一週間

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103023302

作品紹介・あらすじ

昭和二十一年早春、満洲の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、若き日のレーニンの手紙を入江から秘かに手に入れる。それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする、爆弾のような手紙だった…。『吉里吉里人』に比肩する面白さ、最後の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • p.132
    なぜ日本人は頼まれもしないのに鉄砲担いで海を越え朝鮮半島や台湾や中国へ押しかけて行き、ちがうコトバを話す人たちを殺したり苦しめたりしたのか。これにたいる報復はきっとあるにちがいないが、日本人はそれらのことについてどう思っているのか。

    p.338
     われわれ人間が生きていくためには、世界がどんなふうにできているかという世界観と、世界がそんな風にできているのならこう生きようという処世訓が必要だが、そのときそのときの利害に合わせて、この世界観と処世訓を簡単に変えてしまう人間が多い。彼らを信用してはいけない。

  • 読んでいて、何度も声を出して笑ってしまった。
    私、作者のユーモアにニヤリとすることはあっても、声を出して笑ってしまうということはあまり無いので、この作品はかなり面白い本ということが言えると思う。

    日本兵のシベリア抑留が、関東軍上層部の国際法に対する無知や身勝手さによって、捕虜達により一層過酷なものとなり、おそらく生還できたであろう多くの人々を死に至らしめたことは歴史的事実として明らかだが、そのような舞台にこのような面白い話を展開させた作者の力量には感嘆する。悲惨な出来事のなかに面白みを加えることにより、戦争の愚かさや権力の愚かさを際立たせてくれる。

    ちょっとラストの場面がもの足り無さを感じはするが、一級の娯楽小説であることは間違いない。

    かえすがえすも残念なのは、もう新作が読めないということだ。 

    最後に井上ひさし先生のご冥福をお祈りします。

  • 今年の夏、NHKスペシャル「引き裂かれた歳月ー証言記録 シベリア抑留」が放映された。シベリアに捕虜として囚われていた日本兵は60万人という。その数に驚かされ、戦争が終わっても引き揚げには数年を要し、6万人がシベリアで亡くなったという。この事実はテレビでも、本にも触れてあるが当時のソビエト連邦と日本の軍部のかけひきのようなお国事情があった。著者は小説的に面白おかしく描いている。それが反対にこの小説に重みを与えているように感じる。

    ロシア語に堪能な捕虜、小松の一週間。それは大国ソビエトを相手に日本に帰るために奇想天外なかけ引きをする。捕虜としての抑留生活、それだけにとどまらず、ロシアの社会主義の堕落、偉大なる革命家レーニンの出生の秘密の手紙、日本の軍部の退廃、ロシアの少数民族の迫害など、満州国溥儀やスパイまで登場する。

    「言葉」遊びのような文章が楽しい。

    確かな下準備の事実の上に想像力を屈指した物語の展開はみごととしかいえない。

    レーニンの手紙を預かった入江軍医があと一歩で脱走に成功するといった時に、自身の幸福より、その手紙を使って残った仲間の生活改善のために使おうとわざと捕まった場面は、作者の平和の追求、平等な精神といった人間性を感じた。


    それから、あらためて「知る」ことの大切さと「無知」であることの愚かさを教わった気がする。

  • 理不尽な運命に翻弄される主人公。
    なのにけっして重くなく、それどころか、どこか滑稽で。
    そして、その滑稽さには、哀しみと怒りがかくされている…。

  • えっこのエンディングある?

  • 関連する知識があればより楽しめると思う。

  • なんという大作。そして、なんという虚無感。
    結末に至る赤裸々な、またドラマティックな展開もさることながら、最後のこの落とし方。
    これは、結局こうするしかなかったんだろうか。

  • 語学、歴史、地政学、体験譚を相当な編集力で再構築してからではないとこんなすごい作品は書けない。現存の日本人作家の誰がこれを書けようか。ものすごく集中し、一命を賭した平野啓一郎あたりか?
    やけに日本語達者な外人だらけが気になるが、それもギャグとしているような。
    井上ひさしの左一辺倒では決してない正義、それも最終形態を示してくれている。これが実はもっとも刺さった。
    本当にすごいのはこれがおもしろいということだ。ジェームスボンドみたいなのだ。本当に。

  • ソ連捕虜となった日本人の反乱

  • 極寒と恐怖に支配されたシベリア抑留のシリアスな状況が継続するにも関わらず、コミカルな空気が通底。
    その軽妙さが却ってブラックな妙味を生んでいます。
    惨い私刑だとか拷問だとか、会話の中には登場するけど、登場人物が直接そういう目に遭う場面が描かれないことがポイントなのかも。

    それにしても、軍国主義と共産主義の欺瞞に対する強烈な嫌悪感が小説全体から横溢している感じで、井上ひさしという作家の生き様が滲み出ている点では遺作に相応しいと言えるように思います。

    もともと文芸誌へ連載された作品で、単行本化にあたり加筆・修正が予定されていたところ、著者の逝去により叶わなかったという事情があるとのこと。
    全体の整形がされていればさらにエクセレントな出来栄えになったろうに…と思う一方、この荒削り感が小説の雰囲気には合っていると言えるのかもしれません。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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