ストーリー・セラー

著者 :
  • 新潮社
3.88
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本棚登録 : 10749
感想 : 1415
  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103018735

作品紹介・あらすじ

小説家と、彼女を支える夫を襲ったあまりにも過酷な運命。極限の決断を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた-。極上のラブ・ストーリー。「Story Seller」に発表された「Side:A」に、単行本のために書き下ろされた「Side:B」を加えた完全版。

感想・レビュー・書評

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  • 『これはフィクションです』、小説を読む限りは基本何を読んでもフィクションです。でもどこまでがフィクションなのかということは書いた人にしかわかりません。特に学校の歴史でも習うような史実を描くような作品になると書く人の腕次第で、本当にそうだったのかもしれないと感覚的に理解してしまうこともあると思います。一方でそれがその小説を書く人自身をモデルにしているのではないかと思わせる場合、それはもうどこまでが実話でどこからが創作かということは全く分からなくなります。人は他人のことが気になるものです。それが自分の好きな小説家のことであれば、興味は倍増します。『もしかしてこれは実話なのかもしれない』そう思って読み進める『読み手』の一方で、そう感じさせて興味を持たせること自体が『書き手』の意図だったとしたら、実話なのかも?と感じた時点でその『読み手』はすっかり『書き手』の術中にはまってしまっているのかもしれません。

    『仕事を辞めるか、このまま死に至るか。二つに一つです』。衝撃的な宣告の場面から始まるこの作品。医師は彼の妻が『致死性脳劣化症候群』という病に犯されていることを告げます。『劣化するのは「生命を維持するために必要な脳の領域」のみ』というこの奇病。迷った挙句、『君は思考することと引き替えに寿命を失っていく。治療の方法はない。悪化させないためには努めて物を考えないこと』と彼は妻に告げます。寿命がいつまでかもわからないこの病気。彼は『こんなことになるなら、俺は絶対あの時君にあんなことを勧めなかったのに』と悔みます。『彼女は同じデザイン事務所に勤めていた同僚だった』と過去を振り返る彼。『エンゲル係数、服飾費、娯楽費』と『ぽんぽん出てくる微妙に口語らしくない単語』が会話に出てくる彼女がとても気になります。ある日、彼女が帰宅した後に彼女の机にUSBメモリを見つけた彼。『職場で使用が禁止されている』からと自身の中に理由を探し『兎の月というファイルをクリック』します。『それは小説だった。目が文章に吸いついて離れない。意識が持って行かれる 』というその内容。『すみません、私忘れ物っ!私物ですそれ、閉じてぇッ!見ないでぇ!』と駆けて戻ってきた彼女。このことをきっかけに二人の関係が動き出します。

    Side:AとSide:Bから構成されるこの作品。分量もほぼ同じです。元々Side:Aのみだったのが単行本化の際にSide:Bが付け加えられたという経緯があるようです。なのでSide:Aだけで読み終えても十分な充実感があります。実際のところ、この系統の作品に弱い私は何度もこみ上げるものを押さえ、という繰り返し。ところがSide:Bに入って頭が混乱します。今まで読んできたSide:Aが急に遠ざかる感覚、込み上げていた思いがスッと潮が引くように遠くに引いてしまうような、なんとも言えない気分に苛まれました。そして、それだけではありません。Side:Bはさらにその中で二重に入れ子になっています。読んで気持ちを入れていた、その山場でスッと気持ちを持っていかれてしまう意外感。そして、最後の最後の一行で一気に物語を結末させる大胆さ。Side:Bをわざわざ追加することへの有川さんの意気込みを感じるとともに、これ、どこまでが実話でどこからが創作なの?という何ともモヤモヤした読後感が待っていました。結果論としてはこの凝った作りを興味深く読めたとは思いますが、『逆夢を起こして』、Side:Aだけで読み終えたかったかもとも感じました。

