ガラスの街 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102451151

作品紹介・あらすじ

「そもそものはじまりは間違い電話だった」。深夜の電話をきっかけに主人公は私立探偵になり、ニューヨークの街の迷路へ入りこんでゆく。探偵小説を思わせる構成と透明感あふれる音楽的な文章、そして意表をつく鮮やかな物語展開――。この作品で一躍脚光を浴びた現代アメリカ文学の旗手の記念すべき小説第一作。オースター翻訳の第一人者・柴田元幸氏による新訳、待望の文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • 「そもそものはじまりは間違い電話だった。」

    雑多な人々が暮らすニューヨーク。そこで孤独に生きる作家クインの身に起きた、まるで万華鏡のような物語です。出だしはハードボイルド・テイストと思いきや、次第にオカルト・ミステリー・テイストも加わって、これが映画ならぞくぞくするような展開なのですが、よほど上手く結末を持っていかないと、映画の観客には許してもらえないような・・・。(笑)
    主人公のクインが様々な仮面を被り、幾重にもスライドする可能性がある個人という趣向はなかなか面白いです。また、人生を孤独に生きていると思いきや、お茶目ぶりや没頭していく様など性格設定的にもなかなか親しみが持てますね。(笑)それに登場してくる個性的な面々。破天荒な話ぶりの調査依頼主に加え、尾行対象の破天荒なふるまいにどんどんと物語に引き込まれていきます。そして深まる謎・謎・謎・・・。
    繰り返される街の描写に、そこに行き交う人々、メシ屋の雰囲気にニューヨーク・メッツの話題など、書名のごとく透き通るように描かれる街・ニューヨークの片隅でクインが出くわした事件には、ジャズ・トランペットのBGMがよく似合っています。
    物語の方はだんだんと錯綜の度合いを含めていき、ポール・オースター本人(?)が語るドン・キホーテ論とのパラレルな世界の中で、幾重にも施される主体の転回が読者を幻惑させ、一層、万華鏡の迷路の世界へ引きこまれていくかのようです。

    世の中とそれまでの個から分離すると一体どこへ向っていけるのか・・・?謎なんてさして重要なものではないのかもしれない。

    • nejidonさん
      mkt99さん、こんにちは♪
      いいですね!ポール・オースターは好きな作家さんです。
      特に【トゥルー・ストーリーズ 】などはとても好きです...
      mkt99さん、こんにちは♪
      いいですね!ポール・オースターは好きな作家さんです。
      特に【トゥルー・ストーリーズ 】などはとても好きです。
      残念ながらこの本は未読ですが、レビューを読んで私も読みたくなりました。
      ところでポール・オースターの【スモーク】と言う映画はご覧になりましたか?
      mkt99さんのレビューを読みたいなぁと思って(笑)
      「ハーヴェイ・カイテル」と言う俳優さんが好きで好きで、出演しているものを片っ端から観たときに出逢った作品です。
      なんて、話がズレててすみません。
      2014/04/29
    • mkt99さん
      深川夏眠さん、いらっしゃ~い!(^o^)/
      いつもコメントありがとうございます!

      「訳者あとがき」によると、柴田元幸さん、版権の関係...
      深川夏眠さん、いらっしゃ~い!(^o^)/
      いつもコメントありがとうございます!

      「訳者あとがき」によると、柴田元幸さん、版権の関係上できなかった翻訳が今回可能になって非常に喜んでおられるとのことでした。

      確かにこの不条理感、何とも言えないですね。しかし、「訳者あとがき」にもあるように、このようなゼロリセットはむしろ快感かもしれません。自分もこんな感じでどこかに行ってしまえたら面白いのになあと思いました。本書のように汚い思いはいやですが・・・。(笑)
      2014/04/29
    • mkt99さん
      nejidonさん、こんにちわ。(^o^)/
      いつもコメントありがとうございます!

      ポール・オースターは人気がありますね!なので自分...
      nejidonさん、こんにちわ。(^o^)/
      いつもコメントありがとうございます!

      ポール・オースターは人気がありますね!なので自分も読んでみようと思い、実は初読みです。(笑)今回読んでみて、まずは「ニューヨーク三部作」を制覇しようという気になりました。(笑)

      ハーヴェイ・カイテルはいい俳優さんですね。僕も彼の出演作品はいくつか観たことがあります。『U-571』とか『ナショナル・トレジャー』とかで憶えていますが、特に『ピアノ・レッスン』なんかは印象深かったですね。
      『スモーク』は先ほどいろいろとレビューを読んでみましたが、たぶん未見のような気がします。お薦めなら観てみますね!
      そして、「レビュー」ですね!(^o^)
      2014/04/29
  • 主人公である作家は、言葉を失ったとき、ガラスのように透明になって消えてしまったのか?
    街も人も、何をかも為さず存在すら不透明な世界。

