インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)

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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102401415

作品紹介・あらすじ

ラヴクラフトは不遇のままその生涯を閉じた。だが、彼の創造したクトゥルー神話は没後高く評価され、時代を越えて世界の読者を虜にしている──。頽廃した港町インスマスを訪れた私は、魚類を思わせる人々の容貌の恐るべき秘密を知る(表題作)。漂流船で唯一生き残った男が握りしめていた奇怪な石像とは(「クトゥルーの呼び声」)。英文学者にして小説家、南條竹則が選び抜いた、七篇の傑作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 小説家・翻訳家の南條竹則=編、新訳ラヴクラフト選集、全7編。
    旧約と比べて遙かに文章がこなれていて読みやすいが、
    そこはやはりラヴクラフト、
    少しページを捲ると眠気を催すことに変わりはなかった(笑)。
    しかし、ゆっくり時間をかけて満喫。

    ■異次元の色彩【既読】
     「宇宙からの色」の邦題で知られる
     "The Colour out of Space"(1927年)。
     語り手はボストンの測量士。
     派遣先の荒廃ぶりに驚き、地元の老人から話を聞き出すと、
     事件は1882年に起こったとの答え。
     農夫ガードナー家の井戸の傍に隕石が落下したのが発端で……。
     我々が知っている「神」の叡智が及ばない
     外宇宙から飛来した物体によって水が汚染され、
     それを吸い上げた植物・農作物も、
     その水を飲んだ人間も
     本来の姿とは違う存在になっていくというホラー。
     後年の部外者による聞き書きという体裁のため、
     冷静かつ淡々とした筆致で、
     それが却って読者の恐怖感を煽る。

    ■ダンウィッチの怪 "The Dunwich Horror"(1929年)【既読】
     マサチューセッツ州の農村部、
     ダンウィッチ村に生まれたウィルバー・ウェイトリーは
     異様に成長が速く、一族秘蔵の魔術書を耽読したため、
     周囲から気味悪がられていた。
     彼はミスカトニック大学図書館の蔵書である
     『ネクロノミコン』ラテン語版に執心し……。
     ウィルバーの日記を読んだ大学教授らが、
     ウェイトリー家の屋根裏で育った彼の「弟」の正体を暴く。
     最初にこのストーリーに触れたのは、
     ダニエル・ホラー監督の同タイトルの映画でだった。
     映画ではウィルバーが原作とは大違いのイケメンで(笑)
     彼と交際することになった女子大生が頼まれて
     『ネクロノミコン』を持ち出すという流れになっていた。
     面白かったが、かなり違う話(ぐぬぬ)。
     https://booklog.jp/item/1/B073Q5BQGQ
     2017年にDVD化されたので喜び勇んで購入したが、
     まだ鑑賞していない(ぐぬぬぬ)。
     品川亮監督の画ニメ
     『H.P.ラヴクラフトのダニッチ・ホラーその他の物語』
     もシブい。
     https://booklog.jp/item/1/B000SKNPSG
     ちなみに、水木しげる大先生も舞台を鳥取県に移した
     翻案マンガ「地底の足音」を描かれた。
     https://booklog.jp/item/1/4834274586
     こちらも一種の「珍品」として愛読している。

    ■クトゥルーの呼び声 "The Call of Cthulhu"(1928年)【既読】
     故人の手記が開陳されるという体裁の短編。
     フランシス・ウェイランド・サーストンは
     大伯父である故ジョージ・ギャマル・エインジェル教授の
     遺品の謎を解くべく、関係先を飛び回った。
     若き彫刻家ヘンリー・アンソニー・ウィルコックスが、
     さながらオートマティスム(自動書記)のような調子で
     彫り上げた粘土板と、
     ジョン・レイモンド・ルグラース警部が
     捜査の過程で押収した石像の共通点、
     遭難した船から救出された
     グスタフ・ヨハンセンが書き残した、未確認の島の話――
     それらを突き合わせたフランシスは、
     太古の邪神の秘密を知ってしまい……。

    ■ニャルラトホテプ "Nyarlathotep"(1920年)【既読】
     またの名を「ナイアルラトホテップ」。
     幻想的な掌編。
     エジプトからやって来たという
     ニャルラトホテプの科学的な見世物に魅了される人々。
     旧約よりも滑らかな文章で、幻惑的。

