ノエル: A Story of Stories

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103003359

感想・レビュー・書評

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  •  同じものでも、見方を変えればまったく別のものになる。そのトリックを上手に使った構成。さすがです。予測していた展開を見事に裏切られました。とても面白くて、心温まる作品でした。

  • この小説は光の箱、暗がりの子供、物語の夕暮れ、4つのエピローグに分かれていて、それぞれ全部関係ない短編かと思いきや、実はところどころで繋がっている。

    エピソード内で出てくる童話がどれも面白くて、温かい気持ちになれる。だけどただただ明るいお話というわけではなくて、登場人物が現実の悩みから一瞬でも逃れて、別の世界を体験するために作ったお話だからか、どこかもの悲しさや深みがある。ただ最後には明るい気持ちになれる。
    これが与沢の「まだ物語をつくったことのない人は、作ってみなさい。そうすれば強くなれるから。いつか辛い事があっても、きっと平気でいられるから。…物語の世界に逃げ込むという意味じゃないんだ。物語の中で、いろんなものを見て、優しさとか強さとか、色んなものを知って、それからまた帰ってくるんだよ。…自分でつくる物語は、必ず自分の望む方向へ進んでくれるものだから。」という言葉を聞いて物語作りをはじめた圭介や、与沢本人だからこそつくれる物語だったんだなと感じる。

    どのエピソードも素敵だったけれど、やはり最後の物語の夕暮れには著者の想いが最も込められているように思える。
    与沢は、妻と一緒に絵本の園児に読み聞かせをするボランティアをしていたが、脳溢血で妻に先立たれた。妻の死、子供がいないこと、なにも出来なかったこと、何も残せなかったこと…色々な思いが重なって、このまま生きる意味を見い出せず、練炭自殺を図る。最後まで妻の面影を追って、幼い頃妻と一緒に行った祭りを思い出すために、祭囃子を電話で聞かせてくれるよう圭介に頼んだり、物干し竿についた雫に実家で見えた月桂樹と海の懐かしい景色を写そうとしたりするのが一途で切なかった。
    それと同時に語られるやもりとカブト虫の話。
    かぶと虫は与沢、やもりは圭介と重なって読める。かぶと虫は自分は光を失って、何もできないと考えていたが、実は水滴を落とすことでやもりを救っていた。やもりは光の箱を取り戻すことでかぶと虫を救っていた。
    与沢は自分は妻を失って、何も残せていないと思っていたが、実は圭介が物語をつくるきっかけを与えていて、圭介は作家にまで成長していた。圭介はいま電話越しに祭囃子を聞かせる形で与沢を救っている。

    現実はここまでうまくいかないというのはわかる。絶望すること、悲しいこと、辛いことばかりで、最後も物語のように希望があるとは限らない。それをよく知っているからこそ、筆者はこの小説を書いたのだと思う。ままならないことばかりの時こそ、物語を読んで、現実ではありえないような希望にひたって、頑張れる力を少しだけもらって、もう1回現実に帰る。それを繰り返していくのが人生なのだろう。だから与沢のように自ら死のうとする前に、物語のような希望を1回信じてもう少し生きてみてほしい。筆者がそう優しく語りかけてくるように私は感じた。

  • ストーリーと童話の世界に引き込まれました。
    文章や絵をかくことは、夢があり
    癒しにもなると思いました。

  • 12月だし。このタイトルで、まさか辛い話ではないだろうという期待を込めて手に取った「ノエル」、言葉のイメージほど、ほっこり系ではなかった。
    創作のおとぎ話と、大なり小なり生きづらさに直面した人々の日常が折り重なり、思い詰めた選択の先にあった不幸な結末が、おとぎ話のストーリーに混ざり合い、
    すこし未来のあるべつの結果に変化していたりする。
    そして複数の人生線がつながり合ったりする不思議な、ちょっとテクニカルな仕立て。
    身近な日常がつらい、自分に足りないものがつらい、ほかのひとからみたら「そんなこと些細なこと、もっとつらいひとはいっぱいいる!」と言われちゃいそうな
    ことかもしれないけれど、生きるのがしんどいなあと思わないひとはいないだろうし、物語のどこかに自分を見つけるひともいるかもしれない。

    複雑な作りだったので、マサキと正木のからくりがいまいち糸がつながらなかった、
    あとしっかり名前がでてきたいじめ首謀者の岩槻、どこかで伏線回収で懲らしめてくれと期待してたけど、出てきたかな、2回読んでわからなかった。
    タイトルからイメージすると、期待通りではないかもしれないけれど、哀しさと温かさと、感情をマッサージされるような大人の絵本というかんじかなぁ、
    杉の小枝から落ちた一滴の雫、いつかちょっと辛いときに思い出せたらいいな。

  • 圭介と弥生の話が好きだった。
    圭介が特に、好きだった。
    全ての経験を活かして前を向いて生きている圭介を
    眩しいと思った。

  • 色々な人がちょっとずつどこかで繋がってるお話。
    圭介と弥生の微妙な年頃のお話から、最後は圭介の学校の先生だった人のお話。

    最後先生が死んでしまおうとしている時の行動が、個人的にすごく切なかった。
    死んでしまいたい気持ちも分かるような気がしたけど、ちゃんと生きててほっとした。
    でも生きていくって、沢山つらいことがある。
    みんなよく頑張って生きているなーと、ふと思うことがある。
    だって死んじゃった方が楽だなって思うことって、きっとみんなあるよね。

  • 童話のストーリーを間に挿みながら、話が進む短編集。

    物語を書き、または読むことによって救われていく人々。
    物語の持つ素晴らしさと、自分が気が付かないところで他人に大きな影響を及ぼしているのかもしれない自分の人生…。
    ほっこりさせられた良い作品だった。

  • 童話が繋いでいく奇跡。緩やかで温かいつながり。

  • 久々の道尾作品
    以前のイメージと違って
    重くなくて 暖かい感じでいい。
    絵本の世界観も良くて
    ホントに 絵本にしてほしいかも。

  • 少し前に読んだアンソロジーに収録されていた短編から派生した連作集とこのとで
    短編が良かったのでこちらも読んでみました。絶望の果てに見つけた、優しく温かな光…
    イメージ通りのいいお話でした。じわじわと追い詰められ、最後にはくるりと世界が反転する。
    クリスマス前に読もうと決めていた一冊でしたが、この時期に拘る必要もありませんでした。

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著者プロフィール

1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。

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