- Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103032311
作品紹介・あらすじ
しみじみ女が欲しい、ごく普通の恋人が欲しい-。切望して手酷く裏切られ、ついに手に入れた女と念願の同棲を始めるが…。貧困に喘ぎ、酒に溺れ、嫉妬に狂って暴力をふるい、大正期の作家藤澤清造に傾倒する男の修羅場と道行き。「けがれなき酒のへど」併録。
感想・レビュー・書評
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この人の作品は書いてる事がほとんど同じだね。数冊読めば十分というところ。私小説ならではの読みやすさもあり、本人が言う様に作者の血や肉を感じる作品でもある。ただ、作家には想像力や創造力も必要だね。それが無いと同じテーマでしか書けないんだなと思った。
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✩4つ
いやはやなんともかんともどうしてよいかわからない、というのがこの本の正直な感想である。面白くないことはない。いやむしろ面白い本の仲間に入る。それが証拠にほぼ一気読み状態なのであるから。でもどうしてよいかわからない。
この本、ほとんど改行は無く、決して読みやすく装丁した本でもないのに結構止まらずに読み進んでしまう。この作者は元東京都知事の石原慎太郎が強く押して芥川賞を獲ったらしいが、石原慎太郎もこういう文体本なのかしら。一度読んでみようかしらね。
さてそれにしても、この古風で昭和初期の暗い部分の雰囲気がぷんぷんするお話に、JRとかハリーポッターとか携帯電話などという現代身近な言葉が出てくるとなにやら違和感を感じさせてしまうのであった。 -
どこまで北町貫多が西村賢太なのかは分からないが、歳を重ねるにつれ手の施しようがなくなっている。いくら私小説といえど、エンターテイメントの部分もあろうが、妙にリアリティが感じられる。
かの作者は無頼派、反リアリズムなど呼ばれ、聞こえはいいが、端的に言うと屑である。
自己正当化による暴力もさることながら、性欲のまま生きるその破滅的生活に嫌悪感があふれ出る。
それでも頁を繰ってしまうのは流石売れっ子芥川賞作家だ。青年期を書いた作(苦役列車・蠕動で渉れ、汚泥の川を)はまだ楽しめたが、ここまでくると正直しんどい。
逆に考えるとよくここまで曝け出せるなといった感想。
「一私小説書きの日乗」シリーズにもあるように、その後の彼も無頼漢であり続けていた。
ただ、今作で愛情や温もりを求めていた心証から、無頼漢といっても先は諦観があったのだろうとも思われる。
人は人に傾倒すると強くなれるものだな、としみじみ思う。悪態をついているようだが、私は彼の生き様に憧れの様な感情を抱いているし、羨ましいとも感ずる。
惜しい人を亡くしたなど無粋なことも言わない。
素晴らしい生き様であった。 -
芥川賞受賞をきっかけに、著者の小説を初めて読みました。
いやあ面白い。
私小説を超えて、ほとんど回想録みたいだ(笑)。
「けがれなき酒のへど」は恋人欲しさの一心で風俗嬢にアプローチをかけ続け、手痛い失敗を喰らうエピソード。
「暗渠の宿」は、ついてに手に入れた恋人に対して、身勝手な支配欲を抑えられなくなっていく自己嫌悪に満ちた記録。
その姿を嗤い非難することは簡単だけど、男ならどこか共感せざるを得ない煩悩が赤裸々に映じられているがゆえに、読んでいて微かな胸の痛みを感じるような。
この率直さは貴重です。 -
どうしようもなく卑しくて、我侭で、幼稚で、露悪的な男の私小説。
私小説を書こうというのがこの21世紀の日本に居るとは思わなかったが、案外と近くに居たらしい。
描かれる生活は低俗そのものだが、その文体は心地よい。
特に接続詞として多用される「はな(端)」という語が特徴的。
初めて見た使用法なのだが、これは日本語として正しいのかな? -
2015-10-10
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「けがれなき酒のへど」
風俗嬢に入れ込んで貢がされた挙句、騙される男の話。秋恵サーガ前日譚。CRIMSONで例えるならGG&Fというところか。相思相愛の恋愛を追い求め下衆く打算するのではあるが、所詮、ロマンチックに愛を追い求めるオトコに勝ち目などなく、リアルに金を狙うオンナの手玉にとられてしまう。オトコの性が痛く哀しい。
「暗渠の宿」
秋恵サーガのデモバージョン。バイオレンスシーンは抑え気味。嫉妬深く嗜虐的な心理描写に図らずも同調してしまう自分を発見してしまった。 -
「苦役列車」を映画で見、エッセイを読んでみて、私小説と本人が言うものを読んでみる気になった。
そのどうしようもない心象風景がやるせなく、救いもないが、半面赤裸々な表現・思考・行動は多かれ少なかれ男という性に内在するものであろう。
文体や表現も面白く、引きつけられる部分がある。
もう少し読み進めてみようと思う。