    この作品で上手いなと思った点を二つ。一つ目。登場人物に一切名前が登場しません。主人公は『彼』と『彼女』です。親子が出てきても『父』『母』『義父』、会社でも『課長』『女子社員』と徹底しています。思えば具体的な名前が出てくるとどうしてもその名前自体に引っ張られるものです。この作品では、『彼』『彼女』で通すことで随分と不思議な世界観を生んでいました。つまり、読者のいろんな想像力で世界が広がる可能性です。だからこそ、実話かも?という気持ちも湧き起こります。二つ目。Side:Aは冒頭に『致死性脳劣化症候群』という病に彼の妻が侵されていることがまず告げられます。なんだこの病気は?『思考に脳を使えば使うほど、奥さんの脳は劣化する』なんて都合の良い病気があるのか?という疑問が湧くと共に、読者によっては不満を感じる人もいるかもしれません。これに対して有川さんは、この病気は『彼の妻だけに名付けられ、彼の妻だけに使われる病名』とさりげなく、でもはっきりとこれがこの小説の中だけの架空の病気であることを示唆します。小説はその世界の中で設定されたルールの中で楽しむものです。有川さんがはっきりとこう書かれている以上、その設定前提でSide:Aのストーリーに浸ればいいと思います。この一点さえ納得できればSide:Aは本当によくできたストーリーだと思いました。

    Side:Aまでで終えるのと、Side:Bまで読み進めるのとでは読後感が全く異なるこの作品。小説家を主人公としていることで有川さんご本人のお考えもこうなのかなと興味深い記述も多々ありました。例えば、ある事象が起こった場面で『作家という生き物は良くも悪くも想像力が無駄にある。そしてその想像力が全力で最悪に転がったらどうなるか』という箇所など、思わず本音なのかなとも感じました。

    小説家夫婦を主人公に2つのパターンの物語を比較しながら一度に楽しめる作品。特にSide:Aの純度の高さにはすごく愛と思いやりを感じました。作品全体としての大胆な試み含めとても楽しませていただきました。

    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、コメントありがとうございます。
      私は短編集は知らないのでこの作品が初めてですが、Side:Aが終わった次のペー...
      naonaonao16gさん、コメントありがとうございます。
      私は短編集は知らないのでこの作品が初めてですが、Side:Aが終わった次のページをめくって唖然としました。Side:Aだけで読み終えた方が良かったかも?とも思いましたが、こんな風に書けてしまうんだ、という有川さんの凄さを見れるという意味ではSide:Bも凄いなと感じました。有川さんの作品、私の場合まだまだ先が長いですが、今後も読んでいきたいと思います。

      また、よろしくお願いします!
      2020/05/17
    • moboyokohamaさん
      さてさて様
      フォローありがとうございます。
      有川さんの作品っていいですよねえ。
      外出自粛なのでギュウギューな本棚の整理をしたのですが有川さん...
      さてさて様
      フォローありがとうございます。
      有川さんの作品っていいですよねえ。
      外出自粛なのでギュウギューな本棚の整理をしたのですが有川さんの作品は全部キープです。
      レインツリーの国が一番好きかなあ。
      2020/05/17
    • さてさてさん
      moboyokohamaかわぞえさん、はじめまして

      コメントありがとうございました。
      有川さんの作品、まだ二周目でこの作品で5つ目なんです...
      moboyokohamaかわぞえさん、はじめまして

      コメントありがとうございました。
      有川さんの作品、まだ二周目でこの作品で5つ目なんですがとてもいいですよね。おすすめのレインツリーの国も是非読みたいと思います。

      今後ともよろしくお願いします
      2020/05/18
  • なんて凄い作品なんだろう。
    なんて意地悪な作品なんだろう。
    なんて優しい作品なんだろう。

    恐らく有川さんの代表作になりそうな
    剥き出しのハードコア。ここまでのベタ甘も
    自衛隊もギャップ萌えもキャラ萌えも...全てが
    詰まっていて「最強」の作品。

    どこまで涙が出続けるんだろう。
    どこまで胸が張り裂けそうなんだろう。
    どこまでこの本に出会った事を嬉しく思うだろう。

    一晩中、キーボードで
    「この本が好き」って打ち続けてやる。

  • さすが有川さん!

    Side:Aを以前アンソロジーで読んで号泣してしまったので、
    もしかしてもっと辛いことが?とかなりビクビクしながら読み始めたのですが。。。

    Side:Aだけを読んだ時の、身を切られるような哀しみが
    今回Side:A、Side:Bと続けて読むことで昇華されて、
    結果的には2度の、まったく違った驚きと感動を味わわせてくれました!

