ドクトル・ジバゴ 上巻 (新潮文庫 ハ 15-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102284018

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  • 「ドクトル・ジバゴ」(上・下)。パステルナーク著、江川卓訳。新潮文庫。初出は1957年にイタリア語版だそう。この本は1980年の出版だそうです。
    以前から気になっていたのですが、「あの本は読まれているか」という海外小説本が2020年に日本でも新刊として出て、ともあれそのタイトルになっている「あの本」というのが「ドクトル・ジバゴ」であると。「あの本は読まれているか」を読んでみたいな、という気持ちから、
    1「ドクトル・ジバゴ」を読もう。
    2となるとロシア革命についてちょっと読んでおこう
    3となるとマルクスについてもちょっと読んでおこう
    4となるとロシア革命の「事後」であるスターリンや第二次大戦についても
    5となると社会主義の成り行きのひとつとしてベトナム戦争も
    というような連鎖で、肝心の「ドクトル・ジバゴ」に至るまでになぜだか第2次大戦やらマルクスやらベトナムやらスターリンやらについての本をいくつか読みました。

    (阿保な気もしますが、それはそれで今年の大きな読書の快楽でした)
    で、肝心のジバゴを読み始めましたが、落ち着かない日々に突入してしまったので、断続的に恐らく2か月くらいに渡って読んでしまいました。
    集中して読めたらまた違ったかも知れません。だけれども大変に面白かった。

    お話は「ジバゴ」という名前の医師のほぼ生涯の物語で、大抵の紹介にあるように「ロシア革命に翻弄されたジバゴの物語」です。
    パステルナークさんが1890-1960の生涯なんですが、作中のジバゴさんは恐らく1890-1930くらいの人生かと思われます。40歳前後?くらいで亡くなっているので。

    ロシア革命が(色々解釈がありますが)1917年です。
    金持ちの息子だったジバゴは革命に巻き込まれ、大まか言うと悲惨な落剝と流転の人生を送ります。
    そしてもともと落剝したブルジョアの娘(だったかな?)のラーラという(多分ジバゴよりやや年下か)の女性と少年期から時折運命がすれ違い、お互いに結婚するんだけどそのお互いの結婚生活は革命の大混乱のなかで無茶苦茶になって伴侶と暮らせない歳月を過ごし。ジバゴとラーラは途中で数奇にまた出会い、愛し合い、別れてしまいます。

    (色々ジバゴを読むまでにいっぱい本を読んだのですが)結局は、
    ●ジバゴとラーラという「運命の恋人」の結ばれないけれど、どこか物凄く深い魂の愛情の物語。
    ●大混乱のロシア革命期の無茶苦茶な社会のありようの物語。
    ●その2軸に幾多も交錯する群像劇、人間模様

    という3点で、中盤から後半にかけてどこかしらか不思議な爆発力で読ませる圧倒的な大河ロマン、大河小説。素晴らしい。



    なんですが、一風変わった小説で、普通で言うと「読みづらい小説」でした。(僕にとっては)
    恐らくは自分の感じたことを整理すると。
    1・小説なんだけど、ほとんど詩。小説としては「えっ?」という省略や不説明がけっこうあった気がする。
    2・ロシア文学の大河ロマンにありがちですが、人名と愛称が煩雑で、久しぶりに出てきた人がもう訳が分からない(ここで僕はもう気にせず読み進みました)。
    3・革命が起こるまでは、正直言って事件性にやや乏しく、現代エンタメ的に言うとそんなにわくわくはしない。
    4・心情描写、そして議論の箇所がけっこうありますが、正直よくわからないところも多々(気にせず飛ばし読み)。
    5・最終的にキリスト教に依拠する哲学的な言葉も多く出てきて、よくわからない(気にせず飛ばし読み)
    ということになるかと思います。
    それでもなおかつ、「戦争と平和」や「カラマーゾフの兄弟」に並ぶくらい、なかなかに心ふるえる迫力の感動でした。
    多分どうしてかというと、上記の1が関係していて、ジバゴの心理描写とくにラーラとの救いの時間などでの心情描写が、唐突に物凄い熱量で、力任せにガブリよられる相撲のように、これはもう感動せざるを得ない。いやすごい筆力です。
    (言うたら「W不倫の恋愛物語」なんですけどね)
    全般としては、パステルナークさんがどう思うか分かりませんが、各所で簡潔に言われるように、「悲惨な政治的な時代の中でも愛は死なない」みたいな人間賛歌です。そのある種の歌声とでもいうべき響きは、これはすごいですね。脱帽でした。感涙。良い読書でした。



    この本は、恐らく数年か、もっと長い時間をかけて書かれたと思うんですが、どこかに連載とかではなく書きおろされたようですね。なにしろ1950年代ですから、スターリンの戦後粛清の時代です。そしてこの小説は、一面「ロシア革命って一種、なんて悲惨でひどい時代だったんだ」みたいな話なんです。マルクス主義、レーニン主義みたいな一種の神秘主義の名のもとにインフラは破壊停止、そして誰かの一言で誰でも捕まって殺されてしまう。(もちろんその前に白軍との戦い、第1次世界大戦という“戦争の時代”があるわけですし)
    そんな中でインテリとして自由に人間的に生きようとする主人公の運命ですから。

