「本」に恋して

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103009511

作品紹介・あらすじ

一冊の「本のかたち」ができるまで-編集狂・松田哲夫が案内する、めくるめく本作りの迷宮!装幀から、製本、函、紙、印刷インキまで。ベテラン編集者が、現場で体感し究めた本作りの奥義とは?緻密にしてダイナミックなイラスト満載、卓越したドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • ものを造る仕事というのは、どうしてこんなに心を惹きつけるのだろう。
    丁寧に描きこまれたイラストに、顔を近づけて何度も何度も見つめる。
    まるで「フランダースの犬」で風車職人の仕事に見入っていたネロのよう・笑
    そしてますます本に恋していく。

    ちくまプリマー新書の編集長・松田哲夫さんの「造本」の本。
    装幀から始まって、本の解体、束見本、中本作り、函作り、製紙、印刷等々、どのような工程を経て本が作られていくか、その現場に足を運んだ記録集。
    特筆ものは内澤旬子さんのイラストで、それはそれは微細で綺麗で分かりやすい。
    造本の仕事を文章で読んでも、今ひとつイメージが掴みきれなかった部分を見事に補っている。様々な機械類の描写の巧いこと!
    「私の本棚」にもエッセイを寄せていた内澤さん。
    驚くようなエピソードではなかったが、その内容は一番私の気持ちに近かったのを思い出す。こんないいお仕事をなさっていたのね。

    本に恋している松田さんは、装幀のプロに先ず敬意を捧げる。
    「絵もデザインもする両刀使いのひと」として安野光雅さんと和田誠さん。
    南伸坊さんとクラフトエヴィング商會。
    職人的なデザイナーとして多田進さんと平野甲賀さん。
    惜しみない賞賛と感謝は、読んでいても気持ちが良い。
    それから本の世界をめぐるオデッセイへと旅立つのだが、本づくりを支える技術を知るためには解体作業から手掛けることに。
    「ごめんね」と謝りながら「ちくま文学の森」の一冊をバラしていく。
    そして、テキストに変更があれば「増補版」「改訂版」「新版」となるが、「造本」についてはよほどのことが無い限り変更はないのだと教えてくれる。

    読んで(見て)面白いのは函作り。ここは松田さんも体験している。
    紙は伸びるものだということを、ここで初めて知ることになった。
    「きつくて困る」というクレームが来たら、先ずは函を広げる努力をする。
    それでもダメならもう一回本を絞めて(プレス機があるんです!)もらうらしい。
    紙の種類とインキ(紙に印刷するのはインキ、万年筆などに使うのはインク)はとても勉強になった。何と松田さんと内澤さんは、王子製紙の春日井工場まで出向いて取材している。
    製紙の工程と、紙の質と銘柄。
    出版界のニーズは「安くて軽くて質の良い紙」だが、技術的に難しいことも。
    しかも、重さで価格が決まるから良い紙を安く売ることになるのが悩みだそう。
    インキの原材料と作り方も興味深い。まるでチョコレートの製造のようだ。

    本って、驚くほどたくさんの技術の結集なのだと、つくづくそう思う。
    2006年の本なので、今はかなりデジタル化されたかもしれない。
    それでも、機械自体をつくり、メンテをし作動させているのは今も変わらず人間のはずだ。
    これからは、本のたたずまいを造り上げるひとたちを、本を開くたびに思いめぐらすことだろう。

  • 松田哲夫さんが書いたのだから文句はない。「クラフト・エヴィング商會と氏との付き合いの深さも含め、以前から氏の造本に対する造詣、いや、愛情の深さは尊敬に値するものだと思っていた。その人が本がどう作られているかを探訪したのがこの本である。読まずにはいられない。(前著「印刷に恋して」は読んでいない。気にはなったのだけれど、この人と印刷にはまだ距離があるよなと個人的に感じていた。今回はタイトルだけで充分に大丈夫だと感じた。)
    本はこうして作られるのです、と書くのではなく、あくまで編集者としての考えと、だからこその盲点という視線で書いているのがいい。どこまでも自戒の念を感じるのだ。その上で「恋」なのだ。とりあえず、この本に対する悪口の書きようを思いつかない。
    折角そういう本だから言うのだけれど、カバーを外してこのところ持ち歩いていた。面白いもので、この本は気圧と湿度に見事に反応していた。湿度が低いと表紙が外に反り、雨が近くなると内側に反り始めた。雨が降っている間はずっと内側に反り、雨が上がるとまっすぐになった。時々感じていたことだけれど、本と天気や湿度のことなんて今まで考えもしなかった。
    それにしても「恋」なんて文字をタイトルに入れられる還暦間近の人物なんて他にいるんだろうか。松田氏はきっとこれからも恋をしていくに違いない。

