エンデュアランス号漂流 (新潮文庫 ラ 15-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102222218

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  • 自然の脅威の前では人間なんてちっぽけなもの。牙を剥く自然はこれでもかというほど、氷の海に取り残された探検隊に苦しみを与えてきます。まさにそれは荒れ狂う自然と人間の死闘でした。それでも彼らはどんなに絶望的な状況に陥ったとしても、ボスであるシャクルトンの元で団結し決して命を粗末にすることなく生き延びてきました。時には、ボスの命令に反感を持つこともありました。仲間内での小さな揉め事もありました。それでも彼らはボスを敬い協調性をもって生きてきました。シャクルトンの指示は的確でなかったこともあったけれど、それでも仲間を誰一人失うことなく奇跡の生還を果たしたことは、やはり素晴らしいリーダーに違いないでしょう。次から次へと彼らに極限の試練を与える神でさえ、シャクルトンのリーダーとしての精神力の強さの前では、遂に引き下がるしかなかったのではないでしょうか。大いなる自然にはなくて人間にあるもの。それはリーダーシップ、協調性、決してあきらめない精神力・・・大切なものです。今日本に生きているわたしたちは、地震や台風などの自然災害の怖さをよく知っているはずです。そんなわたしたちにも大切にしなきゃいけないものですね。

  • 2023年、最初の読書。

    『わたしのなつかしい一冊』で、池澤夏樹さんが愛読書に掲げていらしたうちの一冊。『オオカミに冬なし』と共に、『冬セット』と名付けて読み始めた。

    ところで、今日は2023年の1月13日である。お正月も連休も、へちまもない。正月から現時点まで、私以外の家族二人が急病で、ものを読む状況ではなかった。一人は眼疾。年末では受診したが、本来の病名が明らかにならず、正月から体調にも響いて、暮らしにくそうな上、すこぶる機嫌が悪かった。帰阪する予定もチャラで、それはそれで困ったのであろう。

    そうこうしていたら、もうひとりが原因不明の腹痛で、連休の最終日から今日まで、軽快しつつあるとはいえ、まだ回復していない。普通の痛みでもなさそうで、受診しても近隣のお医者様では、検査しきれぬと言う。コロナではなさそうと判断されても、新たにPCRを受けねばならず、結果待ちで受診できる大きい所を探し、片っ端から電話電話電話。やっと日が変わって大学病院にかかっても、もう一度精密検査が週末に必要と言われた。つまりは、一昨日まで戦場のような気分。ネットに出ていく気にも、他人様と話す気にもならない。ちょっと私自身の気を変えてやる必要があったのだ。

    眠れないし、どうにも落ち着かなかった。そういう中で、一昨日の夜から、深夜、息を詰めるようにしてこれを読み始めた。ほぼ3日で読み切った。手が止まらなかった。

    枕が長くて恐縮だったが、この本については、その空気は、似つかわしかったのではないか。

    初っ端、少し読み進めたら、南極探査船『エンデュアランス号』は遭難の憂き目にあってしまう。1900年代初頭のことである。無線がまだ珍しかったというのだもの。優美な帆船で探査に乗り出そうという時期。氷に阻まれ、船はじわじわと壊れ、大破。その後、隊員たちは流氷伝いに航海と徒歩で救助を要請にゆくという。

    犬ぞりも手放さなくてはならない、備蓄物資も限界がある。船の破損した木材から、新たに船を作り、かき集めた物資で命を繋ぐ。浮いている氷の上!でキャンプをし、その中で近い陸地に船出出来るのを待つというのだ。そう、この本では『待たざるを得ない』『行動したいのに出来ない』忍耐の時間が、多く描かれている。言うのは簡単だが、生還のその時まで、極限状態の大人が想像もつかないような極限の生活をして、誰も死ななかったのだ。まして、大きな仲間割れも起こしていない。これはすごいことである。

    なんとかして人間らしく暮らそう。なんとかして絶望しないでいよう。そう考えたら、人は、料理をし、人と話し、何かを楽しむ折を持たなくてはならない。それすらもやがては、奪われそうになるのだけれど、この航海の仲間は、何より休息したい時でも、死にたいとは言わない。そこが、本当にすごいのだ。他のレビュアー様もお書きになっているが、まるで自分も隊員になったように、この冒険行から、目が離せなくなってしまった。そこらの娯楽の、軟派な面白さなんか、しっぽを巻いて逃げてしまう。

    本書はノンフィクションであるので、事実を淡々と積み重ね、清廉な筆致で隊員たちの状況と心理を、細やかに描き出している。過度な感情描写はないのだが、それがかえって、胸に迫って、読む手を休めさせない。山本光伸さんのお仕事の中でも、長く残る名訳であろう。