    ■闇にささやくもの "The Whisperer in Darkness"(1931年)
     【既読】
     ウィルマース教授はバーモント州の怪物伝説を蒐集していて、
     現地在住の老民俗学者エイクリーと文通することに。
     エイクリーは、
     バーモントの深山には宇宙から来訪した生物の
     拠点があると述べ、また、物的証拠を得た自分は
     何ものかにつけ狙われていると伝えてきた。
     郵便物の不配や偽の電報など、不審な出来事を経て、
     事態が好転したから来てくれと告げるエイクリーだったが……。
     クライド・トンボーが冥王星を発見した翌年に、
     それをモチーフ(の一つ)として書かれた作品で、
     謎めいた天体に、地球人と接触しようとする
     外宇宙生命体の前線基地のイメージを付与。
     周囲の怪事に怯え、必死で身を守ろうとしていた人物が、
     ある日不意に「もう大丈夫」と、
     それまでの肉筆の手紙とは違う
     タイプライターの文書を送付してきて、しかも、
     自身のサインの綴りを誤っている――という、
     別人格に肉体を乗っ取られたかと受け取れる条(くだり)が、
     個人的に最も怖い。
     ずっと後に出た作品だが、先に読んだブラッドベリ
     「ぼくの地下室へおいで」を連想してしまう。

    ■暗闇の出没者 "The Haunter of the Dark"(1936年)【初】
     ロードアイランド州プロヴィデンスに部屋を借り、
     由緒ある大学街の風情を楽しんでいた
     小説家兼画家のロバート・ブレイクは、
     フェデラル・ヒルの廃教会の威容に惹かれ、
     足を踏み入れたが……。
     ラヴクラフトの生涯で最後に発表された作品で、
     旧来「闇の跳梁者」あるいは「闇をさまようもの」の
     邦題で知られてきた小説。
     年少の友人ロバート・ブロックに
     作中で自分を殺すことについて許可を与えたラヴクラフトが、
     お返しに彼になぞらえたキャラクターを登場させたが、
     ブレイクの人物造形はラヴクラフトの自画像に近いらしい。
     古代に地球を訪れた異星生命体によってもたらされた、
     暗黒神を召喚する力を持つ物質
     「輝くトラペゾヘドロン(Shining Trapezohedron)」が登場。

    ■インスマスの影 "The Shadow Over Innsmouth"
     (1936年)【既読】
     一人旅を楽しむ語り手の青年は、
     興味本位で退廃した港町インスマスへ。
     漂う腐臭、陰鬱な雰囲気、敵意の籠もった住民の視線を受け、
     早々に立ち去るつもりだったが、
     泥酔した老人に街の来歴を聞く。
     バスの故障でその日のうちに出発できなくなった青年は、
     やむなく見すぼらしいホテルに宿泊。
     深夜、何故か自分を襲おうとする者たちの気配を察して
     脱出したが……。
     ラヴクラフト創作活動末期の一編で、
     読者によって好みの違いはあるだろうが、
     他の作品と比べて明らかに、数をこなし、書き慣れて、
     技術が向上したかに見える佳品。
     サスペンスフル、かつ、読みやすくて面白い。
     旧約で二度読んでいたが、今回の新訳読了で、
     この作品の舞台を日本に移したドラマ、
     佐野史郎主演『インスマスを覆う影』を、
     また鑑賞したくなった。

    長い時間をかけてシェアワールド化し、
    二次創作、三次創作(?)の人気も高いクトゥルー神話だが、
    それらに夢中な人たちの原典既読率が低い印象を受ける。
    大体どういう話かわかっているし、
    全体のムードや邪神のキャラクターが
    好きなだけだから別に構わない――という言い分も
    もっともだけれども、
    せっかくどこかで取っ掛かりを掴んだのなら、
    ラヴクラフト本体も読まなければもったいないよ、
    面白いんだから、と言ってあげたい。
    その際は是非、取っつきやすい翻訳になった
    このニューバージョンで……と、お勧めしておく。

    • 深川夏眠さん
      おこんばんはー♥です。
      南條竹則先生は、
      恥ずかしながら小説を拝読したことはないのですが、
      翻訳作品がとても読みやすくて好きなのです。...
      おこんばんはー♥です。
      南條竹則先生は、
      恥ずかしながら小説を拝読したことはないのですが、
      翻訳作品がとても読みやすくて好きなのです。
      この本は、キングof 代表作という感じの
      ラヴクラフト選集で、多分、ほどほどの長さで
      有名な邪神が登場する作品を
      チョイスしたのではないかと思われます。
      個人的には特に好きな「闇にささやくもの」が
      収録されていて嬉しかったです……けれど、
      創元推理文庫の全集は1~6巻まで読んだのですが、
      実はかなり記憶は曖昧というか
      朦朧としています。
      どれがどれやら(笑)で。
      2019/08/10
    • 佐藤史緒さん
      いえいえ、あの全集をお読みになってるだけで凄いです!
      私は確か2巻だったか、『インスマウス』狙いで読もうとしたのだけどダメでした。
      で...
      いえいえ、あの全集をお読みになってるだけで凄いです!
      私は確か2巻だったか、『インスマウス』狙いで読もうとしたのだけどダメでした。
      でもこの版は旧訳より読みやすいようですし、コンパクトに有名な作品が揃ってそうなので期待度大です♡
      レビュー拝読した感じでは、私も『闇にささやくもの』が面白そー、と思いました。あらすじだけてゾクッときます。