  • 手作業での製本、機械での製本、函作り、製紙、インキ、表面加工・・・本にまつわるあれこれを、これでもかと堪能出来る。
    いずれの分野でも「プロの職人」のお話が面白い。
    個人的には、ファンシーペーパー、レザック、タントの語源が一番面白かった。

  • 鬼才松田哲夫の本「造り」本。
    インクの種類とか、紙の種類とか、内容が専門的過ぎて理解できん!!

  • いいっす。ちくまの髭のおじさんが印刷会社・製本会社を社会科見学したときの話。鉛筆画の絵入りで細かく説明してある。こういう社会科見学いいよね。俺も行きたくなってきた。クエタラ工場が懐かしい。印刷についての説明は細かすぎて少ししんどいんだけど、本への愛がにじみ出ているから全然読める。あと、ちくまプリマーの装丁がクラフトエヴィング商繪だって今日初めて知った。

  • 精密で味のあるイラストがたまらない。
    職人仕事ってかっこいい。
    それが伝統芸能とか国宝級とかそんな雲の上レベルではなくて、
    毎日の仕事の中の職人技というのにドキドキする。
    体も頭も使ってなんぼだよ。
    モノを作らない人を私はあまり信用してない。
    http://takoashiattack.blog8.fc2.com/blog-entry-780.html

  •  “編集者として、ご自分が携わってきた本にまつわる思い出話を書いた本”なのかと思って読み始めたので「???????」。「1冊の本ができるまで」を追った体当たりレポートだったのですね。 さまざまな印刷の現場を見て歩いたレポートである『印刷に恋して』の続編的存在の本で、製本、製函、製紙、インキ製造の現場まで実際に足を運んで体験して紹介。今、書店に並んでいる本がどのような過程を経て、どのように作られているのか、松田さんの目と内澤さんの詳細なイラストで、読者に判りやすく紹介してくれます。 普段何気なく読んでいる本が“工場製品”として、どれだけ多くの技術と過程を経て作り出されているのかに驚くのと同時に、本ができるまでの過程って、(私も含めて)ほとんどといっていいほど知られていないんだなあと、痛感しました。どんな風に作られているのか、ただ漠然と思い描いたことはあっても、実際に目で見たことはなくって。だからこの本で長年の疑問を解決してもらって、とてもすっきりした気分です。 いやあ。スリップやちらしって、機械で挿入するんですね。カバー&帯をかけ、スリップ、読者カード、ちらしの挿入を一度にしてしまう優れモノの機械があるなんて!てっきり人間の手で行なってるのかと思ってたわ!しかもこの自動カバー掛け機、日本独自のものなのだとか。ますますビックリです! 機械を実際に動かす技術者の方々の現場での姿も印象的。こういう方々の存在があるからこそ、本が本として存在するんですねえ。今後本を読む時、装幀だけでなく造本の部分にまで注目してしまいそうです。前編にあたる「印刷に恋して」も、ぜひ読んでみたいです。 本の形態はこれからどんどん変わっていくんでしょうが、私はやっぱり紙で出来た本がいいなあ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「いっそ自炊して……」
      判ります。置き場所とかを考えると、、、つい考えちゃいますよね。
      そのうち、書物が贅沢な時代が遣って来るかも知れません...
      「いっそ自炊して……」
      判ります。置き場所とかを考えると、、、つい考えちゃいますよね。
      そのうち、書物が贅沢な時代が遣って来るかも知れませんね、、、
      2012/09/06
    • 黒百合お七さん
      ウチも居間が本に侵食されてるので(滝汗)。
      時々うんざりして「全部捨てたろか」と思ったりもします(こら)。
      でも情報だけ得られればいいという...
      ウチも居間が本に侵食されてるので(滝汗)。
      時々うんざりして「全部捨てたろか」と思ったりもします(こら)。
      でも情報だけ得られればいいというものじゃありませんしね。
      ええ、そんな時代がやってくるかもしれません。
      2012/09/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「情報だけ得られればいい」
      それは、読書とは呼びたくないですよね。まぁ仕事で読む時は殆どがそうなんですが、、、
      「情報だけ得られればいい」
      それは、読書とは呼びたくないですよね。まぁ仕事で読む時は殆どがそうなんですが、、、
      2012/09/18
  • 読むための本の紹介本だと思って図書館で借りました。
    そうしたら、本当に「本」そのものが好き!という本でした。

