたのが衝撃的。そして、残酷な言葉を吐いた口で、神への祈りを捧げる姿があまりに滑稽。が、白人=絶対悪ではなく、善い白人、悪い黒人も存在する。コルソン・ホワイトヘッド「地下鉄道」のモチーフになったと思われる箇所も多々。何よりも、息子のその後が辛い…。

  • 19世紀半ば。アメリカ南部で奴隷として生まれた女性の回想録。
    こわごわ読み始めたけれど、夢中になって一気読み。
    人間が人間を家畜と同様に扱う事の恐ろしさがよくわかる。
    奴隷制における奴隷の悲惨さは容易に想像できるが、所有する家庭にも品性の下落ををもたらすものであることはちょっと思いがけなかった。(むしろこちらの方が怖かった。)
    そんな痛ましい話ではあるが、読後感はさほど悪くない。
    奴隷であっても毅然として屈せず、ついには自由を手に入れるという一種の成功譚でもあるからだ。
    著者の強さと賢さに感動する。
    Amazonの類書に著者の写真が掲載されている。
    年は重ねた姿だが、真っすぐにこちらを見る目が知的で美しい。
    イラストも悪くはないけど、この写真が表紙だったらもっとインパクトがあったかも。
    それにしても、このおぞましい奴隷制度を最近まで継続してきた人間社会、そして容認してきたキリスト教(だけではないけど)の教えとはなんだろうと考えざるを得ない。
    人間はどうして自分より惨めな存在を欲するのか?
    自分の心の中に答えを探りたい。

  • 黒人奴隷を母に生まれた少女。ある程度の教育を受ける事ができ、何とか生き延びたので、自分の境遇を書き残すことができた。
    社会的な制度の上に縛られてはいない今の日本では有るけれど、昔からの習慣に縛られているのは感じる。曰く、女のくせに 女だてらに 女の子でしょ。まぁ年も年だし、今ではそんな縛りには目もくれないで、好きなことをしているけどね。

  • 奴隷だった本人の生涯の著書って本当に貴重だと思う。文章かけるは海外に出かけるし、生涯の生き様を見る限り容姿にも恵まれてしまったばっかりに、より苦しむことになるとは。
    途中、様々な雇い主の家族を知っている著者が、奴隷制度が黒人にも白人にも害悪をもたらすとの記述が印象的だった。
    やはり人としての尊厳を排除した制度は完全に人間を堕落させるのだなと。

  • 新潮文庫の夏の100冊の冊子を観て購入。一気に読み進む。アメリカ南部の奴隷制の真実が綴られている。
    映画「それでも夜が明ける」を観た時も奴隷制の真実を知り衝撃だった。
    リンダという女性の心情が文章から痛いほど想像できる。堀越ゆきさんの翻訳も素晴らしい。日本語で読むことができ感謝。今の時代だからこそ読む価値あり!佐藤優さんの解説付き。

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