冤罪法廷(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102409404

作品紹介・あらすじ

身に憶えのない殺人容疑で有罪判決を受け、22年間服役している黒人死刑囚クインシー。絶望の淵にいた彼が頼ったのは、〈ガーディアン・ミニストリーズ〉だった。専任弁護士ポストは、国中を飛び回り証人の確保に奔走する。だが、冷酷な真犯人グループは証拠を隠蔽し、弁護士を殺めることも厭わない連中だ。冤罪死刑囚を救い出そうとするポストの決死の闘いの末、決着は最後の法廷の場へ――。

感想・レビュー・書評

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  • DNA鑑定により強姦殺人の冤罪死刑囚の有罪判決はやはて棄却されるが、もう1件の弁護士殺害事件の再審請求は困難を極める。
    果たして、死刑執行を止めることはできるか。
    事件の背景に広がりを見せ、警察署長の背信行為も。犯罪組織の存在も疑われ、冤罪死刑囚の命も危険に晒される羽目に。
    一筋縄ではいかず、予断を許さない展開で読者を引きつけるのは、リーガルサスペンス小説を次々と著す著者ならではと、改めて思う。

  • 巨悪を相手に奮闘する弁護士とその仲間たち、という展開のはずだったが、ツイストはなく、思ったよりも敵の敗退があっけなかった。しかし、エセ科学を振り回す証人や跋扈する獄中の密告者など、司法制度の危うさがよくわかったので星四つ。

    「評決のとき」の続編など、グリシャムの未訳のリーガル物が、早く翻訳されることを期待しています。

  •  グリシャムは無骨である。小説の構想は緻密であるけれど、語り口は無骨だ。装飾とか修辞ということにはあまり縁がないように思える。修辞的要素を至って好むぼくは、ではグリシャムのどこにこんなに惹かれるのだろうか。グリシャムの小説に毎度のように、ぐいぐいと惹き込まれてゆく要素は、この作家のどこにあるのだろうか。

     それは彼の作品がドラマティックであることとともに、登場する人間たちが魅力的であることだろう。彼ら彼女らは、底知れぬ必死さを携えて、およそ考えられそうにない難問に挑んでゆく、その姿は何とも魅力的なのである。そしていつもハイレベルで心を惹く主題がそこにある。そうした人間の真実に関わるテーマを提供してくれる法律家であり作家であるグリシャムの、冷徹な題材選び、また、小説という形でありながら、現実に社会に存在する矛盾と闘う、作者の果敢な姿勢が、あまりにも明らか、かつ正当であるゆえに、この作家の価値はわれわれの現在という地平と繋がって、ひたすら高貴なものに感じられるのだ。

     実は、上の二つのパラグラフは、グリシャムの傑作のひとつ『自白』のぼく自身のレビューを若干修正したものである。これらの文章は本書を読んでいる間ずっとぼくの中に湧き上がっていた感情であり評価であったために、そのままこの作品に再利用させて頂いた。

     『自白』もまた本書と同じく、冤罪と闘う法律家の物語であった。死刑制度、冤罪を主題としたグリシャム作品は、他に『処刑室』、ノンフィクションとしての『無実』があり、グリシャムは再三このアメリカの矛盾と闘ってきた作家と言える。そしてほとんどすべての作品の中に、人種差別が打倒すべきテーマとして描かれているのも、グリシャムのホームグランド、トランプ前大統領にも見られる幼稚で戦闘的で、人権無視の土壌である米南部が舞台となっているためもあろう。

     本書の弁護士たちは、冤罪の死刑囚の命を救うことにボランティア的に奔走する、使命感の強い貧乏法律家ばかりである。本書では、冤罪は誤ったものというより、むしろ意図的に作られたものが多く、その底にあるのは冤罪に追い込む捜査側であり、彼らの強引な暴力の源となるのは、欲望と差別である。いずれにせよ無慈悲そのものの強欲が、犠牲者を生み出している現実が存在する。本書の主人公らは、そうしたアメリカ的なる罪から犠牲者たちを必死に救おうとする。何年も何十年も無実の罪を背負わされて檻の中で命の残り日を数えてゆく犠牲者たちを。だからこそ、血の通うあたたかい人間たちの、必死の姿を見せつける全ページが熱い。

     十代の頃にぼくの接したバーナード・マラマッド『修理屋』は、ユダヤ人迫害と冤罪による死刑囚を描いた檻の中の痛すぎる物語であった。それは終始、矛盾とそれを孕む地続きの現実であった。それ以来の激しい痛みを感じさせる力作が本書でもあるが、実は本作の背景には現実のモデルとなる事件があり、彼らの救済活動に命を賭ける法律家たちのグループも実際にいくつも存在する。グリシャムはそうしたチームへの愛と尊敬と共感とで、ヒューマニズム溢れる本書を書いている。真実の重みが、またもグリシャム作品を通して、七つの海を越え、ぼくらのもとに届けられる。

     語られる人間たちの個性と魅力。また、その苦しみ。手づくりの日々と、限りない優しさ。何よりも命を守ろうとする敬虔な行いと、そこに向かう善なる意思。かくも魅力的な人たちと出会えるのがこの作品である。非情で乾いた現実と常に闘う者たちの、終わりなき心の美しさに対する讃歌と言えよう、これはそうした魂の力作なのである。

  • 地道な活動によって冤罪が明らかになる。

  • 実話に拠る冤罪裁判の2件(暴行、殺人)の話。被疑者の無罪勝ち取りが目的の裁判の状況が緊迫感のあらう著者の筆致から鋭く伝わる。

  • グリシャムの真骨頂はやっぱりこの系統やと思う。

  • 実際の事件をもとに
    法曹界の非正義を描いた法廷小説です。
    冤罪で死刑判決を受け、
    22年もの間刑務所に入れられ、
    執行まで数時間という人を救い出す物語。
    冤罪を晴らすのは、
    このような事件を専門に扱う非営利団体の弁護士たち。
    法律は弱者を救済するためのものではなく、
    判事や検察官、弁護士など、
    それを専門に扱う人たちのためにあるのではないかと
    思えてしまいます。
    「正義とは、強者の利益にほかならず」
    ということでしょうか。

    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • 日本でもアメリカでも、医師が誤診で被害を出したら法的に訴えられかねないのに、司法関係者は、誤判や冤罪事件を作っても法的責任は負わない(少なくとも、それで訴えられたなんて話を聞いたことがない)。なんか、不公平でないか?

  • 冤罪で服役している死刑囚を救うために東奔西走する「ガーディアン・ミニストリーズ」所属の弁護士であり牧師でもあるカレン・ポストとその仲間達の感動的な活躍物語。さすがグリシャムは細かいところまで本当に上手。全く無駄のない文体とジェットコースター並みのストーリー。4.0

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