幽霊たち (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102451014

感想・レビュー・書評

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  • 15歳の頃に読んだポール・オースターとのはじめての出会いの本。記憶が曖昧だが、とにかくクールでミステリアス。物語の面白さに引き込まれた、魅惑的な作品。時間があれば再読したい。大人になって読むと、また違った新たな発見があるのかもしれない。

  • ニューヨーク三部作の第二作。またもや(?)主人公は探偵。ハードボイルドな雰囲気の中で、得体の知れない依頼主より張り込みを依頼される。行動が少ないターゲットの故に、何も「物語」は起きない。何も起きない中で、主人公が辿る内面の旅の末に得た境地と結末とは・・・?
    相変わらず秀逸な出だしと、個性を消したカラーの命名。章立てもなく一気に「物語」を進める圧倒的な文章力。ハードボイルドな雰囲気の中で「描かれる」現実と虚構、個性と無機質な世界。そして、次第に一体化するターゲットと自分。こうした理不尽な「物語」は前作『ガラスの街』の顛末をさらに推し進めたような感じでもある。
    何も起きずに、ただ主人公が内面を辿るだけではなく、そのプロットは実はミステリー的でもあり、わくわくという感じではないにせよ、意外な緊張感に包まれた不思議な短編小説であった。
    訳者解説で柴田元幸は「エレガントな前衛」という名をポール・オースターに与えているが、なかなか言い得て妙である。ハードボイルドで透き通るような筆致で描き出される不条理な「物語」。まるで、大海原にひとり漂っている心地にさせられる。

    • 深川夏眠さん
      私は『山崎浩一の世紀末ブックファイル1986‐1996』で
      この作品を知って読みました。
      山崎氏は「カフカが書いた探偵小説のよう」だと評...
      私は『山崎浩一の世紀末ブックファイル1986‐1996』で
      この作品を知って読みました。
      山崎氏は「カフカが書いた探偵小説のよう」だと評しておられました。
      2014/06/29
    • mkt99さん
      深川夏眠さん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      なるほど「カフカが書いた探偵小説のよう」とは、これも...
      深川夏眠さん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      なるほど「カフカが書いた探偵小説のよう」とは、これも言い得て妙ですね!
      確かに探偵小説のようなプロットを備えているのですが、とことん主人公の内面の葛藤と不条理さが全体を覆っていて面白かったですね。(^o^)
      2014/06/29
    • darkavengersさん
      こちらの方にコメント返信させてもらいました。
      たくさんの これいいね!ありがとうございます。

      「佐武と市」は原作、アニメ、実写全てが...
      こちらの方にコメント返信させてもらいました。
      たくさんの これいいね!ありがとうございます。

      「佐武と市」は原作、アニメ、実写全てが好きな作品です。
      ホント、全話DVD化してほしいものです(切実)
      2014/07/27
  • 私立探偵のブルーが、ある男の見張りを依頼される話。登場人物がブルー、ブラック、ホワイトなど、色の名前で表されている。大きな変化はなく見張りをするだけという単調な物語たが、依頼者の意図は何か、相手は何者なのか、自分は何をしているのかと、すべてが懐疑的になる主人公の心の動きが非常に読みどころである。

  • 私立探偵ブルーは、ホワイトという男から、ブラックという人物を見張ってほしい、という依頼を受ける。ブラックの真向かいの部屋で一日中見張りを続けるブルーだが、ブラックは部屋で書いたり読んだりしているばかりで特別な行動を起こす様子はない。
    焦燥感にかられるブルーは、次第に空想と現実が入り混じるような不思議な感覚に陥っていく。

    P・オースターは初読み。先日読んだN・ホーソーンの『ウェイクフィールド』にインスピレーションを受けて書かれた小説だと聞き、手に取った。

    読んでいくうちに、何が現実で何が虚構なのかわからなくなってきて、圧倒的な不安に襲われる。まるで、どこまで行っても先を見通すことのできない合わせ鏡を覗き込んでいるような感じだ。私は星新一や阿部公房を読むと心もとない気持ちになってしまうのだが、本書の読後感はその感じに似ている。

    あとがきによると、本書は著者の「書く」ということへの不安を現しているのだという。もしそうだとしたら、小説を書くという行為はP・オースターにとってものすごく孤独で苦しい作業なのだろう。
    ただ、最後の描写には底なし沼から力づくで足を引っこ抜くような暴力的な力強さがあり、彼の物書きとしての覚悟を現しているともいえる。

