ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102451090

感想・レビュー・書評

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  • 何年に一度か来るポール・オースター読破するぞ病の際に購入したものの数年積読のままだった本作。 

    小川哲さんの最新作の中の一編に主人公とその彼女がオースター作品はどれが一番好きか話すというシーンがあり本作が出てきたため、これは積読から拾い出して読もうということになりました。

    自分の心のベストテン第1位かというとそうではないけどかなり心を動かされた作品でした。少年時代のエピソードが冗長という感想を多く見たけど自分はそれがあってこそかなと思いました。目を背けたくなる場面もあったけど、それが最後につながりそうな予感をさせて終わる良い一代記だと思いました。オススメです。

  • これは大好きな本。

  • 『「白けたこと言って恐縮ですがね、大自然の景観とか言うけど、これって退屈の極致だと思いますよ。場所が薄汚かろうが何だろうが、どうだっていいじゃないですか。

    そこに人間がいる限り、きっと面白いことがある。人間を抜いたら、何が残ります。空虚ですよ、空虚。そんなもの俺にとっちゃ、血圧が下がって瞼が垂れるだけです。」

    「じゃあ目を閉じて眠るがいい。私は一人で自然と対話するから。そんなに苛つくな。いずれはこの風景も終わる。あっという間に、いくらでも人間がいるようになるさ」』

    泣ける。ものすごく悲しい別れの物語。
    やっぱポール・オースターは間違いないな。

  • 社会の底辺で生きていた少年ウォルトは、「師匠」に拾われ、浮揚術を身につけて、「ワンダーボーイ」として全米に名を馳せるが――。ウォルトの生命力溢れる“地に足のついた”たくましさと、空中へ浮揚するというファンタジックな軽やかさの対比。そして、華やかな飛翔と、そのあとに訪れる落下の対比。エピソードだけを抜くといかにも「おとぎ話」なのに、読んでみるととてもリアルな一人の男の人生譚になっているところが、オースターらしい。
    辛くても楽しくても、同じような日々がいつまでも続くような気がする子ども時代。毎日があっという間に感じられる有頂天な時代。刺激的でも平凡でも、いつしか早足で過ぎ去って行く大人時代。実際に過ぎた年月ではなく、そうした“時間”の体感スピードに沿った比重で描かれた物語は、たとえ主人公が会得し失うものが浮揚術であり、家族を手に入れ失う経験がとても重たく厳しいものであっても、読み手にとってもリアルな感触を残す。
    空は飛べなくても、そこまで悲痛な喪失を経験しなくても、人は誰も、「飛翔」し「落下」し、何かを「得て」は「失う」という人生を送る。何を奪われても、何を諦めても、捨てない限り未来はそこにある。そうしてまた積み上げたものが奪われても、消え去っても、生きている限りまだ未来はそこにあり、気づけば奪われたはずの、諦めたはずの、消えたはずの人生のあれこれの全てが、誰にも奪えぬ過去・記憶となって、自分の中に残っている。地面から身体を浮かせて宙を漂う、その感覚も。…喪失感よりも、喪失の先に残る消えない結晶のような輝きが胸に残る、ファンタジックでハードな「おとぎ話」だった。

  • ファンタジーじゃないけれどファンタジー

    後半ややはしょっている印象も持つが、しかしそれはその作品のながいエピローグなのだと思う。

    師匠が死んだ時点でそれはもう終ったのだ。

    しかしその長いエピローグがあるからこそ、この作品は一つの結晶となる。

    「何が入っていたの?」

    「あんたは知ってると思ってたけれど」

    「何だかんだで訊きそびれちゃって」

    「地球儀よ。あの人、地球儀をくれたの」

    「地球儀?そんなのどこが特別なわけ?」

    「プレゼントじゃないのよ、特別なのは。添えてあったメモよ」

    「それも見なかったよ、俺」

    「たった一センテンス、それだけ。君がどこにいようと、僕は君と共にいる。その言葉を読んでもう駄目だった。あたしにはこの世で一人の男しかいない。その男と一緒にいられないんなら、代用品や安物の模造品なんか相手にしたって意味ないって思ったのよ」

  • オースター作品私的No.1。オースターの作品はどちらかというと何でもない積み重ねが続いて続いて続いて、ラストというイメージがあるのだけど、この作品はめまぐるしいほどに色んな事が起こり、主人公のウォルターがとして成長していく。相変わらずオースターの描写は緻密で美しく、一文一文を大切に読み返したくなる、そんな魅力が満載。何度も読み返したくなる、良い小説。

  • 空中浮遊の才能を持つ少年ウォルトと興行の仕掛人である<師匠>の出会いから始まるお伽話の様な回顧録。物語を牽引するウォルトのイキのいい語り口調や比較的ストレートな筋運びといい、従来の作風と比較すると、随分異色の作品。前半の全米巡業編は冗長な印象が否めなかったが、後半は二転三転する展開の連続。数々の喪失体験を経ても尚しぶとく生き抜くウォルトと彼の心に根付く【家族】との絆が爽やかな読後感を与えてくれるが、少々物足りなくも感じたり。版元で既に絶版扱いなのは、従来のファン層にあまり受けが良くなかったからでしょうか。

  • 重みのある大河ドラマ。

  • これもぜひ映画化して欲しい。空中浮揚の修行をする少年の成長譚。

  • 孤児同然で、世話をしてもらっていた叔父からも虐待を受けていたウォルトが師匠から猛特訓を受けて空を飛べるようになり大スターとなるが、飛ぶ力と師匠を失い、喪失の中でその後の人生を歩んでいく話。
    オースターの作品はいかにもフィクションというものが多いが、大抵はあくまで現実に起こりえないことはないという範囲にとどまっている。本作品は「空中浮揚」がテーマになっており、ファンタジー色がより強い。それでも「不思議な話」という気はあまりしない。残念ながら肝であるストーリー自体があまり面白いとは言えないかな。細部は丁寧に書かれているんだけど、だからどうしたという感じが強い。

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