ムーン・パレス (新潮文庫)

制作 : Paul Auster  柴田 元幸 
  • 新潮社
3.86
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本棚登録 : 2971
レビュー : 339
  • Amazon.co.jp ・本 (532ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102451045

感想・レビュー・書評

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  • ポールオースターの作品は初めてでしたが、面白かったです。
    あまりに都合が良すぎる展開は一種のコメディでしたが、主人公と周囲の人物の関わりからは哲学的な何かを感じさせられました。
    主人公が色んな人と出会い、人と繋がる喜び、大切なものを失う悲しみを知り、そして学生時代、自分の殻に閉じこもり、誰も受け入れなかった彼が、人を赦し受け入れていくことを学んでいく。400ページ程の本ですが、人生で人が成長していくために必要な経験が沢山書かれていると思います。
    少し回りくどい構成ですが、読み終わってみると、この構成でよかったとさえ思わせてしまうくらい、大人になるために必要なことが書かれていました。
    青春小説として素晴らしい本でした。

  • オースターの作品のなかでもとりわけ人気が高いと言われる小説。
    端的に言うと自分探しのための生き方を一時期した青年の物語。
    それでいて最後まで読むと三世代の男たちの物語であることも分かる。

    大学生のフォッグが、唯一の肉親であるビクター伯父さんを亡くすことから始まる第一部が私は一番好きだった。
    大好きで拠り所としていた人を失い、悲しみのあまり自分の持っているものを全て失うように仕向け、そして全て手離して堕ちたところから再生が始まる。
    全て失ったように見えて、失っていないものの存在に気づく瞬間の温かさ。そしてまた再生していく、人間の力強さ。

    青春小説でありつつ謎解きのような要素も孕んでいるからあらすじは書けないけれど、第二部第三部と読み進んで少しずつ謎に気づいていくつくり。勘の良い人ならわりと早い段階で気づくのかも知れない。
    予定調和というか、あまりにも出来すぎた流れだと思うところもあるけれど、フォッグが大人になるためには必要な流れだったのだろうと思う。タイミングの妙みたいなもの。

    失う痛み、気づき、そして人を赦すこと。ひとつずつを経験して、人は自分を知っていく。

    ちょっと長くて正直読み進まなくなった場面もあるから、個人的にはもう少し物語が圧縮されてた方がより好ましい。
    しかしながら青春小説としては必読とも言える作品。圧巻。

  • 訳書は日本語のリズムにどう移植するかが命。この本はテンポ良く、荒唐無稽な世界に気持ちよく連れていかれる。偶然が多いかもしれないけど所詮人生はそういう要素の積み重ねだと思える。この作者にとっては特殊な書き方らしいので、他のとも比べてみたい。

  • マーコと世界とをつなぐ唯一の存在であった伯父が亡くなり、彼はゆっくりと落下していく。ゆるやかな降下の中、偶然の出会いから自身の出生の謎へと導かれる。
    物語性と現実感が調和した作品。

  • まさに、青春小説。
    それも、部活とか恋愛に邁進するような「ザ・青春」ではなく、
    失い、迷い、傷つき、立ち上がってやみくもになってみたりする、
    青臭くてがむしゃらで、なんか痛々しくあるんだけど自分を重ねてしまうような「青春」。
    度重なる別れに傷つき悲しみながらも、何度でも人は立ち上がっていくんだなぁと思う。

    あやふやな土台に、頼りなげに立っている主人公。
    主人公の青年は、私生児として生まれ、母も13の時に事故で失い、
    大学生のときには育ててくれた叔父も亡くしてしまう。
    ひどい喪失感から、叔父のくれた大量の本をむさぼり読み、
    これを古本屋に売って生活費に充てていたが、やがて本はなくなり、
    家を追い出され、ホームレスとなる。
    朦朧とした意識の中、2人の友が彼を救い、やがて動けるようになってから、
    住み込みで老人の世話をするという仕事を始める。
    老人は彼に、自分の激動の半生を書きとめるという仕事を科した。――