    本書は『ガラスの街』『鍵のかかった部屋』と並ぶ「ニューヨーク三部作」なのだそうだ。他の二作も読んでみたら、もう少しこの作家の思いがわかるのかもしれない。

  • 「物語を書く」ということをテーマにした物語。生きているときふだんは物語の中にいることに気づかない。ふつうは気づかずに生きている。でも、それを「書く」とき、私たちは別の場所に行ってしまう。孤独な部屋の中にいくことになる。だけどなぜか、書くことの中に引きずりこまれるときがある。本当だったら、そんな暗闇のことなど気にせずにいた方がいい。どこか偽りの場所で笑って生きる。それも可能で、どちらを選ぶべきか。

  • いったい彼らが誰なのか?そもそもこの物語は何を描こうとしているのかすら分からないまま読み進める。

    ブルー、ブラック、ホワイト。

    登場人物たちのイメージはなんとも劇画チックで、アメコミのキャラクターを想像しながら読んでいました。
    とても難解なことを平易な言葉で端正に語っている印象があり、どこか孤独な閉塞感が終始支配している。

  • ムーンパレスを読んだときとはまるっきり違う感じ。新潮文庫の「ピース・又吉が愛してやまない20冊」にも選ばれていたとは。
    登場人物がみんな色の名前で、ただそれだけのことなんだけど匿名性?がとても高められていたように思う。人物の描写がなくても自ずとイメージが浮かんでくるんだけれど、色以上の余分な情報はシャットアウトされていて、そのバランス感覚はこれまで味わったことない種類のものな気がした。
    私立探偵ブルーが、ホワイトという人物から奇妙な依頼を受けて、ブラックを見張る。単調にすすむ日々のなかでブルーが異常を来していく様子はまさに狂気。我々のまわりは幽霊たちであふれている。

  •  知らない作家の本を読む機会を本屋さんでひょいと見つけることがある。手に取って「これ好きかも」と本の方から呼びかけられたのがこれ。他の欲しい本と一緒に購入。

     案の定、ワクワクするような展開で秘密めいた人物が「どこでもない場所」へ行って「誰でもなく」なるなんて物語、本読みの醍醐味ですよ。想像力を搔き立てられ現実と遊離しているようでいて、しっかりと現実に即していて、ニューヨークの地形やアメリカの作家たちの挿話も面白く、やはり好みだったのだと。

     読み終わってネットで検索したら、読者も多いことがわかったが、惹かれる本というのは当たりになるんだな。
    ​​

  • 変装したホワイトと名乗る男からブラックという男の見張りを頼まれた私立探偵ブルーの物語。ブラックの監視をするだけの話で、本当にそれだけというのがこの物語のミソである。何も語られず、物語は起こらない。起こらない物語をあれこれと想像し、理由を探し、必死に名付けようとして次第にドツボにはまっていく様はまさに狂気の一語である。そこに浮かび上がるのは人と人との人間関係で、相互認識がなければ人は幽霊と同じである。関わるからこそ交流が生まれ、そこに物語は生まれるのだ。見られていることを意識することによって存在できるというのはまさに真理で、監視対象と自身との境が曖昧になっていく感じは面白かった。現実世界との接点を失った瞬間に現実は消失し、物語の虚構の世界へと閉じ込められる。それをある程度自覚して、脱出しようとする能動性が前衛かつ異色たる所以なのだろう。途中までは主人公と同じように理由を探し結末をあれこれ想像していたが、その行為そのものがこの作品の術中にハマったことの証左である。

  • NY三部作第二弾。ごく普通の男が世界との繋がりを失ってどこかへ消えていくという流れ、最終的に入れ子形式の物語となっている作りは「ガラスの街」と同じ。でもこの作品の主人公には未来の妻や尊敬する先輩がおり、自己存在について考えこむタイプでもなく、望んで孤独という迷宮に踏み込んだわけではないところが前作とは大きく違う。
    世界と繋がって生きていたはずの人間が、ふと一歩横滑りしただけで世界から切り離される。与えられた観察対象が彼の世界の全てになり、気づかぬ内に世界の他の全てにとって彼は非在者となって…唯一繋がっていたその世界が裏返る時、彼の存在自体も裏返る。ブルーもブラックもホワイトもなくなる、色のない世界、でも色の名が溢れる一方でリアルな人間の表情が見えない空虚さは最初から物語全体を覆っていて、読み終わってもそれこそ全てが幽霊たちの話のよう。消失の物語のようで、全体が“非在”を語る作品と言えるかも。

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