    で、ロシアの出版社に断られたんです。作者は詩人・翻訳家として有名だったんですけれど。
    何がどうあったのか詳しく知りませんが、イタリアに原稿が渡り、イタリア語でまず世に出ました。瞬く間に世界各地で翻訳され話題になった。そしてノーベル文学賞をパステルナークさんが受賞することに。ところが当時のソヴィエト政府としては「けしからん本」な訳です。ロシアでは発禁なんです。国家政府を挙げて、ソヴィエトで暮らしているパステルナークさんに批判中傷が行われて、パステルナークさんは受賞を辞退(なんだけど強引に授与したようですね)。そして不遇のままパステルナークさんは死去します。
    ロシアで解禁になったのはゴルバチョフの季節、1988年頃だったそうです(とても読まれたそうです)。なんだか主人公のジバゴそのものというか、この小説の物語そのものを現実がなぞったような気がする逸話です。



    文庫版の解説で江川卓さんが書いていますが、物凄い偶然が何度も物語に現れます。それ自体が詩的だなあと思うし、僕は小説として全く気にならずに大変に面白く読みましたが。
    そんな展開の中の名場面(?)としては。

    ジバゴが妻子とのささやかな幸せの暮らしを奪われ、強制的に軍隊に医師として従軍させられます。どうやらシベリア地方のことらしいですが(ちょっと有名な白軍コルチャック将軍との戦いのようですね)。
    その軍隊での憂鬱で悲惨の暮らし。そしてそこからの脱走。
    その果てにラーラと邂逅するあたりのくだりは、特に胸に迫るものがありました。「あー、良かったなあジバゴさん」とひとしおでした。

    • 淳水堂さん
      koba-book2011さんこんにちは。

      私は映画をみてから原作を読んでみたのですが、学生の時だったので小説の部分以外、つまり詩の部...
      koba-book2011さんこんにちは。

      私は映画をみてから原作を読んでみたのですが、学生の時だったので小説の部分以外、つまり詩の部分、論文的な所はほぼ流し読みでした…
      恋愛部分は、まあ不倫だし短い間ですけど「良かったねえ」には同意ですw
      2022/10/09
    • koba-book2011さん
      淳水堂さんコメント感謝です。こちらは映画はこれからです。ちょっと楽しみです。流し読みが出来ないとこの手の古典文学は楽しめないですよね(笑)。...
      淳水堂さんコメント感謝です。こちらは映画はこれからです。ちょっと楽しみです。流し読みが出来ないとこの手の古典文学は楽しめないですよね(笑)。翻訳でかつ、部分的に流し読んでも何かが心を打つものが「世界文学の名作」なんでしょうね。
      2022/10/15
  • 挫折

  • 自分が正義と信じていたものが、明日、全く否定されたらどう思うだろうか。
    社会の価値観が次の日には180度変わっていたら、どう行動すればよいのか。

    この作品は葬式の場面から始まる。ロシアの葬送の歌「永遠(とわ)の記憶」が歌われる。まさに大波に揺さぶられる小舟のように明日もわからぬほど時代に翻弄される登場人物たちの激動の人生と比すると、その歌の名は皮肉にも思える。

    著者パステルナークのノーベル文学賞授賞(受賞と書けない)の騒動と、日本のソ連アレルギーもあって、ドストエフスキーの諸作品とも同列に論じても劣ることのないこの作品は、極めて不当に過小評価されていると思う。

    冒頭に書いた問いについての解答は、私にもわからない。ジバゴはこの長編で自分自身の人生からある一つの答えを導きだしたのかもしれない。それは自分の恣意でもなく、時代に流されっぱなしでもない。一人の人間として、激動の時代に対する「永遠性」を終始思い描こうとした結果の帰結。それがジバゴの人生だったと私は読解した。

    そもそも日本はこの作品舞台のような驚天動地の歴史を持たず(明治維新や敗戦時すらもこの作品の時代背景の前では小さく見える)広大な国土を持たない。その時点でこの作品と同等の主題を日本の小説から見出すことは不可能だろう。

    日本の小説と若干異なる組成をもつこの作品を訳者の江川卓氏はロシア語のもつ意味やロシア人の思考法に細部まで目配せしており、ロシアに行ったことのない私たちでも、意義をはずすことを恐れる必要はない。
    (2007/10/4)

  • さてこの本ですが、ロシア物にしては読みやすいです。ロシア文学ってとにかく読みにくくって仕方がない、というのが今までの私の感想なので、きっとこれもそうに違いない、と思っていたのですが全然予想と違いました――などと思えていたのは巻末に付いている「人名のシンボリカ」を読むまででした…
    なんでこれ巻末なの!?最初に読んでたら全然印象違ったに違いないのに!!
    ただのお話と思っていたのが、どうやら人名から地名までが、いろんな暗示を有しているようなのですよー。途中読みながら「なんかわかりにくいな」と思ったところもこれ知ってたら全く変わってきたはず(>_<)。
    こっちを先に読んだところでキリスト教の知識がないとどうにもならないところもあるけど、それでも先に読んだ方がよかった!
    どうもいろんなシンボリックを使うのがこのパステルナークの作風なのだそうで、訳の人がここでいろんな解説をしてくれてますけど、いまだに「研究中」というのが正しいようです…なんてややこしいの!

    まあ分からん私にとっては、ただ単にジバゴとラーラの悲恋物、という解釈がせいぜいでしょうね(^_^;。

  • むかし買ったけどちょっと読んで捨ててしまったな・・・Refとして読むべきか?もういいね。

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