歴史をかえた誤訳 (新潮OH文庫 95)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102900956

作品紹介・あらすじ

原爆投下は、ポツダム宣言をめぐる誤訳が原因だった-。佐藤・ニクソン会談、中曽根「不沈空母」発言など。世界の歴史をかえてしまった数々の誤訳とは。

感想・レビュー・書評

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  • 2001年新潮OH!文庫版。
    鳥飼の文章は流れがよく読みやすい。タイトルのような事例が吉田茂、中曽根、海部、宮沢ら政治家やアポロ宇宙船などについて紹介。聞き覚えのあるものが多い。

    通訳についての鳥飼の見解も明快。日本人、外国人の思考回路の説明もかつてJICA研修で聞いた話のとおりでなるほどと思った。

  • 【感想文】
     外交の場における誤訳を取り上げた翻訳論議。個人的には、褒めたい面と貶したい面の両方がある。
     本書の元は『ことばが招く国際摩擦』 (ジャパンタイムズ、1998年)。またこの文庫は後に〈新潮文庫〉に再収録された。


    【版元】
    シリーズ名 新潮文庫
    発行形態 文庫
    ISBN 978-4-10-145921-9
    C-CODE 0180
    整理番号 と-16-1
    ジャンル 英語、翻訳
    定価 562円

    ◆原爆投下を招いた、たった一語の誤訳とは!
     原爆投下は、たった一語の誤訳が原因だった──。突き付けられたポツダム宣言に対し、熟慮の末に鈴木貫太郎首相が会見で発した「黙殺」という言葉。この日本語は、はたして何と英訳されたのか。ignore(無視する)、それともreject(拒否する)だったのか? 佐藤・ニクソン会談での「善処します」や、中曽根「不沈空母」発言など。世界の歴史をかえてしまった誤訳の真相に迫る!
    http://www.shinchosha.co.jp/sp/book/145921/


    【目次】
    目次 [003-007]

    序章 誤訳はなぜ起きるのか 011
      「訳す」という日常的行為  「翻訳」の種類  「通訳」の種類  境目があいまいな作業もある  誤訳とは何か  誤訳は異文化との取り組みのあらわれ 


    第一章 歴史を変えた言葉 023
    原爆投下を招いた一つの言葉 024
      誰が翻訳したのか  無視された言葉の重み  「黙殺」の意味  一語によって変わった歴史

    佐藤・ニクソン会談の失敗的 036
      通じなかった腹芸  「善処」した結果が……  コミュニケーションの失敗が招いたニクソン・ショック  「脅迫」でまとめられた交渉

    比喩でねじれた防衛談義 048
      通訳者の勘違いか  「ハリネズミ」は伝わるか  比喩のむずかしさ

    「不沈空母」発言の真相 058
      中曽根発言の真意  二転三転した報道  「日本語ではいってない」  奇妙な不一致  「日米運命共同体」という思想は理解されるか

    誤訳が生んだ経済摩擦 077
      マスコミ訳の問題  一人歩きする訳語の危うさ  「フェア」と「公平」  同じ言葉が伝える異なる中身  「理解」という名の「誤解」  「開放」と「オープン」  「オフレコ」の定義  通訳抜きで行なわれた経済交渉


    第二章 外交交渉の舞台裏 097
      確信犯的な誤訳   「日米構造協議」の名称はどのようにして決まったか  「コマンド」は「指揮」ではない?  日米防衛協力指針の見直しのごまかし  「周辺事態」とは  「実力行使」なら平和的なのか


    第三章 ねじ曲げられた事実 131
      幕吏の階位を詐称したオランダ通詞  ジョーン・バエズ日本公演のミステリー  CIAの圧力だったのか?  東ティモール視察国会議員団事件


    第四章 まさかの誤訳、瀬戸際の翻訳 157
      誤訳と思われていない誤訳  「オーク」に変身した楢  「ホトトギス」はどう訳されてきたか  「蛙」の詩的イメージを崩さないためには  「赤毛のアン」にも登場するオレンジ色の猫  うさぎの目の色


    第五章 文化はどこまで訳せるか 179
      『斜陽』の中の「白足袋」  語り手の文化か受け手の文化か  中国近代の翻訳論  日本語にならない英語、英語にならない日本語  野球とベースボール
    日本語の価値観 200
      「倫理」と「ETHIC」  海部発言への反論  日本人にとっての「倫理」とは  「神」と結びつくアメリカ人の倫理  国際舞台で問われる「反省」の意
    沈黙だけは訳せない 222
      「ノー」にもいい方がある  沈黙という日本語  何も発言しなかった村山首相  発言者が黙っていては通訳できない
    論理思考の壁 236
      支離滅裂に映ったフセイン大統領  英語は「直線型思考」、日本語は「渦巻き型思考」  日本人の思考方法は損をする  論理構成は訳者が変えられない  ネイティブ・スピーカーはどう感じるか