  • 挿画と著者に惹かれて。
    ある表現がとても印象的で
    今年はまさにそういう一年だった、
    きっとしばらくそう。

  • この小説、括りはミステリなのだろうか。著者はミステリにカテゴライズされることに不満を持っていたらしいけど。
    不思議な物語だった。
    問題が解決されないまま終わるのはミステリ的じゃないけれど、つくりというか、物語自体に大きな仕掛けがあって、それがすごく面白かった。

    読み終えたあとの余韻。
    空虚感?
    空白感?
    何にも残らないのに、しばらく引きずるような感覚。

    …感想になってないけど今回はまぁいいか(笑)

    この著者の他の小説も読んでみたい。

  • 頭おかしく話するシーンはほんとうに頭おかしくなりそうだった。
    なにかを演じるみたいなことは日頃みんながしていることだと思うけど、それにのめり込みすぎるともとの自分がどこにあるのか分からなくなりそうだと思った。

  • ポールオースター、ニューヨーク三部作の一作目
    奇妙な物語。

    読みながら、この物語はどのように成立しているのか、ということがだんだん気になり出しました(というか物語として最終的に成立するのか?)

  • 本書は主人公の意識と登場人物の会話で大部分が成り立っているのだが、読み進むにつれて、真実と虚構の区別があいまいになってくる。そのような文章は通常読みにくいものだが、本書は逆にわくわくしてくる。そのようなことを楽しむ作品なのだろうと思う。

  • あるひとが、そのひと自身であること。
    それは本人がしっかり把握している限り問題にならないのかもしれない。
    が、本人の把握がゆらげば、あっという間に何者かはわからなくなってしまう。
    いや、何当たり前のこと言ってるんだ、と言われそうだが。
    この小説を読むと、このことを考えさせられるのだ。

    主人公のダニエル・クインの視点から語られるこの物語。
    詩人としての活動をやめ、今は探偵小説を書いて、そこそこの評価を得ている。
    ある日、彼のところに、仕事を依頼する間違い電話がかかってくる。
    相手の女性は彼を私立探偵「ポール・オースター」と思っており、義父スティルマンを尾行してほしいと依頼する。
    最初は人違いとして断ったクインも、ふとした思い付きで、オースターとして探偵を引き受けてしまう。

    複雑な話で、あらすじなどまとめようもない。
    スティルマンはヘンリー・ダークなる聖職者の書いた新バベル論に影響され、やがて神の声が聞こえるように、幼い息子、ピーターに言葉を教えないよう監禁する。
    闇の中で13年を過ごしたピーターは、火事により救出され、治療を受け、彼の言語訓練士だった女性ヴァージニアを妻として暮らしている。
    ピーターが「僕の名前はピーター・スティルマンです。でもそれは本当の僕の名前ではありません」と繰り返すことばが意味深長だ。
    神の言葉のために、ことばを奪われて育ったピーターは、自分と世界を安定いて関わらせることができない。

    けれども、これはピーターだけの問題でもない。
    クインも、オースターとして動くうち、「オースターの体に入っている」ような気持になってくる。
    また、自作の主人公である探偵、マックス・ワークとの境も(意図的にかもしれないが)曖昧になっていく。
    ことばあるいは名前と実体との関係が錯綜していく。

    その舞台が、ニューヨークというのも面白い。
    かつてヘブライ人ができなかったバベルの塔を、新大陸に移民したアメリカ人が築くという妄想と、ニューヨークの摩天楼が重なって感じられる。
    直線的な「アヴェニュー」が走る、人工的な街区を持つ街が、古代の神話(聖書だが)的な世界に結び付く意外さ。

    とどめは、ポール・オースターなる存在。
    本書のカバーに「著者名」として書かれている名前でもある。
    物語終盤になり、オースターに呼び出された「私」なる作家が、クインの手記を入手し、再構成したのが本書だ、と明かされる。
    画面がすっと後ろに下がって、カメラを回している人物までが登場人物だった、と明かされたような不思議な感覚だった。

    十二分に本書を読み解けたかどうか怪しいが、頭がくらっとするような、不思議な感覚が味わえた。

  • 「試写室の旅」を読んだら、久しぶりに読み返したくなった。初読時は主人公がどうなっていくのかにハラハラして一気に読んだ。
    改めて読むと、言語や存在を巡る考察も楽しく読める。
    新訳で読めたのも嬉しい。

  • 借り物。
    読む前に想像してた結末とは違って少々混乱。
    文は読み易いのに内容は難解で、余韻があるところは村上春樹に似てるような気もする。
    スティルマン父との接触シーンは、ドキドキかつ知的な感じ。ラストはまさに狐につままれたようなという言葉が似合う。
    著者と同名のポール・オースターが作中に登場する。ドン・キホーテの件を踏まえると、これはポール・オースターが赤いノートに書いた作り話なのだろうか。作中のポール・オースターが書いたものを現実のポール・オースターが書いている。

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