    なぜかわからないけど、極貧生活をしている主人公が、
    最後の卵を床に落としてしまい、板の割れ目に卵が流れおちていくのを
    見たときの絶望感がリアルで、一番印象に残っているシーンだ。

    最後は少し失速してしまった感もあったけれど。
    普段、あまりこういった翻訳ものは読まないからわからないけど、
    この翻訳はとてもいいんじゃないかと思った。(偉そうでごめんなさい)

  • 小説だからこその人生の困難さと再生が繰り返されていて、
    また人との縁も「小説だからね、そんな偶然」というところだけど、
    この年齢になると、小説のような偶然が頻繁に起きていることを知ってるので
    「奇想天外な小説だったな~」と終わらせられないのです。
    生きていること、孤独であること。
    主人公と彼に関わる人たちの人生で描かれるそれらがギリギリなところまでいって、私たちにどういうことなのかを見せてくれている気がします。

    翻訳も違和感がなく、とても自然に読み進められて、驚きました。

  • これは非常に面白い。爽快感や不快感を覚えたり、ワクワクやびっくりしたり、決して退屈しない。やっぱりオースターの文章は味があるなぁとつくづく思う。モチーフ《月》の使い方もうまいし、登場人物も多くはないけれど、それぞれに魅力がある。前半ほとんど自棄になって自分を葬ろうとしているかのように見える主人公は、確かに滑稽なのかもしれない。でも私にはどうしても、そんな主人公の衝動が切実なもののように感じられる。むしろ一種の憧れすら抱く。若いということの、一つの形なんだろうか。

  • ポールオースターは初めて読みましたが、前半の貧乏学生時代はなかなか読み進められなかったのですが、エフィングと出逢ってからの物語の展開にはとても引き込まれて一気に読みました。日本にはない外国特有の言い回し、エフィングの罵詈雑言がわたしはとても大好きです。

  • 1960年代アメリカの鬱屈した青春。さまざまな経験を通じて内省し立ち直る主役の姿が生々しい。ロシア文学に通じる暗さと絶望感が社会にうずまいているがそれがアメリカテイストと調和して気持ちの良い軽さになっている。登場人物はくせのある人が多いがいずれも嫌味にまで感じない。人のお勧めで読んでみたがこれなら自分からほかの人に勧られる良本。

  • 前半の貧乏学生青春記の辺りはそれほどでもなかったが、エフィング老人のところから俄然勢いがついてきた。エフィングの喋り方がところどころ泉谷オヤジみたい。ユタの砂漠でのエピソードも引き込まれた。このあたりの「物語内物語」の雰囲気が村上春樹を連想させた。

    エフィングの死を知ったフォッグが自分の笑い声に気がつくところが印象的。

    キティとのエピソードは出会い、その聡明な美しさ、妊娠による別れ、バーバーの死のあとの電話での決別とどれをとっても非常に印象的で良い。幸せの途中で別れを予感させるところがあったが、最後の電話でもしかするともう一度…と思ったのだが。
    幸せだった日々を取り戻すことが完全にできなくなった喪失の悲しみが胸に沁みた。

    訳者のあとがきにもあるが、物語性が強く出た作品。「鍵のかかった部屋」とは大違い(作者曰く「唯一のコメディ作品」ということだが)。エフィング−バーバー−フォッグの関係も冷静に考えるまでもなく「そんな偶然あるわけないだろ」となるのだが、なんとなくスムーズに読まされてしまった。

    なぜバーバーの母親は彼を産むのをあれほど拒絶したのだろう?

    すべてを失ったフォッグが砂漠に旅立ったとき、洞穴が見つかってそこにたたずむラストシーンを予想したのだが違った。

    文庫裏の紹介文にあった「アポロが月に…」というところに惹かれたのだが、あまり関係なかったな(笑)。

    あまり深く考え込まずにスラスラと物語自体を楽しむことができた。

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