    第六章 通訳者の使命 261
    通訳者の倫理 262
      通訳者の守秘義務  通訳者は透明な存在  シーボルト事件で罰せられた通詞たち  シーボルト事件の教訓  新大陸の通訳者たち  部族の裏切り者と呼ばれ  日本の通詞は幕府の役人だった
    多文化時代における通訳 277
      通訳は不要か  首相の失敗  外交交渉では通訳者を介すべき  コンピューター翻訳の限界  人間だからできる技  より科学的な通訳研究を  重要な発言者と通訳者のチームワーク


    参考文献 [289-296]
    あとがき(二〇〇一年三月 鳥飼玖美子) [297-299]

  • 米原万里さんリスペクトが伝わる。
    タイトルが惜しい。
    果てしない勉強と訓練に思いを馳せ、通訳・翻訳関係者にはなるまい、と思った。

  • 言語の違いによるズレを通訳者の立場から語った本。 言葉が違うとは単語、文法だけではなくて内包されるイメージも違うと言うこと。

    ウサギの目は赤いがRabbit has pink eyesで、Orange Catは茶色い猫だ。

    分かり合えないってことだけを分かり合うのさ〜とフリッパーズは歌ったけれど、英語が普通語になるというのは内包される感覚が英語のもの一色の世界になるということだ。つまりグローバリズムが文化に侵食するということで、大変恐ろしいが、そのイメージのズレに気がつかないまま過ごしてしまうのも恐ろしいことだ。

  •  中学生の頃に知った鳥飼久美子氏は、当時は珍しい同時通訳の花形として大活躍しており、私にとってはもはやアイドルを通り越して憧れの存在だった。真剣に英語を学ぶきっかけを与えてくれた人である。

     国際政治の舞台ではこんなにも通訳が重要なウエイトを占めているのかと再認識させられた。通訳は内容に立ち入ってはならず、万一それによって国と国との交渉や関係が損なわれたら大変なこと。政治家や官僚の努力も無駄になるというものだ。そんな具体的事例を示しながらの解説は臨場感に溢れ、まるでその場に鳥飼さんと一緒に居るような気分になった。

     歴史を変える程ではないが、私も誤訳にはとても苦い思い出がある。アメリカ某港との貿易協定を締結する際の締結書の草案を誤訳してしまったのだ。本来プロに依頼すべき翻訳だが、たまたまその日は休日だったので、上司は急遽私にやらせた。早く概略を掴みたかったのだろう。翌日プロに発注すれば良いものを、彼はそのまましばらく利用した。そして後にプロから、ニュアンスの違いなどではなく、間違いがあると指摘された。当然その後に正しく修正されたが、今でも穴があったら入りたい程恥ずかしい思い出だ。

     本書の中で一つ残念に思うことは、引用された一連の新聞報道がほとんど朝日新聞からで、他紙の情報がないことだ。本書の性格上政治の舞台裏の話が多いが、ほとんど朝日新聞を介しているためかなり偏っているように見える。全国紙の中でも○大紙とかいって、朝日が日本の言論を代表しているかのように考えるのは、もはや終わりにしてもらいたい。

  • これはおもしろい。
    言語間の橋渡し(通訳や翻訳)を通して文化の翻訳・コミュニケーションについて考えさせてくれる。
    言葉が異なるのは、文化や思考形態が違うからで、例えば朝日新聞の天声人語も、英語では最低の文章になるのだそうな。
    もっと単純に色の感覚も違うらしい。
    ウサギの目は赤い。でも英語では「White Rabbit with pink eyes」となる。ピンクなのだ。同じウサギなのにね。

  • 人は言葉なくしては理解しえないことを痛切に感じさせる一冊.
    ポツダム宣言を黙殺すると鈴木貫太郎首相は公の場でいった.国民総動員態勢の中で,決死の覚悟を強いていた国内状況を踏まえると,静観するといいたかったのを強気の表現で言いたかったのだ.しかし,連合国はneglectと黙殺を翻訳した.結果は原爆投下につながったのである.

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著者プロフィール

立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科教授(研究科委員長2002-2005、2008-2010)を経て立教大学特任教授、立教・異文化コミュニケーション学会(RICS)会長(2009-2011)。著書『通訳者と戦後日米外交』(みすず書房2007)(単著)Voices of the Invisible Presence: Diplomatic Interpreters in Post-World War II Japan(John Benjamins, 2009)(単著)『通訳者たちの見た戦後史――月面着陸から大学入試まで』(新潮社2021)(単著)。

「2021年 『異文化コミュニケーション学への招待【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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