抱擁 1 (新潮文庫 ハ 47-1)

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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (650ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102241110

作品紹介・あらすじ

ヴィクトリア朝の女流詩人、クリスタベルの研究を続けるモードは、ある日同時代の桂冠詩人ヘンリー・アッシュの調査をしているローランドと出会った。彼はアッシュの書きかけの手紙を発見していた。ロマンスから遠ざかり、恋の煩雑さを避けていた二人の現代の学者は、共に過去を遡り、許されない恋を辿り、しだいに情熱的なロマンスになだれ込んでゆく。ミステリタッチの恋物語。

感想・レビュー・書評

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  • 読みほどいているつもりが、からめとられてしまう?≪1990年ブッカー賞受賞作≫



    19世紀の詩人アッシュの研究者であるローランドは、アッシュが妻以外の女性に宛てて書いた手紙を発見します。お相手は同時代の詩人ラモットのよう。これまで愛妻家とされてきたアッシュと、レズビアンというのが定説だったラモットが関係を――? この古い手紙をめぐって、ローランドはラモットの研究家であるモードに助力を仰ぎます。

    往復書簡から追跡する、かつての詩人たちの恋。

    ひどく露骨なカバーの印象とは違ってクラシカルな雰囲気のある、ゆかしい文学作品でした。
    私は濃ゆい表紙を見て店頭で買うのがためらわれ、オンライン書店に逃げこむという経緯をたどりました。さあ、一体何が出てくるのかと身構えつつ中身をひらいてみると、どうもイメージが違ってもっと品がいいのです。ああっ、表紙カバーに腹が立ちます!


    詩人たちの恋愛模様を読みほどくうち、あたかも研究対象のそれを再現するかのように、ローランドとモードの間にも熱情がのり移ってゆきます。そのストーリーを、絵を描いた人か出版元か何かの責任者か誰か(えーい、知るか!)がどのように受け取ったかが、あの表紙イラストに表れているわけですね。
    ヴィクトリア朝時代の恋愛と、現代を舞台にした恋愛。「此処は全てが二重の世界」! 二つのドラマが平行して進められるという作品の構造の妙。そんなに安っぽい恋愛じゃないと思うぞー。

    手紙に、物語に、詩に。過去の二人は、あけっぴろげに恋を歌い上げたりしない(できない?)分、手を尽くして至るところに隠喩の糸をはりめぐらせています。これを読みほどいていくと、懸命にほどいているつもりが、逆に蜘蛛の巣にからめとられてしまう……?
    そんな表現の技巧家たちからは、恐れ多くてとても学べないけれど、人をどきどきさせるためのちょっとしたコツを知りましたよ。愛情を直接ぶつけるのは蛮行に近い場合があります。それを知っている詩人たちは、言葉のテクニックを使って丁寧に慎重に、愛情を熟成させていくのです。読むほうも体の中で血がざわざわ言ってるみたいでした。

    それにも増して、各章に充満するイギリス文学の薫りがため息つかせてくれます。様々な文芸作品がちりばめられた本書は、本好きへの好ギフト。たくさんの作品が一つのところに詰め込まれた凝縮感もあり、読みごたえ充分。

    (2003年3月20日)

    • sonoreさん
      これ、邦題と表紙で随分損してますよね…
      なんでこんなカバーにしたんだろうか。
      これ、邦題と表紙で随分損してますよね…
      なんでこんなカバーにしたんだろうか。
      2015/10/28
  •  こちらも重層構造になっていて、英国ヴィクトリア期の詩人たちの隠された愛の物語を、現代の学者が明らかにしてゆく話。訳文もそれぞれの時代に合わせるなどして凝っています。あちこちにちりばめられた中世伝説のモチーフもとてもたのしい。

  • 物語を読む醍醐味ってこういうのをいうのでしょうね。
    いつかの日か、アッシュとクリスタベルが歩いたヨークシャー・デールを歩き、ウィットビーでジェットの装身具を買い求めたい。

  • ヴィクトリア朝時代の北欧神話受容史に詳しい方いたら、おすすめの本をコメント下さい

  • 「単純に」という副詞が好きだ。そして、おそらくそれは翻訳でしか使われない。

  • 読みたい。『本から引き出された本』より。

  •  19世紀の詩人が残した手紙をめぐる話。現代の男女もそれに絡んできて複雑に編みこまれたレース編みのようだ。面白かった。中の詩が非常によかった。途中で、手紙や日記ではない19世紀の人物が語る部分があった。それはどうかと、言われたらしいが、私はそれがあった方がよかったと思う。特に○○のところはね。

  • 長編の映画を見てるようだった。
    お話の世界にどっぷり浸かってしまい,本を閉じている間も心はヒースの丘や風吹きすさぶ海岸を歩いていた。

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