    製本、紙、印刷、インク…本はそういうものたちでできていると改めて意識。
    そして私は紙が大好き…インクの匂いが大好き。
    まさに私のための本でした。

    松田さんも本を知るために本を壊すのは「犯罪に手を染めるような気分」とのこと。ですよねー。

    しかし、本を作るのにはたくさんのメーカーさん、職人さんが関わっているんだと痛感。そして、今出版業界は厳しい。私も今たくさん本は買えない。でも、ステキな装幀を世間に見せながら読むのが好きで、重いけれど、ハードカバーが好き…この気持ちはいつまでも持ち続けると思います。

    製造工程の専門的なお話やイラストは、私自身も見学者としてふむふむと読んだり眺めたり。
    終章の対談も、内輪事情をかなりつっこんで話してくださっていました。おもしろい…

    本文の紙がとってもステキな質感でした。
    発売当時に嗅ぎたかった…(笑)

    これからも「紙の本」主義で行きたい。生きたい。
    本屋さんがある限り、本屋さんに足を運び続けよう!とまたまた決心しました。

    カバー、表紙、見返し、帯、本文、それぞれで使用したメーカー名も記載あり。
    そして、今まで以上に、装幀やデザイナーさん、印刷所に製本所まで、眺めることになりそうです。

  • 印刷に恋して、はフィルムからDTPへの移行期の話で今では状況が全く変わるが、こちらはアナログな印刷の話なので今でも役立つ。

  • おすすめ資料 第131回 紙の本の楽しみ方(2012.1.20)
     
    みなさんは紙の書籍と電子書籍、どちらをよく利用しますか?
    タブレット端末の普及によって電子書籍はさらに身近なものになりました。
    重さや大きさを気にせず何冊でも持ち運べる携帯性は紙の本にはない魅力ですが、紙には紙だからこそ感じられる魅力もあります。
    今回ご紹介するのは、読むだけではない、物としての本にも注目している資料です。

    『「本」に恋して』では、原材料である紙の製造工程から、装丁の決め方、製本作業、印刷の色指定の裏側など、紙の本が完成するまでを、実際にそれぞれの工場を取材して描かれています。
    著者は編集者でもあるので、編集段階も含めた本の製作過程がうかがえます。
    さらにイラストレーターの内澤旬子氏による細密で温かみのあるイラストが数多く挿入されており、それぞれの工程を魅力的に伝えています。

    『印刷に恋して』は『「本」に恋して』と同じ著者とイラストレーターによるもので、本が作られる工程のうち印刷技術について詳しく紹介されています。
    若干専門的な内容が多いのですが、内澤氏のイラストが理解を助けてくれます。

    手触りなどで確認できる紙質や装丁とは異なり、完成した本から印刷工程はなかなか想像できませんが、活字を組んでプレスする活版印刷という技術で印刷された紙は、文字の上を指でなぞるとかすかな凹凸が感じられます。
    印刷技術の進歩により活版で印刷されるものはほとんどなくなってしまいましたが、現在でも漫画雑誌や週刊誌などザラザラの再生紙で発行されるものは活版で刷られているそうです。
    手に取る機会があれば、ぜひ誌面の凹凸を確認してみてください。