    『カッコーの巣の上で』で、終幕近く、主人公が「ちくしょう。それでも俺はやってみた!やってみたんだ!」と叫ぶ。エンデュアランス号の男たちもまた、「やってみた」人たちだ。小さな頃、白瀬中尉の南極探検記も、様々な遺跡発掘の物語も、私は大好きで、知恵と勇気で生き抜いたり、成功を目指す冒険譚が大好きだった。長じて、冒険小説にハマったのも、同じ血のなせる技だったろう。それでも最近は、この手のノンフィクションから、ちょっと遠ざかっていた。「やってみた」人々の記録が、自分の胸に響くのかどうか、自信がなかったからだ。

    あいかわらず私自身は「やれない」ダメな奴かもしれない。だけど、「この人々はどうなるのか?」という興味から、読み進める内に「なんとかして助かって欲しい」と、祈るような思いで読んでいた。その心の動きは、まだ私が、社会に生きる者であることを教えてくれている。他者に思いを致さなくなった時、私は本当に人間でなくなってしまうだろうから。

    コロナの猛威はあいも変わらず衰えない。気軽なお出かけでもと、どこかのんびりした正月気分を望んでいたら、それどころではなかった。生きるのに疲れて、新しい何かが真剣に欲しかった。今も状況は良くない。多分わりと手詰まりだ。それでも。周りやSNSに毒を吐くより、この本を読む方を選べるって、悪くない選択だと思うのだ。

    どうか騙されたと思って、この本を読んでみて欲しい。そして、読み終わったら自分と、そばにいる誰かのために、温かい飲み物を淹れてみて欲しい。あなたの人生も、私の人生も、まだ。きっとまだ。

  • 正直に言えば読み始める前はそんなに期待してなかったし、最初の方を読んでる間も、そこまで期待はしてなかった。んだけども、読み進めるうちに、驚くほど引き込まれるというか、なんつーか、この人たちスゲーな、と。読んでるとずっと同じ状況だからだんだん気にならなくなってくるけど、氷点下20度くらいの状況で、水浸しになりながらでも寝るとか、もう意味が分からんレベル。ちょっと寒くなったから風邪ひいたわー、とか言ってられん。てか白人が常に半袖着てるのも頷ける。やつらは明らかに北方民族で、日本人は絶対南方から来たに違いない。
    それはさておき、冒険談とはいっても実話なんで、一週間毎にすげーイベントが待ってるでもなく、厳しい毎日が淡々と過ぎるだけなんだけども、そこらへんをうまく面白く書いてるのは著者の力量なんかな。いやー、期待外れに面白くて焦った。しかしなによりびびったのは、この漂流に関する話をいろんな人が本に書きまくってるって事かもしれぬ。

  • 「事実は小説より奇なり…」と使い込まれた言葉がある。

    数多の物書きが頭を悩ませ、プロット、キャラ、伏線、構成などなどキラ星のごとくの作品を生み出したとしても、このドキュメンタリー「エンデュアランス号漂流」におけるそれぞれにを前にしたら、裸足で逃げ出すに疑いの余地なしと思われる。

    今からちょうど100年前に極地で起きた極限のサバイバル、28人の男たちの奇跡の生還劇の全容を、丁寧な取材を元に、読者を29人目の隊員として極地へ駆り立てる。

    現在とは比較のしようもない装備、それでも決して諦めず己のすべきことをひたすら全うする男達に奇跡は訪れる。最高の読後感、自然への畏敬に自然と頭の垂れる思いがした。

  • 南極近くで座礁して沈没。シャクルトン以下26名は、大海原を漂う1本の浮木のように、1年半以上の漂流のあと、27名誰も命を落とすことなく生還した。人の生活がある場所へ命からがら辿り着いたときは心が震えた。運や、一つ一つの命を分けた選択。そのすべてが彼らを救った。

    我々は、いかに自然というものから目をそらして浅ましく都市生活を営んでいるかを痛感する。
    流氷の上に生活することは、それが猛烈な速度と圧力とぶつかり合って壊れたり沈没したり風と潮の流れに任せて大海原をあてもなく漂うことだし、数え切れないほどの鳥の群れの下にいることは絶え間無く糞が落ちてくるということだし、太陽が何日も見えなければ気も狂いそうになるし、けれどそんな単純な自然の摂理さえ本を読んで始めて納得する。

  •  シャクルトン本人の書いた『エンデュアランス号漂流記』の後に読んだ。
     「あの出来事を、そしてそれを生き抜いた男たちの姿を、できる限り正確に再現したいと考え、私は手を尽くした」というだけあり、ランシング著の本書の方が、出来事がより詳細に書かれ、隊員たちの個性や人間関係にもスポットが当たっている。読みやすく面白いので、他人にすすめるなら断然本書である。