      いつも読みごたえあるおすすめレビュー、ありがとうございます♪
      2019/08/10
    • 深川夏眠さん
      いえいえ、お恥ずかしい(ポッ♥)

      ラヴクラフト作品は、ちゃんと読んだら結構面白いけど、
      「なるほど」という結末に辿り着くまでが「無駄...
      いえいえ、お恥ずかしい(ポッ♥)

      ラヴクラフト作品は、ちゃんと読んだら結構面白いけど、
      「なるほど」という結末に辿り着くまでが「無駄に長い!」と
      言った人もいました。
      確かに、そうなんですよね。
      眠気を催しやすいので、おやすみ前がお勧めかも……です(笑)
      2019/08/11
  • 掘り出し物。
    ラブクラフトは読んでみたかった作家だった。
    すべてクトゥルーに関する恐怖小説。
    怖い、すごい、忘れられない。
    この本を読む時は、グーグルで航空地図を見ながら読むことを進める。
    特に「インスマスの影」はマサチューセッツの地図でグロテスクな海岸沿いを見ながら読むと恐怖が倍増する。

  • 南條竹則編訳のラヴクラフト選集。
    創元版の全集は持っているのだが、ラヴクラフトと書かれているとつい買ってしまう……。収録作も名作と言われているものばかりで、入門編としても再読編としてもお買い得な1冊だろう。南條竹則訳でもう1組、全集出して欲しいぐらいだ。

  • ラヴクラフトの傑作ばかりを集めた贅沢な1冊。しかも新訳なので、再読勢も楽しめます。
    収録作は、異次元の色彩、ダンウィッチの怪、クトゥルーの呼び声、ニャルラトホテプ、闇にささやくもの、暗闇の出没者、インスマスの影、の7篇。ね、どれも傑作揃い。
    一通り読んでみて「やはり何度読んでもインスマスの影は名作だ……」と再認識しました。
    巻末の解説も丁寧で、他社のラヴクラフト関係の全集などについても触れていますので、とりあえずなにかクトゥルー神話を読んでみたい、全集は冊数が多すぎてちょっと…という入門者にもオススメできる1冊です。

  • 宇宙的恐怖(コズミックホラー)の始祖
    売れ出したのは死後らしいですが、
    他の作家たちが、話を広げていったエピソードが、ファンが2次創作で広がっていったスターウォーズの流れにも似てます。
    そんな、作家の入門編

    表現しづらい見えない怪物(蟹、鳥、烏賊蛸、菌、山のキメラっぽいやつなど様々)、怪奇現象に気づいてしまった、巻き込まれてしまった人々の恐怖を様々なパターンで描きます。
    暗躍する怪物の名から「クトゥルフ神話」と呼ばれているシリーズ

    キングやクーンツなどのモダンホラー(古!)を読んでる私としては、どの話も真面目に「ボブは自分の体が、首の無い状態で倒れかかってくるのを見る羽目になった。何故なら、首から上は地面に転げ落ちて自分の体を見上げていたからだ…」みたいなふざげた描写は皆無

    で、ビシビシ恐怖が描かれていく感じが新鮮でした。そしてやや退屈でもある。

    何篇かありますが「ダンウィッチの怪」なんか、これを映像化するとやはりどうしても恐怖感よりB級ホラー感が強くなるんだろうな…という印象

    よくある映画の流れなんだけど面白かったです。
    上記のはラヴクラフト作品としては珍しいほうで…基本的にX-ファイルの様に、うやむやか最悪の結末で終わる話が多かった,

    恐怖から生き延びれない限りは語ることもできず物語にもならない。形に残って語り継がれることがない。
    または語ったとしても狂人の扱いを受けて消えてしまう。
    なので、本当は記録には残らないもっと多くの犠牲者が歴史上に悍ましい量いたのではないか?などど妄想してしまう。おすすめ。

    たぶんこのラヴクラフトの築いた
    真面目なコズミックホラーに、どんどん下品な要素を足してエンタメにしてったのが今のホラーモノなんだろうなぁ…それにしても哲学的な言い回しや、難しい表現も多く、真面目に話してんだけど度が過ぎてて「狂ってる?」って聞きたくなるくらい。

    追記:脳が何者かに支配されているのか読書中、無意識に昼食に「げそ天そば」を頼んでしまい
    神話に出てくる怪物達が頭をよぎり
    なんか後悔…

  • 単純に趣味嗜好の部分で、自分はSFホラー的な物語は苦手なのだと思う。
    夜、寝る前にリラックスするための読書としては特にお勧めできない。
    とても夢見が悪かった。
    創作されて約100年しか経っていないにもかかわらず神話として人気があるのは、この物語の世界観がまるで本当に起こった事のように詳細に描かれ、すぐそこに臭いや恐怖を感じることが出来るから。
    暗闇に感じる気配は常に自らの隣に潜んでいる。

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