夕子ちゃんの近道

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 441
レビュー : 98
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103022510

感想・レビュー・書評

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  • 人との距離感ではなく距離を書きたかった、というこの本についての著者の意見を他の著書の中でみました。
    距離感と距離の違いは私には難しいけれど、そのようなものが伝わってきました。
    初めて読んだのは数年前。その時、同僚の退職が相次ぎました。寂しいけれど、事前に相談されるほどの関係でも無いし、辞めないでと相手の環境を変えられるだけの力が自分にあるわけでも無いし、私も誰かにいう時は自分で決めた後に言うだろうなあ、ということが、「僕の顔」のラストを読んだときにスッと心に落ちてきました。
    ゆるく束ねられた関係が巧みに描かれていると思いました。

    瑞枝さんは余貴美子さんで、と書かれている方がいらっしゃいましたが、激しく賛同します!「ちゅらさん」での彼女のイメージが似ているのか、私も頭から離れませんでした。

  • 町はずれにある西洋アンティークの店・フララコ屋を舞台とした読み切り7編からなる連作短編集。古道具屋や骨董屋を舞台にした作品というと川上弘美さんの『古道具 中野商店』を思い浮かべるけれど、お店の周りに集まる人々のなぜか淡々とした様子はこの作品にも通じるようだ。骨董屋に集まる人々は、実利を求める肉食系のギラギラタイプは少なく、どこかしら草食系の変わった雰囲気を持つ人が多いのかもしれない。実に魅力的なこれらの登場人物たちと「僕」とのやり取りが、7つの物語となっている。最後まで読み通すと、フラココ屋は主人公である「僕」を含め登場する人々にとっての、大事な舞台装置「仮の巣」だったことがよく分かる。フラココ屋は新しい世界へ踏み出していくための孵卵器の役割を担っていたのかもしれない。長嶋さんの実父(長嶋康郎氏)が経営する古道具屋での様々な出来事が参考になったことは想像に難くない。

  • ノンビリ・ユッタリって感じの内容で読みやすかったよ。
    何も考えずにユラユラとした空気が好き。

  • 特にドラマチックな何かがあるわけでもなく
    淡々と流れていく時間。
    でも、人と人との繋がりがあるから温かい。

    むっちゃ面白いって本じゃないけど、好きやな。

  • 深入りしないけど、必要としていて
    向かう方向はバラバラだけど、まとまっている。
    なんか好きだな~このゆるい人間関係が。

  • 長嶋有さん、好きだなぁ。(#^.^#)フラココ屋という(ブランコ、と言う意味らしい)古道具屋の二階になんとなく住むことになってしまった、「僕」。年齢はそんなに若くない、ということくらいしかわからないけど、青年ではあるらしく、また、最後まで名前も出てこない。ほんとの終盤に、他の人たちから「へぇ〜、こんな名前だったんだ・・」と言われるくだりが可笑しいんだけど。で、古道具屋の店主や、そのお客さんたち、また、隣の大家さんやその孫の朝子、夕子、とゆるい感じで付き合っているのが読んでいてとても心地いい。私自身は、付き合うか、接点を持たないか、結構、その線引をきっちりつけてしまう方だと思うんだけど、このゆるさがいいなぁ、と素直に読めてしまった。皆、平凡な人たちに見えて、でも面白いと思わされるのは、うん、今気付いたけどみんな、妙に泰然自若としているんだよね。(大家さんは夕子ちゃんの妊娠に気絶したけど)「めいめいが勝手に、めいめいの勝手を生きている」と、「僕」がしみじみ思うところがとても好きだった。ふわふわしているかと思わせて、結局、それぞれはそれぞれなりに自分のことをやっている、って感じ?ネタばれっぽいかも。この「僕」って最後まで正体が分からない。ただのフリーターだと思っていたのに、「帰るところがある」なんて言って、突然、フラココ屋の二階から引きはらおうとするし。(すぐに見つかっちゃって、結局は、みんなと一緒にパリにまで行ったりするんだけどさ)もしかして大金持ちの御曹司?と笑わせる話も挟まれてたけど、案外、もしかして、もしかして? いや、やっぱりそれはないよね、なんていう遊びも楽しい。フラココ屋の買い付けの手伝いで、ヨーロッパを結構精力的に回るところで話は終わるんだけど、彼はこのままフラココ屋に骨をうずめるのか??? 一生、こんなモラトリアムでやっていくのかなぁ、暗い顔した青年、なんて言われながらも、いろんな人に好かれて・・。(#^.^#)これは、再読時のほうがずっと楽しめる本だと思う。また、折があったら、ゆっくり読み返してみたい。

