苦役列車

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (150ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103032328

感想・レビュー・書評

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  • 中卒の日雇い労働者のお話。
    すごく衝撃的なお話だった。主人公の性格がきれいにねじ曲がっていた。どんな仕事も大変だと思うが、体力仕事は、健康なうちしか出来ないから辛いなと思った。その日の生活に必死な様子が手に取るように分かる。楽しみも必要。貯金しようにも、日々の生活で疲れ果てている。
    父親が性犯罪者になってから生活が一変。何をしてくれるんだろうって思った。子供は関係ないって言うけど、周りから白い目で見られることが容易く想像できる。
    そんな生活の中でも同年代の友人と呼べるような存在ができたことは大きかった。でも、相手の恵まれた境遇に嫉妬したり、執着することで、相手から疎まれて距離をとられて、結局仕事もうまくいかなくなる。
    負のスパイラル。読んでいて苦しかった。将来が心細かった。けど、そういう人もいるんだなと思ってしまった。自分ももしかしたらそうなっていたかもしれない。やっぱり真面目に仕事はしようと思った。

  • ご冥福をお祈りします。

    いつか私が向こうにいったさい、
    新作を読ませていただけることを心待ちにしております。

  • 『苦役列車』
    日雇い港湾労働者である北町貫太の物語。
    冒頭の勃起シーンからして、女性読者は共感しにくそうな話だけど、似たような肉体労働を経験したことのある人なら面白く読めるんじゃないか。性犯罪者の息子というレッテルのために僻んで育ったという生い立ちも、貫太の鬱屈した、それでいて横暴な性格の背景として説得力があった。

    『落ちぶれて袖に涙のふりかかる』
    作家になった貫太の話。ここでも寛太節というか、その傍若無人ぶりは変わらない。苦役列車もそうだが呆れを通り越してところどころ笑ってしまった。他の作品も読んでみたい。

  • 昭和初期の作品かと思うような単語が多用され、見慣れない漢字も多いが、現代の話なのでさほど読みにくくはない。正に底辺でギリギリのその日暮らしで日々をやり過ごす不遇な主人公の青年が、実は中卒の筆者の実体験という事を後から知って驚いた。この筆力をどうやって得たのだろう?

  • 面白い!生命力溢れる、だけどどうしようもなく落ちぶれた青春物語。出だしも最後の一段落も最高、なによりタイトルのセンスが素晴らしすぎる…

    たぶん多くの人が「面白くない」と感想をネットで書き散らしていると思いますが構うもんか、面白いもんは面白い。70年代のギャグマンガみたい。あと文壇での名誉に対する執念と未練が、同じ文弱青年として泣かせるんですよ。

  • 第144回芥川賞受賞作。朝吹真理子さんの「きことわ」と同時受賞。
    今年(2022年)急逝された西村賢太さんの作品。
    芥川賞受賞時のコメントは良くも悪くも印象的でしたが、その当時は、そのコメントのこともあってあまり読んでみたいは思わず、作者が亡くなられてから読むということになりました。
    読み始めると、リズミカルな文章に引き込まれました。
    決して、万人受けする作品ではないかもしれませんが、私にはとても面白かったです。
    何よりも、この作品が、パソコンやワープロで書かれたものではなく、手書きで書かれたものであることに、小説に対する作者の執念が感じられました。

  • 図書館に追悼コーナーがあって、手に取った。まさに、苦役列車。貫多の生活は、乱れ切っていて悲惨だし、根性もねじ曲がっていてうんざりする。
    日下部のことが最初はキラキラして見える。出会いが嬉しくて彼を讃えるような気持ちだったのに、次第に噛み合わなくなる。生活レベル、育った環境が違い過ぎて、悪意がなくても相手を傷つけてることってある。それに対し、心の中で毒つきながら、善意の人を悪の道に引きずり下ろしたくもなる。ひたすら、性格がひねくれている。全然尊敬できない。でも、憎めない。不思議な読後感だった。

  • 小説でここまで爆笑したのは初めて。
    主人公がさらけ出す内容はゲスで卑小なのに、
    愛らしく憎めないところがある。
    語り口が面白い。

  • 西村賢太さんが亡くなった。
    テレビに出ていたのは知っているが本は読んだことがなかったので読んでみた。映画化もされているようなのに記憶から抜け落ちてました。

    読みやすかった。一気に読み終えてしまった。
    主人公のダメっぷりが自分や知人に重なるようで冷汗が出る。でもちゃんと本を読んで、書いて、賞を取るまでになっているのはすごい。
    これはほぼ西村さん自身の話なんですね。
    周りから愛されるキャラだったと思うけど、若い頃は失敗や葛藤がいろいろあったんだねぇとしみじみ思う。
    ご冥福をお祈りいたします。

  • ☆は4つ。 たとい芥川賞受賞作でも☆5つはちぃーとむづかしいのであった。

    著者西村賢太19歳の頃の出来事を『曩日北町貫多の一日は・・・』という書き出しで綴り始めている。こういうとってもむづかしい、というかその昔は文語体としてのみ使っていた言葉をあちこちに散りばめて西村賢太の私小説は造られている。

    のっけからそのようなむづかしい言葉が出てくると、読者はついと辞書をひいてしまうのであった。まあ、今時はPC/スマホとNETの時代なので、ぐぐる、というのが正しいのですかね。(で、曩日・・の意味は、自分で調べてくださいませね)

    文中、自分のことをさして「根がスタイリストにできているから」という表現をしばしば使っている。この言葉をカッコイイと言う読者もおられる様子だけれど、わたしはあんまし好きではない。スタイリストという言葉は、他人のスタイルを造る人のことであって、西村賢太の様に、実は自分はおしゃれなんだぜ、というような意味に使うことは、まあ現時点では間違っていると思う。でも、言葉は生きていてどんどん変わっていくので、この「根がスタイリストにできているから」というのもそのうち正当な日本語としての市民権を得てしまうかもしれんね。

    一方で非常に読むのに耐えない内容を、すらすらと書き綴って読み手の基を引いている。あからさまな性描写や暴力行為の描写、あるいはとんでもなくひどいレベルの罵詈雑言。この書き方は、西村賢太の最近著『一小説書きの日乗』を読むと、これはおもいきり意図的に計算づくで行われている作業なのだなぁと言う事が解る。

    わかっても別にどうだというのではなく、そこが面白いからでの塵芥賞なのだと思うしそれでいいのだ。 すまんこってす。すごすご。

著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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