ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)

制作 : Paul Auster  柴田 元幸 
  • 新潮社
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レビュー : 53
  • Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102451090

感想・レビュー・書評

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  • 社会の底辺で生きていた少年ウォルトは、「師匠」に拾われ、浮揚術を身につけて、「ワンダーボーイ」として全米に名を馳せるが――。ウォルトの生命力溢れる“地に足のついた”たくましさと、空中へ浮揚するというファンタジックな軽やかさの対比。そして、華やかな飛翔と、そのあとに訪れる落下の対比。エピソードだけを抜くといかにも「おとぎ話」なのに、読んでみるととてもリアルな一人の男の人生譚になっているところが、オースターらしい。
    辛くても楽しくても、同じような日々がいつまでも続くような気がする子ども時代。毎日があっという間に感じられる有頂天な時代。刺激的でも平凡でも、いつしか早足で過ぎ去って行く大人時代。実際に過ぎた年月ではなく、そうした“時間”の体感スピードに沿った比重で描かれた物語は、たとえ主人公が会得し失うものが浮揚術であり、家族を手に入れ失う経験がとても重たく厳しいものであっても、読み手にとってもリアルな感触を残す。
    空は飛べなくても、そこまで悲痛な喪失を経験しなくても、人は誰も、「飛翔」し「落下」し、何かを「得て」は「失う」という人生を送る。何を奪われても、何を諦めても、捨てない限り未来はそこにある。そうしてまた積み上げたものが奪われても、消え去っても、生きている限りまだ未来はそこにあり、気づけば奪われたはずの、諦めたはずの、消えたはずの人生のあれこれの全てが、誰にも奪えぬ過去・記憶となって、自分の中に残っている。地面から身体を浮かせて宙を漂う、その感覚も。…喪失感よりも、喪失の先に残る消えない結晶のような輝きが胸に残る、ファンタジックでハードな「おとぎ話」だった。

  • これは大好きな本。

  • これもぜひ映画化して欲しい。空中浮揚の修行をする少年の成長譚。

  • 孤児同然で、世話をしてもらっていた叔父からも虐待を受けていたウォルトが師匠から猛特訓を受けて空を飛べるようになり大スターとなるが、飛ぶ力と師匠を失い、喪失の中でその後の人生を歩んでいく話。
    オースターの作品はいかにもフィクションというものが多いが、大抵はあくまで現実に起こりえないことはないという範囲にとどまっている。本作品は「空中浮揚」がテーマになっており、ファンタジー色がより強い。それでも「不思議な話」という気はあまりしない。残念ながら肝であるストーリー自体があまり面白いとは言えないかな。細部は丁寧に書かれているんだけど、だからどうしたという感じが強い。

  • 腕を拡げる。時分を霧散させる。そうやって、少しずつ、地面から浮き上がっていく。

  • 『「白けたこと言って恐縮ですがね、大自然の景観とか言うけど、これって退屈の極致だと思いますよ。場所が薄汚かろうが何だろうが、どうだっていいじゃないですか。

    そこに人間がいる限り、きっと面白いことがある。人間を抜いたら、何が残ります。空虚ですよ、空虚。そんなもの俺にとっちゃ、血圧が下がって瞼が垂れるだけです。」

    「じゃあ目を閉じて眠るがいい。私は一人で自然と対話するから。そんなに苛つくな。いずれはこの風景も終わる。あっという間に、いくらでも人間がいるようになるさ」』

    泣ける。ものすごく悲しい別れの物語。
    やっぱポール・オースターは間違いないな。

  • 大好きなポール・オースター。たぶん今や絶版。空を飛ぶ男の子、ペテンのようなお話。大切な人を失いながら、成功を手に入れながら、挫折する。ほんの少し悲しい話だ。

  • オースターはなぜかまだ1度も読む機会がなかった。
    どんなスタイルの本を書く大作家なのか知りたくて、しかし『ニューヨーク三部作』でなくなぜかこの小説に行き当たった。おとぎ話を書く人だと思っていなかったのでまずびっくり。
    400ページあるけっこう厚めの本だし、私が好きなジャンルの小説でもないのに1週間でドッと終了。
    貧しい悪ガキ小僧が「師匠」に拾われて空に舞う術を習って、人間が行きることを学んで行くというのが20年代のアメリカを舞台に大恐慌と戦争という現実を背景に、おとぎ話調に、かつリアルに語られる。少年本人がいまや老人となり現代から振り返って綴られる。

    感想はシンプルに。おもしろかった。
    しかし勝手に思い描いていたオースターのスタイルとはずいぶん違ったのでまた他の作品を読むことになるだろう。

  • これは回想録というかたちで書かれているので、最初から、どうも主人公は幸せではなさそうな雰囲気が漂っていて、主人公が幸せになりそうになるたびに、このままでは終わらないぞと身構えながら読んでしまった。
    実際には幸せになったりならなかったりするんだけれど。現実の私たちと同じように。

    出会った当初の師匠の、調教と言ってもいいほどの過酷な訓練の描写に少し引いてしまったけれど、本当の家族とは味わうことのできなかった心の交流を師匠やその同居人たちと深めていくほどに、喪失の予感が重くのしかかってくるのである。

    少年から青年へ移行する時に、あまりにも多くの出来事に遭遇してしまい、その当時自分は何を知らずにいたのかということを、多くの懐かしさと哀しみをこめて書かれているけれど、師匠が残した最後の言葉「楽しかった日々を忘れるなよ」が、物語の終盤に突然大きく迫ってきて、少し泣きそうになる。

    楽しかった日々というのは、もう戻らない悲しいものというだけではなく、自分を支えてくれる者にもなるのだ。
    楽しかった日々があった人生は、そう悪い人生ではないはずだから。
    たとえ、人生の収支がプラスマイナスゼロだったとしても。

    スティーヴン・キングの小説みたいだなあと思いながら読んだ。
    ポール・オースターって、こうだったっけ?
    アメリか中南部の、土ぼこりの舞うような、そんな小説。

  • 本のフリマで見つけてなつかしく。

    オースターの中ではそれほど思い入れがなかったけど、久しぶりに読んだらなにも覚えていなくて楽しめた。

    ストーリーもおそらく文体も古くなっていないだろうに、訳文に時代を感じる。少しでも色を付けると、そこから古びていくんだなー。

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