  • 古道具屋を軸に店主やアルバイトの僕、お客さん達のゆるやかな日常を綴っている作品。人生はゆっくり、のんびり、でも時には苦しんだりする。読んでいて平常心を取り戻す作品かな、と。

    ええと。ポカポカで陽だまりいっぱいの時に読んだら、もっと心が落ち着いたかもねぇ。

  • 派手な展開があるわけでもなく淡々としていて、安心して読めた。
    登場人物たちの、微妙な距離感の表現がすごくパステルな印象。

  • 第一回大江健三郎賞受賞作。僕、長嶋有ってどうもダメです、やっぱり。甘っちょろい。(08/12/14)

  • 駅から徒歩15分の位置にある古道具屋フラココ屋。横断歩道を渡った向かいに肉屋とバイク屋とヤクルト屋がある。
    主人公はそのフラココ屋の二階に住み込んで一週間目の細身の成人男性。年齢も姓名も記してない(30歳以上であるのは確か)。
    何かから、逃げてきたのか脱落したのかフラココ屋に現れた経緯も不明。ただフラココ屋バイトの4代目(二階に住む5代目の住人)として店の掃除・接客・雑用などを坦々とこなす。そこでの人との出逢いと繋がり。

    フラココ屋の近所に住む、「買わない常連客」 瑞枝さん、イラストレーター35歳。夫と別居中の一人住まい。 親鳥が雛に餌を運ぶように、主人公にせっせと日用雑貨やヤクルト・ジョアを与える。唯一フラココ屋で買った品はバンカーズランプ。

    フラココ屋店長 幹夫40歳、フラココ屋から車で10分の所に妻、子供二人と住む。望むものは、「買ってくれる常連客」と文明の利器カーナビ

    フラココ屋の裏に住む、フラココ屋の大家の八木さんと、美大の卒業制作に日々ノコギリを引き続ける孫の朝子さんとその妹の夕子ちゃん(定時制高校に通い、趣味はコスプレ、特技は猫のように道なき道を行く近道)

    大きな屋敷の片隅にある蔵を、フラココ屋の本店(殆ど倉庫状態)として提供している店長の実家の母。
    相撲好きのフランス人フランソワーズさん

    夜明け前、どこからか聞こえてくる海猫のような鳴き声。日中、干した布団を叩く音。静かな夜にアスファルトの雨をはねて通り過ぎる車のタイヤ音とバイクのブレーキ音。そしてお湯の沸く音。
    深夜、フラココ屋の二階の窓に差し込む横断歩道の信号機の色。ふと見上げれば満月が放つ色。照明の明かりとガスの炎
    毎日何気なく通る、一階の店と二階の住居をつなぐ裏口の鉄階段と、店内の奥に行くための段差に置かれたぐらつく踏み台。
    音と光と高さ。


    鉄階段の最上段のすぐ目の前、ひとまたぎの距離に君臨する大家さんちのでかいベランダ(ひとまたぎで行き来するここも、夕子ちゃんの近道のひとつ)
    自転車で転んだ夕子ちゃん、バイクで転倒した瑞枝さん
    塀を乗り越えた時に落ちたボタン
    南京錠にかんぬき
    ひたひた歩く犬

    主人公の、バイトが終われば二階にあるのは身の回りの最低限の生活用品と、売り物の在庫家具が占領した、残りの僅かな(一畳と少しの)生活スペース。欲さえもない。一冊の本の中で主人公が自ら欲し手にしたのはビールだけだったように思う。かといって希望を無くし絶望しているわけでもない。

    瑞枝さんも朝子さんも夕子ちゃんも歩き続けている。日常から離れた旅先でのように、充電を済ませた主人公はほんの些細なきっかけを理由に動き出す・・・

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著者プロフィール

長嶋有
一九七二年生まれ。二〇〇一年「サイドカーに犬」で文學界新人賞、翌年「猛スピードで母は」で芥川賞、〇七年の『夕子ちゃんの近道』で第一回大江健三郎賞を受賞し、〇八年には『ジャージの二人』が映画化された。一六年『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞受賞。その他の小説に『パラレル』『泣かない女はいない』『ぼくは落ち着きがない』『ねたあとに』『佐渡の三人』『問いのない答え』『愛のようだ』『もう生まれたくない』『私に付け足されるもの』、コミック作品に『フキンシンちゃん』、エッセイ集に『いろんな気持ちが本当の気持ち』『電化文学列伝』『安全な妄想』等がある。

「2019年 『三の隣は五号室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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