     シャクルトン版ではあまり言及がなかったので気が付かなかったが、ランシング版では料理人のグリーンがいかなるときも皆の食事を用意しているのが分かる。自分もオールを握り、橇を引き、凍傷もあっただろうに、浮氷や島につくといつも真っ先火を点け、ミルク等を用意している。非常に地味だが、極限の状況にあって、このようなことを淡々とこなせる人はなかなかいないのではないだろうか。本書は隊員へのインタビューや彼らの日記等をもとに書かれているので、ほかの隊員の記憶にグリーンの働く姿が印象深く残っているということなのだろう。
     また、皆が一致団結し、常に前向きだったわけではなく、トラブルメーカーもいれば、嫌われ者や不平屋もいたということが遠慮なく描かれている。探検隊に選ばれるくらい心身ともに頑健で勇敢な人々だから困難を乗り越えられたわけではなかった。探検隊に選ばれた長所も短所もあるふつうの人間たちが、追い込まれ、あらゆる工夫をし、それぞれに克己心を奮い立たせ、自然の猛威を前に何とか連帯し、闘志を捨てず屈服しまいと踏ん張った果てに生還したのだ。

     「艱難汝を玉にす」というのはもとは英語圏のことわざだというのを最近知った。まさにエンデュアランス(不屈の精神)だと思った。

    【追記】これが面白いと思った方は以下もとてもおすすめ!!
    ジュリアン・サンクトン『人類初の南極越冬船 ──ベルジカ号の記録』

  • まさかちょうど100年も前にこのような冒険がなされていたなんて。
    南極圏で船が流氷帯で動けなくなりその結果、船が沈み漂流することになったのに、28人の隊員全員が無事生還されたという奇跡的なお話です。それが出発してから生還するまでに17ヶ月もかかったとのこと。

    当時の英国がどのような時代なのかは想像できませんが、100年前のお話ということで装備や燃料、食料、衣服などを思うと現代の冒険とはとても比べものにならない困難や危険性が伴っていると思います。

    そしてその時代にあのような素晴らしい結末。度重なる苦難の中でもその奇跡が起こったのは、リーダーのシャクルトン氏の素晴らしく機転がきいた判断や統括力、そして28人の隊員の方たちの明るく前向きな性格やそれぞれの人生経験による判断、限られたモノしかない中での様々な工夫が冒険を成功させたのだと感じます。

    このような冒険小説を読むと、甘えある性格の自分に喝を入れ、大きな勇気と、そしていざ困難に遭遇した際には必ずこのお話を思い出すと思います。そして決して諦めず困難に立ち向かおうと思える気持ちになるはずです。

    最後に星野道夫さんの希望によりこのお話の翻訳、出版が実現するきっかけになったとのこと。このお話をどこかで知ってからずっと気になっていたことを思い出し、出版年がもう古いため図書館の地下室で、でもまだ綺麗な状態で見つけました。登場人物が多かったり少し読みづらいところもありますが、学べることが数多く、ぜひ多くの方に読まれることを願っています。

  • エンデュアランス号漂流というタイトルですが、エンデュアランス号そのものは最初の数ページで氷山につぶされて沈んでしまいます(涙)

    そのあとの乗組員の死闘と奇跡的な生還の物語。
    人間ってすごい!
    極限状態で生死を分けるものは、装備や能力ではなく、リーダーシップや協調性などの人間関係なのでしょうか。

  • 成毛眞氏からのリファレンス。1914年イギリス人探検家シャクルトン率いる南極大陸横断のノンフィクション。522日間乗務員28人の記録を追う。

    初っ端から衝撃の座礁w。

    今日たまたまBBCで、その生態写真が掲載されていたアデレーペンギン。食べちゃってます。この人たち。ペンギンにはじまって、アザラシのステーキとか、そのアザラシのお腹に大量に入ってた魚とか、挙げ句の果てに犬ぞりの犬…。

    でもそんなの関係ねぇし、氷で押し潰されて船は喪失するは、キャンプに割れ目が到達してウカウカ寝てられねえは、密航者はいるは、足は壊死するは。そして旅の最終目標は救難を求めること。冒険の本当の価値って何なのかなと。

    手に汗握って読み終えて、きっとそれは勇気を後世へ与えることなんだろうなと思いました。

  • 1914年、英国人探検家シャクルトンは自身を含めた総勢28名からなる探検隊を結成。世界初の南極大陸横断を目指し、捕鯨基地があるサウスジョージア島から出発した。しかし、南極大陸上陸を目前に探検隊を載せた堅牢なエンデュアランス号は流氷に閉じ込められ、氷の圧迫によって大破、沈没してしまう。

    遠隔地との無線技術もなく、探検隊の派遣を許可した英国は第一次世界大戦に参戦。救助隊の要請は絶望的であった。孤立無援で氷の海に取り残された彼らを待ち受けていたのは想像以上の過酷な自然の猛威であった。

    氷点下20度を超える猛烈な寒さ、食糧危機、疲労そして病気…。
    絶え間なく押し寄せる数々の危機を乗り超え、彼らは17ヶ月にも及ぶ絶望的な漂流を得て出発地のサウスジョージア島へ奇跡の全員生還を果たした。


    現代技術を結集して、相当の装備や物資で臨んでも同じ行程をこなすには相当の苦労があると聞きます。それを考えるだけでも彼らの成し遂げた行為は前人未到の偉業です。

    よく整理された文章で読みやすく、大変面白いノンフィクションでした。

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