    有川さんの化身とも思えるAの彼女、Bの彼女の
    「書く」ことにかける想いの凄まじさと
    理不尽な要求に対する啖呵の鋭さ、あまりにも男らしい仕事ぶり。

    そして、「俺は一生君のファンだ」、「君を甘やかすのが人生の目標」と語り
    おおらかに彼女を見守る彼の、深い深い愛情。

    稀代のストーリーテラーである有川浩さんが
    「ストーリーテラー」ではなく『ストーリー・セラー』とタイトルをつけて
    この世にたったひとりの大切なひとを守るために
    「この物語を売って」戦うのだ、という決意を描いた、魂を揺り動かされる名作です!

    • HNGSKさん
      まろんさん、おひさしぶりです。私もこの作品を読みました。
      「君を甘やかすのが人生の目標」って・・・くぅー!!またしても、有川さんにやられまし...
      まろんさん、おひさしぶりです。私もこの作品を読みました。
      「君を甘やかすのが人生の目標」って・・・くぅー!!またしても、有川さんにやられました。そして、泣けました。
      2012/11/16
    • まろんさん
      あやこさん、コメントありがとうございます♪
      好きな人にこんな言葉をもらったら・・・と想像するだけで
      あまりの幸福感に気が遠くなりますよね?!...
      あやこさん、コメントありがとうございます♪
      好きな人にこんな言葉をもらったら・・・と想像するだけで
      あまりの幸福感に気が遠くなりますよね?!
      有川さんには本当に、心を鷲掴みにされてばかりです。
      『旅猫リポート』が発売になったと思ったら
      今度は舞台の脚本も書かれたみたいで、観に行きたくてうずうずしています。
      2012/11/18
    • ゆのさん
      まろんさん、HNGSKさん
      コメント失礼します。
      大変ステキなレビュー、コメントありがとうございます!!
      私は「ストーリー・セラー」有川浩さ...
      まろんさん、HNGSKさん
      コメント失礼します。
      大変ステキなレビュー、コメントありがとうございます!!
      私は「ストーリー・セラー」有川浩さんの作品のなかでは上位に入ってきます。「君を甘やかすのが人生の目標」…はやばいですよね。泣けます。
      急にコメント、すみません。

      2018/08/28
  •  この作品を読み終えた人は、「こんなパートナーが欲しい」って思うはず。男女関係なく。

     人間、一人だとここまで強くなれないと思う。自分がもうすぐ死ぬって知って、取り乱すことなくいられるなんて、無理だと思う。
     けど、二人だったら・・・?自分がこれから先、できることは減っていき、弱っていくしかないのだと分かっても、それを受け入れてそんな自分といてくれる人が一緒だったら・・・?
     こんなに心強いことはない。
     
     彼と彼女のように、私も自分本位でその人を想い。周囲など知ったことか、世界の損失など知ったことか、と豪語できるほどの人に出会いたい。

    • まろんさん
      こんなふうに全身全霊で誰かを好きになって、
      そしてその誰かにも同じくらい想われたら、本当に素敵ですよね!
      周りの雑音や世間の常識なんてどうで...
      こんなふうに全身全霊で誰かを好きになって、
      そしてその誰かにも同じくらい想われたら、本当に素敵ですよね!
      周りの雑音や世間の常識なんてどうでもいい、
      あなたを守れるなら、というひたむきさは
      デビュー作『塩の街』の、愛する人を守ることだけを考えて闘い
      結果的には世界を救ってしまった主人公を思い出させて
      うん、有川さん、あの頃からちっともブレてない!
      とうれしくなります♪
      2012/11/18
    • bluebird-ryuryuさん
      ayakoさんのこの本のレビューを拝見して、すごく気になりました。

      私、つぎ、この本読みます!!
      ayakoさんのこの本のレビューを拝見して、すごく気になりました。

      私、つぎ、この本読みます!!
      2012/11/19
  • 作家である女性と会社員の男性の2組のご夫婦のおはなし。

    どちらの女性も、最初は会社員としてお勤めしつつ、
    自分の中からあふれてくる書きたいことを止められず書き続ける。
    それを見出し、励まし、誰よりも先に大好きな妻の書く
    大好きな小説を読むことを最高の楽しみとしているオットさん。
    その2人に大きな試練が押し寄せる。


