99999 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2006年4月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784102225226

感想・レビュー・書評

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  • オールタイムベストな一編、「幸せの裸足の少女」を去年の夏に読んだのだった。

     夏は追憶の季節だ。大好きな短編小説を読みながら、少し唐突にそんなことを思った。
     盗んだ55年型キャディラック・エルドラドで目指すカリフォルニア、道中で出会う裸足の少女。ロンドン・コーリング。バーガー・キングとハーシー・パーク。人生で初めてのいいキス。道路を支配した7時間、彼女と過ごした5時間。春、というようりも初夏と言いたい、16歳の6月の特別だった数時間。スクラップブックに納められた「心の底から幸福感に満たされ」た瞬間、そこにあるノスタルジー。
     夏らしいと言っても厳しすぎる日差しを浴びた後に乗り込んだ、少し冷房の効きすぎた車内でそんな短編小説を読みはじめると、わたしのスクラップブックも開かれた。もう随分と長い間忘れていたけれど、しっかりと収められていた記憶、ノスタルジーに浸る。夏は追憶の季節。
     二人乗りの自転車で下る校舎の前の急な坂道、坂の途中にあったサミット。万引きをした同じクラスのあの子、少し溶けたチョコレート。ベンチの代わりにした駅前の植え込み。ポケットのカセット・ウォークマンの中には、たしか7inchから録音した大好きだったEbullitionのあのバンド。なんでもなかったようで、幸福だったのかもしれないと気がつく数十分間の記憶。そのときわたしも16歳だった。
     しかし、思い出は過ぎた時間の分だけ美化されていくのかもしれない。 
     改めて省みる、あの頃思い描いていた未来とはだいぶかけ離れてしまった現在。その間にあった決定的な変化。過ぎていってしまった時間の取り返しのつかなさ。空白を埋めようとしたときに明らかになる事実。そのどれもがとても残酷だ。小説でも、多分現実でも。
     打ちのめされた夜にソファーの上から、あるいはその光景を読んでいる午後の電車のシートで、追憶しノスタルジーに浸るとき、美しさの後ろにある残酷さを、輝きがくすんでいく様を、「途中でやめるべきだったのに読んでしまった最後の陰惨なページ」を感じる、知ってしまう、突きつけられるものなのかもしれない。ああ。
     それでも、その全てが書かれた小説は、それが書かれているからこそ素晴らしいのだし、やはり美しいのだとも思う。何度も繰り返し読みたくなる魅力がある。きっと読み返すたびにスクラップブックも開かれる。追憶と未来と現在、人生を思う。少し大げさかも、とも思う。それでも、その繰り返しも、そこにある哀しみも、大切に抱きしめたい。
     寸前で気がついて慌てて降り立ったホームに立ち尽くして、この特別な短編小説と特別だった過去について考えていた数十分も、またスクラップブックに収められ、いつかの夏に開かれノスタルジーに浸ることになるのだろうか。ならないだろうか。そんなことを考えながら噴き出してきた汗を拭う。
     そうか、あの日聴いていたはずのAmber Innもカリフォルニアのバンドだった。そう気がつく。辿り着くことのなかった目的地。夏は追憶、それにエモーショナル、哀しみの季節でもあるのかもしれない。そんなことをわたしは夏の夕方に文庫本と静けさを手にして考えていた。

  • 私の評価基準
    ☆☆☆☆☆ 最高 すごくおもしろい ぜひおすすめ 保存版
    ☆☆☆☆ すごくおもしろい おすすめ 再読するかも
    ☆☆☆ おもしろい 気が向いたらどうぞ
    ☆☆ 普通 時間があれば
    ☆ つまらない もしくは趣味が合わない

    2011.12.16読了

    短編集。

    すごく面白いとか、ちょっといい話というわけではないけれど、何か読み終わって、良い感じ。

    卵をめぐる祖父の戦争を読んで、すごく良かったので、図書館で借りました。

    とくに文章が上手いようにも思えないけど、でも、詩を読んでいるようで、読みごこちが良いし、読後感が悪くない。

    分•解以外は、どの作品も好きかな。

  • 文学めいた文学。
    ショートショートみたいな切れ味勝負の作品もあるにはあるけど、作風としては曇りガラス越しに世界を眺めるような曖昧さをどっしりとした文章に乗せている。

    海外では純文学という用語は存在しないようですが、その系譜をもつ作品と思います。

    このような感性の持ち主が映画に流れて成功するのはあまり想像がつかない。
    他の著作に目を通したことはないけれど、才能の一端でしかないということだろうか。

    幸運の排泄物が心に残る。

  • リストを書いてみると、やはり暗いし、重いですねぇ。読んでる時はさほど感じないのですけど。
    わりに異常な状況を扱っているので、最初は寓意小説かなとも思ったのですが、そうでもないようです。特に難解なことも無く、全体に沈鬱ですが、どこか諦念を含んだ淡々とした文章で綴られています。そのため、ドーンと来るような感動も無いのですが、どこか心の奥に沈み込んでいくような存在感があります。
    その存在感がどこから来るのか判らないのですけど。。。。

  • 幸運の排泄物が良かった。彼らしい美しく切なく、川原の真っ赤な夕焼けを見たときのような焼けるような気持ちを感じた。

  • 10位
    去年は根気がなかったのか、長編小説があまり読めませんでした。これは嫌味なほど端正な短編集。私は皮肉な「ノーの庭」が好き。苦笑いの感覚をもっともっと共有したい。

  • 「バーナム博物館」を想像させるファンタジックな…でも、かなり辛口の作品。久しぶりに原書で読んでみたいと思いました。1つ1つが個性的で、最初は入りこみにくいなあと思っていたけれど、ぼちぼち読んでいく間に、ベニオフの世界に引っ張り込まれていた、という感じ。この切れ味の鋭さ、好きです。

  • 大切に読みたい本

  • ベニオフ万歳!
    手元においときたい本。
    どっかにいってしまった本。

  • 現代に程近い合衆国を背景とする短編集。若い世代のさまざまな生き方が。

  • とてもよい!!最高!!

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