    電子書籍か紙の本かという択一論が語られることもありましたが、電子書籍の便利さと紙の書籍の味わい、両方を上手に楽しみたいですね。

  • 『本とコンピュータ』で「印刷に恋して」の後に始まった、「造本に恋して」が単行本化。続編といえるかな。分かりにくいとの配慮なのか、改題してある。とにかく待ち焦がれた!! 購入してみて気付いたけど、新潮社なんだ。装丁は晶文社風(というより甲賀流か)。

  • 印刷所へ走っていきたくなる!!!はだしで♪かけてく♪な・・・電子書籍ワールドになったらどうなるのやろ

  • 本を愛して止まない人による「本」の本

  • 2021.6.27市立図書館
    序章が目当てだったといっていいけれど、本全体もおもしろかった。
    本の世界をめぐるオデッセイ。初出は「季刊 本とコンピュータ」(2002年秋号〜2005年夏号)全11回の連載「造本に恋して」に序章と終章を書き下ろし。造本にかかわるさまざまな工場を訪問して見学・体験した顛末を松田さんが語り、内澤さんの図解がその理解を助けてくれる。

    本の解体、をスタートに、束見本づくり、製本(折り、貼り込み、丁合、かがり、均し、断裁、表紙貼り、スピン、背貼り、くるみ、カバー掛け、挟み込み…)、函づくり、紙抄き、装幀用の特殊紙づくり、インキ製造、インキの元の顔料づくり、そして印刷後の表面加工…こんなにもたくさんの工程があって、それぞれの工程に難しい部分があってそれぞれ職人さんの調整があってこそ、うまくまわって1冊の本に仕上がるのだ、ということを改めて知る。どの本もぎゅっとしまって平らなのも、表紙のインクが手にうつったりこすれたりしないのも、あれもこれも職人さんたちの細心の注意や工夫のおかげなのだという、本が本として完成するまでの長い旅を知るだけで、手元の一冊一冊がとてもいとおしくなてしまう。
    最後の章の凸版印刷の人との対話も、印刷現場から紙屋さんやインキ屋さんへの率直な注文や印刷業界の現実が語られていて興味深かった。

    序章にあった、松田さんが信頼するブックデザイナーの名前は自分にとっても好きなブックデザイナーばかりで、その感覚はちくま文庫、文学の森シリーズから頓智、プリマー新書、と主に松田さんと筑摩書房の本に育ててもらったのかもしれないなと思った(平野甲賀の名は高校生の頃に晶文社の一連の本ですでに気がついていたが)。安野光雅、和田誠、南伸坊、平野甲賀の共通点といえば、松田さんが言う、絵もデザインもする(印刷の現場の事情もわかる)両刀遣いというほかに、描き文字(レタリング)もいい、という点だろうか。でも、この一二年ほどで和田誠、安野光雅、平野甲賀、とあっというまにいなくなってしまった。もう、こういうブックデザイナーのジャケ買いをすることもないと思うと、ちょっとさみしい。

    この本がどんな紙でできているのかもカバー見返しに情報があるのだけど、図書館のフィルムがかかっているため、ぜんぶを味わえないのが心残り。入手しようにも、もう新潮社のサイトに書影さえ載っていないのが残念。
    いずれ古書を探して手に入れる可能性も高いけれど、こうなっては、『印刷に恋して』とセットでちくま文庫入りを切望するほかあるまい。

  • 圕

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。学生時代にマンガ誌『ガロ』編集部に出入りし、筑摩書房の「現代漫画シリーズ」を手伝ううちに、大学を中退。69年、筑摩書房入社。「ちくまぶっくす」の編集長を経て、浅田彰の『逃走論』や「ちくま文学の森」「ちくま哲学の森」などの数々のベストセラーを産み出す。路上観察学会の事務局長、季刊誌『本とコンピューター』の編集委員、TBSテレビ「王様のブランチ」(本の紹介コーナー)のコメンテーターとしても活躍中。2003年には、電子本を配信する新会社「パブリッシングリンク」の初代社長に就任した。

著書に、『編集狂時代』(本の雑誌社)、『これを読まずして、編集を語るなかれ』(径書房)、『印刷に恋して』(晶文社)などがある。

「1995年 『これを読まずして、編集を語ることなかれ。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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