    どんなことがあっても決して書くことをあきらめることなく、書き続ける人。
    絶対的な無償の愛情を注ぎ続ける人。
    どちらも自分の心の奥底から湧き出す感情に素直に生きている。
    決して自分に嘘はつかない。

    ここまでストイックなものは自分の中にあるのかと考えてみる。
    失いたくないものや、今、自分を心の奥底から突き動かす感情というものはあるけれど、代替が利かないかというと、人以外ならありそう。

    そう思うと、無二のものに出会えた2人は何より幸せだと、
    哀しく幸福なお話なのではないかと、不思議な感じがした。

  • 小説家と、彼女を支える夫を襲ったあまりにも過酷な運命。極限の決断を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた―。極上のラブ・ストーリー。「Story Seller」に発表された「Side:A」に、単行本のために書き下ろされた「Side:B」を加えた完全版。
    「BOOK」データベース より

    不覚にも涙が零れた.
    パートナーが若くして死ぬ、という状況であるからではなく.
    自分を想うことが相手をも想うこと.
    そんな関係性の二人だからこそ、哀しい状況に陥っても前を向いて歩けるのだ.

    • HNGSKさん
      はじめまして。あやこといいます。
      ecottさんは、有川さんをたくさん読まれてるんです。そして、タイを。
      「自分を想うことが相手を想うこと」...
      はじめまして。あやこといいます。
      ecottさんは、有川さんをたくさん読まれてるんです。そして、タイを。
      「自分を想うことが相手を想うこと」
      ecottさんのレビューになるほどなあ、と思いました。
      2012/11/19
    • ecottさん
      あやこさん
      はじめまして.コメントありがとうございます^ ^
      有川さんの書かれる物語は心を元気にしてくれるのでとてもスキです.
      自分を想うこ...
      あやこさん
      はじめまして.コメントありがとうございます^ ^
      有川さんの書かれる物語は心を元気にしてくれるのでとてもスキです.
      自分を想うことが相手を想うことになるような関係性をつくることができるということはステキなことです.
      2012/11/19
  • どうして、この本読んでなかったんだろう。
    Side.A、side.Bどちらも、良かった。
    どちらも、夫婦仲がとてもいい。
    羨ましい限り。
    食べ物の好みが似ている、ということが
    伴侶の条件と思っていたけれど、
    読み物の好みが似ていることも大事かもなぁ。
    ミスったぜ。

    Bで、どこまでが現実でどこまでが創作なのか。。。
    想像させるところが憎らしい。
    幸せなところだけ、現実でありますように。

  • 物書きの妻が「考えるだけ寿命が短くなる」病になる。SIDE:A
    物書きの妻の夫が、事故に遭う。そして腫瘍が見つかる。SID:B

    ただ、県庁おもてなし課でも思ったが、
    こう、作家が前面に出てしまう作品は、
    私には少し入りこみにくかったかな。
    夫婦の愛の物語としては、とてもいいと思うのですが。

    公開惚気やな~らぶらぶや~とあてられましたが、
    あとがきは意味深だなぁ。。。

    有川浩、これにて完食♪
    全部読んで、やっぱり図書館戦争シリーズが一番好きだなぁ、と思った。

  • 小説の「書き手」と、小説の「読み手」。

    その双方の立場が、夫婦の絆として繋がる一方で、
    巧妙に落ちが描かれており、
    物語の二面性をのぞかせる展開が何とも面白かった。

    特に、Side:Aと、Side:Bとの物語の連動性に読者は圧倒される。

    『レインツリーの国』といい、『ストーリー・セラー』といい、
    有川さんの小説は、登場人物間のストレートな気持ちのぶつけ合いが、
    読んでいて爽快で、どんどんその魅力に引き込まれていきます。

  • 本当に感動。この本は、大切な人へのメッセージとして贈りたい。
    そして、何よりも表紙のブルーリボンが印象的。

    図書館でボロ泣きです…。

    さすが、有川先生です!!

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著者プロフィール

有川浩(ありかわ・ひろ)
高知県生まれ。二〇〇四年『塩の街』で電撃小説大賞大賞を受賞しデビュー。同作と『空の中』『海の底』の「自衛隊三部作」、「図書館戦争」シリーズをはじめ、『阪急電車』『旅猫リポート』『明日の子供たち』『アンマーとぼくら』など著書多数。

「2017年 『ニャンニャンにゃんそろじー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

有川浩の作品

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